メイドと時計と推理
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第三章
「見事だよ、ただね」
「何でしょうか」
「時間のチェックを腕時計でしたけれど」
彼女の左手を見つつ言った、腕時計のあるそこを。
「どうしてかな」
「腕時計で時間をチェックするのは普通では」
「いや、スマートフォンがあるなら」
それならというのだ。
「もうね」
「そこで時間をチェックすれば宜しいですね」
「どうしてそうしなかったのかな」
「好きだからです」
これがグロウスの返事だった。
「だからです」
「時計がなんだ」
「はい、ですから」
「スマートフォンでなくなんだ」
「時計で、です」
これを使ってというのだ。
「時間をチェックしました」
「そうなんだね」
「そうなのです」
「成程ね、全部わかったよ」
子爵はブロウスに笑顔で応えた。
「何もかもがね」
「何故私が先程間もなくお客人が来られるかと申し上げたか」
「全部ね、時計からそこまで推理するなんて」
それはというと。
「君は女性版ホームズか。いや」
「ホームズではないですか」
「列車と時間にまつわるから」
だからだというのだ。
「鬼貫警部か」
「確か日本の探偵さんですね」
「列車の時刻表のダイヤルから犯人のアリバイを崩すね」
そうすることを得意としているというのだ。
「日本の探偵さんだよ」
「私が列車と時計の時間から申し上げたので」
「そうだよ、イギリスの女性版の」
そうしたというのだ。
「鬼貫警部だよ」
「私はそうですか」
「うん、名探偵は思わぬ場所にいる」
子爵は笑ってこうも言った。
「また何かあれば頼むよ」
「時間のことしかわかりませんが」
「それで充分だよ」
子爵はこの言葉の時も笑っていた、そうしてだった。
以後時間のことではグロウスによく尋ねた、彼女はその都度的確に答えた。子爵はそんな彼女を我が家の名探偵と呼び続けたのだった。
メイドと時計と推理 完
2024・7・14
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