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万歴赤絵だった

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第一章

                万歴赤絵だった
 父から老舗の料亭を継いでだった、井藤潤一は店の経営に腐心していた。元からの常連へのサービスを忘れず新規の客の確保にだった。
 店の売り上げや財政の状況を常に確認しサイトのホームページも何かあると更新し店の味や食材についても父の経営を踏襲しつつだ。
 コストカットや若い客の確保も考えていた、だが。
「カットすべきところとしないところも線引きが難しいな」
「それが経営だよ」
 父の大典は息子に自宅で話した、家は店の隣にある大きな家だ。息子は眼鏡をかけて細面で黒髪を短くしているが父は眼鏡はかけておらず角刈りである。二人共真面目そうな顔立ちで痩せていて背は一七五位だ。
「わしもいつも考えていた」
「そうだよな、食材だってな」
 息子は腕を組んで言った。
「いいものでないといけないし」
「それでいて赤字にならない様にしないと駄目だぞ」
「今の取引先はいいけれど」
「駄目になるとだな」
「その時の保険も考えて」
 そうしてというのだ。
「探しておかないとな」
「何かあればな」
「そうだよな」
 こう言うのだった。
「世の中何があるかわからないからな」
「それも経営だ」
「そうだよな、店員さん達の待遇だってな」
 息子はこちらの話もした。
「考えないといけないし」
「お給料や待遇もだぞ」
「どっちもな、ブラックはアウトだな」
 そう言われる経営はというのだ。
「やっぱりな」
「すぐに駄目になるぞ」
「店の評判も落ちてな」
「だから店員さんも大事にするんだ」
「そして食材もか」
「あと店の中はいつも奇麗にだ」
「それでいてコストか、悩みが尽きないな」
 淳一は引退した父と経営の話をいつもしていた、そして店にいる間もあれこれ考えかつ動いていた。そして。
 店の食器や飾られている品を見たがふとだった。
 前から店に飾られている陶器、赤絵のそれを見て言った。
「これ僕が子供の頃からあるけれどな」
「その赤絵の陶器ですね」
「いつも思ってたんだ」
 信頼する初老の板前に話した。
「何かなってね。ひいお祖父さんの頃からあるんだよね」
「はい、その赤絵は」
「僕陶芸のことは詳しくないけれど」
 それでもというのだ。
「うちはお店のお皿も凝ってるけれど」
「古い料亭なので」
「このお皿それにも使わないね」
「はい、あまりにも高価なので」
「何なのかな、これ」
「万歴赤絵ですが」
 板前は率直な声で答えた。
「その絵は」
「えっ、万歴赤絵って」
 淳一は板前の言葉に仰天して彼に顔を向けて言った。 
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