インフィニット・ストラトス~黒き守護者~
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崖の上のビキニ
臨海学校初日。俺はバスの中で織斑先生の隣に座っていた。
「……それで、何の用ですか?」
「ああ。お前は束のことをどう思っている?」
俺たちは全員と少し離れて座っているのでみんなはこの会話を聞いていない。
「……目的が不明な人間としか思っていませんが。……まぁ、再び俺を殺そうとするのなら話は別ですが」
「……再び、か。ということはやはりVTシステムは―――」
「ええ。完全に俺を狙っていました。あの時は危険だということもあったので一夏を止めに近くにいましたが。それほど今の俺の存在は彼女にとって気に入らないようですね」
俺は淡々と言葉を続ける。
「それ故に、最悪の場合は俺自らの手で消しますけど」
「………それは危険な行為だぞ。束はただでさえ世界が探している連中だ。それが死にましたなどといっておいそれと世界が受け入れると思わない」
「だったら、脳を消してひたすら子どもを生むための兵器にします?」
「貴様……」
「冗談ですよ。そんなことをしたら子どもがかわいそうでしょ」
「束がかわいそうとは思わないのか?」
「どちらかというと―――跡形もなく消し去りたいですかね」
少し言葉を言いすぎたのか、訝しむような目でこちらを見てきた。
「………何があった?」
「別に何も。でもどうして急に篠ノ之束の話を? まさか、とうとう篠ノ之に専用機を渡しに来るとか?」
「……よくわかったな」
「俺は可能性が高いと思っていただけですよ。興味があるゆえに特別なことをするって」
「……お前はこの世界を変えようとは思わないのか?」
いきなりの質問に俺は驚いた。
なんて言ったって彼女はIS学園の教師。それだけではなくモンド・グロッソ第一回の優勝者。そんな人間が世界を変えたいかなんて聞くとは思わなかった。
「……どうしてそんなことを聞くんです? ましてやあなたはIS学園の教師で世界大会の初代ブリュンヒルデ。そんな人間がそんな質問しては風紀が乱れると思いますが?」
「ただ、個人的にな。お前からはそんな空気を感じただけだ」
「世界を変えたいという空気ですか。とても興味深いですね。………まぁ、あながち嘘でもないですが。この世界は腐ってますからね」
少し無用心かと思った。ヤバいな。ちょっとしゃべりすぎてしまった。
「……ほう。例えばどこがだ」
「まずは政治家ですかね。女性優遇制度を設けるのとほとんどの資金をISに回すのが気に入りません。それなら他所の難民の救済をするほうが最優先です」
「……お前はそれをしているのか?」
「一応は。でも、足りていないのが現状です」
………募金活動なんてやっているけど、それでも間に合わないのが事実だ。
「そうか。だが、ISを突破する攻撃力を持つ兵器なんて造れるのか?」
「逆に質問しますが、どうして今までビーム兵器が造られていないと思います?」
「……それはまだそこまで技術が達していないからだろう?」
「おそらくそれもありますが、大きさの違いですね。こういうところだとおそらくは一時期流行ったロボットアニメの方がISより勝っている点ですね」
「どういうことだ?」
「そのままの意味です。あれはISに比べて何倍も高い。そして武装も大きい。それに比べてISは2~3mが一般的。そしてリミッターがあるとはいえ小規模程度の出力しか出せない。それに比べて―――大きさ故に出力が高い。まぁ、あくまでも理論ですが」
「………なるほどな」
ほどよく話に花が咲いたところで俺はある質問をぶつけてみた。
「ところで先生」
「何だ?」
「……どうして俺と本音が同室なんですか?」
一夏とならわかるが、どうして本音?
「お前ら、仲がいいだろう? そのための策だ」
「かざみん、よろしくね~」
「いや、そこは教師としては間違いがないように注意するのが普通だ! 何だよそのめの策って!」
「私は別に無理強いはしない。子供ができて責任が取れるならな」
「アンタ教師止めろォォォォォッ!!!」
嫌な未来しか見えず、俺は堪らず叫んだ。
■■■
「それでは、ここが今日から三日間お世話になる花月荘だ。全員、従業員の仕事を増やさないように注意しろ」
「「「よろしくおねがいしまーす」」」
織斑先生の言葉で全員が挨拶する。女将さんも丁寧にお辞儀を返してくれた。
「はい、こちらこそ。今年の一年生も元気があってよろしいですね」
今年もということは、毎年か?
そう思っていると俺たちと女将さんの目があった。
「あら、こちらが噂の……?」
「初めまして、IS学園1年1組所属、風宮祐人です」
「お、同じく、織斑一夏です」
「うふふ、ご丁寧にどうも。清洲景子です」
うん。一般にはあまり見ない女性だ。……心の中で何を考えているかわからないが。
その後は他愛ない会話がほんの少しあり、女将さんの説明を後に女子たちが旅館に入っていった。
「……で、織斑先生。どうして俺を本音と一緒の部屋にしたんっすか?」
「………お前の記憶を取り戻すためだ」
「…………一応、信じます」
俺は少し離れて指定された部屋に向かう。
一応ノックしてから部屋に入ると、中にはまだ誰もいなかった。
「………寝るか」
朝の騒動でうるさかった(というかそれのほとんどが俺)ので、俺は鞄を枕にしてそのまま寝ることにした。
そしてしばらく横になっていると、
「か、ざ、み~ん!」
本音が飛び込んできた。
それを体で受け止める。
「何だ?」
「一緒に海行こ~」
「断る」
今はそんな気分じゃない。
だが本音はお構いなしに上目遣いだ。
「はぁ~」
そんなに行きたいなら一人で行けばと思うのだが、本音はどうやら俺と行きたいようだ。
俺は仕方なく諦めて―――
『マスター。上空に人参型のミサイル―――いえ、飛空艇を発見しました』
(捨て置け―――などとは言えないな。すぐに可能ならばデータを採取。無理ならば回避で構わん)
『了解』
俺は本音を抱きかかえると、
―――ドカ――――ン!
おそらく、さっき報告にあった人参が落ちたのだろう。
そう察知した俺は警戒心を高める。
「かざみん?」
「………悪いな。大丈夫か?」
「うん。かざみんが抱えてくれたから平気だよ~」
俺はしばらくは抱えていたが、特にこっちに来る気配もないのでとりあえず警戒は解く。
そして水着と着替えを持って俺たちは海に出た。
「じゃあ、本音。俺は向こうに行っているから」
「うん」
俺は本音を置いてそのまま岩場の方に移動した。
その理由は―――剣だ。
全てを貫き、砕き、そして斬るという三分野を余裕でこなす、そんな剣だった。
それを軽く振り終え、俺は少しばかり移動してある人物を発見したのでそっちに移動した。
「こんなところで海を眺めて、出遅れても知らねぇぞ」
普段からでは想像できないビキニ姿をしている篠ノ之に俺は声をかけた。
「……風宮か」
「ああ。それと、とりあえずこれを着ておけよ。あまり一夏以外には見られたくないだろ?」
「……すまないな」
そう言って俺がさっきまで着ていたパーカーを渡す。篠ノ之の身長が高くても俺よりは低いのでそれなりには隠せる。
「………お前、その格好で迫ったほうが良くないか?」
「み、見るなぁッ!!」
「あ、悪い。つっても性質上、体を観察して武器の在処を探すのは癖なんだ。許してくれ」
「……いや。こっちこそ……」
お互いが気まずい空気を出したところで俺は話を始めた。
「……で、何を悩んでいるんだ?」
「……どうしてそうだと?」
「お前からいつものツンツン具合がないからな」
「私はいつもそんなにツンツンしているのか?」
「ああ。かなり。というかぶっちゃけて言えばその雰囲気さえなければお前はもっと友達がいたと思えるほど」
「………そこまでか」
俺の言った言葉に目を逸らす篠ノ之。
「まぁ、人生がそういう風な性格にしたんだから仕方がない。………何があった?」
「ああ。………姉さんがこの臨海学校に来ているんだ」
「へぇー。大方、お前に専用機を渡しに来たってところか」
「そうなのか?」
「ああ。まぁ、あくまで俺の予想だけど、それ以外は考えられない。………で、篠ノ之はそれを受け取るつもりなのか?」
「………たぶん、私は受け取ってしまうだろうな」
これも予想は着いていた。………おもしろくないな。
「一夏に迫る人間は全員が専用機持ち。それで自分も一夏と戦いたいからか?」
「………私の考えが本当にわかるんだな」
「いや。これでも結構当てずっぽうで言っただけなんだけど。それはともかく、覚悟はあるのか?」
「覚悟………か?」
「ああ。周りから恨まれる覚悟だ。そりゃそうだろう。お前はズルをしているからな」
俺の言葉に不愉快だとでも言いたげに篠ノ之は反応した。
「それと、ついでだが言っておく。専用機を持つと立場とやることに面倒なことになる」
「……どういう意味だ?」
「そのままの意味だ。まず最初にお前は『篠ノ之束の妹』というレッテルが既に貼られている。それに彼女が目をかける数少ない人物だ。これ以上のカモはいない。これで今までの自分がどれだけの価値かわかっただろ?」
「ああ。それでやることとは?」
「まぁ、大なり小なり責任ってのが出てくる。それを逸脱するとどうなるか、トーナメントが終わってからデュノアが正体をバラシた時にわかっただろ? もしお前が専用機を持っていてその武装を抜くと、最悪の場合は俺は殺していたよ」
その言葉に嘘偽りがないとわかったのか、篠ノ之は少しばかり焦ったような顔をした。
「まぁ、そもそもそんなくだらないことで殺そうとすること自体、おかしいんだけどね。あー、後、他にあるなら、お前に渡されるのが篠ノ之束お手製のISだというのも鍵だから」
それだけ言って俺はその場を去った。
とりあえず、言いたいことは言った。後は彼女がどんな行動に出るか楽しみだ。
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