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不遇水魔法使いの禁忌術式(暁バージョン)

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2話

 俺は夢を見ていた。無数に視点が切り替わり何が起こってるのかさえあやふやで支離滅裂な悪夢を。

 そこは戦場。魔法が飛び交い剣や槍を手にぶつかり合う場所。鎧を纏った騎士のような存在や杖を構える魔法使い、ソレらに率いられる兵士のような存在が殺し合っていた。

そこで俺は奴隷のように扱われた雑兵の一人だった。粗末な剣を手に碌に魔法で身体能力を強化して敵へと突っ込む。『魔法使い』が魔法を使うそのための使い捨ての盾のように─そして敵方から飛んで来た炎に焼かれて死んだ。

視点は切り替わる。

多くの人が集まり死ぬ戦場で俺はただの兵士として戦っていた。戦いの狂気に呑まれる戦場にて仲間たちと一緒にただただ走り、飛んでくる矢に当たり倒れそのまま進み続ける味方へ踏みつけられ死んだ。

『…』

次は沢山の人が死に続ける戦場でを俯瞰するように眺める魔法使いであった。魔法陣を空中に描き前方へと照準を合わせて土で出来た無数の槍を放ち続ける。そして風に撃ち抜かれて死んだ。

『ねぇ』

次に俺は騎士のような鎧を着て戦場に立っていた。火を使い身体能力を人を超える程に昇華させ灼熱の剣を振り敵兵を溶断し前へ前へと進み続ける。そして『見窄らしい格好の青い髪の少女』が操る水と自身が触れ生じた爆発に呑まれ死んだ。

次に俺は、次に俺は、次に俺は、次に俺は…無数に生と死がフラッシュバックする。

そして『私』は青い髪の少女としてそこに立ち、仕込まれた術式を発動し全ては赤に染まっていく

『ねぇ』

夢が記憶の整理だと言うのならこの記憶はどこから来たのかソレはきっと─

『…起きて』

柔らかい声が聞こえた。

赤いモノが自分の心から遠ざかり、心と体の接触が噛み合う感覚がする。どうやら目覚めが近いらしい。少女の声と軽く揺さぶられ夢から目を覚ました。────────────────────────────────────────────

 意識が覚醒すると情報量の多い悪夢を見たからか頭痛で目を開けるのも億劫に思っていると自分の頭が何か柔らかく温かさを感じる物の上にあることに気がついた。ゆっくりと目を開けると少女の、サーシャと名乗った少女の顔が視界にに入る。

「…知らない天井だ」

 ほんとは気絶する前に見た部屋だとわかってはいるけど馴染みのない天井ではあるし人生で一度言ってみたかったセリフを言えたから満足だ。

「えっと…おはよう?」

 サーシャは何やら満足気な様子の俺を見て困惑しつつ挨拶をしてくれた。

「ああ…おはよう」

ほぼ初対面の少女に膝枕されて寝起きの挨拶をすると言うシチュエーションで距離感が測れない。

(異世界で遭難して倒れたら美少女に膝枕されてる)
(この状況に一番戸惑っているのが俺なんだよね、この状況すごくない?)

サーシャに膝枕されていると言う状況を堪能しながらお互い沈黙を続けること数分。

「もう体を動かしても大丈夫よ?」

 サーシャがほんの少し照れているような気がする。その様子を眺めて名残惜しいけどそう言われたならしょうがないと起き上がった。

「えっ、なにっ」
「ほんとに動けるようになってるよ…」

(この回復は…!?)

 内心驚きつつ身体を軽く動かしてみながら異世界に迷い込んでからのことを振り返る。突然砂漠に迷い込み、当てもなく彷徨い、地下遺跡のような場所に落ちそこのトラップで死にかけ、それでも進んで─そしてサーシャと出会った。

(…そこで俺は助かりたいと、死にたくないと願ってサーシャと何か約束を…)

 ようやく浮かれていた思考から離れサーシャを見る。そうするとサーシャは口
小さな口を開き契約についての話をする。

「ええ、そう」
「私はあなたの命を助けたわ」
「だから今度は私のために戦って貰う…それが私たちの契約」

真剣な表情になっている少女を見て

「わかった、俺に出来ることならなんでもする」

迷うことなく即答した。

「え…」

それを聞いて何故かサーシャが驚いている。どうしてだろうか?よくわからないがそのまま話を続けよう。

「俺は行く宛がなかったし、ちょうど良かった」

もしかしたらこれが俺がここに迷い込んだ意味なのかもしれないし、何よりこの少女と出会えたことを無価値なことにしたくはなかった。

「それに…どう足掻いても死ぬしかない道から俺を助けてくれた相手の頼みだ。だからむしろ手伝わせてくれ」

 そう自分もあれだけ傷ついていた少女(どうやら今は治っているようだけど)に自分の命を助けられ、何もせずに逃げるなんて恩知らずな真似はできない。口には出さないけど女の子が真剣に泣きそうに頼み込んできたのを見てちゃんとした笑顔を見てみたいと思う気持ちがあったという気恥ずかしい理由もある。

 それを聞いたサーシャは納得出来たのかさっきよりかは落ち着いた表情になり、

「…そっか、ありがとう」
「色々と聞きたいこともあるだろうけれど…そろそろこの場所は崩れてしまうわ」
「だから…その前にあなたの名前を教えてくれる?」

 なんと名乗るか少し考える。そしてサーシャは俺にサーシャと名乗ったことを思い出して名前だけを言うことにした。……名前で呼んでくれたら嬉しいからってだけではない。

「……俺はカズキ。今後ともよろしく!」

そう言って手を差し出した。サーシャは差し伸べられた手を見て躊躇いながら手を伸ばす。何かを望むようなその手を俺は取った。

「ええ、どうか旅の終わるその時までどうか一緒に…」

 それから俺たちはサーシャが封印されていたからバランスの取れていたらしい遺跡が徐々に崩れていく中、サーシャが発動した魔法である水に包まれて脱出。

 その後砂漠の封印その番人である魔導鬼(ゴーレム)、この砂漠に住み着き変質したモンスターである蛇神(ナーガ)と言った怪物との戦いを経てようやく旅に出ることとなったのだった 
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