| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ジン漬け

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
< 前ページ 目次
 

第一章

                ジン漬け
 ビクトリア女王はその玉座において苦い顔になっていた、そうして自身の前にいる政府の高官達に言っていた。
「私としてはです」
「ミルクやティーですね」
「そうしたものを飲んで欲しいですね」
「やはり」
「そうです、そうしたものは誰が飲んでもいいです」
 こう言うのだった。
「ですから奨励したいです」
「ですがそれでもです」
「労働者と彼等の家族は違います」
「彼等は常に経済的に喘いでいます」
「だからこそです」
「より安いものを望み」
「ミルクやティーよりもです」
 そうしたものよりもというのだ、女王が勧める。
「売れていてです」
「飲まれています」
「何しろ安いです」
「すぐに造れるので」
「我が国には技術があります」
 ここで女王はこのことを言った。
「科学のそれが」
「はい、工場があります」
「多くのそれが」
「それが我が国の繁栄を支えています」
「科学技術と工場が」
「そしてその工場で、です」
 重臣達はさらに話した。
「それが造られています」
「ジンが」
「それが賃金になる時もあります」
「労働者達は兎角飲んでいます」
「安く大量にあるので」
「多少ならいいです」
 女王は苦い顔のままこうも言った。
「ジンを飲もうとも。しかし」
「過ぎるとですね」
「やはり問題ですね」
「酒ですので」
「しかも強い」
「そうです、民が身体を壊しては」
 そうなってはというのだ。
「私として嬉しい筈がありません」
「全くです」
「民衆の健康を気にせず何が政治か」
「今我が国は只でさえそれが問題になっています」
「労働者の健康が」
「特に自由党が言っています」 
 この政党がというのだ。
「労働者の権利、それにです」
「健康のことを」
「今彼等は長く厳しい労働時間に直面しています」
「過酷な環境にも」
「その健康状態は悪いです」
「家族もまた」
「そうした問題に加え」
 さらにというのだ。
「ジンの問題が出て来るとなると」
「尚更ですね」
「由々しき問題ですね」
「この件は」
「どうしたものか」 
 玉座で苦い顔で言うのだった、女王はイギリスの労働者の問題に頭を痛めていたがそれは健康のことも入っていてだった。
 ことの解決を計った、だが。
「ジンを飲むなと言ってもです」
「それは無理です」
「到底です」
「誰もが飲んでいます」
「大量に製造されロンドン中そしてイギリス中に出回っています」
「工場製品と同じ状況です」
「そうであるので」
 重臣達は女王に口々に述べた。 
< 前ページ 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧