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金木犀の許嫁

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第四十話 昔の忍者その九

「多くの人が」
「大阪でもやな」
「勿論です」
「嬉しいな」
 織田は夜空のその言葉を聞いてにこりと笑って述べた。
「それは」
「そう言われますか」
「人は覚えてもらえるとそれだけで嬉しいもんや」
 こう言うのだった。
「忘れてええと思って言ってもな」
「それでもですね」
「覚えてくれてるんやったらな」
 それならというのだ。
「ほんまな」
「それで、ですね」
「これ以上はないまでに嬉しいわ」
「そうなんですね」
「私なんかほんまな」
「忘れられるとですね」
「思ってたわ、何十年も経てば」
 それこそというのだ。
「文学の世界でも消える様にや」
「忘れられて」
「それで終わるってな」 
「思われていましたか」
「そやったわ」
「それが、ですね」
「今も大勢の人に覚えてもらっててこれからもやと」
 それならというのだ。
「ほんまな」
「冥利に尽きますか」
「そや、よおさんの作品も書けて美味いもんよおさん食えて」
 織田は嬉しそうに話していった。
「大阪にずっといられてええ人にも大勢会えて生まれてよかったわ」
「この世にですか」
「ああ、しかも実は死んで極楽に行けてるねん」
「いい人だからですか」
「それでそっちにも家があるけどな」
「大阪にですか」
「大抵こっちにおるねん」
 そうだというのだ。
「幽霊になってな」
「めでたい幽霊になられて」
「そうしてるねん、かみさんと一緒にな」
「ずっと一緒ですか」
「ああ、そうでもあるしな」
 細君のこともありというのだ。
「ほんまな」
「幸せですか」
「ずっとな」
「そうですか」
「そしてな」
 織田はまたコーヒーを飲んで話した。
「今もそしてこれからもずっと覚えてくれるなら」
「この世に生まれてよかったですか」
「私は幸せモンや」
 夜空にこうも言った。
「ほんまな、そやからな」
「だからですか」
「これからもな」 
 是非にというのだった。
「楽しくな」
「大阪で、ですね」
「暮らすわ、あと自分等は」
 夜空と佐京にあらためて話した、その顔と声とりわけ目はこれまで以上に優しくかつ暖かいものになっていた。 
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