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渦巻く滄海 紅き空 【下】

作者:日月
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八十七 対話

「……最後のペインが倒された…」

小南の術で数多の紙が幾重にも重なり合い、一見、大木にしか見えぬソレ。
接近してようやく違和感を覚えるその木の内側。
紙で形作られた偽りの大樹の中で、チャクラの使い過ぎで荒く息を繰り返していた長門は、ぽつり、呟いた。

ペイン六道の中でも一番強いペイン天道。
弥彦の遺体を使っている最後のペインが、今、波風ナルによって倒されたのだ。

更にこの居場所を逆探知した彼女が、ペイン本体を目指し刻一刻と近づいてきていると聞いて、小南は急ぎ、この場を離れるべきだと訴える。
しかし、逃げるように促す小南の訴えを、長門は拒否した。

「いいや…この場で待つ」
「でも長門…っ」

心配する小南に、長門は首を振る。
その相貌は酷くやつれ、顔色も悪かったが、瞳だけは変わらない。

断固とした輝きに満ち、紫色に渦巻く双眸。
決意が固い長門に折れ、小南もまた、来訪者を待ち構える姿勢を取った。

これから迫り来る、平和の代名詞を。




しかしながら、その平和の代名詞は現在、同じ里の忍びによって見動きが取れなくなっていた。
シカマルが【影真似の術】と呼んでいる、奈良一族秘伝の【影縛りの術】。
その術で、ナルの足を足場である木の枝に縫い付けている奈良シカクに、彼女は困惑顔を浮かべる。

「こんなことしてる場合じゃないんだってばよ!」
「こんな時だから、だ」

淡々とした物言い。
冷然とした態度のまま、変わらずに影を縛るシカクを見て、彼女は戸惑う。

奈良シカクは、幼い頃のナルがお世話になった大人のうちのひとりだ。
いのいちやチョウザは今でこそ普通に接してくれているが、幼き頃のナルにとっては恐怖の対象でしかなかった。
そんな境遇で唯一シカクは、恐怖の対象である大人の印象を変えてくれた。

里の大人たちに煙たがられ嫌煙され、三代目火影以外、誰も信じられなかったナルに根気よく接してくれた大人。
シカマルが傍にいてくれたのが大きかったのはもちろんだが、三代目火影以外でナルが初めて心を開いた相手。
だからこそ、こうもあからさまに敵対された今、ナルはショックを隠し切れないでいた。


「らしくないぞ、シカク」

見兼ねたいのいちがシカクの隣で囁く。
困惑顔を浮かべるチョウザもまた、ナルとシカクへ交互に視線を投げた。

「いつもの冷静なおまえはどうした」
「俺は冷静だ。いつもと変わんねぇよ」


普段と同じ態度に見えるシカクを怪訝に思いつつも、いのいちはナルが勝手に敵の懐に向かうのを阻止せんと、【心転身の術】を発動させようとする。
身体が乗っ取られる危惧を察したナルが咄嗟に、仙術モードに入った。

【影縛りの術】で見動きできないのなら、逆にそれを利用して、仙術チャクラを練っておいたのだ。
おかげですぐに仙術モードに入れたナルの目尻が紅に染まる。

仙術チャクラを身に纏うことで己の周りにある自然エネルギーを利用する為、危険感知も攻撃範囲も並みのそれではない【蛙組み手】。
術者の身体の一部となる自然エネルギーで、ナルの影を縛る足場を崩す。即ち、シカクとナル、双方が佇む木の枝を【蛙組み手】で折ったのだ。

急に足場である木の枝が折れて、バランスを崩したシカクの隙をつき、ナルは跳躍した。
迫るナルの接近を、チョウザが阻止せんと構える。
身体の一部を巨大化する【部分倍化の術】で、巨大化させた己の腕を、ナルに振り上げた。

が、その腕はナルに直撃する寸前、動きを止める。
否、チョウザ自身が殴るのをやめたのだ。

不審に思いつつも警戒し、シカク達から距離を取ったナルにいのいちが話しかける。


「おまえがペインを倒してくれたことには感謝している」

木ノ葉の里を襲撃したペイン六道。
木ノ葉の忍び達があれだけ苦戦を強いられた相手に、たったひとりで挑み、最後のひとりであるペイン天道と共に、里から離れた。

そして現在、この場にナルがひとりでいるということは最後のペインすら倒したとも同然。
けれどその里の英雄である彼女は、今度はペイン本体のもとへ、ひとりで向かうという。


「しかし今更話し合いでどうこう済む問題ではないぞ。どうするつもりだ」
「だったら!」

感情を押し殺し、なるべく冷静を装って、いのいちは問う。
普段冷静であるシカクがこのざまなので、逆に頭が冷えたいのいちに対し、ナルは声を荒げた。


「だったらペイン本体もその部下も敵の里も全て潰しちまえば、それで丸く治まんのか!?」
「話し合って、それでどうする?」

咄嗟にシカクを庇う為に【部分倍化の術】を発動させたが、殴るつもりは毛頭なく。
巨大化した腕を元の大きさに戻しながら、今度はチョウザが口を開いた。

「木ノ葉に仇なす敵をこのまま野放しにする気か」
「そうは言ってない!」


頭を振って、ナルは否定する。
九尾化したせいで弾け飛んだ髪留めがない為に、長い金髪がナルの頭と合わせて、激しく揺れ動いた。


「だけど、オレは確かめたい。直接会って、話をすることで何かわかるかもしれない」
「なにを勝手なことを」

眉を顰めたいのいちは眉間を指で押さえ、溜息をつく。

脳裏に過るのは、壊滅させられた己の故郷。あれだけ平和だった里を一瞬にして更地にした元凶。
だからペイン六道は自分達木ノ葉にとって紛れもなく――敵だ。

「木ノ葉に仇なす敵を許すわけにはいかない」


いのいちの言い分を聞いて、ナルはうつむく。
固く握られた拳がブルブルと更に強く握りしめられてゆくのを、チョウザは見た。


「オレだって…オレだって…ッ」

まるでおまえはペインを許せるのかとでもいうような非難を浴びせられ、悔しさと憤りが混ぜこぜになった感情を彼女は爆発させる。

「師を、里を、皆を、」

自来也の生存を未だに知らぬナルはたまらず、声を張り上げた。
ペイン天道から自分を庇ったシカマルの倒れ伏せた姿が思い返されて、涙声になる。

「めちゃくちゃにした奴なんか許せないってばよ…!」


だけど、それでも、けれど。


「でも…!それで怒りに任せて全部全部やっつけてしまえば…」


憎しみの連鎖。
ペイン天道がナルに答えを求めてきた問題。
大切なものを失う痛みは誰もが同じで、正義という名の復讐に誰もが駆り立てられる。

だから、ここでペインを殺してしまえば――――。



「それこそ、今度はオレ自身が第二のペインになっちまう」
「「違う」」



その瞬間、ナルは弾かれたように顔をあげた。
俯いていた時にはまともに見れなかったいのいちとチョウザの顔。
幼き頃は恐怖の対象であった大人の顔を、この時ナルは初めて、真正面から見た。


「おまえは木ノ葉の英雄だ」





遠い昔。
まだ波風ナルが木ノ葉の里で忌避されてきた頃。

彼女は里を一度壊滅状態にした九尾と同一視され、里人に嫌われていた。
そのうちのひとりだった秋道チョウザは、かつての己の考えを今この場で、心の底から否定する。

「ペインとは違う」


ミズキに唆され、禁術である封印の書の巻物を盗んだナルを、ろくでもない奴だと評した忍び達に賛成した過去の自分。
あの頃の自分を心底恥じ、悔い、そして今では彼女を心から誇りに思う。

ペイン六道から必死に里を守り、戦った英雄に対し、昔のように憎しみや恨みなど微塵もない。
むしろ、かつての自分が抱いてきた感情を否定し、罪悪感を抱いてきたチョウザは、ナルへ謝罪と感謝の気持ちを声音に乗せた。

「そうだ」


同じく、昔はナルに対して、良い印象をあまり抱けなかった山中いのいちも、過去の自分を否定する。
自分の大事な娘が仲良くしている相手が九尾の人柱力だと知った時には、昔は苦々しく思ったものだ。
さりげなくあまりナルと仲良くしないように娘に伝えても、昔から芯のある娘のいのはバッサリと、父親の言い分を真っ向から否定した。

『大事な友達をそんなふうに言わないで!ナルはとっても良い子で凄いんだからっ!』と、いのに怒られた過去を思い出しながら、父親は娘の正しさを思い知る。


(ああ、本当にお前の友達は凄いな…里を救ってしまうんだから)

昔は九尾と同一視され、里から忌避されてきた厄介者。
その子が必死に里を庇い、守り、戦った現在を思うと、過去の自分が恥ずかしく、いたたまれなくなる。

だからようやく言える。

今まで罪悪感からなかなか接触できずにいた波風ナル。
九尾の人柱力ではなく、娘の大事な友達へ。



「おまえは木ノ葉の里の波風ナルだ」


それでも自分達がやってきた行いは許されるものではないけれど、過去を清算しようと、己の罪に向き合い、その報いを受けようという心構えで、この時初めて、真正面からナルを見据える。
そんな秋道チョウザと山中いのいちに対し、ナルは動揺した。

「おっちゃん達…」


だって、かつては憎まれていた。恨まれていた。
他人からの目線や向けられる負の感情には慣れてきたナルは、自分を良く思っていない大人が誰なのかくらい、すぐ判断できた。

だからこそ、幼き頃に自分へ向けてきた視線とは真逆の、まっすぐに向けてくる目線に混乱する。
何故なら、その目線には昔のように、負の感情は一切雑じっていなかったから。


「オレってば…九尾の人柱力だってばよ…?」
「――なにを言ってる」

そこでようやっと、今まで静観していた奈良シカクは口を開く。


「九尾とか人柱力とか関係ない」

しかし、その顔は先ほどまでとは違って、やわらかなものだった。
昔、幼き頃のナルの心を開き、怖い印象であった大人の印象を溶かしてくれた、信頼できる大人の顔だった。


「俺達はおまえだからこそ…波風ナルという忍びを信じてる」


寸前とは打って変わって、いつもの調子になったシカクが、肩越しに振り返る。
「そうだろ?」といのいち・チョウザに話しかけるその顔を見て、昔馴染みのふたりはシカクの狙いを察して、苦笑いを浮かべた。


「だからおまえに任せる」

今やすっかり敵対する意志がない三人の様子に、戸惑いが隠せないナルは、次いでかけられた言葉に、眼を瞬かせる。

「おまえなりの考えがあってのことなんだろう」


瞳をパチクリさせていたナルは、やがて、じわじわとシカクの言いたいことがわかってきて、張りつめていた緊張を緩ませた。

「ペインを止めたのはおまえだ。おまえの好きにしたらいい」


ほっと心から安堵する。
幼き頃にお世話になり、つい先日も、シカマルの母であるヨシノに誘われ、奈良家へお邪魔していた。
仲良くしてくれた相手に急に嫌われたかと思って、ナルは本当は心から怖れていた。

大人は苦手だったけれど唯一親しくしてくれたシカクに敵意を向けられた時、困惑と恐怖と、そして哀しみを抱く。
同時に、自分を庇ったシカマルが傷ついた原因がナルにあるなら、憎まれるのも仕方がないと諦めがついてもいた。

だから、普段通りに接してくれるいつものシカクに戻って、彼女は心の底から安堵する。


「だがナル、忘れるな」

直後、真剣な眼差しを件のシカクから向けられ、居住まいを正したナルは、彼の一言に眼を見張った。


「おまえを信じている人間がここに、そして里にもいるってことをな」

シカクの両隣で、いのいちとチョウザもそれぞれに頷く。
かつて自分を九尾と同一視し、忌避してきた大人ふたりの態度の変わり様に、ナルは戸惑った。

「おまえはもうひとりじゃない」


大好きな幼馴染である山中いのと秋道チョウジの父親だから嫌われたくないと望んでいたけれど、それは無理な願いだと幼き頃にとうに諦めていた。
その願いが今、叶って、喜びよりも動揺のほうが大きいナルは、暫し、呆けたように立ち尽くす。



「だから…生きて、帰ってこい――俺は、俺達はおまえを信じている」



けれど、シカクに言葉で背中を押され、ハッと我に返った彼女は、じわじわと動揺よりも歓喜が打ち勝ってきた。
心の内側からなにか、あたたかいものを感じ取って、顔を伏せる。
やがてぱっと顔をあげたその表情は、ペイン天道に勝利した時よりずっと明るいものだった。


「ありがとう…シカクのおっちゃん…」

そうして、チラリといのいちとチョウザに視線を投げる。
ふたりにも「ありがとうだってばよ…!」とお礼を述べると、振り切るように彼女は背中を向けた。






ペイン本体のもとへ走り去るナルの背中を見送りながら、いのいちはシカクを肘で小突いた。

「…おまえ、俺らを嵌めたな」
「なんのことやら」と肩を竦めたシカクに「らしくないと思ったんだよな」とチョウザが苦笑する。

「おまえにしてはお粗末な術だったしな」


シカマル以上の策士と謳われるシカクにしては、ナルが【影縛りの術】をあっさり抜けれたこと自体が、チョウザといのいちには違和感しかなかった。
本気で敵意を向ける相手ならば何重にも罠と策を仕掛けておき、まるで張り巡らされた蜘蛛の巣に雁字搦めにして抜け出せなくなるよう仕向けるのが昔馴染みの知る策士の手腕だ。

故に、早々にシカクの術を破ったナルを見て、これはなにかあると勘付いたいのいちは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

「俺達がナルに謝る機会をつくろうと、わざとあんな態度を取ったのか」



過去のナルに対する自分達の態度を省みて、罪悪感を募らすも、彼女に直接顔を合わせる機会がなかった。
いや、あえて遠ざけてズルズルと今まできてしまった。

それを見透かしていたシカクがわざと自分が悪者になることで、彼女に対する認識が昔とは違うと、いのいちとチョウザに伝えさせたかったのだ。
また、なぜこのタイミングかと言うと、ペイン天道を倒したはずなのにナルの顔は晴れておらず、むしろ精神的に追い詰められている風情だった。

だから少しでも彼女の気持ちを軽くして、背中を押してやりたかったのだ。
ナルの張り詰めていた感情や心を多少なりとも解き解したかった。

ひとりで何もかも背負い込むな、と。
同時にナルに対して後ろめたそうなチョウザといのいちの罪悪感も払拭させたかったのだ。

なにもかもシカクの手のひらで踊らされていたと知って、苦笑しながらも、チョウザは「改めて、謝りにいこうとしよう」と力強く頷く。
大人の威厳やらプライドなど関係なく、純粋に謝罪する。

謝って許されるものではないが、それでも今後はナルの為に、そして我が子のチョウジの為、大人として恥じない生き方をしなければ。

そう決意するチョウザの隣で、いのいちが気遣わしげにシカクを流し見た。


「…シカマルのことで正気じゃなくなったかと思ったぞ」
「……息子を失って平気な親なんていねェよ」

双眸を閉ざし、眉間に深い皺を寄せて、シカクは唇を噛み締める。
普段は冷静な我が子がナルの為に敵地へ自ら飛び込み、ナルを庇った。
その行いは忍びとしてはお粗末だが、男としては誇り高い所業だ。

「だが目の前で失ったナルのほうがよほど…、」
「それなんだがな、シカク」


シカクの言葉を遮って、いのいちは言いづらそうに言葉を選びながら、それでも結局、直球で真実を告げた。



「おまえの息子、生きてるぞ」
「……は、」


策士にしては珍しい、ぽかんとした顔を見て、横にいたチョウザが「シカクのそんな顔初めて見た」と空気を読まずに呟いた。

「いや…今、いのから連絡があってな…」



山中一族秘伝の【心伝身の術】。
現在いのが修行している術だ。本来は術者が中継ポイントとなり手で触れた対象の意志を広範囲且つ脳内に直接伝達する【感知伝々の術】の応用術だ。
術者の負担が大きい高難易度の術だが、山中一族同士での伝達だからか、或いは、父であるいのいちよりも娘のいののほうが適性があるのか、父娘の間での伝達はそこまで負担がかからないものだったようだ。

遠く離れた場所にいる父親へ、【心伝身の術】でいのが脳内で伝達してきた内容を、いのいちはそのままシカクへ伝えた。

「命にかかわるほどの重傷だったが、なんとか持ち直したそうだ」



息子の生存を耳にし、シカクは目元を手で押さえて、空を仰いだ。

「はは…」と笑みが漏れるその顔は手で覆われて窺えないが、シカクの気持ちは同じ親として痛いほど理解できたチョウザといのいちは、何も言わず、いつもの飄々とした調子に戻るのを待っていた。
しばらくしてから、昔馴染みの予測通り、普段通りに戻ったシカクが、にやり、と口角を吊り上げる。


「これで俺は未来の娘をいじめたってシカマルに怒られる羽目になりそうだな」


既にナルをシカマルの嫁に貰う気満々の発言を聞かなかったふりをしつつ、いのいちは助言をひとまずしてやった。

「とりあえず、おっちゃん呼びをやめてもらうところから始めたらどうだ」





そうして、シカマルの嫁候補兼里の英雄が向かった先を気遣わしげに見遣る。
今更ながら、木ノ葉の里を壊滅させた敵の懐へ自ら飛び込んだナルを心配して、いのいちは改めて問うた。


「しかし…本当にいいのか?ひとりで行かせて…」
「今更だな」

肩を竦めてみせたシカクは、既に姿無きナルが立ち去った彼方へ視線を投げると、双眸を閉ざす。
瞼の裏に過るのは、ナルを心から信頼し、一緒に歩いていきたいと願うシカマルの姿。



息子が信じた彼女を、父親であり大人である自分もまた、信じようと思う。
それだけの強さが波風ナルにはあった。



「ナルに託してみよう」




























派遣しておいた黒白の蝶。
情報収集や周囲探索に散開させているそれらからの報告で、ナルトは閉ざしていた双眸を開いた。

「白・再不斬。撤退するぞ」


十分も経たないうちに御堂から声がかかる。
戸惑い気味の白に反して「あいよ」と慣れた様子で再不斬は首切り包丁を肩に担いだ。

「まだ十分も経ってないですよ」
「もう十分だよ」


同じ語句でも意味合いが違う言葉を口々に発する。
不服そうな白をよそに、痕跡を消す為、【霧隠れの術】を発動させようとした再不斬は直前で阻止された。

「その術は使わなくていい」
「だがこの堂が見つかるぞ」
「朽ち果てた此処も雨風を凌ぐくらいはできるだろうさ」


誰かに譲るような物言いをするナルトに、訝しげな顔をしつつも印を結ぶのをやめた再不斬は、御堂に誰かがいた痕跡を消すのみに止める。
その間に【影分身の術】で、ひとり、影分身を残しておいたナルトは、白と再不斬を連れて、御堂を後にした。


やがて木の影から、御堂に近づく存在を確認した影分身は、黒白の蝶を置いて気配を消す。
誰もいない荒れ果てた御堂を見つけて、これ幸いとばかりに御堂の中へ警戒しながら上がり込む忍びを、黒白の蝶が音もなく見下ろしていた。





















ペイン六道を動かす黒い杭へチャクラ信号を送信する為に一番効率的な場所。
より広く遠くへ送信する為に木ノ葉近くの高い樹木の内で、待ち構えていた長門は近づいてきた足音に気づくと顔を上げる。

逆探知して辿り着いた、小南の術の紙で形作られた偽の樹木。
紙でつくられているが故に、幹の紙を手で掻き分ける。

偽樹木の洞の奥。暗がりに潜む存在に、ナルは一瞬、息を呑む。
意を決して足を踏み入れた彼女を見て、長門は冷酷に歓迎した。


「平和がノコノコやってきたか」




樹洞で木ノ葉の仇敵と対面する。
里を壊滅させた元凶を前に、波風ナルの心情は酷く波打っていた。

会って話したかった。それも本当。
直接対面して確認したかった。それも本当。
自分の気持ちを確かめたかった。それも本当。

だけど、どうしても。
抑えきれない感情が此処にはある。

憎しみと恨みで爆発しそうになる彼女の心を落ち着かせたのは、長門のもとへ向かう前に会った元祖・猪鹿蝶の三人。
シカクが言った言葉が、ナルの高ぶる感情を冷静にさせる。


『おまえを信じている』


折しも、九尾化したナルの封印を再度封印してくれた四代目火影の言葉。
自分の父親の一言と同じその言葉が、ナルを正気でいさせてくれる。
深く深呼吸して、ナルは改めて、ペイン六道の本体を見据えた。

「答えを出す為に、話を聞きたい」

過去の話を求めるナルに、小南は渋ったが、長門は思案する。
ナルの真剣な眼差しを受け、承諾しようとしたその時。




「そのお話…僕が聞いても大丈夫な話です?」

不意に暗がりから、第三者の声がした。







気がつかなかった。
ペイン本体である長門と、彼に付き添う小南にばかり気を取られていて、奥の暗がりにもうひとりいたなんて。

ハッと弾かれるように身構えたナルは、暗がりから姿を露にしたその姿に、一瞬、呆けた。

直後、沸々と怒りが湧き上がる。
なんとか沈静化した憎しみ・恨み・憤りが再び、抑えきれずに彼女の中で膨れ上がった。


「おまえ…ッ、」

長門と小南がなんでもないように振舞っていることから、ふたりは知っていたのだろう。
むしろずっとこの場にいたのだ。
気配を消すのが上手すぎて気付かなかった。
いや、ペイン本体に気を取られて気づけなかったナルの落ち度だ。


それでも。
それでも。

「なんで此処にいる…ッ!?」

怒りが爆発しそうだ。
再び九尾化しそうな気配を感じ取って、身構える長門と小南をよそに、飄々とした顔で彼は眼鏡を指先で押し上げる。

大蛇丸の部下であり、サソリの部下でもあり、『暁』の一員である男。
『暁』に入ったサスケと共に、大蛇丸のアジトから消え去った、ナルにとって憎き敵。


そして現在、長門の体調を診る医療忍者として同行していた薬師カブトは、依然と変わらず人当りの良い笑顔をにこり、浮かべてみせた。



「――久しぶり、ナルちゃん」
 
 

 
後書き


ギリギリ更新申し訳ございません…!
前回のタイトル、今回のほうが相応しかったですね…すみません。

それもこれも、今回、元祖・猪鹿蝶の話が長くなったのも、原作一巻でミズキにそそのかされて巻物盗んだナルトを殺そうとした木ノ葉忍びの中にチョウザっぽい忍びがいたからなんですよね…

まあ本人かは明言されてないんですが、もし本人だった場合、一言くらい謝罪がほしいと思い、今回の話を書きました。
そしたら長くなったっていうね…

そろそろペイン編終わらせたいので、どうぞ今後ともよろしくお願いいたします!! 
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