ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~
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黒星団-ブラックスターズ-part9/ブラックパニック
「ここだな、君の一族が隠している『始祖の方舟』とやらの隠し場所は」
「ほえー、気品なる神社だねぇ。こんなところに始祖の方舟ってのが隠してあるんだ」
そこは、町内のとある神社の敷地内の、社殿の手前の参道。あの病院にて、シュウ達の前からアンリエッタを連れ去ることに成功したブラックスターズを名乗る集団はここへ彼女を強引に連れてきた。
今、アンリエッタはノーバの生やした赤い触手に体を縛られている。
「っく、放しなさい!無礼者!」
アンリエッタは赤い触手の拘束を振り解こうとするが、華奢な体格の彼女ではとても振り解けなかった。
「あなた達の狙いは、我が家の家宝である方舟なのですね。一体何の目的で方舟を狙うのです!」
拘束されて尚、ブラックスターズに対して毅然とした態度を見せることで、アンリエッタは悪には屈しない!と自ら気を奮い立たせつつブラックスターズたちを威嚇する。
「っくっくっく…知れたこと。それは我らブラックスターズの悲願…すなわち、地球侵略のためだ!」
「侵略ですって!?」
隠しようのない悪事のために使う気を満々とみせるブラック。
「君たち下等な人間にも教えてやろう。我らブラックスターズの崇高且つ周到な侵略計画を!」
ブラックはよほど自分たちに自信があるのか、頼まれてもないのにこれから実行しようと言う侵略計画の詳細を話し出した。
「方舟を手に入れたら、まずは方舟に搭載された兵装全てを開放し、その武力で都庁を占拠する。そこの電波塔を用いて、怪電波をこの国全域に向けて発する!」
「怪電波…!」
もしや、侵略を円滑に進めるべく、この国の通信回線を破壊し各地で混乱をもたらそうというのだろうか。確かにそうなれば、物資の滞りや連絡の大幅な遅延、警察や消防等も機能が停止させられ、暴動の元にもなりうるだろう。そうなればこの国は異星人でなくとも他国から真っ先に侵略対象と見なされかねない。派手さに欠ける地味な手法だが、だからこそ有効。このブラックと言う女、思った以上に敵ながら厄介な存在かもしれない。アンリエッタは強敵としてブラックを見始めていた。
…が、次のブラックの発言でその評価はガラッと落ちた。
「その怪電波を浴びせられたこの国全ての『リア充カップル』共を破局させ、不幸のどん底に貶めてやるのだ!
リア充爆発しろ!だーっはっはっは!!」
「…は?」
アンリエッタは一瞬、自分の耳がおかしくなってしまったのだろうかと思うしかなかった。この女は正気で言ってるのだろうか。
だって…ねぇ?
たかがリア充への嫉妬心なんかのために、こんな騒ぎを起こす奴がいるなんて、思わないよねぇ?
「ふ、恐怖の余り声も出ないようだな」
目が点になっていたアンリエッタをよそに、ブラックは勝手に彼女が恐怖に慄いていると勘違いしていた。
(い、いいえ!騙されてはなりませんわ!こんな下らない計画のためだけに我が家の家宝を狙うなどと!何か別の、それも大きな悪意をきっかけとしているかもしれないわ)
イヤイヤとアンリエッタは首を横に振り、この女は実際に口に出したしょうもない理由のためではなく、間違いなく皆が思う類の地球侵略を目論む悪意ある異星人なのだと考えた。…というか、必死で自分に言い聞かせていた。
「会長!」
「無事か!?」
「や、やっと追いついた…」
そんな彼女の危機に、サイトと、シュウ、彼を追う形でテファが追いついた。
「済まん、隙を突かれて彼女を連れ攫われた」
「私が悪いの。会長と先輩が、私を庇ったから…」
サイトを見ると、シュウとテファはサイトに詫びた。あの病室にて一番近くにアンリエッタがいたのに、みすみす連れ攫われ今に至る状況に陥らせた責任を感じていた。話を聞いてサイトはこの状況に至るまでの流れを読んだ。恐らくあのブラックと言う女、あの場で最も戦力が劣るテファを敢えて真っ先に狙い、そこをアンリエッタが庇ったのだろう。
実際ほぼその通りである。このブラックスターズを名乗る女達の一人である銀髪の少女がテファとシュウに向けて酸性の粘液を飛ばし、アンリエッタがそれを庇う。シュウもそうくるとは予想していたのだが、そのわずか一瞬の隙を見た赤マントの少女がアンリエッタを触手でひっ捕らえ、そのまま病院を脱走、それをシュウたちが追ったことで現在に至る。
「いいさ。それよりあんた、会長を放せ!」
なってしまった以上は仕方ないし、今のところアンリエッタはまだ無事だ。ならここで何としても助け出さなければ。サイトはブラックスターズのリーダーに向けてアンリエッタの 引渡しを要求した。
「そうは行かん。彼女には、彼女の一族が隠している始祖の方舟の解放のために協力してもらう」
しかし当然、相手側はその要求を呑むはずもない。
「始祖の方舟?」
「我が家が先祖代々より守っている家宝です。彼女たちはそれを狙って私を拐かしたのです。サイトさん、どうか私に構わずこの者たちを!」
聞いたことない単語を見聞きして首を傾げたサイトに、アンリエッタが説明し、自分に構わずブラックスターズをやっつけるように申し出る。そうは言うが、だからと言ってアンリエッタに構わずあの女たちを倒すなんて簡単にやっていいことではない。ルイズのこともあるし、何より自分たちの良心の啞責が躊躇させた。
「そうはさせない」
ブラックは、サイトたちがこちらに手を出す前にと手を振ってきた。胸元に手を突っ込み(サイトがうっかり鼻の下を伸ばし、シュウからは冷めた目で、テファからはちょっと軽蔑を込めた目で見られた)、そこから紐でくくりつけた五円玉を取り出し、アンリエッタの眼前に垂らす。
「五円玉…って、まさか催眠術?」
おそらく…いや確実にその手の手段だろう。しかしあまりにありふれたやり方なせいで胡散臭さを覚える。
「お前は1、2、ジャ◯ゴで我らの意のままに動くしもべとなーる」
「ワ◯ピースかよ!しかも古!」
しかも口上についてもツッコミ待ちなのかと思うようなそれで、ついつられるようにサイトは突っ込んでしまった。
「1、2…ジャ◯ゴ!」
そんなサイトのツッコミを無視してブラックはアンリエッタに催眠をかける。すると…驚く結果が出た。
アンリエッタの目が正気を失い、虚ろなものへと変わっていた。
「よしよし。では会長殿。始祖の方舟を」
「はい…ブラック様」
「な…まさか会長!」
アンリエッタの、明らかにブラックへの従属とも取れる言動にサイトたちはギョッとした。
「あんな阿呆らしい口上で、彼女ほどの人間が操られるとは…」
「おい貴様!私が三日三晩考えた口上にケチをつけるのか!」
ブラックの使った催眠術の効果に戦慄を覚える一方、口上について辛辣な評価を下すシュウに、ブラックは怒り出した。
「三日三晩考えたって言うけど、考えた三日目で何も思いつかなくて、結局漫画喫茶で適当に見かけた漫画から適当にパクっただけじゃん」
「シルバーブルーメ!余計なことを!」
(マジでパクったんかい)
しかもシルバーブルーメから口上の裏話をカミングアウトされてしまう。しかも結局パクったというか事実。サイトたちは、アンリエッタが操られると言う危機にありながらも、その危機意識が欠けてしまうブラックの間抜けさにやや毒気を抜かれ、彼女を見る目が「こいつ実は馬鹿なんじゃね?」とでも言ってるような呆れまじりのものになってしまった。
「え、ええい!そんな目で私を見るなぁ!私は未来の地球の支配者だぞ!」
そんな視線に居た堪れなくなったブラックは今すぐその視線をやめろと抗議するが、残念ながら彼らの視線は変わらなかった。
いや、この女よりもアンリエッタだ。
「アンリエッタ会長!目を覚ましてください!」
「無駄だ。口上はともかく効果は中々にある。そう簡単に彼女は目覚めないぞ」
テファがアンリエッタに呼びかけるが、反応はない。ノーバもブラックの催眠術の効果については認めているようで、呼びかけてもどうにもならないと告げる。後ろでまた口上をディスられたブラックは「お前もかノーバ…」と歯噛みしていたが無視された。
操られたアンリエッタだが、社殿の前で両手を広げると、一人でに踊り出した。と言っても、テレビで見かけるようなアイドルのそれとかお笑い芸人の一発芸って感じではない。一言で言えば、神社で働く巫女の、神へ捧ぐ祈りの意味合いを持つ舞踊であった。
このような状況だと言うのに、見ているもの全員が、アンリエッタの祈りの舞踊に魅入られていた。だが魅入られている中で、アンリエッタの体に異変が起きる。彼女の体から、エメラルドグリーンに輝く不思議な光が仄かに光り、やがて強い輝きを放つ。それに呼応するように、社殿も同じ色で輝き始めると、驚くことに社殿は、まるで特撮で見られる…戦闘機発進の際に各部を変形させる防衛組織のミニチュアのように、地面の中へと引き摺り込まれていった。代わりに、地面の中より一機の、赤紫のラインのアクセントを入れた大型戦闘機が現れた。その戦闘機はブラックたちを迎え入れんと、内部へ続く入り口のハッチを開いた。
それを見てブラックはよほど待ち望んでいたためか大きく歓喜した。
「だーっはっはっは!これが始祖の方舟『ジャンバード』、我らブラックスターズの新たな居住拠点にして城となる宇宙船か!
まさにこの星の未来の支配者たる我々に相応しい船だ!」
「おぉ〜、これが例の。SF映画の宇宙船みたい!」
「ふむ、悪くない」
シルバーブルーメもノーバも、現れた戦闘機に対して満足げに見上げていた完全に自分たちのものだと言わんばかりである。
「これが始祖の方舟?」
アンリエッタの実家が代々保持していたものが、よもやあのような超文明の科学力で生まれたような機械だとは思わず、サイトたちは目を奪われていた。
そんなサイトたちを見て、ブラックは頼まれてもいないのに、あたかも元より自分たちの物のように、説明し始めた。
「始祖の箱舟は、ただの飛行艇ではない。座標を打ち込めばあらゆる地に自動で飛行し降り立つことが可能で、艦内の設備も居住性に優れて非常に良い。兵装もミサイル•ビーム•レーダー搭載済みで完璧だ。噂の光の巨人共にも引けは取らぬだろう。しかも極めつけは、この船は欠片サイズでも芳醇なエネルギーを持つあのエメラル鉱石で稼働することが可能。くっくっく…まさに侵略のために用意されたと言っても過言ではない素晴らしい船だ!」
だーっはっはっは!とブラックは再度高笑いを上げる。
「あっはっはっは!さっすがブラックちゃん!実際のところ滞納気味の家賃払えなくなってアパート追い出されたから新しい拠点を探し回ってたところで、新しい寝床として方舟をかっぱらおうとしてただけなのに!」
「おい、余計なことを言うんじゃない!我らブラックスターズの威厳が損なわれるだろ!」
「そもそも損なうほどの威厳も私たちにはない」
「ノーバ!」
しかし結局、同じ目的と思想のもとで動いている仲間たちから茶々を入れたれからかわれてしまう始末であった。全くリーダーとしての尊厳が感じられない。しかもこの船を狙った動機が…ただの居住場所を求めてのことだった。
「普通に働いて借宿借りてこいよ」
「や、やかましい!あそこは我らの計画を邪魔する厄介な邪魔者がいるせいで、侵略計画を練る暇も資金もたまらないのだ!」
「邪魔者って大家だろそれ」
至極真っ当な突っ込みを口に出すサイトに、ブラックは言い訳をかますが、ますます見苦しい様を晒してしまう。あまりにも呆れさせられる事だらけで直接突っ込むことすら疲れてきたサイトは、シュウとテファの方へ目を向ける。
「あのさ、あいつらって言うかあの女…馬鹿?」
「言うまでもない…が、こんな頭の悪い女如きに、護衛対象をみすみす連れ攫われるとは…」
「え、ええっと…実はもしかしたらもっとすごい力を隠してるかも。…多分」
「貴様らぁ!聞こえてるぞ!」
サイト、シュウ、テファ三人がこそっと互いに囁き合うが、しっかりブラックの耳に入っていた。
「ま、まぁいい。この船を手に入れた暁にはブラックスターズの悪名を轟かせることなど容易い」
少し頭に熱が入っていたことを自覚したブラックはひとまずき咳払いする。
「さあ行くぞシルバーブルーメ、ノーバよ!これより始めるぞ!我らブラックスターズの、侵略快進撃を!」
ブラックは高らかに宣言し、アンリエッタを引きつけたまま始祖の方舟ジャンバードへ乗り込もうとした。
「待ちやがれ!会長を返せ!」
アンリエッタを返すよう求めるように引き止める。しかし、ブラックたち振り返り、シルバーブルーメがアンリエッタに袖の口を向ける。
「君たちに我らを止められると思うなよ?さもなくば、彼女に…」
「私のジェリースプラッシュを浴びせて丸裸にしちゃうヨォ?」
「ぬぁにぃ!?」
とんでもない内容の脅し文句にサイトが素っ頓狂な声を上げてしまった。
…空気が冷え込んでしまった。
しまった、とサイトは後悔した。恐る恐るシュウとテファの方に目をやると、二人のサイトに向ける視線が、槍のように突き刺さった。
「お前状況わかってるのか?」
「サイト…最低。会長彼氏持ちなのに」
「ぐ、くそ、卑怯な手を!」
敵ではなく味方からの視線で精神が割と大ダメージを受けたが、サイトは表面的な義憤を露わにすることで誤魔化し半分に持ち直した。
「なんとでもいうがいい!戦いとは最後に立っているのがどちらか、それだけだ!卑怯もらっきょうもないのだよ!」
だーっはっはっはと幾度目になるのかもうわからない数度目の高笑いを上げる。
「行くぞジャンバードよ、我らを乗せていざ!」
ブラックはジャンバードのハッチ裏に展開された階段へ足を踏み入れようとした…その時であった。バシュン!という機械音と共に、ジャンバードのハッチが閉ざされ、ブラックは勢いよく前に転んでしまった。
「ふご!?」
「ブラックちゃん?」
突然の事態に一瞬困惑したが、すぐに転んだブラックの元へ駆け寄るシルバーブルーメとノーバ。
「わっはぁ〜、すごいズッコケぶりだったねぇ。とりあえず写メ撮っとこ」
「おい、そこは怪我がないか気遣う所だろう!」
大丈夫かどうか訊くのではなく、黒歴史の撮影にかかって携帯端末を出して撮影したシルバーブルーメに、ブラックはがばっと立ち上がって土に塗れた怒り顔を露わにした。
「あ、あら…私…」
「会長!」
今ブラックが転んだことがきっかけなのか、アンリエッタも音が切れたように座り込み、同時に催眠が切れて正気に戻っていた。それを見てサイトたちも彼女の元へ駆けつけて確保する。
すると、そんなサイトたちの耳に、ジャンバード内からのものと思わしき声が聞こえてきた。
『残念だったなぁ、この船はこのバロッサ星人バロム様が頂いたぜ!』
その声と同時に、サイトたちの前に電子モニターが現れ、顔にうずまきを描いた金色の怪人の姿が映された。
「な…き、貴様はバロッサ星人!」
ブラックはその顔を見てきっと睨みつける。
『俺もこの船のことは聞き及んでいてな、しかしその女の一族が厳重に管理してるせいで手を出せず、どうやって手に入れてやろうか悩んでいたところだったが、お前らみたいな間抜けな連中が掘り起こしてくれて助かったよ。おかげでこの船を掻っ払うことができたぜ』
「ま、間抜け…!ええいふざけるな、この船は我らブラックスターズのものだ!返せ卑怯者!」
『だーれがせっかく手に入れたブツをくれてやると思うんだよバーカ!一度手に入れた以上は俺のもんだ!』
「何をおぉ!」
ジャンバードの怪人、バロッサ星人のバロムから横取りをされて怒り心頭のブラックが抗議するが、当然バロムは聞き入れることはなかった。
「盗人猛々しいとはよく言ったものですわね。…いえ、あれを守る身でありながらみすみす奪われた私がとやかく言えることではないでしょうが…」
元は先祖の代から管理者の役目を担っていたアンリエッタとしては、盗人同士の身勝手な喧嘩に過ぎず、聞くに耐えないものであった。それだけに、こんな奴らに大切な始祖の方舟を奪われたことが情けなく思えていた。
「先輩が気に止むことなんてないです!盗んだこいつらが悪いんだ!」
落ち込むアンリエッタをサイトが励ました。
『この船を手に入れた以上、てめえらにも用はねぇ!まとめて全員踏み潰してくれる!行け、ジャンバード!戦闘形態に変形しろ!ジャンファイトだ!』
内部のバロムがジャンバードに命じると、ジャンバードはそれに呼応して浮上、船体の全域をエメラルドグリーンに輝かせる。その光の中で、ジャンバードの両翼が船体へと吸い込まれ、代わりに鋼鉄の両腕と両足が、そして甲冑で覆われたような顔が飛び出て、鋼鉄の武人へと姿を変えた。
『バロロロロロ!どうだ、これがジャンバードの真の姿にして戦闘形態、ジャンボットだ!』
「戦闘形態だと!?そんな機能まで搭載されていたのか?!」
ブラックはジャンバード入手に伴って、ジャンバードの情報を手に入れていた一方で、その全てを知り尽くしていたわけではなかったらしく、鉄人となったジャンバード、もといジャンボットに動揺していた。
その間にバロムはジャンボットを動かして、周囲の建物を破壊し始めた。
『バロバロバロ!この街を破壊し尽くして金品の全てをバロッサの兄弟たちに土産として頂いてやらぁ!』
自ら破壊を齎し、略奪を目論むバロム。たちまちサイトたちのいる神社も、長きに渡って積み上げられた歴史を根本から消去される勢いで粉々になっていく。
「ねえブラックちゃん、流石にこれは手に入れるどころじゃないんじゃないかな」
ブラックたちにとってもこの事態はまさに危機であった。シルバーブルーメが飛び散ってこちらに降りかかる瓦礫を、自分の粘液で溶かしながらブラックに、ジャンバードのことを諦めるべきではないかと提案する。
「クソォ、こんな時にサツキ君がいてくれさえすれば」
ブラックは、暴れるジャンボットを見上げて悔しげに爪を噛む。
「次の期末テストが近いからとかで今はいないもんねぇ」
シルバーブルーメが肩をすくめながら言う。実はブラックスターズにはもう一人メンバーがいたのだが、その子は現役の学生らしく、家庭の事情が絡んで今ここにはいないのである。
「無駄口を叩いている場合じゃない。さっさと逃げるぞ」
ノーバが仲間の二人に向けて撤退を進言し、ブラックはやむを得ないか…と呟く。
「今は引くぞ!いずれ最後に、我らブラックスターズが勝利するために!」
ついに撤退を決断したブラックは、仲間の二人を引き連れ、瓦礫の雨の中を掻い潜りながらこの場から逃げ出していった。
「おい!待ちやがれ!」
サイトがブラックスターズに留まるように言うが、ジャンボットがこちらを標的に鉄の拳を振り翳してきて、引き留めるどころではなかった。シュウもテファを抱えながら、ジャンボットから距離を置くのに精一杯だ。
「くそ、罰当たりな野郎だぜ!」
サイトはジャンボットを使って破壊を繰り返すバロムに吐き捨てる。異星人にとって、地球人の信仰する神など戯言や妄想の類に過ぎないのだろう。
「サイト!アンリエッタ!」
「テファ、無事かい!?」
この非常事態を察してサイトたちの元に、タバサとクリスの二人と、テファを案じてアスカとマチルダが車に乗ってやってきた。
「良いタイミングだぜみんな!先輩とテファを頼む!」
「サイトたちは!?」
テファはサイトたちの身を案じて足を止めかけるが、シュウによってアスカの車へと誘導されていく。
「俺たちは奴を止めにいく。マチルダさん、アスカ。車を出してくれ!」
「あぁ、こっちは任せろ。無茶はくれぐれもすんじゃねぇぞ、特にシュウ!」
「なんで俺にだけ強調するんだ」
「そりゃ、お前結構無茶しまくってきただろ?もうボロボロなのにみんなを守ろうと突っ込んで行ってさ。まるで若い頃の俺みたいだぜ」
「いつの話だ。俺とあんたは、そんなに深く関わってもいないはずだぞ」
「あー、言われてみりゃ確かに…」
アスカは、まるでシュウがあたかも無茶をしでかすことを見越したような口ぶりで忠告を入れてきた。しかも、さほど深い関わりがあったわけじゃないはずなのに、まるで知ったような口ぶりで声をかけてくる。しかも本人もなんでだろうかと首を傾げている。なんなのだこの男は、と思いつつも、テファとアンリエッタを乗せて車のドアを閉める。
「みなさん、可能であれば始祖の方舟…ジャンボットの動きを封じてください。隙を見せれば、私の手で止めて見せます。」
「止める?あれを停止させる手段があるのか?」
ジャンボットを停止させる手段がある。それを聞いてシュウがアンリエッタにその詳細を訊く。
「はい。このように悪しき手のものから奪われることも想定事態はされておりました。故にジャンボットには、正義の心を宿す人工知能が組み込まれていると伝えられています」
「人工知能…」
あれだけの大型サイズのボディを動かすほどのロボットだ。元々今の地球の科学ではありえないほど高度な文明で作られたものだろうと察した。そんなものがどうしてもこの星に、神社に隠された秘宝として現存しているのか気になるところだが、今はそんなことを気にしてる場合ではないので置いておくことにした。
「ですが今のジャンボットは、あのように本来の自我が目覚めていない、操縦者の意ののままに動くだけの存在。ですが、始祖の方舟の管理者である私の声が届けば、ジャンボット自らの自我を目覚めさせ、あの者を船外へ追い出すことができるかもしれません」
「わかりました!とにかく奴の動きを止めればいいんですね」
なすべきことはわかった。なら後は、いつも通り戦ってアンリエッタの言う通りにやってみるだけだ。
「でもお二人の命が危険と思ったら、その時は破壊しても構いません!どうかあの痴れ者を仕留めて街をお守りください!」
最後にアンリエッタがそう言ったところで、サイトとシュウの二人を残し、アスカの車は暴れるジャンボットとは反対側の方角へと走っていった。
「さて、行けるか先輩?」
「問題ない。お前こそどうだ」
「無問題!」
隣に立つシュウを横目で見て、サイトはウルトラゼロアイを取り出す。コンディションを問う。既にエボルトラスターを握っている辺りいつでも行けるといった様子だ。
アンリエッタとテファは、アスカたちに託し、護衛役もクリスとタバサがやってくれている。ブラックたちには逃げられたが、今はジャンボットと、それを駆るバロッサ星人。
なら後は戦うだけだ。
「デュワ!」「ふん…!」
サイトがゼロアイを装着し、シュウはエボルトラスターを掲げて、二人はそれぞれ光の巨人へと変身した。
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