ポケットモンスター対RPG
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第21話:遅参勇者と焦る魔女④
マドノはマシカルを追放してから、『功を焦って目の前の手柄や名声に飛びつき、直ぐ経験値稼ぎをサボらせようとする阿呆がいなくなった』と精々していた事もあって、グートミューティヒに敗けた事などとうに忘れ、寧ろマシカルと言うブレーキ役から解放された反動により、彼らの経験値稼ぎと言う名の大量虐殺は顕著なものと化し、レベルは遂に50を超えた。
しかも、
「本当にレベル50以上だって言うなら、さっさと魔王を倒しちまえよぁー」
のびのびと経験値稼ぎと言う名の大量虐殺を行えた事を喜ぶマドノ達の会話に礼儀知らずな酔っ払いが茶々を入れられても、
「解ってねぇなぁー。何も考えずに手柄に目が眩んで、身の丈に合わない大将首に無謀にも飛びついて討死したら、何の意味も無いんだよ」
と、説教を垂れる始末だった。
が、そんなマドノと酔っ払いとの会話を偶然聞いていた衛兵達が不満そうに酒場に入って来た。
「レベル50で足りぬというのなら、いったい幾つ有れば魔王を倒せるというのだ?」
レベル50以上になった事でいい気になっているマドノは、質問した衛兵達の怒気に気付かぬまま、自分の言い分を包み隠さずに言い放ってしまう。
「魔王を倒すのに必要なレベルは75だ」
実際の魔王討伐推奨レベルは45なのだが、慎重派なマドノはレベル70以上になるまで魔王と戦う気は無いのである。
つまり、それだけマドノ達は長々と経験値稼ぎと言う名の大量虐殺を続けると宣言しているのだ。
それに対し、衛兵達は酒を一気飲みしてからマドノに口答えした。
「じゃあ何か?お前達がレベル75になるまで待てと言うのか?」
そんな衛兵達の怒気に気付かないマドノはあっけらかんと答えた。
「そうだよ。星空の勇者であるこの俺が魔王に敗けたら終わりだろ?だから、そうならない様に―――」
「そう……だよ……?」
衛兵達は怒り狂った。
「ふざけるな!こっちはお前達がいない間、魔王軍に拠点を占拠されてダンジョン化する事態を未然に防ぐ為に、前線を定期巡回しなきゃいけないんだぞ!」
「先日だってな!とある冒険家から『あそこの山がダンジョン化しつつある』と通報を受けて巡回する事になった。そしたら物凄いボスモンスターに遭遇して部隊は壊滅だ!」
「レベルが50を本当に超えてるって言うのなら、さっさとあいつらを倒しに逝けよ!」
が、当のマドノはどこ吹く風で説教を垂れる。
「そう言うお前らのレベルは幾つだよ?」
「なにぃー!?」
「お前らのレベルが低いのを棚に上げて俺達を遅いと言うのは、他力本願なワガママじゃないですか!?」
殺意すら浮かんだ衛兵達が見当違いな悪口を言ってしまう。
「一休じゃない癖に一休を名乗って民衆を騙しておるそうじゃな!?この偽一休!」
それを聴いたマドノが急に怒り出した。
「……偽物だと?」
そして、マドノは偽一休と言う見当違いな事を言った衛兵の胸倉を掴んだ。
「誰が偽者だってぇー?言ってみろ……言ってみろコラァー!」
「え?……マドノ!?」
そんな予想外過ぎるマドノの態度に、フノクもンレボウも首を傾げながら困惑した。
彼らが知ってるマドノは、目先の名声や手柄に惑わされる事無く経験値稼ぎと言う名の大量虐殺に没頭出来る冷静な慎重派だった。
だが、
「何度でも言ってやろう。お前は偽一休じゃ。一休じゃない癖に一休を騙った偽一休は、即刻打ち首獄門じゃぁーーーーー!」
マドノは、自分を偽一休扱いした衛兵を思いっきり殴った。
「ふざけんじゃねぇぞ!この俺が星空の勇者だ!その事実、忘れんじゃねぇぞ!」
フノクやンレボウにとって、マドノがあそこまで名声や栄光に拘る姿を観たのは、これが初めてだった。
「どうしたマドノ!?お前らしくないぞ!」
「落ち着かれよマドノ殿!今我々がなすべきは経験値稼ぎであって、こんな貧弱との無駄な喧嘩ではありませんぞ!」
フノクやとンレボウが必死にマドノを説得する中、新入りのノチはまだマドノの事を理解していないせいか、ぼさっと座っていた。
因みに、この喧嘩の原因である山のダンジョン化の兆候による衛兵巡回の切っ掛けは、マドノ達が1か月以上前に断った依頼を受けたグートミューティヒの進言であり、マドノ達がさっさと依頼を引き受けて達成していれば防げていたかもしれない案件だった。
無論、今回の喧嘩の原因である衛兵部隊の半壊もである。
その日の夜、フノクやとンレボウは今回のマドノの暴走について話し合っていた。
「……今日のマドノ殿のあの態度、どう思います?」
「と……言われてもなぁ……あんな態度のマドノは初めて見るからなぁ」
フノクやンレボウにとって、今回のマドノの暴走は完全に予想外だった。
周囲の意見に惑わされる事無く経験値稼ぎと言う名の大量虐殺を絶対に怠らないあのマドノが、あそこまで必死に名声にしがみ付くとは……
しかも暴力付きで……
「マドノ殿の態度が一変したのは、あの時の『偽一休』……だったかと」
「確かに、あの直後に偽者がどうとか言っていたな?」
フノクはマドノに対するある種の疑念が生まれた。
「まさかとは思うが……」
「なんです!変なタイミングで溜めないで下さい」
「マドノは本当は星空の勇者では―――」
ンレボウは必死に否定した。
「なんて事を言うんですか!マドノ殿が星空の勇者じゃないだなんて!」
「わしだってそう思いたい。じゃが、あんな雑魚衛兵に『偽一休』扱いされたくらいであんなに怒るのが、どうも色々と不自然過ぎると思ってな」
「ですが、マドノ殿は例のバッチを持っていますよ」
確かに、マドノは星空の勇者の証である星空のバッチを持っている。その点は認めるしかない。
「入手経緯は兎も角、あのバッチを手に入れた事事態が奇跡。フノク殿はその奇跡を否定するのですか?」
段々面倒臭くなってきたフノクが取り敢えず頷いた。
「あー解った解った。この話はもう終わろう。後、マドノの奴の前では『偽』は禁止な」
「解りました」
が、どうしても気になる事が有った。
「で、『一休』って誰じゃ?」
「……さぁー?」
こうして、マドノに対する疑念は変な方向に向かってしまうのであった……
それに引き換え、新入りのノチはマドノの異変に気付く事無く熟睡していた。
次の日、経験値稼ぎと言う名の大量虐殺に適したダンジョンを探しに往くマドノ率いる勇者一行の前に、1人のデビルがやって来た。
「……そのバッチ……お前が星空の勇者か?」
それを聴いたマドノが不機嫌そうに答える。
「そうだ。このバッチを視ても解んなかったのか?このアホが」
フノクやとンレボウは、昨日の事があるせいか少し焦る。
「そうか……俺の名はタンジュ。視ての通りの魔王様に仕えるデビルだ」
だが、タンジュは何故かマドノの台詞を素直に信じる事が何故か出来なかった。
(やはりな。俺の鼻が『違う』と言っている。それに)
「おい。本当にこれだけか?」
「それは、レベルの事か?俺達のレベルがまだ52しかない事を笑いに来たのか?」
レベル50の壁を超えた相手。
本来なら最大級の警戒をしなければならない相手なのだが、タンジュの考えは違った。
(本当にそうか?勇者、拳闘士、アーマーナイト、アーチャー……どれも属性攻撃が得意と言えるジョブじゃない。武器も属性攻撃を視野に入れてる感じがしない。これがレベルが50以上もある奴の戦い方か?)
で、結局タンジュはこの場でのマドノとの戦いを避けた。
「……そうか!お前はまだ52か!?なら、これ以上戦っても弱い者虐めになってしまうなぁ!」
そう言うと、タンジュは何もせずに飛び去って行った。
(奴はやはり星空の勇者じゃない!星空の勇者は……別にいる!)
その途端、マドノはタンジュの撤退にかなり安堵し、フノクやとンレボウはマドノが戦闘を避けた事に少し安堵した。
「ふー……アイツの討伐推奨レベルは恐らく69。今戦ったら、俺達は確実に敗ける」
(良かったぁー。マドノがまた偽者がどうとかで騒ぐかと思ったぁー)
ただ、ノチだけは少し蚊帳の外的な状態になってしまった。
「あの2人は何を焦ってるんだ?」
因みに、タンジュの本当の討伐推奨レベルは32である。
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