金木犀の許嫁
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第三十二話 大阪の野球その五
「何でも」
「そうです、ですから」
「野村さんもですか」
「鶴岡さんによく怒られ」
ピッチャーが打たれる度にだ。
「打ってもです」
「それでもですか」
「稲尾さんを打てないと」
稲尾和久、鉄腕と呼ばれた西鉄のエースで南海最大の敵だった。
「またです」
「怒られて」
「苦労してきました」
「そうだったのですね」
「そして苦労してきたので」
そうであったからだというのだ。
「あの人は人にです」
「優しかったんですね」
「はい」
そうだったというのだ。
「あの人は」
「そうでしたか」
「困っている人は見捨てられず」
そうであってというのだ。
「自分のチームに迎えて」
「野村再生工場ですね」
真昼は野村の写真を観つつ応えた、南海のユニフォームを着た若き日の野村が微笑んでそこにいる。
「そうですね」
「そこで再びです」
「活躍出来る様にしたんですね」
「口では一旦言っても」
それでもというのだ。
「見捨てず切り捨てず」
「迎え入れる人だったんですね」
「ですから知っている人は」
野村克也という人をだ。
「野村さんは優しいとです」
「言うんですね」
「そうです、私もです」
幸雄もというのだ。
「そう思っています」
「野村さんは優しい」
「とても」
「そうですか」
「ただ口が悪いだけで」
「あれですか」
ここで真昼はこうも言った。
「ツンデレですか」
「野村さんは、ですね」
「そうでしょうか」
「そうですね」
幸雄は真昼に笑って応えた。
「今で言いますと」
「ツンデレなんですね」
「野村さんは」
「そうした人ですか」
「はにかみ屋で恥ずかしがりで繊細で」
それが野村克也の実の姿であったのだ。
「ついついです」
「憎まれ口を言って」
「ですが本当は」
「とても優しい人だったんですね」
「ですから知っている人はです」
野村という人の実をだ。
「優しくていい人とです」
「言うんですね」
「今も」
「そうです」
まさにというのだ。
「よく知っている人は」
「だから愛されているんですね」
白華は幸雄のその話を聞いて言った。
「あの人は」
「人気があり慕われていて」
「愛されているんですね」
「球界にもよくしてもらった人は多いので」
「そう言うんですね」
「私もです」
「野村さんがいい人だったとですね」
幸雄に対して言った。
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