ポケットモンスター対RPG
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第25話:もう1つの真実
カプ・レヒレが語った星空の勇者に関する真実に激怒してグートミューティヒと喧嘩別れしてしまったアムだったが、白魔界から出た頃には騙されたと言う勘違いは完全に醒めてしまい、今は……
「……どうしよう……行く当てが無い……」
アムはグートミューティヒと壮絶な喧嘩別れをした事を後悔した。が、あれだけボロクソに言ってしまった事もあってかグートミューティヒの許に帰れる気がしなかった。
かと言って、マドノの経験値稼ぎを目的とした大量虐殺をその目で見てしまったせいで、魔王の主義主張を信用する気にもなれず……
結果、アムは人にもモンスターにも熟れない中途半端な存在に成り下がってしまった。
「あーーーーー!基はと言えば、選民詐欺を繰り返す魔王の非現実思考と偽勇者マドノの紛らわしい嘘のせいよぉーーーーー!」
その直後、アムの叫びに反応した男性がアムの両肩を掴んだ。
「それは本当か!?」
一方のアムは、突然の事だったので対応が遅れた。
「え?何が?」
だが、何か必死な男性はアムの両肩を何度も揺らしながらアムに問うた。
「マドノは本当に偽勇者なんだな!?」
「それは!」
と言いかけたアムは、牛乗りオーガとその部下が根城にしていた洞窟の惨劇を思い出してしまい、返答に困った。
(ここで本当の事を言ってどうする?あの妙な殻女の言い分が真実だとマドノは星空の勇者の影武者となるが、でも、未だに経験値稼ぎを目的とした大量虐殺を続けられると言う事は、マドノの実力は本物。それに、基はと言えば選民詐欺を繰り返す魔王の非現実思考が生んだ無謀な侵略が発端。そんな平穏無き血生臭い侵略から遠ざけてくれるなら、人間共は誰でも良い筈?)
で、アムが行った返答は、
「いえ、マドノ御一行様がなかなか私が暮らす町に来ないからイライラしていただけです」
そんな当たり障りが無い返答に止まってしまったアムだったが、アムの予想に反して、男性は蒼褪めながら愕然とし、力無く歩き始めた。
「そう……ですか……」
「え?」
アムは、何で自分が期待外れな回答をした空気になっているのかが解らず困惑した。
「え?あの……」
そして、アムはダメもとで男性に質問した。
「もし、私がマドノを偽勇者だと答えたら、貴方はどうしていたんですか?」
男性が振り返るが、その顔は……期待外れを見下すかの様な形容し難い表情だった。
(何でそんな寂しい顔をするんだ?私がマドノが星空の勇者の影武者である事を隠した事が……)
でも、やはり牛乗りオーガが占拠していた洞窟の惨劇が頭をよぎってしまい、マドノに関する真実を白状する気になれないアム。
(駄目だ!あの惨劇が私のネタバラシの邪魔をする!)
で……アムはまた当たり障りのない事を言ってしまう。
「あのぉー、せめてお話しだけでもぉー……」
取り敢えず、男性の家に上がり込んだアム。
どうやら、彼は学者らしく無数の本が収まった本棚が沢山有った。
「うわぁ……かなり難しそうな本がずらっと……」
この本棚を観ただけで眠くなりそうなアムだったが、今はそれどころではない。
何故あの男性はアムの『偽勇者』にそこまで過敏に反応したのか?そして、マドノが星空の勇者の影武者である事実を否定した途端に見せた、あの期待外れの様な悲しげな顔は何だったのか?
アムはそれを知りたかった。
(でも……その前に!)
「失礼ですが、こちらの本を読んでみてもよろしいですか?」
「……どうぞ」
容赦無く襲い掛かる睡魔を我慢しながら書物の内容を視た結果、アムはこの男が魔王軍の味方ではないと確信した。
「で、この私に訊きたい事とは?」
向こうから勝手に本題に入ってくれた事を感謝しつつ、アムは単刀直入に言った。
「私がマドノを『偽勇者』と呼んでしまった事を必死に否定した時、貴方は何故、そんな悲しげな顔をしながら期待外れを見下すかの様な顔をしたのです?」
男性は答えない。
だが、アムはどうしてもあの表情の正体を知りたいが故に質問を続けてしまう。
「私には、まるで『マドノが星空の勇者の影武者だったら良かったのに』と言ってる様にしか視えませんでした」
男性はピクッと反応したが、それでも答えない。
「何故です!何故貴方は、マドノが星空の勇者である事を否定したがる!?マドノが既に無数のモンスターを次々と殺していると言うのに!」
その途端、男性は再びアムの両肩を揺すった。
「マドノが無数のモンスターを殺しただと!?モンスターは戦ったのか!?マドノを!」
男性の鬼気迫る表情に臆しながらも、アムはマドノに関する事実を口にする。
「経験値を稼いでレベルを最大にまで上げるべく、数多くのモンスターを次々と殺してますよ!」
その途端、男性は愕然として座り込んでしまった。
「マドノが……モンスターと戦わされている……そんな……」
状況が全く理解出来ないアムが慌てる中、男性の妻と思われる人物がアムに話しかけた。
「私がお話しします」
「貴女は?」
「マドノの母です」
想定外の人物の登場に理解が追い付かないアム。
「は!?母お……え!?……」
取り敢えずマドノの母親を名乗る女性に紅茶を御馳走して貰ったアムは、改めてマドノと彼らとの関係を尋ねた。
「えー……と……そちらがマドノの父親で、そちらがマドノの母親……で、よろしいですね?」
「はい」
そのやり取りに対し、アムはどうしても首を傾げてしまう。
自身が知っているマドノとはまるで似ていないからだ。
確かに、言われて視れば外見はマドノにそっくりだが、内面があまりにも違い過ぎるのだ。
寧ろ、もっと傲慢になって星空の勇者となった息子を過剰に自慢しても良いと思えたが、アムが視る限りではその逆を行っている様に視えた。
『これがマドノ達の現実だよ。出遭ったモンスター全てを敵とみなし、問答無用で攻撃し、自分の経験値に変える。モンスターには逃げる事すら許されない』
『なに寝惚けた事を言ってんだ?こいつらを皆殺しにして良いに決まってるだろ』
『そこの女装偽乳糞男、今日はこのくらいにしてやるが、次こそは死をもってあの時の罪を償う準備を整えておけ』
『これで人間よりモンスターの方が優れているって言えるのかよ!?』
牛乗りオーガの根城で起こった惨劇と、それに伴うマドノ達との戦いを思い出し、改めてこの2人がマドノとは似ていないと思えた。
(こいつら、自分で言ってる程傲慢には見えない。寧ろ妙な礼儀正しささえ感じる。これで本当にあのマドノの両親と言えるのか?)
「で、貴女が私達の息子の事を『偽勇者』と呼んでしまった事に、夫が過剰に反応してしまった事がどうしても気になると?」
突然話しかけられて少しビクッとするアム。
「え!?……えぇ」
だからなのか、率直な疑問を口にしてしまう。
「ただ……何と言うか……全然似てないなと、思いまして」
「似ていない?それは?」
「何と言いましょうか……私が思うに、息子さんが星空の勇者になれる程ご立派になったのであれば、もっと周囲に自慢しても―――」
その途端、マドノの父親は激怒した。
「自分の息子が何時モンスターに殺されるか解らない場所に放り込まれていると言うのに、暢気に自慢話をしろだと?ふざけるのも大概にしろ!」
「やめてアナタ!この方は私達の事を何も知らないのです!」
一方アムは、マドノの父親の剣幕の影響で牛乗りオーガの根城の中でマドノ達に殺されたオーガの子供を思い出した。
「いえ。私も息子を思う親の気持ちを考えずに軽口を言ってしまった事、深く反省しております」
そして、マドノの母親の話を聴く内、マドノの父親が代々天才学者を次々と輩出する名家の出である事が解った。
だが、マドノはその事を快く思っていなかった。
マドノは、他の兄妹とは違って勉学が大嫌いで、座学が大の大苦手だったのだろうと容易に想像できた。
そんなマドノが『星空の勇者の影武者』に任命されたら、喜んで了承するだろうと言う事も。
だがそんなマドノの心中に反し、マドノの両親の話はこの言葉で締めくくった。
「望むなら、何時殺される解らない危険極まりない戦場とは程遠い安全地帯で、思う存分平和に勉強三昧な日々を送って欲しかった。故に、私は我が息子マドノを星空の勇者に変えた星空を……永遠に憎む!」
マドノの父親のこの言葉は、正に息子の平穏と安寧を願う親心そのものだった。
故にアムは思った。
彼らになら、カプ・レヒレが語った星空の勇者に関する真実とその事で懐いてしまったグートミューティヒへの猜疑心を語っても良いのではないかと。
だが、その前にもう1つだけ訊きたい事が有った。
「で、その息子さんが魔王軍と戦う事を余儀なくされた切っ掛けである星空の勇者襲名は、一体何時頃の事です?」
それに対し、マドノの母親の答えはアムの予想に反するモノであった。
「10年近く前です」
「10年!?」
グートミューティヒはまだ10歳の筈。
にも拘らず、マドノは10年前にグートミューティヒに星空の勇者の影武者に任命された……
これでは、どうも辻褄が合わない。
(だとすると……アイツがマドノを偽者に仕立て上げたのではなく……って事になるわね?で、その理由は……)
アムは、マドノの両親の話を思い出し、1つの結論に至った。
(もし、勉強と学問が嫌いなマドノが、目の前に転がっている学問以外の事に没頭出来るチャンスを発見したら……と言う事は!)
「どうやら私、グートミューティヒの奴に謝罪に往かなきゃ行けなくなったわね」
「は?」
アムに最早迷いは無かった。
「実は私、本物の星空の勇者が何者かを知っています!」
その途端、マドノの父親がまたアムの両肩を掴んだ。
「本物の星空の勇者だと!?それは、本当か!?」
「アナタ!落ち着いて!」
ここでアムはやっと、あの時マドノの父親が何を期待していたのかが解った。
(なるほどね。あの時、こいつは私がマドノの事を『偽勇者』と呼んだ事を大いに喜んでいたのね?)
改めて迷いが無くなったアムは、自分が何故グートミューティヒと喧嘩別れしてしまったかを素直に話した。マドノに対するある疑念を含めて。
「本物の星空の勇者の名は『グートミューティヒ』。その事実を初めて知った時、私はグートミューティヒがマドノを星空の勇者の影武者に仕立て上げたと勘違いしてしまい、裏切られたと思い込んでグートミューティヒと喧嘩別れしてしまいました。でも、貴方方の証言によってそれは違うと確信しました」
「では何故、我が息子マドノは……そのグートミューティヒを差し置いて星空の勇者を名乗ったのです?」
「それについては申し上げにくいのですが……グートミューティヒの馬鹿がマドノに星空の勇者の座を奪われたのではないかと」
「奪った……だと?何でマドノがそんな危ない物を奪おうとするのだ!?」
アムは、それについての疑問も、マドノの両親の話で大体推測出来ていた。
「貴方方に強要された勉強から逃れ、学問とは程遠い戦闘に没頭する為です」
一方、マドノの父親はアムの推理が全く信じられなかった。
「そんな馬鹿な……何でそんな何時殺されるか解らん場所に……」
それを聞いたアムはボソッとこう言った。
「親の心、子知らず……よ」
マドノの両親との出会いによってマドノの正体を知ったアムは、改めてマドノと戦う理由を見出した。
「先ずはあの女装糞男と合流しないとね。アイツが私のあの言葉を許していたらの話だけど」
だが、そんなアムの前にヘルハウンドの群れがやって来てしまった。
「よお裏切り者」
「裏切り者?」
このやり取りでアムは察した。
(こいつら……私と違ってまだ魔王の選民詐欺に騙されてるんだ……可哀想に……)
「つまり、私はもう魔王軍に居場所は無いって訳ね?」
それに対し、ヘルハウンドは冷徹に答えた。
「この世界の居場所すらな。何せ、魔王様から人間との共存を望むモンスター擬きを一掃し、モンスターに関する謂れなき悪評を覆せと命じられたからな」
それを聞いたアムは、改めてグートミューティヒと喧嘩別れした事を後悔した。
今、この世界は共存反対と言う名の自滅へと突き進んでいるからだ。
(これではっきりしたわ。あの女装糞男が星空の勇者に選ばれたのかを。あの選民詐欺野郎が作ろうとしている共生が禁じられた世界を止める為に。それをマドノの奴は自分勝手な理由で邪魔をしようとしている。これは確かに経験値稼ぎを目的とした大量虐殺に没頭している暇は無いわ!)
「それってつまり、人間共にとって私達モンスターは悪役って事よね?」
だが、魔王に言われるまま人間を見下し続けるヘルハウンドは、モンスターを悪者扱いするアムの言い分を嘲笑った。
「はははははは!何を言っている?この世は常に勝った方が正義。敗者はただ蹂躙されるのみよ」
ヘルハウンドのこの慈悲が無い言葉によって、アムは魔王とマドノの差がますます解らなくなった。
「と言うか、ほとんど一緒ね。あんた達とマドノ達の行動が」
その途端、ヘルハウンド達は不機嫌になった。
「何を言っている?我々が『人間に味方する星空の勇者』と同じだと?我々を嘗めて―――」
「ぶっ!ぶっくく!」
「貴様!何が可笑しい!?」
ヘルハウンドの言う『人間の味方をする星空の勇者』の部分で笑死しかけたアムだったが、直ぐに真顔に戻って自分の主張を口にした。
「そう言うあんた達こそ、弱肉強食の意味を全く理解していないわね?通りで魔王とか言う糞嘘吐きの選民詐欺に騙される筈だわ」
「裏切り者が!口を慎めよ裏切り者」
「いいえ。ハッキリ言わせて貰うわ。本来の弱肉強食と言うのはね、草、草食、そして肉食、それらがどの様な関係を築いているのかを表した言葉よ。つまり、強者が弱者を蹂躙して良いとは誰も言っていないわ。何故なら、弱者がいないと強者が餓死してしまうからよ」
「アホは貴様だ!強者が弱者の力を借りねば死んでしまうなど、在り得ぬ話だ!」
「いいえ!有るわ!だって、肉食動物は肉を食べないといずれは死んでしまうわ。だから、肉食動物は草食動物を殺す事はあっても、肉食動物が草食動物を根絶やしにする事は絶対にしない。草食動物が絶滅して困るのは肉食動物の方だからよ!」
「黙れ裏切り者!最早貴様はモンスターではない。我々モンスターに悪評をもたらす『失敗作』よ」
最早口論を続ける意味を見出せなくなったアムは、呆れる様に首を横に振った。
「どうやら、魔王軍は超えてはいけない一線を既に超えていた様ね?……哀れだわ!」
そして、アムはヘルハウンドの群れに向かって重力攻撃と電撃を浴びせた。
「退け!弱肉強食の本来の意味を汚す乱暴者よ!私は、あの女装糞男と一緒に選民詐欺を繰り返す糞屑野郎を止める!誰にも共存の邪魔はさせない!」
一方のヘルハウンドの群れもまた、アムに襲い掛かった。
「我々モンスターが本来得るべき評価を汚して逃げた裏切り者が正論を騙るな!」
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