金木犀の許嫁
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第三十九話 めでたい幽霊がその五
「会ったからには何かとお話しよか」
「はい、それでは」
「お願いします」
「ほなな」
二人に応えてだった。
織田は自分が注文したコーヒーが来て一口飲んでからだ、こう言った。
「私は死んでな」
「こうしてですね」
「幽霊になってですね」
「今もな」
「大阪を巡っておられますか」
「そうですか」
「そや」
まさにというのだ。
「大阪市のあちこちをな」
「そうなんですね」
「今は平野の方にも行くで」
夜空に話した。
「あっちにもな」
「昔は平野は大阪市じゃなかったですね」
「ああ、それでもな」
今はというのだ。
「大阪市になったさかいな」
「あちらにもですね」
「行ってな」
そうしてというのだ。
「そのうえでな」
「楽しまれていますか」
「そうしてるわ。鶴見も住之江も行ってな」
そうしたところもというのだ。
「楽しんでるわ」
「今も大阪も」
「やっぱり大阪はええわ」
織田は心から言った。
「大阪市の外も行けるけどな」
「あまり行かれないですか」
「ああ、東大阪とか堺とか八尾にはな」
そうした場所にはというのだ。
「ほんまな」
「行かれないですか」
「そや」
実際にというのだ。
「そうしてるわ」
「そうですか」
「私は大阪市が一番や」
「この街がお好きなので」
「どう変わってもな」
それでもというのだ。
「どんな大阪でもな」
「お好きですか」
「何か観光客が増えて文句言うてる奴おるけどな」
このことについてば微妙な顔で話した。
「世界中から人が来てな」
「大阪を見てくれて」
佐京が応えた。
「楽しんでくれているので」
「それで大阪の良さをお国に伝えてくれる」
「そう考えるといいですね」
「大阪は元々どうしようもないモンも多かった」
コーヒーを飲みながら話した。
「私の作品でも書いてる、私自身は」
「織田作さんもですか」
「褒められた人間やないわ」
自分から笑って言うのだった。
「だらしなくていい加減な」
「そうしたですね」
「いい加減なモンでな」
そうだからだというのだ。
「全然や」
「褒められた人ではないですか」
「そやからな」
そうであるからだというのだ。
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