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コントラクト・ガーディアン─Over the World─

作者:tea4
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第一部 皇都編
  第二十七章―双剣―#1


 目の前を、様々な大きさの剣、槍や斧───もしくは盾を携えたオークが、通り過ぎてゆく。

 腰や胸に巻かれた鞣革はくすんだ緑色で────おそらく、ゴブリンから剥ぎ取ったものだろう。

 ゴブリンは二足歩行の魔物としては最弱だけど、皮膚が頑丈なので、他の二足歩行の魔物のみならず、よく冒険者にも装備の素材として利用されている。

 ひしめくように歩くオークに混じって、コボルトの姿が垣間見える。オーガはいない。

「様子はどうだ?───リゼ」

 レド様に声をかけられ、私は【(シンクロナ)(イゼーション)】を解除した。そして、ネロを通して視たことをレド様に報告する。

「列の先頭が、奇襲予定地点に到達しました。意外と統率がとれていて移動速度が速いので、想定しているよりも中心部が予定地点に到達するのは早いかもしれません」

 理性のある魔獣が統べているとは言っても、大半は通常の魔物なので、そこまで統率をとることができるとは思っていなかった。

 理想としては夜が明けてから奇襲を開始したかったが、間に合わないかもしれない。

「【索敵】をしてみたところ、先頭はオーク、魔獣を挟んでオーガが続くようです。コボルトは、全体に満遍なく紛れている感じです。オーガは236頭に変異種が8頭、オークは352頭に変異種が5頭、コボルトが59頭────そして、魔獣1頭です」

 最後に集落の【立体図(ステレオグラム)】を更新したときと数に変動はないものの、集落を監視していた冒険者が計上した数字より、100頭近く上回っている。動き回るものを目視で数えるというのは、やはり難しい。

「解った。それでは────魔獣が視界に入ったら教えてくれ」
「はい、レド様」

 レド様は懐から魔道具を取り出して、イルノラド公爵とガレスさんへと信号を送ると────後方で待機している仲間たちへと振り向いた。

「聞いた通りだ。列の中央にいる魔獣が予定地点へと近づき次第、奇襲を決行する」

 仲間たちは表情を引き締め、一様に頷く。私はその様子を後目(しりめ)に───再びネロと視界を共有するために、【(シンクロナ)(イゼーション)】を発動させた。


※※※


 皇城側から平民街を抜けた先にある────皇都を囲う城壁に設けられた東門。

 今は固く閉ざされているその門前に、全身に鎧を纏った集団が整然と立ち並んでいた。

 よく見ると、鎧のデザインは、似ているようでいて───幾つかに分かれた集団ごとに違う。

 普段ならば、寝静まって深閑としているはずの時間帯だったが────その物々しい雰囲気が影響してか、街路に一般人は見当たらないものの、周囲に並ぶ民家からは明らかに注意深くこちらを窺っているような気配がしている。

「閣下───門外で待機する“デノンの騎士”以外の討伐参加者がすべて、ここに揃っております」
「そうか。ご苦労」

 ダズロ=アン・イルノラドは、そう報告を上げた壮年の騎士───アダン子爵に頷いた。

 アダン子爵は、ダズロが率いる虧月(きげつ)騎士団に所属する上級騎士だ。実力も忠誠心も申し分なく、ダズロも信頼を置いている。


 ダズロは、満月に近い二つの月と所々に設けられた松明に照らされた街路に整然と立ち並ぶ面々を、改めて見回す。

 今回、協力を申し出た貴族家は────反皇妃派筆頭の一つであるアルゲイド侯爵家、反皇妃派中堅であるバルデイン伯爵家とドレアド伯爵家、中立派であるゲルリオル伯爵家とグレミアム伯爵家の────計5家だ。

 それぞれ、私兵を20~50名ほど、引き連れている。

 アルゲイド侯爵家、ドレアド伯爵家は子息が、ゲルリオル伯爵家は当主の甥が、バルデイン伯爵家とグレミアム伯爵家は当主自らが率いる。

 ダズロも、自家の私兵32名と───アダン子爵含む配下の上級騎士5名、それから側近であるセロム=アン・ノラディスを連れての参戦だ。

 そして────偃月(えんげつ)騎士団団長ウォレム=アン・ガラマゼラ。彼も、私兵20名と配下の上級騎士2名を引き連れて参戦する。

 ダズロは、私情を押し殺して────ウォレムの剣士としての実力と騎士団長としての能力、配下の騎士の実力だけを認識するよう心掛ける。

 ダズロは、ルガレドによって、“デノンの騎士”と貴族家の私兵からなる連合軍の指揮を任されているのだ。

 今は────怒りや憎しみといった感情のまま行動するわけにはいかない。


(それにしても────ルガレド殿下は、よく俺に指揮を任せてくれたものだ)

 ファルロの言っていた通り───皇宮で行われた緊急会議で見せたあの怒りの深さからも、ルガレドがリゼラを本当に大事にしてくれているのは確かだ。

 騎士団の状況に関する問答では平静を装っていたが、会議が始まる前、リゼラの様子を窺っていたダズロを見るルガレドの眼差しは冷ややかで厳しいものだった。

 ルガレドがリゼラを虐げたダズロを良く思っていないのは明白で────それは自業自得で当然のことだとダズロは受け止めていた。

 だからこそ────まさか、指揮を任されるとは思っていなかった。

 感情に流されることなく、冷静に物事を推し進める────それは、簡単なようでいて難しい。今まさに自分がその状況に───感情を抑えて行動しなければならない状況にいるからこそ、余計にそう思う。

 ましてや、ルガレドはまだ若年で経験も浅い上、この規模の指揮を任されるのは初めてなのだ。

 二度の緊急会議での言動を見る限り、ルガレドには洞察力も考察力もある。皇子として───人の上に立つ者として、十分な資質を持っているのは明らかだ。

 ルガレドに皇子としての資質があることは、この事態にあって────いや、この国の現状において、ダズロには光明に思えた。

 リゼラの主として───伴侶としてもだ。

(おそらく────ルガレド殿下は…、これから表舞台に躍り出ることになる)

 ファルロと会談した時点では───ルガレドは、皇妃一派によって孤立した状態のまま、ひっそりと辺境へ追いやられるだけだと考えていた。

 だから、ルガレドに付き従うリゼラも───立身出世は望めなくても、苦労することになったとしても、余程のことがない限りは皇城にいるより安全だ、と。

(だが────この事態で、ルガレド殿下を取り巻く状況は変わる)

 この事態は、ルガレドだけではなく────きっと、この国の状況が変わる切っ掛けになる。それは勘でしかなかったが、外れることはないとダズロには確信があった。

 ルガレドが渦中に身を置くことになれば、必然的にリゼラも巻き込まれる。だけど─────

(大丈夫だろう────リゼラならば)

 契約の儀に始まって、新成人を祝う夜会───それに、今回の二度にわたる緊急会議。どの場においても、リゼラの振る舞いは───特に冒険者ギルドで行われた緊急会議での献言する様は、堂に()るものだった。

(俺は…、本当に馬鹿だった)

 妻や子供たちと、一度でもきちんと接していれば────改めて、そんな後悔が込み上げる。

 いや────リゼラに関しては、それ以前の問題だ。武の才能になど拘泥せず、あの子自身を見るべきだった。

 “神託”を受けたときには、リゼラが周囲を気遣える聡明な子であることは解っていたのだから─────


 ダズロは、胸に巣食う深い後悔に呑み込まれそうになるのを、何とか押し(とど)める。

 今は────この皇都を魔獣や魔物から護ることだけに集中しなければならない。

 この事態を切り抜けることが出来れば、皇都に滞在する皇王陛下や民を護るのみならず、平定を命じられたルガレドを───ひいてはリゼラを助けることにも繋がるはずだ。

 新たにそう決心して、目線を上げようとしたとき────ダズロは、ベルトに括り付けた小さなポーチの隙間から、赤い光が明滅していることに気づいた。

 ポーチから魔道具を取り出して、確かに点灯していることを確かめる。ダズロは顔を上げ、振り向いた。そして、緊張に静まる周囲に向かって、声を張り上げた。

「予定地点に、魔獣どもの先頭が到達したようだ。よって、これより皇都を出て───待機予定地点に移動する」

 立ち並ぶ面々の表情からは、緊張しつつも、はっきりと闘志が伺えた。

 成人したばかりのドレアド伯爵子息でさえ、初陣でありながら、怖気づいている様子はない。項で括った赤茶色の髪を靡かせ、その緑色の双眸でしっかりとダズロを見ている。

「開門せよ!」

 ダズロは再び身を翻し、側に控える兵士たちに命じた。

 彼らは、彎月(わんげつ)騎士団に所属する下級兵士で────討伐には参加せず、東門と北門の開閉と警戒を担う。

 はっ───と短く承諾の言葉を返して、兵士たちが門を開けるべく駆けていった。

 ダズロは、騎士としての使命とそれを成し遂げる決意を胸に、少しずつ開かれる門を見つめる。

 扉が開いていくと共に、緊張感も増していき────ダズロの意識は、これから始まる戦いのことで占められていく。

 門が完全に開いたとき、そこに佇んでいるのは、妻や娘たちのことで後悔に暮れる貴族家当主などではなく────その剣術の才覚から“剣聖”と名乗ることを許され、護国を司る騎士団の一つを任されるまでに至った騎士だった。


※※※


 待機場所で焚火に当たっていたガレスは、腰に提げた緩く閉じてあるポーチの隙間から、赤い光が漏れていることに気づき、明滅している魔道具を取り出した。

 これは────魔物の集団の先端が、ルガレドたちが潜伏している地点に到達した報せだ。

「ギルマス、もしかして報せが来たのか?」

 『黄金の鳥』のリーダーであるドギが、察したようで訊ねてくる。

 ガレスと共に、あるいは近くの焚火を囲っていた各パーティーやチームのリーダーたちも緊張した面持ちで、ガレスの返事に耳を傾ける。

「ああ。アレドたちが潜伏してる所に、ついに魔物が辿り着いたらしい」

 ガレスは、イス代わりにしていた丸太から立ち上がった。

「さて、と───楽しい休憩時間は終わりだ。皆に報せて、片付けと準備をしてくれ。くれぐれも焚火の消し忘れはないようにな」

「おいおい、オレたちゃ新人じゃないんだぞ。そんなことわかってらァ」
「そうだ、そうだ。そこらの経験の浅いガキと一緒にすんなや」
「そりゃ悪かった。それじゃ、そこらの経験の浅い奴らに気を付けてやってくれ」
「仕方ねぇな」
「それじゃ、あいつらのとこ戻って準備すっか」

 冒険者たちの軽口をいなして、ガレスはとりあえず自分が当たっていた焚火の始末を始める。

 焚火は全て消してしまわず、ここで待機予定の後方支援を担う仲間たちのために、3つほどは残しておくつもりだ。

 本当は燃え尽きるまで待つ方がいいのだが、今日はそんな時間はない。

 鍋を吊るすために突き立てていた鉄棒を地面から引き抜いて、スコップを手に取り剥き出しの土を掘って焚火に被せる。

 他の焚火も、ぽつりぽつりと疎らに消えていく。

 幸い、今日は二つの月が満月に近い状態で天に並んでいる。焚火の数が減っても、手元や足元どころか周囲を視認できるくらいには明るい。

「はい、これ」

 同じ焚火に当たっていたエイナが、水の入ったバケツを手渡してくれる。

 ガレスはバケツを受け取って、土で埋めた焚火跡に念のために水をかけながら────ふと現役時代に引き戻されたような感覚に陥った。エイナが傍にいるから、猶更(なおさら)だ。


 目尻の下がった大きな眼と柔らかい栗色の髪から受ける柔和な印象とは裏腹に、大きな弓を背負い、矢筒だけでなく大振りで幅広の短剣を腰に括り付け、鞣革の胸当と肩当で武装した女性────エイナは、かつてガレスが率いていたAランクパーティー『荒野の一滴』のメンバーで、苦楽を共にした仲間だ。

 そして────ガレスの相棒バドの妻でもある。

「何だか、冒険者時代を思い出すわね」
「そうだな」
「ああ…、久々のこの緊迫感────血が(たぎ)るわ」
「………相変わらずだな」

 猛アタックの末にバドと結ばれて、今や三人の子持ちなのに────根本的なところは変わっていない元相棒に、ガレスは苦笑する。

 ガレスとエイナは同郷の幼馴染で、道を分かたれることなく、ガレスのケガでパーティーを解散するまで共に過ごした。

 妹というよりも、弟みたいに思っていたことは口が裂けても言えない。

 上京してバドに一目惚れして、瞬く間に女となったエイナの変わり様に腰を抜かしそうになったのも、今となってはいい思い出だ。

「お前…、今日はオレの護衛だってこと忘れてないよな?」

 今回、本来なら指揮を任されるべきリゼラはルガレドの下で討伐に専念することになっているため、ガレスが冒険者たちの指揮を執る。

 ガレスは左足に負ったケガが元で現役を引退したものの、そこまで長距離でなければ歩くことに支障はないし、剣術の鍛練は続けている。

 だから、まったく戦えないわけではない。

 少し離れた敵の許へ全速力で走り込むことはできなくても、襲い掛かって来る敵を返り討ちにすることはできる。とはいえ、それにも限度がある。

 それで、事情を知ったエイナがガレスの護衛を買って出たという次第だ。

 偶にソロで狩りをしていて腕は鈍っていないとはいっても、まだ幼い子供がいるエイナを駆り出すことに気が引けたが────子供を護るためにも参加したいという彼女を止めることはできなかった。

 その子供たちは、ギルドでバドが見ている。



 それから、もう一人─────

「ガレスさん、エイナさん───これ、どこに片付ければいいですか?」

 リゼラより一つか二つ年長の少女が、消す予定の焚火箇所から回収した鉄棒を手に、ガレスとエイナに訊ねる。

 緩やかに波打つ濃紫色の髪に朱金色の双眸を持つ、女性にしては長身ですらりとした印象のその少女は、救援要請を受けて駆けつけてくれたBランカー冒険者だ。

 名をユリアといい、ソロで活動している。

 彼女の得物は腰に佩いた細身の片手剣で、肩当と胸当のみの革鎧という身軽な装備から、素早さを活かした戦い方をすることが見て取れる。

 実は、このユリアは“ディルカリド伯爵の被害者”の一人で───3年前に魔術師として冒険者となって、ようやく魔獣討伐に携われるようになったところで、見知らぬ老剣士に襲われ魔術陣を強奪されたらしい。

 高価な魔術陣を再び購入する余裕はなく、剣士に転向したとのことだった。元々剣術は修めていたそうだが────そんな状態から、しかもサポーターとはいえソロでありながら、2年弱という短期間でBランカーとなったことに驚きだ。

 その盗まれた魔術陣が返却されたので、今のユリアは魔術と剣術───両方を扱える。このタイミングでユリアが現れたことは、まさに巡り合わせとしか言いようがない。

 今回───ユリアも、ガレスの補佐と護衛を担うことになっている。


「どこか邪魔にならない場所────ああ、あそこがいいな。あそこにまとめて置いておいてくれ」
「解りました」

 ユリアはそう言うと、ポニーテールにした濃紫の髪を揺らして、踵を返した。

 ユリアが離れていくのを後目(しりめ)に、ガレスが次に消すべき焚火に土をかけ始めると───エイナが、予め川の水を汲んでおいた水瓶に近寄り、柄杓でバケツに水を移す。

「それにしても…、パーティーを組んで本格的に活動していた頃じゃなくて────今になって、こんな事態に遭遇するとは思ってなかったわ」
「ああ、そうだな」

 ガレスもエイナも、長い冒険者生活の中───数多の魔獣討伐や集落潰しをこなすだけでなく、スタンピードにも幾度か遭遇して殲滅戦に参加している。

 だが、こんな事態は初めてだった。

「オーガとオーク、それにコボルトの混成集団…。一体、どんな戦い方になるのかしらね」

「これまで遭遇したスタンピードでは、先頭は比較的弱い個体で固め、真ん中にロードらしき個体、後方は変異体とか比較的強い個体で固められてたよな。それに倣うなら、おそらく、先頭はオークとコボルトで、真ん中に魔獣、後方はオーガになると思うが────どうだろうな」

 いかに魔獣に知性があろうとも、オーガとオーク、コボルトに種族を越えて共闘させることなどできるのか────ガレスには疑問だった。だからといって、これまでと同じような戦い方になるとも思ってはいなかったが。

(だが、まあ────リゼの言う通りだ)

 相手が混成集団だろうが、やることは変わらない。状況を見極め、仲間たちと協力して魔物を殲滅する────それだけだ。

 確かに、こんな事態は初めてのことであるが────物事が不測の事態に転がることなど、これまでに幾らでもあった。

 それでも、その都度、打開策を見出して乗り越えてきたのだ。

(オレも、エイナのことを言えないな)

 久しぶりに味わう、肩にかかる背負った愛剣の重量感に────徐々に増す緊迫感に、沸々と血が滾るような高揚を覚えて、ガレスは知らず口角を上げる。

 ガレスのその表情、立ち姿は、今や馴染みとなったギルドマスターとしてのものでなく────数多の討伐と集落潰しをその確かな実力で成し遂げ、“剣豪”と称えられたAランカー冒険者のそれだった。


※※※


「…来た」

 視界の端に捉えたシルエットに、私は思わず呟く。

 ネロの目線は低く、コボルトでさえ巨大に感じられるが────そのコボルトよりも大きいオークを遥かに超す巨体が、列を成す魔物たちの向こうに小さく見える。

「魔獣が現れたのか?」

 私の呟きを拾ったレド様が問う。

「はい。ネロが視認できる位置にまで到達しました」
「解った。────皆、準備はできているな?」

 レド様は私にそう返すと、仲間たちに問いかける。ネロの視界に集中していた私には、仲間たちの様子を目視することはできなかったが、頷いたような気配は覗えた。

 私たちは、すでにエントランスホールで立ち並び、いつでも転移できる状態にある。

「それでは────これより、奇襲を開始する」

 群れ成して歩くオークの頭上には、皓々と光を放つ歪んだ円を描く二つの月が浮かんでいる。夜明けまでは、まだ時間があった。

 できれば夜が明けてから決行したかったが、仕方がない。

「リゼ───始めてくれ」
「解りました」

 レド様の命を受け、私はネロの傍に佇むヴァイスに【念話(テレパス)】を送る。

≪ヴァイス、お願い≫

 ヴァイスには、私が声をかけたら、魔法を放つよう事前にお願いしてある。

≪了解した≫

 ヴァイスから返答が来た直後───ネロの視界が揺らいで、まるで幾つもの断裂が走ったように乱れた。ヴァイスが放った無数の魔素の(つぶて)(くう)を裂きながらオークやコボルトに向かっていく。

 それは、魔物たちの身体を抉るだけに留まらず、吹き飛ばす。瞬く間に、ネロの眼前にいた魔物たちは向こう側へと飛んでいった。

 私はネロとの【(シンクロナ)(イゼーション)】を解き、すかさず【往還】を発動させ────目当ての【転移門(ゲート)】に繋ぐ。足元に広がった魔術式の光が迸って、私たちを包む。

「ご武運を────」

 見送るカデアの言葉が耳に届いたとき────私の視界は、眩い光に覆い尽くされた。
 
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