真剣で軍人に恋しなさい!
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プロローグ
「…ふっ、っく…」
トレーニングルームで最早日課と化した筋トレを淡々とこなす。
その体つきはガッチリと言うにはまだ足りないが、それでも充分に筋肉はついておりたくましい。
「伍長、朝から精が出るな」
「…あ、中将。おはようございます」
いつの間にかトレーニングルームに居た軍服姿の男、フランク・フリードリヒ。見ての通りドイツ軍の軍人で階級は中将、由緒ある家柄の出身で実力は相当な物だとか。しかし唯一欠点があり、一人娘のクリスティアーネ・フリードリヒという女性がいるのだがその愛情の注ぎ方が尋常ではない。手を出そう者がいるとすれば特殊部隊をも動かすという親バカの度を越してる。
それがなければ稀代の名将とも謳われるが、人間である以上欠点の一つは持っていた方がいいだろう…欠点が異様ではあるが。
仮にも上司である為、敬礼で挨拶を行う。
「ははは、キミはいつも固いな。今は2人だけしかおらんのだ、少しぐらいリラックスしたまえ」
「すみません、もはや条件反射となってしまっていて…それにいくら家族の様に接して頂いてるとは言え、礼儀は弁えるのが道理ですから」
「確か親しき中にも礼儀あり、だったな? 素晴らしい言葉であり精神だ。うむ、やはりキミが来てくれて正解だったな」
この人は何かと日本に対し好印象な感情を抱いており、侍魂や武士道精神に敬意を表し、自慢の娘を日本に送り出すという事をほんの少し前にやっている。
しかし送り出したは良いものの娘が心配らしく、何度か日本に訪れては様子を伺って帰るというのをかれこれ数回はやっている。正直付き添うコチラ側の疲労が溜まるから完全に問題がないとクリスを信じきってほしいものだ…。
「それでこんな早朝に俺を尋ねるって事は何かご用があったのではないですか?」
外はまだ日が昇り始めて少し明るいぐらいで、日本時間なら5時くらいだろう。
「おぉ、そうだった。鷹槻 司道(たかつき しどう)、キミには突然で悪いが日本に向かってもらう」
「……へ? 日本に?」
「あぁ、勿論任務だが今回は猿でも出来る名目だがある意味難しい内容だ。まぁある種のバカンスも含むがな」
「そ、それでどんな…」
俺は生唾をゴクリと飲み込む。この人が難しいと言うレベルは常人の言うレベルとは段違いなぐらいに難しかったりする。そんな重役を俺が担うのか…。聞く前から責任重大だな…というか難しいのにバカンスとは一体…?
「我が愛する娘、クリスの様子の報告がまず一つ。そしてキミがクリスと同じ学舎に通い、学生生活を過ごしてくる事だ」
「…は、はぁ……え? ええぇぇぇ!?」
突然の事で頭の処理が追いつかない。
愛娘の報告はなんとなく分かった。ですが俺がその愛娘と同じ学校で学生生活を送る!? 幾ら家族みたいな感じだからって同じ学校に通わせます? だって下手すりゃ特殊部隊を導入しようとするお方ですよ? そりゃにわかにも信じ難い話ですわ……。
「ここに来てからろくな学生生活を送っていないだろう。仮に訓練学校を卒業したとは言え、一般人が幼少期に入るものではないからな。その事で当時の私はずっと心を痛めていたのだ…このような幼子を立派な軍人に育て上げるとは言え苦行にも程があるとな」
「フランクさん……」
俺は小学校を卒業した後、両親の仕事の関係でドイツに移住することになった。その際、親父が何を思ったのか俺を知り合いの軍人が管轄する軍人訓練学校に通わせると言い出したのだった。そんな無茶が通るわけがないと思っていたが、そんな予想を裏切る様にその無茶が通ったのだった。それから卒業まで毎日文字通り血反吐を吐くような日々が続いた。うん、思い出すんじゃなかった…。
「でも日本かぁ……アイツら俺の事覚えててくれてっかなぁ…」
小学生時代、共に過ごした面々を思い出す。直江大和に川神百代、一子と京や小雪も居たな。元気でやってるかな…。
「予定では明日出発だ、今のうちに準備をしておけよ」
「了解しました!」
久々に日本に帰れる事に胸を躍らせながら床につくことにした。
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