愛人だったけれど
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第二章
「もうね」
「恥じることなくよね」
「これからも愛人でいるわ」
表情を変えずに言った、そうして実際にだった。
紅子は佐藤の愛人として暮らしていった、彼は時々彼女の部屋に来た。しかしあるプロ野球選手が彼女の客の一人となり。
彼女に入れあげだしたが佐藤は彼女の部屋で言った。
「彼にプロポーズされたのかい」
「そうよ、私が愛人とは知らないでね」
「わしのか」
佐藤は五十代という年齢を感じさせる顔で応えた。
「まだか」
「ええ、それでどうするの?」
紅子は佐藤に問うた。
「あの人に私に近寄るなっていうの?」
「お前はどうなんだ」
佐藤は紅子と同じソファーに座ってブランデーをストレートで飲みつつ問うた、彼が自分で買った高価なものだ。
「それで」
「本気だって言えば」
紅子は佐藤に表情を変えずに告げた。
「どうするの?」
「わかった、じゃあ結婚すればいい」
佐藤は素っ気なく答えた。
「わしはもうここには来ない」
「それでいいの」
「こっちのそのつもりだった」
「私に好きな人が出来たら」
「もうな」
今の様にというのだ。
「終わらせるつもりだった」
「そうなのね」
「だからな」
それでというのだ。
「もうな」
「お別れね」
「幸せになれ」
紅子に微笑んで告げた。
「これからな」
「ええ、それじゃあね」
「もう店にも来ないからな」
「あっさりしているわね」
「それが愛人を囲む人間の弁えだ」
こう言ってだった。
佐藤はブランデーを飲むと紅子にまた幸せになれと告げてだった。
彼女の前から姿を消した、そして店にも二度と来なかった。
紅子はその彼に自分が愛人だったことを告げたが彼は過去はどうでもいいと言って受け入れた、そうして二人は結婚して紅子は店を辞め。
主婦となった、主婦となった彼女は人付き合いも家事も出来るよき妻となった、そして夫を支え子供達のよき母親となった。愛人だった彼女はそうなった。
愛人だったけれど 完
2025・1・15
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