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金木犀の許嫁

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第三十九話 めでたい幽霊がその十

「そうした暮らしやったからな」
「織田さんとは違いますね」
「私は大阪の仕立て屋の息子や」
 そうだったというのだ。
「ほんま何もかもがちゃうわ」
「志賀さんとは」
「そやからな」
「既存の作家さん達にですね」
「喧嘩売った、威勢もあったしな」
「お若くて」
「ああ、安吾はもう手当たり次第やったな」
 彼はというのだ。
「喧嘩売ってたわ」
「そうだったんですね」
「太宰は芥川さんはずっと尊敬してて」 
 このことは学生時代からだった。
「私が東京で会って話した時もな」
「同じでしたか」
「太宰も志賀さん批判したが」
 如是我聞でそれが出ている、同時に川端康成も多少攻撃している。
「そやけどな」
「芥川龍之介はですか」
「何があってもな」
「尊敬していたんですね」
「それがわかったわ」
 会って話をしてというのだ。
「太宰は一途やさかいな」
「ずっと芥川を尊敬していたんですね」
「幽霊になってからも見てたが」
 太宰をというのだ。
「ほんまずっとあの人を尊敬して敬愛してた」
「そうでしたか」
「しかし私はな」 
 織田自身はというと。
「井原西鶴さんに近いと思ってても芥川さんはな」
「太宰さんみたいにですか」
「尊敬してなかったわ」
「あそこまで強くは」
「他の人やった、スタンダールとか読んでな」
 そうしてというのだ。
「作家になったけどな」
「芥川さんはですか」
「太宰程はな」
「強く尊敬してなかったですか」
「ほんま太宰は一途で」
 そうした性格でというのだ。
「芥川さんを何処までも敬愛してたわ」
「無頼でもですね」
 夜空は言った。
「太宰さんは芥川さんをずっとですね」
「敬愛していて悪いことはや」
「言わなかったんですね」
「あの人のことについてだけはな」
「そうだったんですね」
「何か女の人みたいにな」
 織田はまた笑って話した。
「一途にな」
「太宰さんを敬愛して慕ってたんですね」
「そやったんや」
「そういえば」
 ここで夜空はふと思い出した様な顔になった、そうしてそのうえで織田に対してこんなことを言った。
「友達から聞いたんですが」
「太宰に詳しい人からか」
「はい、あの人女性の告白文体得意でしたね」
「そや、それがやな」
「太宰さんが女性的な要素が大きかったって」
「そや、もててたしな」
 女性からというのだ。 
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