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クビになってよかった会社

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第一章

                クビになってよかった会社
 いきなりだ、田所幹夫は勤めている会社から身に覚えのない不正をしたと言われて会社を解雇された。
「えっ、俺そんなことしてないですよ」
「証拠は出ているんだよ」
 上司は唖然とする彼に怒った顔で告げた。
「だから諦めろ」
「クビですか」
「懲戒免職だ、訴えられないだけ有り難く思え」
「証拠って」
「そうだ、これだ」
 上司は彼にそれを出した、だがどれもだった。
 田所には身の覚えのないものだった、横領の話だったが。
「こんな仕事俺は」
「してただろ」
「してないですが」
「しかしこうして出たんだよ」
「だからクビですか」
「そうだ、さっさと出て行け」
 解雇を言ってから一ヶ月の雇用期間もなかった、それでだった。
 彼は即刻会社を追い出された、それでアパートに帰って実家に話すと。
 父の源一郎はそれならとだ、息子に言った。
「うちで農業やるか」
「ああ、それで働けっていうんだな」
「ああ、そもそもお前の会社おかしかっただろ」
 父は息子に言った、大人しそうな細面で眼鏡をかけて黒髪をショートヘアにしているひょろりとした息子と正反対に父は大柄で逞しい身体をしている。白いものが混じっている髪の毛は角刈りにしていて男らしい長方形の顔だ。
「残業ばかりで給料もな」
「安かったよ」
「休日出勤も多かったな」
「ブラックだったよ」
「だったらな」
 それならというのだった。
「いきなりな」
「クビって言ってもか」
「おかしくないだろ、だからな」
 それでというのだ。
「もうな」
「実家に帰ってか」
「うちで働くか」
「そうだな、他に行くあてないし」
「うちも忙しいしな」
「実家に戻るよ」
「それで農家やれ」
「そうするよ」 
 息子は父に答えた、そして父それに自分とよく似た外見の母の富美子と一緒に農家をやった。米に野菜を作って売ってだった。 
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