金木犀の許嫁
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第三十三話 二人でいられるならその九
「死んでも幽霊になってね」
「今も大阪におられるんですね」
「それで大阪のあちこちを巡ってるのよ」
「そうなんですね」
「それで特にね」
「難波にですか」
「出るのよ」
そうだというのだ。
「あの人はね」
「その自由軒や夫婦善哉があるからですね」
「毎日みたいにあそこに行って」
難波の方にというのだ。
「それでね」
「自由軒のカレーもですね」
「食べていたのよ」
「本当に大阪、特にあの辺りが好きだったんですね」
「それで大阪のあちこちに出るけれど」
それでもというのだ。
「特にね」
「難波にですね」
「出てね」
そうしてというのだ。
「白華ちゃんはその人を見たのよ」
「織田作さんよ」
「よかったわね」
真昼は白華にここでにこりと笑って言った。
「見られて」
「よかったんですか」
「あの人めでたい幽霊って言われてるのよ」
「そうなんですか」
「そうよ、だって身体がなくなっても大阪が好きで」
魂だけになってもというのだ。
「ずっと大好きな大阪を巡ってるのよ」
「そうした方だからですか」
「お亡くなりになってすぐに出て来て」
そうしてというのだ。
「煙草屋さんにヒロポン買いに来たらしいし」
「覚醒剤ですね」
「昔は合法だったから」
終戦直後まではそうだったのだ、尚阿片も台湾では当初合法で総督府は吸引に際しては免許制としていた。
「よかったからね」
「ヒロポンを買いに来てましたか」
「幽霊になってからもね、その頃からね」
まさに死んだ直後からというのだ。
「めでたい、縁起のいいね」
「お会いしたら」
「生前と全く変わらない感じだから」
そうであるからだというのだ。
「そう言われてるのよ」
「そうですか」
「そう、それで白華ちゃんはね」
「そのめでたい幽霊に出会えたので」
「よかったわね、縁起がいいわ」
「いいことがありますか」
「きっとね」
白華に笑顔で言った。
「あるわ」
「そうなんですね」
「その時を楽しみにしていてね」
いいことがあるその時をというのだ。
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