狂気への報い
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第三章
「また我も取り戻している」
「そこで罰すると」
「自分が何をしたのか理解するしな」
このこともあってというのだ。
「恥も知る」
「だからよいのですね」
「そうだ、法に照らし罰するのは当然のことだ」
ペンテウスのその考えはよしとした。
「だがそこにだ」
「知識と知恵ですね」
「この二つが備わればな」
今の様にというのだ。
「それでだ」
「違いますね」
「そうだ」
まさにというのだ。
「だからこれからはな」
「はい、王として」
「知識と知恵をな」
この二つをというのだ。
「備える様にな」
「そうしていきます」
「では後はそなたに任せる」
祖父は孫王に微笑んで話した。
「裁きはな」
「それでは」
ペンテウスは微笑んで応えた、そうしてだった。
自身の母も含めた酔って暴れた女達に暫しの禁酒と迷惑をかけた者達に対して謝罪と賠償をさせた。そうしてだった。
彼女達の酔いと騒ぎ狂気とまで言ってよかったそれへの報いをさせた、カドモスはその一部始終を見て孫王に言った。
「あれでいい、下手に怒ってもな」
「逆効果ですね」
「ましてや迂闊に近寄って力で止めようとしても」
「酔っていて力の制御が出来ないので」
「危ない、ましてディオニュソス神の加護でだ」
それを受けてというのだ。
「力が強まっているからな」
「屈強な兵達でも敗れますね」
「精強で知られるこのテーバイの兵達でもな」
「そうなりますね」
「木を引き抜き石を砕きさえするのだ」
酔ってディオニュソスの加護を受けた彼女達はというのだ。
「最悪首や手を引っこ抜かれる」
「そして殺されますか」
「誰彼構わずな」
「では私が酔った母上を止めようとしたら」
「その母親に殺されていたかも知れぬ」
「恐ろしいですね」
「酔って狂ったかの様に乱れた者達には迂闊に近寄るな」
カドモスは強い声で言った。
「それよりも知恵と知識でだ」
「向かうことですね」
「酒には水だ」
「それで酔いを醒まさせ」
「倒れて起き上がりな」
そうなりというのだ。
「我を取り戻したところでだ」
「裁くのですね」
「そうするのだ、酔った者達に対して以外にもな」
「知恵と知識を用い」
「そしてだ」
そのうえでというのだ。
「対するのだ、それが政でありだ」
「王の行いですね」
「そのことを覚えておくのだ、よいな」
「わかりました」
若い王は年老いた祖父の先王の言葉に頷いた、そうしてテーバイをよく治めていった。だが彼の母はディオニュソスの信者のままで。
禁酒が解かれるとまた飲み暴れ水を飲まされ醒まされてだった。
筋腫を言い渡されそれが解けるとまた飲む、それの繰り返しだった。それが王の妻や娘にも及び彼の頭痛の種となったが首を引き抜かれるよりはましと思い知恵と知識で向かっていったのであった。ギリシアに伝わる古い神話の一つである。
狂気への報い 完
2024・8・12
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