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コントラクト・ガーディアン─Over the World─

作者:tea4
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第十八章―惑いの森―#2


「それにしても────ここは、よく見つからなかったな」

 レド様の言葉は尤もだ。私たちの推測が正しいのなら、古代魔術帝国がこの精霊樹を───精霊獣たちを放っておくとは思えない。

<<<ああ、この森には“原初エルフ”たちが残した“結界”があるのです。その人間たちには破れなかったのでしょう。もっとも───今は機能していませんが…>>>

「“原初エルフ”?」

 エルフにとっての原人みたいな存在だろうか?知能は物凄い発達してそうだけど。

「“原初エルフ”が残した“結界”────そんなものがあるのか。だが、今は何故、機能していないんだ?」

<<<私にはよく解らないのですが…、見てみますか?>>>

「いいのか?」

 それは、私も興味がある。

 もし───アルデルファルムがこの地を離れることになったら、精霊獣たちが心配だし、その“原初エルフの結界”を施せたら安心かもしれない。

<<<勿論です。────ヴァイス、ルガレドたちを“結界の間”に案内してもらえますか?>>>

 アルデルファルムの言葉を受け、ヴァイスは私の膝から頭を上げ、むくりと立ち上がった。

「了解した。────案内しよう、神竜の御子、我が姫」

 ヴァイスは私と契約したことで、普通にしゃべるようになった。

 私と繋がったことで、どうも人間の声帯を真似ているらしいのだけど、私にはその仕組みはよく解らない。

「ちょっと、降りて待っててね」

 私は、自分の肩や頭に載っている小型の精霊獣たちに降りてもらい───立ち上がる。

 レド様もイスから立ち上がり───テーブルセットをアイテムボックスへと送った。

 ヴァイスが歩き出し、私たちは後を追う。

 ヴァイスは精霊樹に近づき、アルデルファルムの許へ案内してくれたあのときのように、精霊樹の幹に沿って歩いて行く。そして、ある地点で止まった。

 そこは太い根の合間で────よく見ると(うろ)になっている。

 ヴァイスは何の躊躇いもなく、その太い根でできた門を潜った。私たちもそれに続き、中へと足を踏み入れる。

 中は細いトンネルのようで、少し薄暗かったが、あの森の小道にいた淡い光球が飛び交い、仄かに照らされていた。

 道は緩い下り坂となっていて、どうやら地下へと向かっているようだ。



 大分歩き、いつまで続くのだろうと思った矢先───視界が唐突に開けた。

「これは…」

 レド様が目の前の光景に、驚きの声を漏らす。

 私たちは、広大な地下空間にいた。ここにもあの光球が漂っていたし、何処からか光が入り込んで、周りを認識できる程度には明るい。

 天井から無数の木の枝のようなものが垂れ、その先は地面に潜っている。

 それは手で掴めるような細いものもあれば、オークよりも太いものまである。これは木の枝などではなく、おそらく────精霊樹の根だ。

 まるで柱のように───空間を区切っていた。

「こちらだ」

 ヴァイスは、精霊樹の中心と思われる方へと向かう。

 しばらく進むと、足元に水路が現れた。水路は縦横無尽に走っており、ヴァイスは湖を横切ったときのように、水路でも構わず渡ってしまうので、私は水路に固定魔法で橋を渡しながら進んだ。

 進むにつれ、水路が前方に向かって集約しているのが見て取れた。

 集約している先は泉となっており、その中心に───精霊樹の根が絡まり合って、小さな邸ほどもある太い柱のように、そそり立っている。

 目を凝らすと、網の目のようになっている根の隙間から、眩い光が漏れているのが見えた。近づくと、それは巨大な石だった。明らかに魔素を大量に含んでいる。

 この輝きには────見覚えがあった。

「まさか────聖結晶(アダマンタイト)…?」

 間違いない、これは────巨大な聖結晶(アダマンタイト)だ。

 木の根から魔素を取り込み、光り輝いている。地下空間を照らしているのは、これだと気づく。

 あのとき───魔獣化の危機にあったアルデルファルムから、魔素を吸収していたのはこれだったんだ。

 聖結晶(アダマンタイト)から泉に魔素が溶け出し、泉の水は濃厚な魔素を含み、水路へと流れ出ている。

 先程から、水路の水の魔素がやけに濃いとは思っていたのだ。

 辺りを見回すと、水路は四方八方へと広がり────かなり先まで続いているようだ。

「もしかして────この地下水路を張り巡らせることによって、“結界”を施しているの…?」

「さすが、我が姫だ。その通りだ。我も詳しくは解らないが、これが術の根源となっていることは間違いない」

 詳細を知りたくて、私はいつものように【心眼(インサイト・アイズ)】を発動させる。


原初(オリジン)エルフの結界】
 原初(オリジン)エルフの魔法は解明されていないため、解析は不可能。エルフの【失われた魔法】が使われていると思われるが、詳細は不明。


 原初エルフの魔法は、古代魔術帝国でも解明されていなかったんだ…。

 それじゃ────修復は難しいかな。

 だけど、見た限り、この聖結晶(アダマンタイト)は機能しているように見える。不具合が起きているとしたら、水路の方だろうか。

 【地図製作(マッピング)】をしようとして────思い立つ。
 レド様と私の“眼”を使えば、一気に【立体図(ステレオグラム)】を作れるんじゃない?

「レド様、【千里眼】を発動してくれませんか?」
「ああ、解った」

 私は、もう一度【心眼(インサイト・アイズ)】を発動させた。

 そして、レド様と私の眼───【千里眼】と【心眼(インサイト・アイズ)】を、【(シンクロナ)(イゼーション)】させる。

 初めての試みなので、できるか半信半疑だったが───どうやら成功したみたいだ。

 レド様と私に嵌められた【つがいの指環】が光を放っているけど、もしかして────これのおかげ?

 まあ────検証は後だ。

「【地図製作(マッピング)】」


地図製作(マッピング)】を開始します…
管理亜精霊(アドミニストレーター)】に【接続(リンク)】───【記録庫(データベース)】を検索…
記録庫(データベース)】に該当なし───新規の【立体図(ステレオグラム)】を作製します───完了
立体図(ステレオグラム)】を正面に投影します…


 私たちの正面に、未完成の【立体図(ステレオグラム)】が現れる。

「レド様、周囲をぐるりと見回してくれませんか?」
「解った」

 レド様が見回すのに合わせて、【立体図(ステレオグラム)】が徐々に形を成していった。

「これが…、【地図製作(マッピング)】なのか」

 レド様が、どこか唖然とした声音で呟く。

「あ、やっぱり。ほら、ここ、地盤が崩れ落ちて、水路が壊れています。これが原因の可能性が高いですね」

 これなら────“結界”を張り直すことができるかもしれない。

 嬉しくなって、皆に笑みを向ける。

「さすが───我が姫だ」

 ヴァイスが、感極まったように言葉を漏らした。

「まあ、リゼだからな」
「そうですね。リゼラ様だから」
「リゼラ様ですからね」

 いや、レド様、これは貴方の【千里眼】の力が大きいですからね?


◇◇◇


<<<“結界”はどうでしたか?>>>

 とりあえず、地上に戻ると、気づいたアルデルファルムが声をかけてきた。

「不具合の原因らしきものが見つかりました。修復できるかもしれません。修復できたら、“結界”を施しても構いませんか?」

 前半はアルデルファルムに、後半はアルデルファルムとヴァイスの両方に向けて言う。

 これは、ちゃんと確認しておかないと。勝手に張るわけにはいかないだろう。

<<<勿論です。しかし───すごいですね、リゼラは。子孫であるエルフたちにも修復できなかったのに、修復できるだなんて>>>

 感心するアルデルファルムに、私が『いえ、まだ可能性の段階なので』と応えようとしたとき─────

「すごいだろう、俺のリゼは」

 私が口を開くよりも早く、レド様が自慢げに応えてしまわれた。

<<<ええ、本当に。ルガレド、貴方が称賛していた通りですね>>>

 え、称賛?そんなことをしていたんですか?───聖竜相手に?
 きっと───盛大に話を盛ったに違いない…。


 それにしても────記憶がないにも関わらず、レド様とアルデルファルムはまるで母子のようだ。

 レド様は、カデアには頭が上がらない感じだけど───アルデルファルムには、ひたすら甘えている気がする。

 レド様のその笑顔を見ていたら、何だか、どうでも良くなってしまった。

 きっと───アルデルファルムはレド様の欲目を、笑って流してくれるに違いない。…本気に取ったりしないよね?


「ヴァイスも、この森に“結界”を施しても構わない?」
「勿論だ、我が姫。“結界”があれば、この地は護られる。こちらからお願いしたいくらいだ」

 そうと決まれば、さっさと修復してしまおう。

 だけど、その前にこの森周辺の状況を確認しておかなきゃ。結界の範囲内に道とか人家とかあったら、大変だ。

 そのために、一度地上に戻って来たのだ。

「レド様、また【千里眼】を発動してもらえますか?」
「ああ」

 先程と同じ手順を踏んで、今度はこの森とその周辺の地図を作製する。

「【案内(ガイダンス)】、さっき作製した地下空間の【立体図(ステレオグラム)】を、この【立体図(ステレオグラム)】に重ねることはできる?」


了解───二つの【立体図(ステレオグラム)】を合成します───完了


 結界の範囲は、森より少し広めになっているが、その範囲内に道らしきものも、人家の類も見当たらない。

「大丈夫そう───…!?」

 【立体図(ステレオグラム)】を確認していて、水路が壊れている箇所の地上部分に、魔獣が集まっていることに気が付いた。

 それも、1頭や2頭じゃない────かなりの数だ。その場所は、私たちが寛いでいたあの湖とは、ちょうど逆側に位置している。これは────

「【潜在記憶(アニマ・レコード)】検索───【抽出(ピックアップ)】───【投影(プロジェクション)】」

 私は自分の作製した手描きの地図を、【立体図(ステレオグラム)】の隣に投影した。

 やっぱり、思った通りだ…。

「リゼ?」
「レド様は────“デファルの森”をご存知ですか?」
「ああ、知っている。森の奥に魔素を排出する何かがあるという、魔獣が多く存在する森だろう?」

 自分の答えで、思い当たったらしく────レド様は眼を見開く。

「まさか────」

「ええ、“デファルの森”はこの森の一部みたいです。魔素を排出する何かというのは────おそらく、あの水路の水だと思います」

 私は、自作の地図の“デファルの森”から少しずれた位置に描き込んである、小さな森を指す。

「これが、私たちが最初に訪れた森です」
「“帰らずの森”────これが?」
「ええ。これは、近くの村で呼ばれているこの森の名称です。“精霊獣の棲む森”と記さなかったのは、これを描いたとき、この地図の存在を冒険者ギルドに知られていたからです。ここに精霊獣が現存していることは隠しておいた方がいいと思ったので、この地図には情報を書き入れなかったんです」

「リゼの手描きの地図は、デファルの森と帰らずの森は分かれて描かれているが…」
「実は、どちらの森も全容が把握できなかったんです。だから、まず、帰らずの森の方を、ネロに話を聴いて予測で描いて───デファルの森は、帰らずの森と繋がっているとは思えなかったから、繋がらないように憶測で描いたんです」

「周囲が、他の森や山に囲まれているから、外側からも判らなかったわけか」
「はい。まさか…、こんな大きな森だったとは────」

 デファルの森については、精霊獣の棲む森の隣にあるのは偶然に思えなくて───もしかしたら、こっちにも精霊樹でもあるのではないかと疑ってはいた。

「この“デファルの森”という名称…、由来は知っているか?」
「いえ。この名称は周囲の村々に浸透はしているのですが、由来はどの村にも伝わっていません」

 レド様の質問の意図が───何を考えているかが、解った。

「…“アルデルファルム”が、省略されたのでしょうか?」
「その可能性が高いな」

 原初エルフの“結界”を復活させたとして、デファルの森───魔獣を擁する森が消えると、どんな影響が出るだろう。

 人間の観点で考えれば────おそらくメリットしかない。

 時折、森から彷徨い出た魔獣が村や旅商人を襲うことがあり、犠牲者が出てからしか討伐できないので、被害が必ず出てしまうのだ。

 それに、この森の魔獣は強大で、依頼でもない限り冒険者も立ち入ることがなく、誰かの狩場ということもない。

「ヴァイス、この場所───森のあちらの方角に、魔獣が多数生息しているのは知ってた?」
「無論。だが、魔獣どもは、我らが長───アルデルファルム様を恐れ、こちら側へは踏み入ってこないから、関せずにいられたのだ」

「では、魔獣を排除してしまっても、この森には───精霊獣たちには、影響はない?」
「あれらは、結界が消失して入り込んだ異物だ。排除してくれるなら、こちらとしてはありがたい」
「そう…」

 それなら────やはり、“結界”を修復して、張ってしまおう。

「それで、リゼ、どうするつもりなんだ?」
「あの地下空間───“結界の間”を、【拠点(セーフティベース)】に登録したいと考えているのですが…、どうでしょうか?」
「なるほど。その上で【最適化(オプティマイズ)】を施すんだな?」
「ええ。ただ、かなり魔力を消費することになると思います。許可していただけますか?」
「勿論だ」

 拠点に【最適化(オプティマイズ)】を施す際は、どちらが発動しても、レド様と私両方の魔力が使われる。

 拠点に登録するのもそうだけど、【最適化(オプティマイズ)】するなら────レド様にちゃんと許可をもらわなくては。

「それでは、また“結界の間”に行くとするか」
「いえ、その前に、水路が壊れている箇所の魔獣を排除してからでないと…」
「そうか。修復しても、魔獣にまた壊されることになりかねないな」
 
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