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英雄伝説~黎の陽だまりと終焉を超えし英雄達~

作者:sorano
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第62話

 
前書き
明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。 

 
夕食後、客室で一息ついているとあることが気になっていたアーロンがリゼットに訊ねた。



~宿酒場”石切り亭”~



「――――――で、エセメイド。”さっきから何が引っかかってんだ?”」

「っ…………」

「?えと、何かあるんですか?」

(…………そりゃ、こいつなら気づくか。)

アーロンの問いかけに図星を刺されたリゼットが息を呑んでいる中フェリは首を傾げ、アーロン同様リゼットが何かに引っかかっている事に気づいていたヴァンは納得した表情を浮かべた。

「…………ふふっ。やはり隠し事はできませんね。実は今回のこの状況――――――どこか心当たりがありまして。」

「心当たり、ですか…………」

「…………お前さんはSCをやりながら各地の危機管理をしてるんだったな。導力供給網と導力ネットの異常――――――6年前のリベールか、4年前のクロスベルのどっちだ?」

「…………流石はヴァン様。」

「えっと…………どちらも聞いたことがあるような。」

「前にチョウあたりからチラ聞きしたことはあるが…………」

ヴァンの推測にリゼットが感心している中フェリは首を傾げ、心当たりがあるアーロンは真剣な表情で呟いた。



「前者は古代都市が出現したことで起きた『導力の一斉停止現象』――――――後者は導力ネットを利用した『人口の奇蹟』にかかわる事件だ。直接居合わせたわけじゃないから俺も詳しい事までは知らねぇが…………どちらも”あり得ない存在”によって引き起こされたのは確からしい。」

「どんな与太話だよ――――――と言いたい所だが。1年半前の”決起”は聞いてるし、それこそあり得ねえ話でもねぇのか。」

「あ…………大陸中に”はっきんぐ”をしたっていう?」

ヴァンの話に頷いたアーロンの話を聞いたフェリは心当たりを思い出した。

「…………本社の機密情報にあたるため、詳細は差し控えさせてください。…………ですが、その2件とはまた違った意味で、”想定外の危機”に繋がるかもしれません。」

「それは…………」

「ハン…………小娘のゲネシスも光ってたっつー話だからな。何も起きてねぇ筈はねぇか。」

「ああ、腹を括る必要はあんだろう。――――――これから出かけるんだろう?良かったら付き合うぜ。」

「…………本当にお見通しですね。」

ヴァンに自分が外出することを予想していたことに驚いたリゼットは苦笑しながらヴァンを見つめた。



「通信越しだったが、お前さんともそれなりに長い付き合いだからな。重大な危機管理案件に遭遇したら本社に報告する義務が発生するんだろ?」

「ええ、本件は”コードE"に接触――――――ですが同行者の制限はありません。巡回ついでにご一緒していただいても?」

「ああ、さっそく行くか。」

「ま、待ってくださいっ…………!」

「コラ、二人でわかって勝手に決めてんじゃねぇぞ。」

ヴァンとリゼットが外出するために立ち上がるとフェリとアーロンも自分達も同行するために立ち上がった。

「あー、ついてくるのはいいが一人は残ってもらうぜ?アニエスや、あの少年からも連絡があるかもしれないしな。」

「それは…………確かにそうですね。」

「チッ…………だったらとっとと選べや。」

その後宿に待機役の一人を残して夜の巡回をしていたヴァン達にカトルから通信で既に閉館済みの大学の構内に侵入者がいるためにその対処の為の相談をされたので、その相談に応じるために待機役の一人とも合流して待ち合わせ場所である大学の正門前に向かった。



~バーゼル理科大学・正門前~



「皆さん、お疲れ様です。」

「ああ、お前さんもな。」

「あん、そっちのソバカス眼鏡は――――――」

「あれっ、昼間にお会いした…………?」

カトルと共に待っていた白衣の女性に気づいたアーロンは眉を顰め、フェリは不思議そうな表情を浮かべた。

「ああ~!貴方たちは~!」

「えっと、面識があったんですか?こちらは博士の直弟子の一人、エスメレー准教授です。」

ヴァン達や、ヴァン達と面識がある様子の女性の態度に首を傾げたカトルは女性の事を紹介した。

「えへへ、カトル君の姉弟子にあたるエスメレー・アーチェットで~す。うーん、まさか貴方達が噂の裏解決屋さんだったなんて~…………あ~ん、さっきも思ったけどやっぱり可愛い~~♪」

「はわっ…………!?」

「エレ姉、そんな場合じゃないってば…………その、先に帰るように言ったんですがどうしても協力したいって聞かなくって。」

女性――――――エスメレー准教授は名乗った後フェリを抱きしめ、その様子に呆れたカトルはエスメレー准教授が自分と共にいる理由を説明した。



「む~、水臭いよ~カトル君は。お姉ちゃんとして、居合わせた以上は放っておけるわけないでしょ~?」

「お姉ちゃんって…………ただの姉弟子じゃないか。」

「ただのなんてひどいっ…………そんなカトル君はこうだ~!」

「わぶっ…………や、やめてよエレ姉っ…………!」

カトルの自分の扱いに不満げに頬を膨らませたエスメレー准教授は豊満な自分の胸にカトルの顔を抱き寄せた。

「チッ、裏山ケシカラン小僧だな。」

「ま、構内に詳しいのが他にもいるのは助かるぜ。侵入者ってのを探すにも人手が必要だろうしな。」

2人の様子に仲間達と共に冷や汗をかいた脱力したアーロンは若干カトルを羨ましがり、ヴァンは気を取り直して答えた。

「…………はい。直接見たわけじゃありませんが…………FIOの高感度センサーが未登録人物の侵入を感知したんです。」

「あの七面倒くせぇカードも使われてねぇって話だったな?」

「こちらで採用されている警備システムは容易に潜り抜けられるものではないかと。誤作動の可能性も――――――ザイファベースの導力ドローンならば考えにくいでしょうし。」

「FIO,確カニ感知シタ。」

リゼットの推測に同意するようにFIOが答えたその時大学の入り口付近に”何か”が移動したことに気づいたヴァンは表情を引き締めた。



「場合によっちゃ、昼には見えてこなかった手がかりなんかも見えてきそうだ。――――――アンタたちも一応手伝ってもらうがくれぐれも気を付けてくれよ?」

「こちらの心配は要りません。FIOとXEROSもいますしね。」

「よ~し、はりきって行きましょうね~。」

「BOW。」

「索敵モードニ移行スル。」

「…………微妙に緊張感ねぇな。」

「あはは…………」

ヴァンの忠告に対してカトルが答えた後エスメレー准教授達はそれぞれ意気込みを見せ、その様子を見て呆れた表情で呟いたアーロンの言葉にフェリは苦笑していた。



その後警備員達に事情を説明して大学構内に入ったヴァン達が二手に分かれて構内を探索していると”何か”を見つけたXEROSが”何か”を追い始め、ヴァン達もその後を追っていくとXEROSは”何か”に乗っていた。



~構内~



「GRRRR…………BOW!」

「くっ…………待ちなさい、降参よ、降参!」

”何か”に乗ったXEROSが吠えると”何か”は声を出した後ステルスを切って姿に現すと女性が姿を現した!

「女の人…………?見覚えがあるような、ないような…………」

「ハン、マフィアか例の痴女あたりかと思ったが。」

女性を目にしたフェリが首を傾げている中予想外の人物にアーロンは困惑し

「はあはあ…………あれ~、誰ですかその人?」

「…………大学関係者でもなさそうですね。」

カトルと共にヴァン達に追いついたエスメレー准教授の反応を目にしたリゼットは女性は大学関係者でないことを悟った。

「…………やれやれ、可能性くらいは考えてたが。キンケイドの部下か――――――名前は聞いていなかったな?」

「…………あ…………」

「なるほどな。スカシ眼鏡のパシリってワケか。」

「だ、誰がパシリよ…………!」

一方女性に見覚えがあるヴァンは溜息を吐いて呟き、ヴァンの言葉を聞いて女性がGIDの関係者であることに気づいたフェリは呆けた声を出し、アーロンの推測を聞いた女性はアーロンを睨んだ。

「…………?知り合いですか?」

ヴァン達の反応を見たカトルは不思議そうな表情でヴァン達に訊ねた。

「ふう…………接触するつもりは無かったけど。まさか今日一日だけで理科大学側とここまで信頼関係を結んでるなんてね。噂に違わぬ”人たらし”ぶりじゃない、ヴァン・アークライド所長?」

「人聞きの悪い事を言うんじゃねえよ。つうか、その恰好を何とかしてから決め台詞を言うべきなんじゃないか?」

口元に笑みを浮かべた女性の指摘に溜息を吐いたヴァンは苦笑しながらXEROSに乗られたままの女性に指摘した。

「う、うるさいわね…………とっとと解放して頂戴っ!」

そしてXEROSから解放された女性から自己紹介をヴァン達が聞いていたその頃、アニエスはホテルの部屋で眠っているオデットを見守っていた。



~ホテル・イングレス~



「むにゃむにゃ…………エンガディーナ…………もう食べられな~い…………」

「ふふっ…………そちらも色々回ったみたいですね?」

オデットの寝言を聞いたアニエスは微笑ましそうにオデットを見つめた後端末を操作しているレンに訊ねた。

「ええ、初日から張り切って回り過ぎた気はするけど。おかげで少しは見えてきたわ――――――この街の”異常”についても。」

「え――――――」

今日一日の出来事を思い返して苦笑したレンは気を取り直して答え、レンの答えを聞いたアニエスは呆けた声を出した。



~バーゼル理科大学~



「カエラ・マクミラン、一応本名よ。GID所属の特務少尉――――――こちらはオフレコで頼むわ。」

「…………エルザイム公国からの依頼とは聞いていましたけど…………」

「なるほど~…………総督情報省(GID)も関わってたんですね~?」

女性――――――カエラ少尉が名乗るとカトルは驚き、エスメレー准教授は複雑そうな表情でカエラ少尉を見つめた。

「ああ、あのCEOの隠蔽を見越して俺達が雇われた背景のもう一方でな。ザイファとRAMDAの複合ステルスで潜入してるとは思わなかったが。」

「…………それについては余計な混乱を招いて失礼しました。”保険”のため調べるつもりがまさか感知されてしまうなんて…………理科大学の技術力を甘く見ていたようです。」

ヴァンの指摘に静かな表情で答えたカエラ少尉はFIOとXEROSに視線を向けた後溜息を吐いた。

「FIO,スゴイ?」

「ああ、そうだね。」

「つーか、そもそもなんで忍び込んできたって話だろうが。」

「この地の状況を見て、独自に動く必要があると判断した。かと言ってクロスベルとメンフィルの国家間の関係が良好とは言え、他国であるメンフィル帝国の領土――――――それも南カルバード総督府のお膝元であるバーゼルでのGIDの権限を利用してでの活動はGIDや北カルバード総督府がメンフィル、いや下手すれば中央政府に探られては痛い腹を探られる理由を作ってしまう為、潜入した――――――そんなところか?」

「……………………」

「それは…………」

「ん~、確かに最近の導力ネットとエネルギー網の不調は困るよねぇ。わたしの所も一時ダウンしちゃったし…………何とか復旧はできたけど。」

ヴァンの推測に対してカエラ少尉は何の反論もせず黙り込み、ヴァンの推測を聞いたカトルは真剣な表情を浮かべ、エスメレー准教授は考え込みながら呟いた。

「えと、結局どうしてそんなことが起きているんでしょう?」

「…………一つ、心当たりがあるとすれば、異常な処理負荷を伴うような”並列分散処理”でしょうか。」

「っ…………」

「うーん、専門外ですけどやっぱりそれくらいですよねぇ。」

「…………ええ、私もそれを睨んでいます。」

フェリの疑問に答えたリゼットの推測を聞いたカトルは驚きのあまり息を飲み、エスメレー准教授とカエラ少尉はリゼットの推測に同意した。



「その、まったくもってよくわからないんですが…………」

「俺らにわかるように言えや。」

一方話を聞いていても理解できないフェリは困った表情を浮かべ、アーロンは真剣な表情で自分達にわかりやすく説明することを要求した。

「…………近年、導力演算機は急速に大型化、高速化されている分野だ。それに合わせて、導力の消費量自体も上がっていると聞いたことがある。」

「ええ…………計算が複雑で、膨大になるにつれて。本来、オーブメントは駆動に必要な導力を自然回復できる特性を持ちますが…………消費量が回復量を遥かに上回る場合、外部の導力供給網に頼る必要があります。ですが仮に、導力供給網までもが過剰に消費された場合、何が起きるか…………」

「…………一時的なエネルギー網の低下に導力ネットのトラフィック増大…………正に皆さんが調べていた現象に繋がることは否定できないかと。」

ヴァンやリゼット、カトルの説明を聞いたフェリは呆けた声を出した。同じ頃アニエスはレンからヴァン達と同じ説明を受けていた。



~ホテル・イングレス~



「…………”並列分散処理”というのはそこまでの導力を消費するものなんですか?ネットを通じて他の端末の性能を借りることで、通常以上の計算を可能にする――――――でしたか。」

レンの説明を聞いたアニエスはレンに自分が知っている知識を確認した。

「うふふ、最先端技術なのによく勉強しているわね。もちろん、数台程度接続したくらいじゃ大した負荷にはならないわ。でも――――――都市中にある導力端末、全てを利用したとしたらどうかしら?」

「…………ハッキング、ですか…………!?」

「たぶん、導力供給網のフローも含めて制御しているわね。意図的に、ランダムに制御することで偶然起きたトラブルに見せかけている。私の得意分野ではあるけど――――――なかなか狡猾でイヤらしいやり口だわ。」

アニエスに現在バーゼルで起こっている”異変”を説明したレンは意味ありげな笑みを浮かべた。



~バーゼル理科大学~



「…………ですが、流石に不可能ですよ。これだけの大規模な分散処理なんて。しかも導力供給網まで制御しているなんて現在の技術じゃそこまでは…………!」

「そもそも”導力”そのものが完全に解明されていない現象だからねぇ。あ、でも――――――」

「ええ――――――似たケースが近年あった筈です。」

同じ頃レンと同じ推測に気づいたカトルだったがある問題点にも気づき、カトル同様問題点に気づいていたエスメレー准教授だったがある心当たりを思い出し、カエラ少尉はエスメレー准教授の言葉に頷いた。



~ホテル・イングレス~



「あの”ヘイムダル決起”の前後――――――”現代技術ではあり得ない”、超大規模の分散処理から始まった”奇蹟”と”災厄”。まさかカルバードでも小規模とはいえ、似たようなことが起きているなんてね。」

一方その頃レンがアニエスにエスメレー准教授達の心当たりについて説明した。



~バーゼル理科大学~



「ええ――――――”当時の状況分析をしていた”マルドゥック社としても同意見です。」

「リゼットさん…………」

「…………やはり…………」

「ハッ、ようやく認めやがったか。決起の話は色々聞いているが…………どうにも気に食わねぇ状況だな。」

予想以上の状況の悪さにアーロンは表情を厳しくした。

「はい、決起に似てるといえばサルバッドでも…………」

アーロンの言葉に頷いたフェリはサルバッドでの”黄金の力”による暴徒化を思い返した。

「…………これが連中の”再現”かはわからねえがひとつ、明らかにすべき点がある。そんな並列分散処理を必要とする――――――言わば身の丈に合わないような研究をいったい”誰”がやってるのかってな。」

「回りくどいわね…………貴方達もとっくに見当はついてるんでしょう?」

「…………キャラハン教授…………」

ヴァンとカエラ少尉の会話を聞いていたカトルはキャラハン教授の研究室にあった最新の演算機器を思い返した。



「っ…………何をしてるんだ、あの先生(ひと)は…………!?」

「…………うーん、ここ1,2年で人が変わっちゃった感じだったけど…………」

キャラハン教授を思い浮べたカトルが辛そうな表情を浮かべている中、エスメレー准教授達はキャラハン教授の変貌について考え込んでいた。するとその時カトルのザイファに通信音が鳴り始めた。

「…………?っ、この番号…………!」

音に気づいてザイファを取り出して通信相手を確認したカトルは驚いた後通信モードをオンにした。

「…………サリシオン君、か…………?」

「キャ、キャラハン先生?…………どうしたんですか…………?」

「…………すまない…………どうやらしくじってしまったようだ…………どうか、止めてくれ…………あいつらは、私の――――――うわあああっ…………!!」

「教授…………!?――――――キャラハン先生っ!?」

「ッ…………一体…………!?」

「特別研究棟か…………!?」

「――――――急ぎましょう!」

カトルとの通信によってキャラハン教授に只ならぬ事が起こった事を悟ったヴァン達が特別研究棟のキャラハン教授の研究室に急行し始めた。



~ホテル・イングレス~



「!…………こ、これって…………!」

同じ頃レンとバーゼル市に起こっている異変について話し合っていたアニエスはゲネシスが反応していることに気づき驚きの表情を浮かべた。



~バーゼル理科大学・特別研究棟~



「…………ぁ…………」

「おいおい…………」

ヴァン達が特別研究棟のキャラハン教授の研究室に到着すると研究室は既に何者かによって荒らされた後だった。

「…………ぅぅ…………」

「……………………」

荒らされた研究室に倒れている助手達は気絶したり、かろうじて意識が残っている者は唸り声を上げていた。

「先生っ――――――どこですか、先生っ!?」

キャラハン教授の安否を確認するためカトルは周囲を見回してキャラハン教授の名を呼んだが誰も返事もせず、キャラハン教授の姿はどこにも見当たらなかった――――――

 
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