帝王切開
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第一章
帝王切開
出産間近になってだった、主婦で今は入院している芳賀宮子長い黒髪が波立ち大きな垂れ目と小さな唇に細面で胸が大きい中背の彼女はサラリーマンの夫で見舞いに来た宏昌に言った。
「帝王切開になりそうよ」
「ああ、あれだね」
すらりとした長身で明るい顔で丸い目にやや茶色がかった癖のある髪の毛の彼はその言葉を聞いて言った。
「お腹切る」
「それで出産するかも」
「そうなんだ」
「不安?」
「いや、僕医者じゃないから」
夫は妻にそれでと話した。
「もうね」
「あれこれ言ってもっていうのね」
「仕方ないよね」
「そうね」
妻もそれはと応えた。
「私達素人だから」
「だからね」
「何も言えないわね」
「うん、それにね」
夫はさらに言った。
「帝王切開、お腹切るのも」
「そうして出産するのも」
「考えてみたら」
病院のベッドに寝ている妻に話した。
「結構あるよね」
「お医者さんが言われるには」
妻は夫に話した。
「出産する人の五人に一人はね」
「帝王切開なんだ」
「そうらしいわ」
「案外多いんだ」
夫はその割り合いを聞いてやや目を瞬かせて応えた、妻の枕元にある席に座ってじっと彼女の顔を見ながら。
「帝王切開も」
「だから麻酔医の人も産婦人科のお医者さんもね」
「経験あるね」
「豊富だっていうし」
「それにお腹切っても」
夫はそれでもと言った。
「考えてみたら盲腸とかとね」
「同じよね」
「そうだよね」
「だから」
それでというのだ。
「別にね」
「心配することはないね」
「ええ、ここはお医者さん達を信頼して」
そうしてというのだ。
「お任せしましょう」
「帝王切開になっても」
「それでね」
そのうえでというのだ。
「元気な赤ちゃん産むわ」
「うん、そうしてね」
「産まれるまで待ってね」
「部屋の前で待っているよ」
夫は笑顔で約束した、そしてだった。
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