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タクシーの運転手から

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第一章

               タクシーの運転手から
 蜂須賀克也は地元のタクシー会社で運転手をしている、大学を出てすぐに就職し三十五歳の今まで働いていて課長にまでなっている。
 丸々と太った顔で眼鏡をかけていて黒髪を真ん中で分けている、背は一八〇近くあって真面目で穏やかでのんびりした性格だ。
 一人暮らしで趣味のアニメやプラモ作りに夢中で気軽に生きていた、だが父が死にその葬式の喪主を務めた後で二人の姉と彼女の夫達から言われた。
「お父さん亡くなったし」
「あんたが継ぎなさい」
「いや、義兄さん達が継ぐんじゃないの」
 彼はこう言い返した。
「どちらかの」
「何言ってるの、あんた長男よ」
「直系の男の人がいるなら継ぐでしょ」
「うち古い家だし」
「そんなの言うまでもないでしょ」
「だから僕喪主だったんだ」
 ここでこのことがわかったのだった。
「そうだったんだ」
「その喪主も無事行えたし」
「よかったよ」
 義兄達が微笑んで言った。
「これなら大丈夫だよ」
「お家を継いでもね」
「これまでタクシーの運転手で一人暮らしで」
 蜂須賀は今の暮らしのことを話した。
「働きながら趣味を楽しんでいたけれど」
「趣味はそのまま続得けていいわよ」
「けれどやっぱりお家を継ぐのはあんたよ」
 姉達はまた彼にこう言った。
「これからはお家の仕事やってもらうから」
「お家に戻りなさい」
「何か逃げられそうもないし」
 四人から一度に言われて思った、そして他の親戚達からもこぞって家を継ぐ様に言われた。これでは断ることなぞ出来ず。
 彼は家を継ぐことになった、家は大地主の家で山では林業やキャンプ場を経営していて平地では県庁所在地のいい場所にマンションやアパートを幾つも持っていて不動産でかなりの収入があり。
 しかも父は県会議員だった、結果として彼が立候補して支持基盤もあり当選した。それで彼は不動産業等に加えてだった。
 政治家の仕事もする様になりひっきりなしに勉強する様になった、そして早く身を固める様に姉達に義兄達他の親戚や周りに言われてだった。
 お見合いをして結婚した、県内の大企業の社長の娘で美人だった、名前を居蔵千景といった。長い黒髪に切れ長の目で三十歳のスタイルのいい女性だった。
 性格はしっかりしていて真面目で何事もテキパキとしていて家事も上手でだ、かなり出来た女性だった。
 その彼女それに周りのサポートを受けて家の仕事も政治家のそれもしていったが。
 彼は親戚の集まりの後でだ、姉達に言った。彼は太っているが上の姉の紗友里も下の姉の朋美も小柄でありはっきりした大きな目と痩せた身体を持っている。二人共ロングヘアだが紗友里は茶髪で朋美は黒髪だ。
「あの、生活が全く変わったよ」
「お家継いでね」
「そうなったわね」
「ずっとタクシーの運転手でやっていけるって思ってたら」
 ビールを飲みつつ言うのだった。
「それがね、思わなかったよ」
「だから言ってるでしょ、あんた長男よ」
「うちのね」
「うちは古いお家でね」
「色々財産とかもあるから」
「誰かが継がないといけないの」
「どうしてもね」
 こう弟に言うのだった。
「あんたがどう思っていても」
「誰かがでよ」
「それで長男なんらね」
「当然よ」
「そういうの古いからもうないと思っていたのに」 
 寿司を食べつつ言った。 
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