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バイオハザードなんてクソくらえ!【未完】

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第11話「お帰り、アリス」

 アリスはベッドの上で目を覚ます。こんなにぐっすりと眠ったのは、彼女にとっては随分と久しぶりなことだった。

 これだけは、サミュエル・ゼノビアに感謝する必要がありそうだ。

 目を覚ましたアリスであるが、少しぼんやりとしている。そんな中、ふと片方の手首に何かがあるのを彼女は感じた。

 拘束具の類では無いようだ。アリスは片方の手首にある何かをよく見てみると、それは電線で作ったブレスレットだった。

 アリスは周囲を見回した。彼女が居るのは荒れ果てたモーテルの内の一室のようだ。

 部屋にはアリス以外にもう1人が居た。10代後半に差し掛かるであろう少女が木の椅子に座り、ぼろぼろの雑誌を呼んでいた。

 少女もアリスと同様の電線のブレスレットを、手首に身に着けていた。ともすれば、このブレスレットは彼女が?

 気づけば眠気は完全に消え去り、気づけば少女はアリスを見つめていた。

 「よく眠れた?」

 アリスは声を掛けてくれた少女に、よく眠れたと頷きながら上体を起こした。上体を起こした後、少女と向き合った。

 「このブレスレットは、あなたの?」

 「えぇ、幸運のお守り代わり。それが必要みたいだったから」

 「ありがとう」

 少女は照れ、アリスは彼女へ微笑を送った。

 「よければ、あなたの名前を教えてくれないかしら? 私の名はアリスよ」

 「Kマート…私の名前はKマートだよ。クレア達に助けれられた」

 「本名は、あるんでしょう?」

 Kマートは苦笑いを浮かべつつ、肩をすくめた。

 「嫌いだったの。それに私が知っている人達はひとり残らず死んじゃったし、変えても良いかなって思って、今の名前にしたんだ」

 アリスから見てKマートは15歳以上には見えなかったが、その3倍も歳はあるような口ぶりと雰囲気だった。
 
 ふと、アリスはKマート以外の視線を感じ取り、その方向へ顔を向けた。

 数人の幼い子供達が窓の外から見ていたのだ。アリスが顔を向けたと同時に走り去った。幼い子供達の行動力は、まるで歴戦の猛者ともいえる程であった。

 アリスはクスクスと笑い、Kマートもつられて笑った。

 笑いを落ち着かせた2人であったがアリスはふと、自分が意識を失う前に見た知人で友人とも呼べる1人の男の顔を、脳裏に浮かんだ。カルロスだ。

 アリスはその事を話すとKマートはあぁ、と頷いた。

 「カルロスはあなたの事をよく話してたよ。ジルも」

 「ジルも此処に?」

 「いいえ、ジルはアトランタで一緒になっただけ。初めは一緒だったんだけど、彼女は残らなかった。”もうグループには加わりたくない”…だって」

 ジルらしい、とアリスは懐かしむ。

 もしもジルが自分と同じ道を歩んでいると聞いても、アリスは驚かないだろう。寧ろ、納得もあった。ジルはラクーンシティで仲間を裏切られた経験を持っている。
 
 カルロス、L・J、アンジーと一緒に行動を共にする時も、いつも疑り深かった。

 「あ!」

 アリスは懐かしむよう記憶の海へと浸っていたが、Kマートの大きな声を区切りに、それを止めた。

 「どうしたの?」

 「これから、オットー達の為の追悼式があるんだよ。場所は外で。よかったら一緒に追悼式に出席しない?」
 
 「…良いの?」

 Kマートは肩をすくめる。こういったジェスチャーは世界が変わった今でも変わらない。

 アリスはKマートに従い、部屋を後にし、モーテルから出るのであった。




 カラスの襲撃から生き残った生存者達は1つの場所に集まっていた。

 彼等は10本の木製の墓標の前に、横列となって並んで立っていた。その墓標の下に、カラスの襲撃によって亡くなった人達が眠っている…。

 中央には茶髪にも見えるブロンドの髪をする女性クレアが立っている。

 「誰か、弔いの言葉を掛けたい人は?」

 『・・・』
 
 誰も口を開こうとはしなかった。誰もが暗い表情をしている。

 当然だ。寝起きを共にし、苦楽を共に過ごした仲間が亡くなったのだ。亡くなった仲間を称え、追悼する気力すら涌かない程…今の彼等は、打ちのめされている。
 
 そんな中、1つの墓標へと歩み寄る人物がいた。黒人の男、L・Jだ。

 L・Jは、ペディ・グリアと書かれた墓標に歩み寄り、手で十字架を切った後にネックレスを丁寧に掛けた。ネックレスを掛け終えた直ぐのこと。L・Jの瞳から涙が出てきたのだ。それこそ、水溜りを作らんとする勢い…。

 その様子を後ろから見ていたアリスは驚いた。それもその筈、アリスはこれまでL・Jのことを、チンケな詐欺師としか思えない程の強い印象だったからだ。自分の母親すら鼠講で騙していたという話も聞いたことがあるくらいに。

 だが、今のL・Jは悲しみに打ちひしがれていた。

 アリスは知らないことだがL・Jとペディは恋人関係にあり、その信頼関係はとても強く、仲も良かった。…このようなバイオハザードが蔓延している世界でなければ、彼と彼女の運命はまた違うものになっていたのかもしれない。

 アリスは追悼式の様子を少し離れた場所から続けて見ていると、カルロスと中央に居たブロンド髪の女性が彼女に歩み寄ってきた。

 「アリス、此方はクレア・レッドフィールド。このコンボイを起ち上げた女性だ」

 カルロスはアリスへ紹介した。その際、アリスは驚いた表情をする。

 アリスはてっきり、カルロスがこの一行を率いていたものかと思っていたからだ。

 「助けてくれてありがとう」

 クレアから差し出された手は握手を求めていることに瞬時に理解し、アリスは握手を返した。

 「ごめんなさい。皆の面倒を見なきゃ。…失礼するわね」

 アリスはこの場から歩み去るクレアを見送った。

 「アリス、少し歩かないか?」

 カルロスから申し出を受けたアリスは、承諾した。

 他愛も無い事を軽くした後、カルロスは問うた。

 「…あの後、君に何が起きたんだ?」

 カルロスから放たれた質問の持つ重みに圧倒され、アリスは黙り込んだ。

 「デトロイトの後、何故戻って来なかった?」
 
 この質問にはアリスは答えられた。

 「そうするしか無かった。利用されていたから」

 「利用?」

 「アンブレラ社に監視されてたから。一緒に居る訳には、いかなかった。巻き添えにするだけだもの」

 「それで姿を消していたのか」

 「アンブレラの施設に潜り込んで、システムにハッキングしたの。そこから衛星の軌道をダウンロード。監視網を避けた」

 「世界が滅んでから、何故ひとりで居た?」

 アンジーの時のように操られて私が殺してしまうから、アリスはその言葉が口から出なかった。骨が喉に挟まっているように。

 言える筈が無いのだ。だからアリスはこの質問に「安全だから、人の傍に居ないほうが」と答えた。

 「じゃあ、何故戻った?」

 「なんとなく?」

 苦笑いをするアリス。

 カルロスとしてもアリスがアンブレラから逃げ、巻き込みたくない気持ちが前に前に出ていたのは分かっていた。

 「だったら、戻って来たのは間違いだったな」

 だけどそんなアリスを見たくない。そんな思いを抱きながらカルロスは彼女を励まそうと声を上げて笑った。

 カルロスが突然、笑ったのを見てアリスは目を点にするが、やがて彼女は吹き出した。2人は笑いあい、抱擁を交わす。

 その時、アリスの腕時計のアラームが鳴り響いた。

 「あ、そうだった…っ」

 アリスは抱擁を解いて青空を見やった後、腕時計に搭載されている機能で衛星の軌道位置を調べる。すると、間もなく北アメリカ大陸近くを通過することが分かった。
 
 「ど、どうした?」

 「今って何時かしら?」

 「あ、あぁ。悪いな。腕時計を付けていないんだ。だから…チェイス!」

 カルロスは時計を持っていない。その為、タンカーの上で座っているカウボーイハットを被った男チェイスに時間を尋ねた。ちなみに今アリスとカルロスはタンカーのすぐ近くに立っている。

 「チェイス、今何時だ?」

 「俺の時計だと12時14分。どっか行く用事でもあんの?」

 アリスは再度、空を見上げて、安堵の息を長く吐き出した。衛星がこの上に来るのには、まだ少し時間がある。

 アリスは左右に首を振りながらカルロスへと顔を戻した。彼は未だアリスへ笑みを向けていた。さながら慈愛のよう。

 「怯え過ぎかもしれないわね」

 アリスは笑う。被害妄想になりかけ過ぎたかも、と付け加えて。

 

 だが、考えは甘かった。アンブレラの衛星はアリスを撮っていたのだ。画質が荒くとも酷くても、顔認証くらいは容易に可能だ。ゼノビアは直ぐ様、以前撮ったアリスの顔と照合を開始する。

 照合が完了し、一致率が極めて高いことを示していた。

 「…お帰り、アリス」
 
 ゼノビアはニヤリと口角を上げて、画面に映るアリスへ静かに呟くのだった。 
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