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東方守勢録

作者:ユーミー
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第二話

「……すっかり眠っちゃってたみたいね。あれから何日たったの?」
「3日です……って幽々子さん!あなた記憶が……」
 幽々子は静かに覚えてるわと言った。彼女が言うには革命軍に捕まりチップを取り付けられてから、俊司達と対峙して負けるとことまですべて鮮明に覚えているらしい。もちろんその間に幻想郷の住人と対峙したこともあれば、革命軍の拠点で作戦会議を行ったり実験台になったこともあると言う。
 話している間彼女は終始悲しそうな顔をしていた。自分の不甲斐なさに対しての気持ちと、同じ幻想郷の住人に対する気持ちが合わさったような顔だ。そんな彼女に俊司は何も声をかけられずにいた。
「私が不甲斐ないからね。もっと精進しないと……妖夢さえも守れないんだし」
「……なにがあったんですか?」
 幽々子は少し黙り込んだ後、ふと三ヶ月前の白玉楼での出来事を話し始めた。

 三ヶ月前白玉楼は革命軍の進攻を受けていた。もちろんただの外来人相手に幽々子をはじめとする冥界の幽霊達が負けるわけもなく、初めは彼女達が優勢を取っていた。しかし革命軍に能力もちが現れ始めてから状況は悪化。おまけに相手は知っているはずがないこちらの情報をなぜか掴んでおり、状況は次第に劣勢へと変わっていった。途中紫達が増援で来てくれたためなんとか状況を盛り返したのだが、日に日に劣勢に変わっていくのを止めることはできずにいた。
 それから約半月後、ついに白玉楼は革命軍に包囲され崩落を迎えようとしていた。白玉楼内のある一室に身をひそめていた一同は、残されたわずかな時間を使ってなんとが打開できる策がないかを考えてみる。しかしどう考えても結果は悲惨なものばかりだった。
「紫様、幽々子様。ここはもはや敵の手に落ちます。退却の準備を」
 九つのキツネの尻尾を持った金髪の女性は、少しためらいながらもそう言った。紫のスキマを使えば退却は容易だ。ここで全員が捕まるよりも、逃げて機会をうかがったほうがいい。この女性はそう言いたいのだろう。
 
「幽々子様!! 戦線が壊滅しました!もうだめです!!」
「もうこんなところまで……」
 当時前線で戦い続けていた白髪の半人半霊は、怪我をおいながら幽々子たちがいる部屋へと駆け込んできた。彼女曰く白玉楼外壁周辺の戦線は壊滅。敷地内への侵入を開始したとのこと
「案外はやかったですね……橙!」
「はい藍しゃま!」
 橙と呼ばれた二本の猫の尻尾持った少女は、元気よく返事して戦線に向けて走り去って行く。それを見届けた後、藍と呼ばれた女性は紫のほうを見てさみしそうな顔をしていた。
「紫様。私たちが前線で時間を稼ぎます……どうかお逃げください」
「なっ……無茶よ藍!! あなたたち二人でどうにかなることじゃ――」
「すいません紫様……どうかご無事で……」
 藍は引き留めようとする紫を振り払うと、橙に続くように戦線へと去って行った。彼女が見えなくなっても紫は必死に彼女の名前を呼び続ける。しかし何度呼び続けても彼女が戻ってくることはなかった。
「紫……しっかりしなさい。ここでのこったらあの子たちの頑張りは――」
「わかってる!わかってるわ……」
 今すぐに追いかけたい気持ちを抑えつける紫。彼女の手は強く握りしめられ、何もできない自分への怒りがあらわになっていた。
「行きましょう。妖夢、先にいって安全を確かめてちょうだい。何かあったら戻るように」
「わかりました」
 紫はすぐさまスキマを展開させて妖夢を先に行かせる。数十秒待ってみるが妖夢は戻ってこない。どうやら安全が確保されたのだろう。あとはこのままスキマを通って脱出すればいいだけだ。
 しかし白玉楼の主はなぜか浮かない顔をしていた。
「さあ、幽々子」
「私は……いいわ」
 幽々子はなぜか笑いながらそう言った。
「なっ……何言ってるの!?」
「だって……私はここの主よ。主がここを離れてどうするのよ」
「馬鹿なこと言わないで! 藍や橙に加えてあなたまで失うなんて……そんなのだめよ!」
 紫は幽々子の襟を掴みながらそう言い放つ。しかし幽々子は紫と目をそらしたまま何もしゃべろうとはしなかった。まるで無言のごめんを言い渡すかのように。
「いたぞ!西行寺幽々子と八雲紫だ!!」
 戦線を崩壊させた革命軍はもう白玉楼の内部の制圧もほとんど完了し、ついに紫と幽々子が隠れていた部屋まで来ていた。彼らを止めに走った藍と橙はというと……言うまでもない。
「くっ、はぁっ!」
「うわっ!?」
 幽々子は扇子を取り出すと、部屋いっぱいの桜吹雪をふかせ革命軍の進攻を妨害する。
「今のうちに!」
「でも幽々子――」
「仕方ないのよ……ね?」
 そう言った幽々子は悲しそうな笑みを浮かべていた。彼女の瞳の奥には決意の塊のように光る何かも見えている。きっと彼女は冥界を管理するものとして責任を感じているのだろう。
 紫は必死に何ができるか考える。自分の実力なら彼らを倒せるだろうとも考えた。だが実際彼らを倒して彼女を救出出来る可能性など、現状を見れば低い事だと言うのはわかりきったことだ。心のどこかで『自分達なら勝てる・外来人に負けない』なんて考えていた。実際彼らの攻撃は最初は防げていた。しかし今は完全に劣勢へと押し込まれており、幻想郷は少しずつ彼らの手に落ち始めている。
 ここは幻想郷だ。彼らにも素質さえあれば能力を手に入れることができるはず。なぜ自分はそのことを考えなかったのか、紫は今になって後悔していた。敗因は……どう考えても慢心だ。
 これ以上彼女にして上げれることは何もない。スキマに連れ込もうにも、彼女なら意地でも残ろうとするだろう。
「あの子になんて言ったらいいの?」
 妖夢の事について尋ねるとごめんと伝えてほしいと静かに言った。それから二人は再開を願って笑みを返しあった後、紫は静かにスキマの中へと姿を消すのであった。
「また……会えるわよね?」
「もちろんよ」
 声が聞こえてもないのに会話をする二人。心の中で二人はそう言ってるだろうなと思うのであった。
「さてとみなさん? 冥界に来たなら、覚悟は……できてるわよね?」
 桜吹雪を消し去ると、幽々子は不敵な笑みを浮かべてそう言い放った。

「そのあと、私は呆気なく捕まってしまったわ。藍と橙は……たぶんあいつらの拠点で働かされてると思う」
 幽々子は悲しそうな顔をしていたが後悔はしてなさそうだった。その後の話は想像通りで、タイプAの実験台として無理やりチップを取り付けられ、俊司達がチップをはがすまで彼らの仲間として行動していたということだ。
「そういうことね」
「うわぁ!」
 気がつくと俊司の隣には、まるで最初からいたかのようにスキマの中から上半身をのぞかせる紫の姿があった。
「あら、そんなに驚くことかしら?」
 何食わぬ顔でそう言う紫に俊司は心の中でつっこみを入れるのだった。
「あらあら、紫ったら盗み聞き?」
「そんなつもりじゃなかったけどね。まったく、幽々子が残ったってあの子に言ったら、私も残ります!とか行かせてください!とか、結構わめいてたわよ」
 確かに幽々子を心配していた妖夢の気持ちもわからないことはない。本当なら殿を務めるのは従者である彼女の仕事なのに、主が残って自分は助かった。彼女も心のどこかで自分を責めていたのだろう。
「さて、私は……どうしたらいいかしら?」
「どうって……俊司君どうする?」
「えっ俺?」
 なぜ判断を自分に任せるのか不思議に思った俊司だったが、答えはすでに決まっていた。彼女も幻想郷の住人の一人。気持ちは自分達と変わらないはずだ。
「どうするって言われてもな……また、一緒に戦ってもらえますか?」
「ええ。すこしでも罪滅ぼしができるならね」
 幽々子はそういって優しい笑みを返していた。それを見た俊司はこの世界に来て初めて人助けが出来たんだなと実感していた。
 しかしそんな感情もすぐに消し去られてしまう。
「さてと、おなかすいたわ~。向こうのやつらぜんぜんおいしくないものばっかりだすし。それに、このにおいは……タケノコ料理でしょ!さすが永遠亭!竹林のタケノコっておいしいのよね~」
 あまりの変わりように俊司は思わず言葉を失ってしまった。さすがにこんなところで食いしん坊キャラみたいな発言はやめてほしいものだ。まあ所々マイペースな彼女ならではなのだろうが。
「ぷっ……幽々子らしいわね。まあ、あとでみんなにきちんと話してよね」
「わかってるわよ~。さて、行きましょうか!」
 二人はそのまま食堂に向かおうとする。俊司もついて行こうとするが、なぜか二人が面白そうな目でこっちを見てくるので立ちあがるのをやめてしまった。
「な……なんですか?」
「君はそのままね? 妖夢起きちゃうから」
「あ……」
 妖夢は依然として起きる気配がなく、俊司の肩に頭を載せながらスゥスゥと寝息をたてていた。主人が目を覚ましたというのに、今度は従者が目を覚まさないのかと俊司は少し呆れていた。まあそれだけ彼女は無理をしていたということなのだろうが。
「じゃあ、妖夢よろしくね? え~っと、俊司君?」
「……はい」
 涙目の俊司をくすくすと笑いながら、幽々子と紫は去って行った。

その数分後
「んっ……あれ……私……幽々子様……あれ? ……いない?」
 ぐっすり寝むていた妖夢はようやく目を覚ましたかと思うと、誰も寝ていない布団を見てそう呟いた。
「……おはよう妖夢」
「……ふぇ?」
 ふと隣を見てみると、なぜかひきつった顔をした俊司がこっちを見ていた。
「え……俊司さん……幽々子様は?」
 ぼんやりとしたまま妖夢はそう尋ねてみる。彼曰く幽々子は目を覚ますと台所に向かったとのことだ。だが彼女に幽々子が台所に向かったという記憶はない。
「私……なにしてました?」
「……寝てた」
 試しに聞いてみると予想通りの答えが帰ってくる。この時点でいろいろ言いたくなってきたが、まだ気になることがある。自分は座ったまま寝ていたのかということだ。
「どこで……寝てました……?」
「俺の肩に頭をのっけて……」
「え……あ……ええ!?」
「あはは……」
 俊司の笑顔は完全にひきつっていた。申し訳ないという意味もあればこの後の展開が分かっているようだ。しかし今の返答で思考が吹き飛んだ彼女はそんなことは気にしていられない。顔を真っ赤に染め上げた後、俊司を突き飛ばして走り去ったことは言うまでもなかった。

 妖夢が走り去った後、俊司はある部屋を訪れていた。
「失礼します……あれっ、慧音さんと永琳さんじゃないですか……おじゃまでしたか?」
 部屋の中に入ると白髪でロングヘアーを三つ編みでまとめた女性と、同じく白髪でストレートのロングヘアーをした幽々子の治療を行った永遠亭の医者『八意 永琳』と人間の里で寺子屋をしていた『上白沢 慧音』が、霊夢と何か話をしていた。
「いいや……別にかまわないが何か用か?」
 俊司は二人に霊夢と話をしたいと伝えると席をはずそうかと尋ねてくる。別にそこまで秘密にする話でもなかったので、俊司はこのままでいいと言ってその場に座った。
「聞きたいのは博麗大結界についてなんだ。かまわないかな?」
「別にいいけど……」
「なるほど……博麗大結界は私も少し気になってたんだ。なにせこれだけの外来人が突然現れたからね」
 慧音の言うとおり大勢の外来人が一斉に現れることはかつてなかったことだ。幻想郷じたい博麗大結界に守られており、外来人はその結界を超えてくることはほとんど不可能だ。まあ例外もあるのだが。
「で? 博麗大結界で聞きたいことって?」
「じゃあまず一つ目。あいつらがここに来た理由なんだけど……幻想郷は博麗大結界でおおってるから出入りはほぼ不可能だよな。あいつらはどうやってここに来たんだ?」
 素朴で単純な質問だったが、霊夢はそれを聞いて難しそうな顔をしていた。
 どうやら彼女ですらここに来る方法が分からないらしい。博麗大結界が破られたわけでもないし、どこかに穴があったわけでもない。すり抜けてくることも不可能だ。
「……やっぱりそうなのか」
 この答えは想定の範囲内だった。俊司も博麗大結界の効果は知っているし、破られていたとしたら外の世界で大ニュースにでもなっているからだ。
「確かに原因がわかるわけないわよね。あの守矢神社の人たちが来た時も、結局原因がわからなかったしね……何か別の方法があるってことかしら」
 永琳の言うとおり別の方法があったと考えるのが妥当だろう。それでも博麗大結界を通り抜けるのが不思議で仕方ないが。
「……わかった。じゃあ二つ目。今霊夢は博麗神社を離れてるけど…大丈夫なのか?」
 博麗神社もなくてはならない存在だ。あの場所は外の世界と幻想郷の世界の間なので、向こうの手に落ちてしまえば危険だ。しかし霊夢はなんの問題視もしていないみたいだ。
「ええ。それなら心配ないわ」
 そう言って、霊夢は懐から数枚の札を取り出した。
「普段使ってる札以外にも沢山種類はあるのよ。で、この札がいま博麗神社周辺にばらまいてあるわ」
 霊夢は数枚の札の中から1枚をつかむと俊司に差し出す。札は少し青がかった色をしており、中央にはなんて書いてあるかわからない文字が大量に書かれていた。彼女曰くこれが結界用の札らしく、ただの外来人ならば解除は無理とのことだ。
「なるほど……だったら大丈夫だな。聞きたいことは以上だよ。ありがとう」
「別にいいわ。聞きたいことがあるのはお互い様だしね」
 話を終えた後、俊司は永琳に幽々子の事を伝えた。幽々子の様子からして問題はないだろうという結論になり、なんとか一安心と言ったところだ。問題があるとしたら夕飯の量くらいだろうか。
 その後一同はたいわいない会話をしながら部屋をあとにするのだった。 
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