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非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜

作者:波羅月
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第135話『接敵』

「学校全体を覆う魔術、魔術を反射する鏡、そして突然鏡に吸い込まれる生徒。ここから導き出される答えは、ずばり『魔術師の襲撃』!」

「どこ見て言ってんのよ。そっちは鏡よナルシスト」

「カッコつけてんだから茶々入れんなよ」


突然学校中を覆う鏡。その非常事態の解決に向けて晴登達が奔走する一方、終夜と緋翼も行動を始めていた。彼らは犯人の姿を見ていないが、これだけ状況証拠が揃っていれば何が起こっているか把握するのは容易い。
むしろ、学校全体がおかしなことになっててちょっと楽しいまである。しかし、非常事態に変わりはないので、鏡の前でポーズを決める終夜に緋翼は容赦しない。


「うんうん。終夜はあたしの前だからカッコつけたんだもんね」

「ちょ、恥ずいんでそういうこと言わないでもらえます?」

「あらあら〜」


そしてここには終夜と緋翼の二人以外にも、強力な助っ人である月と花織がいた。なんでも【花鳥風月】のメンバーで文化祭に来ていたところ、巻き込まれてしまったらしい。さっきたまたま合流したのだが幸運だった。


「あんまり楽観してる場合じゃないですよ。本当にこれが魔術師の襲撃で、実害も出てるなら早く対策を練らないと」

「焦っちゃダメよ緋翼ちゃん。終夜、何か知ってるんでしょ? 早く教えて」

「何でバレてるんですか。……これは昨日、三浦から聞いた話なんですが──」


焦る緋翼とは対称的に、月は落ち着いていた。緋翼が横槍を入れなければ、さっきの時点で終夜は何か重要なことを言うことがわかっていたからだ。

終夜は昨日晴登から聞いた話をそのまま三人にも伝達する。


「スサノオ!? もっと大変じゃない!」

「緋翼ちゃんステイステイ。かく言うあたしも思ったより話が大きくてびっくりしてる」

「その話が本当なら、私たちだけで解決するのは難しいんじゃないの〜? 通信が遮断されてるから、魔術連盟に連絡はできないけど〜」

「いつの間に試してたんですか。相変わらずちゃっかりしてますね、櫻井先輩は」


終夜から話を聞いた三人は、思い思いの反応を見せる。そして花織の機転のおかげで、事態がより悪い方向に進んでいることが明らかになった。


「つまり、まんまと先手を取られたってことですね」

「こうしている間にもドンドン行方不明者が増えてるはずだ。櫻井先輩、どう見ます?」

「ちょっと終夜、何であたしには訊かないのよ」

「星野先輩の案って大体力技じゃないですか。それでさっきダメだったんですから諦めてくださいよ」

「うえ〜ん花織〜! 終夜がいじめてくる〜!」


事実を述べると、月は花織に泣きつく。普段は凛々しい女性なだけに、その様子を見ると残念でならない。


「はいはい、怖かったね〜。でも終夜君の言う通り、急いだ方が良いかも〜。犯人の目星だけでも付けないと〜」

「三浦の話だと、この学校にスパイがいるかもしれないってことだったんで、たぶん生徒や先生の誰か……」

「候補が多すぎるわよ!」

「じゃあ手分けして怪しい奴とっ捕まえるって感じでいい?」


原因が何かわからない以上、下手な真似はできない。しかし、それはあくまで時間に余裕がある場合のセオリー。これ以上の被害を望まないなら、速戦即決でカタをつけた方がいい。


「……そっすね。相手の実力も人数も不明ですけど、その案が一番手っ取り早いです。戦闘(バトル)になったら、他の生徒の安全を最優先に。勝てそうになければ、大人しく引いて作戦を立てましょう」

「おぉ、なんか頼もしくなったね、終夜」

「一応部長やらせてもらってたんでね。それじゃ、行きますよ」

「おー!」
「は〜い」
「オッケー」


このまま四人で行動しても良いが、戦力を最低限に絞るため二手に分かれることにした。



そして終夜と緋翼が、月と花織と別れたその瞬間だった。


「何だ!?」


景色の変化がわかりにくいが、背後が新たな鏡の壁に阻まれた。


「分断された……!」

「黒木! 来るよ!」


正面、鏡が地面から隆起し、氷筍ならぬ鏡筍による攻撃。
それを左右に躱してからその方を見ると、いつの間にか黒いフードを被った人物が立っていた。


「まさかそっちから来てくれるとはな……」

「あのフード……スサノオ? でも雨男ではなさそうね」


雨男と同じ風貌の人物。もはやスサノオのトレードマークと勝手に想定しているそのフードを見て、終夜達は気を引き締める。


「分かれた直後に分断たぁ、お前狙ってたな? どこから見てやがったストーカー」


挑発しながら終夜は黒雷を纏わせ、緋翼は刀を握る。


「黒木、魔術は──」

「わぁってるよ。"反射"がある以上、俺はほとんど役に立てねぇ。辻、任せたぞ」

「随分素直に任せてくれるのね。ま、悪い気はしないけど!」


鏡が魔術を反射することは既に知っている。ゆえに、魔術主体の終夜よりも剣術主体の緋翼の方が相性が良いだろう。このチーム分けにした時点で、この状況は想定済みだ。
戦闘(バトル)は緋翼に任せる。その代わり、終夜は敵の分析に努めるのだ。


「……っ!」

「当たらないわよ!」


連続で放たれる鏡筍を躱し、敵の目の前まで接近した緋翼は刀を振り上げる。
どんな魔術師かと警戒していたが、戦闘(バトル)の心得がなっていない。大技に隙が生まれやすいのは、基本中の基本である。


「取った!」


峰打ちだが、容赦なく振り下ろす。気絶させれば校舎にかかった魔術も解けるだろう。

しかし、鏡男の首元に刀が直撃した瞬間、まるで鉄でも叩いたかのような甲高い音が響き、刀が弾かれてしまった。


「嘘……がっ!?」


攻撃が弾かれて仰け反った緋翼に、鏡男は壁から鏡の柱を突出させて反撃する。緋翼はすぐさま受身を取り、一旦距離を取った。


「鏡斬った時と同じ感じ……たぶん鏡の鎧でも纏ってるわ」

「みたいだな。おまけに、自在に鏡を捻出できるときた。ここは完全に奴の"領土(テリトリー)"だな」


魔術師が魔術によって自分のために創り出した環境、それが"領土(テリトリー)"。そこでは領主は多大な恩恵を受けることができるが、そもそもの構築には膨大な魔力を必要とする。
よって、領土(テリトリー)を使用する魔術師はごく少数に限られるのだが──


「こりゃ本気で行かねぇとヤバいかもな」

「でもどうすんの? さすがに斬るのは嫌なんだけど……」

「そんなこと言われても、俺の電撃は反射されるぜ? せめて櫻井先輩がいれば拘束はできたかもしれないけど」

「でも分断されちゃったじゃない! どうやってあいつ止めんのよ!」


一応やろうと思えば緋翼の刀で鏡を斬ることはできる。しかし、壁ならまだしも人に向けて刀を振るのは、魔導祭の腕輪がない限り勘弁して欲しい。


「まぁ焦んなって。倒せないのは俺達だけじゃない」

「どういうこと……あっ、いなくなってる!?」

「俺は見てたぜ。鏡に入ってくところをな!」


終夜は叫びながら、背後を振り返る。するとそれは、鏡男が鏡から飛び出さんとする瞬間だった。


「当然、鏡の能力(アビリティ)持ちなら鏡を移動するのは警戒してたぜ。にしても、愚直に背後に現れてくれるなんて、やっぱりお前──『浅い』な」


読みが当たり、得意げに解説しながら鏡男に掌を向ける終夜。鏡から出た瞬間を狙われるなんて予想もしていなかったであろう鏡男は慌てて鏡の中に引っ込もうとする。しかし、


「逃がさねぇぞ!」

「待って黒木、雷は──!」

「あ、やべ」


緋翼の制止も空しく、終夜の手から黒雷が放たれる。それは鏡男にヒットするも、当然鏡の鎧よって反射され、辺り一面に閃光が迸った。


「あっぶな! 馬鹿なの!? さっきまで自分で言ってたのに!」

「しょうがないだろ! 咄嗟に出るのが魔術なんだから!」


黒雷の次は、緋翼の叱責が飛ぶ。至近距離だったのだからそのまま掴んで引っ張り出してしまえば良かったのに、悲しいかな、終夜は生粋の魔術師であった。


「ま、お前の攻撃が見切れることに変わりはねぇけどな。どうやって俺達を倒すんだ?」


再び二人の正面に戻った鏡男に、終夜が問いかける。
分析に徹していた甲斐もあり、初見の攻撃すら見切ってしまった終夜。その事実に、鏡男は初めて焦ったような様子を見せた。

しかしすぐさま取り繕い、次なる攻撃を仕掛ける。


「何だ!?」
「きゃっ!?」


突如、二人の目の前の地面から、何かが生えてくるように形成される。それは徐々に人の形をなし、最終的に二人の人物が生成された。
一方は黒雷を手に纏い、もう一方は燃える刀を構えている。


「これは……俺と辻か? なるほど、鏡でコピーって訳か」

「見た目だけじゃなくて、魔術もコピーするなんて……そんな能力(アビリティ)あり?」

「レベルで言えば5は確定だな。けど、これじゃ俺達は止められないぜ! 辻!」

「はいはい!」


合図をするまでもなく、二人は即座に入れ替わる。そしてお互いの複製体と対峙すると、


「"冥雷砲"!」
「"紅蓮斬"!」


なんと一息に倒し切った。


「なっ……!?」

「焦ってんねぇ。俺達を敵に回したこと、後悔させてやるよ」


寡黙を貫いていた鏡男も、これにはさすがに声を漏らした。その隙を逃さず、二人は一気に距離を詰める。

しかし、自分の劣勢を察した鏡男はすぐさま地面に潜って撤退してしまった。


「ちっ、逃げられた」

「向こうから仕掛けてきといて逃げるなんて、何がしたかったのかしら?」

「さぁな。でも変な奴だ。魔術の規模も精度も凄ぇのに、肝心の戦闘(バトル)ではそれを活かしきれていない。戦い方がまるで魔術を覚えたての素人だ」

「矛盾、しているわね」


魔術の成長には戦闘(バトル)が最も効率的であり、基本的に魔術師の能力(アビリティ)の練度は戦闘(バトル)の経験に比例する。
しかし、鏡男に関しては全くの例外だ。動きが素人なのに、能力(アビリティ)の練度だけが異常に卓越している。晴登も成長が早い部類だったが、それすら比較にならないレベルだ。


「何か裏があるな。とにかく追いかけるぞ。あれなら俺達だけでも制圧できる」

「そうね。でもどこに逃げたかわかるの?」

「全くわからん」

「締まらないわね……」


肩透かしを喰らいながら、二人は鏡男を追跡するのだった。







「どうしよう……」


目が覚めると、私は知らない場所にいた。
いや、正確には『知っているかもしれないが、知らない風に見えてしまっている』のだろう。

天井も床も壁も全面が鏡張りの四角い部屋。普通の教室にしては面積が広い気がする。たぶん、特別教室のどこか。

目を覚ましたとはいっても寝転がっていた訳ではなく、今は私と同じ姿をした人(ドッペルゲンガー?)に後ろ手を縛られ、跪かされていた。
そして、私と同じような状況の人達が約五十人はこの部屋にいた。日城中の生徒だけでなく、文化祭に来ていた人達も見境なく捕まっているらしい。


「怖いよ、お母さん……」


そう恐怖で声を震わせているのは、私の隣で拘束されている少女。たぶん小学生で、お母さんと一緒に文化祭に遊びに来ていたのだろう。
しかし、彼女が助けを求める母親は近くにいないようで、もしかしたらこの部屋にすらいないのかもしれない。せめて一緒の部屋にしてあげたらいいのにと、この事態を引き起こした犯人と思われる人物を睨みつける。


「……次」


その犯人は黒いフードで顔と姿を隠しながら私達の正面に立ち、フードの奥から視線を私達に向けている。
いかにも謎だらけなその風体。声を発するタイミングは、私達の中から誰か一人を部屋の外に連れ出す時のこの一言だけ。目覚めてからかれこれ三十分は経っているが、犯人の性別が男ということ以外は情報が全く掴めない。

……いや、強いて言えば、きっと彼は魔術師なんだと思う。視界に映る全てが鏡張りだなんて、魔術の仕業でないと説明がつかない。そういった不思議な力が存在していることは既に知っている。

──だから、無関係な人を巻き込むべきじゃないと思った。


『優菜ちゃん!』


あの時、鏡に引きずり込まれる私に手を伸ばした彼の悲痛な声と険しい表情を思い出す。自分を守ることに必死だったはずなのに、彼は私を真っ先に助けようとした。


──だから拒んだ。


今まで散々彼に迷惑をかけてきた。今日一緒にいたのもその贖罪のつもりだった。

だからこれ以上、彼を危険な目に遭わせたくなかった。

みんなが私を許しても、私だけは私を許さない。


「……次」


黒フードの男が指示を出すと、後ろの私が立ち上がり、そのまま私自身も立たされる。次は私の番らしい。

教室ということがわかっても、どこの教室なのか全くわからない。これではさすがのヒーローもすぐには助けに来れないだろう。もしかすると、私が捕まったことさえ知らないかもしれない。でも、誰も悪くない。悪いのは私。

自業自得なのだ。ズルをした子には罰が下る。

一歩ずつ歩かされ、徐々に教室の出口へと近づいていく。出口といっても扉があるのではなく、そこにあるのは周りよりも輪郭が歪んだ鏡。この教室を出て行った人達はみんなここを通って行った。
その鏡に近づく度に、私の姿が大きく映る。絶望に打ちひしがれているような酷い顔だ。何で被害者面してるんだと、嘲笑してみる。鏡の向こうの私も同じ顔をした。

黒フードの男の手が肩に添えられる。すると、目の前の鏡が光り始めた。この状態で鏡に触れると、鏡の中に吸い込まれてしまう。そんな光景を何度も見た。

扉のようなその鏡の向こうはどこにつながっているのか。もしかしたら、このまま帰ってこれないかもしれない。そう思うと、目尻に涙が浮かぶ。

まだ、思い残すことがたくさんあった。もっと友達を作りたかったし、もっとみんなと遊びたかった。私を救ってくれたヒーローに、私の一番の親友に、私を許してくれた優しいヒロインに、そして私を好きでいてくれた男の子に、もう一度会いたかった。迷惑かもしれないけど、最後にお別れだけでも伝えたかった。


「……」


歩みを止めた私を急かすように、男が肩を押す。その時だった。



「──その子に、触るんじゃねぇ!!」



その声は正面から。私が入るはずだった鏡の中から、突如として男子が現れる。彼は私の肩を掴んでいた黒フードの男の顔面を蹴り飛ばし、私を拘束していた私もすぐに引き剥がした。


「なん、で……」


恐怖で堰き止めていた涙が、安心と共に溢れ出す。同時に、口からもか細く言葉が零れた。

ここにいるはずのない彼が、拒んだはずの彼が、もう会えないと思っていた彼が、助けてくれた。

私が小さく漏らした言葉を聞き逃すことなく、彼は──大地君は答えてくれる。


「なんでって、知ってるでしょ? 俺が優菜ちゃんのこと好きだからだよ」


そう言ってニカッと笑う彼に、私はたまらなく惹かれていた。 
 

 
後書き
ハッピーハロウィン! トリックオアトリート! 何とか10月中に更新が間に合って……あれ、0時過ぎてね? どうやらちょっと間に合わなかったらしいです。無念。どうも波羅月です。
本当はハロウィン回とかやりたかったんですけどね。あ、でも物語の中ではまだ10月なんで、そのうちできるな。乞うご期待。

ということで、今回は前回とは打って変わって違うサイドを二つお届けします。そのせいで時間軸がめちゃくちゃかもしれませんが、次回以降で何とかするんで今回は目を瞑って下さい! ね!

それにしても、一人称視点なんて久々に書きました。たぶん1章以来になるんですかね? いや何年前だよ。
じゃあ何で急に一人称視点なんてやったんだよって話ですけど、理由は読めばわかりますよね! ね!(圧)
涙がよく似合う女、戸部優菜。自分は結構好きです。

さて、自分語りは程々に。訳わからん状況で大変なことになってはいますが、意外と光明があるのかな?
ということで、今回も読んで頂きありがとうございました! 次回もお楽しみに! では! 
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