高級クルーズに入るには
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第一章
高級クルーズに入るには
子供の頃港に停泊している豪華客船を見てだ、佐藤桂は夢の様に思った。細い垂れ目で丸顔で小柄で黒髪をおかっぱにしている。
「こんな船に乗りたいわ」
「それならな」
父の真吾が応えた、きりっとした顔立ちで背が高い。職業は警察官である。今は休日で娘を港のレセプションに連れて来ているのだ。妻の綾娘そっくりで胸の大きな彼女もいて一家でレセプションを楽しんでいる。
「お金持ちにならないとな」
「それで時間があればね」
母も言ってきた。
「それならね」
「ああした船に乗れるぞ」
「それで色々楽しめるわ」
「普通のホテルより凄いのよね」
桂は両親に尋ねた。
「そうよね」
「ああ、凄いぞ」
「ああした船はね」
両親もその通りだと答えた。
「お部屋も立派でね」
「船全体がお城みたいだぞ」
「プールもあってね」
「物凄い贅沢なんだ」
「そうなのね、そんな船にいたいわ」
桂は夢見る顔で言った、だが。
彼女の家は普通の家だ、貧しくはないが金持ちでもない。
だから金持ちになろうと最初は思ったが。
高校生になった時にだ、彼女は友人に言った。
「お金持ちになるのも難しいわね」
「当たり前でしょ、やっぱりそれぞれよ」
友人はクラスで桂に話した。
「才能がないとね」
「その才能を発揮しないとね」
「お金持ちになれないわよ」
「豪華客船のクルーズに行って遊べる様な」
そうしたというのだ。
「そんなお金持ちになれるかしら」
「難しいわね、クイーンエリザベスみたいな船のクルーズに参加出来るなんて」
それこそというのだ。
「相当なお金持ちにならないとね」
「無理よね」
「やっぱりね」
「そうよね、どうも私あまり才能ないし」
「英語得意じゃない、成績もいいし」
「それでお金持ちになれないでしょ」
それではというのだ。
「やっぱり」
「英語喋れる様になったらそれで違うんじゃない?」
「そうかしら」
この時はこう言うだけだった、だが。
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