| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

カンピオーネ!5人”の”神殺し

作者:芳奈
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第一部
  三月の戦闘 Ⅴ

 鈴蘭は、何時の間にか右手に黒いグローブのような物を嵌めていた。ドニから転移魔術で距離を取り、M16で牽制しながら拳を振りかぶる。そして・・・

 ドゴン!!!

「ウグ・・・ア・・・!」

 尋常ではない程の音と衝撃。爆発音にさえ聴こえる程の音が響いた。【鋼の加護(マン・オブ・スチール)】を最大発動していたドニを、十数メートル吹き飛ばし、多大なダメージを与える。

「馬鹿な・・・。何だ彼女は・・・・・・。一体いくつの権能を持っている・・・!?」

 情報によれば、彼女たちがカンピオーネとなったのは三ヶ月前だった筈だ。それだけの期間で、少なくとも『呪力を爆発的に増加させる権能』、『自身の傷を、纏っている衣服すら含めて修復する権能』、『遠距離から途轍もない威力で殴りつける権能』の三つの権能を持っている事になる。もしかしたら、アメリカのカンピオーネであるジョン・プルートー・スミスのように、一つの権能で複数の能力を持つ権能なのかもしれないが、そういう権能は使用に制限がつくのでは無かったのか?

(いや、比較対象がジョン・プルートー・スミスしかいないのだから、こんな考察は意味がない・・・か。だが、それにしても・・・)

 強すぎる。

 恐らく彼女は遠距離主体の戦闘方法なのだろう。転移魔術すら軽々と駆使する彼女と、近距離主体のドニでは相性が悪すぎる。・・・だが、それを考慮しても強すぎるのだ。これが、カンピオーネとなってたかが三ヶ月程の小娘だと誰が信じられるだろうか?カンピオーネとなってから数十年経っていると言われても信じてしまいそうな圧倒的な強さ。

「これが・・・極東の【聖魔王】か・・・!」

 アンドレアは、背筋に走る悪寒に体を震わせた。




「もしかして、あのマシンガンも権能なのかな・・・?さっきから弾切れの様子がない。」

 ずっと観察していたが、マガジンを変更する素振りすら見せない。つまり、ジョン・プルートー・スミスのように銃を媒介とする権能なのではないか?とドニは考えた。

「でも、それにしたって、これ程の威力を持つ弾丸を際限なく撃ち続けるだなんて変だよねぇ・・・。」

 彼のように防御系か、因果律を逆転させる、もしくは時の流れを操作する権能でなければ、この攻撃は防げまい。例え黒王子(ブラック・プリンス)の雷に化身する権能【電光石火(ブラック・ライトニング)】の神速でも、この膨大な呪力を纏った銃弾の雨を避けきるのは不可能だと判断する。

「ぐ、はっ・・・!!」

 腹部に走った衝撃に悶絶する。体を鋼鉄以上の硬度へと変質させ、半ば不死性を取得するこの【鋼の加護(マン・オブ・スチール)】を最大発動させてこれ程のダメージを受けるのだ。この不可視の打撃は、視認することも、予兆を感知することも出来ない為に避けることは不可能だ。

「それに・・・!」

 彼女の一番理解不能な部分は、それだけの攻撃を絶えず連発しておきながら、呪力が衰える様子さえ見えないところだ。

 権能とは、呪力を糧として発動する物である。攻撃系でも防御系でも、補助系でもそれは変わらない。現にドニの【斬り裂く銀の腕(シルバーアーム・ザ・リッパー)】も、【鋼の加護(マン・オブ・スチール)】も、発動中は常に呪力を消費している。一撃が大きい放出型ではなく、効果を対象に纏わせる常駐型だから消費は少ないが、それでも呪力を消費しているのである。

 ・・・なのに、彼女にはその様子が全く見られない。一体どういうことなのか?

「・・・でも、前に進まなきゃ、勝てないんだよねぇ!」

 剣を振る。元より彼にはそれしかない。彼女の権能の正体が分かろうが分かるまいが、彼にはそれしか出来ないし、それ以外をするつもりもない。多少理不尽な展開ではあるが、神々やカンピオーネとの戦闘とは最初からそんな物だ。今さら嘆いても仕方がない。

 だから彼は進む。その身に襲いかかる銃弾の嵐も暴風の風も、見えざる打撃さえも無視して突き進む。

「うわ・・・凄い。」

 そんな彼の姿に何か感じるものがあったのか、鈴蘭からは感嘆の溜息が。

「女性のお腹を躊躇いなく斬るような鬼畜だけど、戦闘にかけるその意気込みだけは評価してもいいかな!」

 そう言いながら、無慈悲に威力の高い不可視の打撃を乱発してくる。それに打たれながらも、ドニは突き進む。一撃で戦闘不能にさえならなければ、カンピオーネの修復能力でゴリ押し出来る。無論、カンピオーネの修復能力にも限度があるし、実際彼の怪我も出血を抑える程度にしか役立っていないが、彼はそれすらも無視している。 

「ど根性って奴?嫌いじゃないよそういうの。」

 唐突に、攻撃を止めた鈴蘭。彼女の行動が理解出来ず、ドニは眉を顰めた。

「でも、このままだと勝負つかなそうなんだよね。遠距離から一方的に攻撃っていうのも何か格好悪いし。」

 そう言いながら彼女は、虚空から純白の日本刀を取り出した。

「・・・凄い。」

 思わずドニが呟いてしまう。それほどの刀。先日翔希が見せてくれた”黒の剣”とは真逆。柄から刀身まで、全てが神々しいまでの純白に染め上げられているのだ。感じる威圧感は”黒の剣”の比では無いが、それでも十分な業物だと判断できる。

「私が権能で創ったの。」

「キミが創ったのかい!?」

 ドニはその言葉に驚愕する。超一流の刀鍛冶でも作れそうもないそれは、神代の刀だと言われても信じてしまいそうな程の力を、威圧感を放出している。それが、自分よりも若い目の前の女性の手で創られたなど、簡単に信じられる訳がない。

「貴方の能力だけ教えられるのも不公平だし、そろそろ私の権能も教えて上げる。」

 謎のままだった彼女の権能を聞けるとは思っていなかったドニとアンドレアは驚愕した。普通、自身の能力は隠しておくものなのだ。賢人議会に調べられたとしても、出来るだけ秘密にしようとするのが普通である。

 ドニの場合は、彼の権能が、教えた所で対処出来ない類の権能だから公開しているのだ。最強の矛と最強の盾。その二つを所持していることを知られた所で、痛くも痒くもない。その代わり、他に持っているいくつかの権能は秘密にしているが。

 今回のように、他のカンピオーネとの戦闘になることも考えられる為、鈴蘭が自身の権能を教えるということは、教えても問題ない能力なのか、それとも、誰にも負けない自信があるのか?

「私の権能はただ一つ。『万物の根源たるアルケーを生産し、それを加工する』という権能。ただこれだけ。」

『は?』

 だが、この答えは二人とも予想していなかった。

「あ、あれだけ多彩な攻撃をしてきて、権能がそれだけ?・・・流石に、いくら僕でも信じられないな。」

 馬鹿にされたと感じたのか、ドニの言葉に刺が混じる。が、鈴蘭はそれを笑って流した。

「アルケーは、万物の根源。だから何にでも成れる。私は、それを呪力に加工しているだけ。これの変換効率は凄いんだよ?『呪力を使ってアルケーを創り、そのアルケーを圧倒的な量の呪力に変換する』。私がやっていたのはただそれだけなんだよ。このマシンガンは、ウチの科学顧問(ドクター)が創った物で、私がアルケーから創った弾丸を発射してただけ。『魔王の見えざる手(タキオン)』も、元々私が持ってた能力だし。怪我だって、怪我した部分の細胞をアルケーで創れば、すぐに治るしね。」

 彼女の言葉を理解して、アンドレアは戦慄した。

(それでは、弱点などないじゃないか!)

 後に賢人議会によって、【無限なるもの(The Infinite)】と名付けられる権能。彼女の能力は、要訳してしまえば『何でも創れる』という能力なのだ。無限に呪力を創り、それを攻撃や防御へと変換出来る永久機関。特殊な攻撃力も防御力も無いが、重症すら即座に修復し、減った血液すら補填出来るため、即死しない限りは無限に戦い続ける事が出来る。

 コレが、どれだけ厄介な能力か分かるだろうか?先日の翔希がやったように、ただの魔術ですら、相応の呪力を注ぎ込んでやれば神々にすら通じる攻撃となるのだ。防御の術も同じ。圧倒的なエネルギーさえ存在するなら、神々の攻撃を防ぐことなど容易い。

 つまり、彼女との戦いは、長引けば長引くだけ不利となる。自分は呪力や体力を消費していくのに、彼女は体力以外の損耗がないのだ。普通は、自分の持っている呪力を攻撃や防御に割り振らなければならないのに、彼女は一撃一撃に100%の力を注ぎ込む事が出来る。

 オマケに、彼女の権能は戦闘にしか使えない権能ではない。むしろ、日常生活でその威力を発揮する権能だろう。

 元手がタダで、無限に何でも創れるのだ。

 伝承が確かなら、アルケーは万物の(もと)となる存在だ。それを好きなように加工出来るというのなら、それこそ、ミスリル銀やらオリハルコンやらという、超希少金属や想像上の金属ですら創れるのかも知れない。

 シンプル故に最強。 

 その言葉が、二人の脳裏を駆け巡った。

「つまり、その刀はその能力を駆使して創ったんだ?」

「そう。ヒヒイロカネ、ホーリーミスリル、オリハルコン、ダスマスカス。考えうる限りの金属を使って、今創ってみたの。最後に、刀身にエーテルでコーティングしてある。」

 クラリと、アンドレアは倒れそうになった。伝説上の金属や希少金属のオンパレード。更にそれを加工する技術。トドメにエーテルの武器転用など、コレを売りに出したらそれだけで一国が買えてしまうかもしれない。この魔王にとっては、今回の報酬である二億円などはした金ではないか!

「さて。」

 鈴蘭が、刀をドニに向けながら笑う。

「もうそろそろ終わりにしない?勝負しようよ。勝利条件は、相手に武器を突きつける。・・・つまり、寸止めね。私もあんまり痛い思いとかしたくないし。」

「え~!ここまで気分が乗ってきたのに・・・。」

「ド~ニ~・・・!!!」

 何時の間にか近づいていたアンドレアが、ドニの首を絞める。まだ【鋼の加護(マン・オブ・スチール)】を発動しているために痛くも痒くもないのだが、それでもアンドレアがどれだけキレているかがわかったらしい。

「はぁ・・・。分かったよ。」

 シブシブその条件で納得するドニ。やっと安堵できたアンドレアは、瞳の隅にキラリと涙を流しながらその場を離れる。巻き込まれないようにするためだ。

「じゃぁ・・・いくよ?」

「うん。このコインが地面に落ちたらでいいよね。」

 鈴蘭が懐から一枚のコインを取り出し・・・宙に弾いた。

『・・・・・・』

 それぞれの武器を構える二人。鈴蘭は、日本刀の極意の一つとも言える抜刀術の姿勢。ドニは全くの自然体だ。実は、鈴蘭はこの抜刀術がカッコイイという理由で、睡蓮に教えてもらっていたのだ。厳しい修行だったが、戦いに関するカンピオーネの学習能力の高さも相まって、実践で使えるレベルには至っている。

 キン!とコインが音を立てた瞬間

『!!!』

 二人は同時に駆け出した。

「シャア!!」

「・・・フッ!!」

 疾さを極めた剣術とも言える抜刀術と、ドニの全くの自然体からの一撃。普通に考えれば抜刀術の方が先に届くはず。

 ・・・だが、その程度も覆せないようでは、【剣の王】を名乗るには値しない。

「いい腕だ。けど、まだ足りない。」

 ドニの魔剣と鈴蘭の創った刀がぶつかり合い、一瞬のうちに刀は斬り裂かれた。どう考えても彼女の攻撃のほうが早かったはずなのだが、ドニはそれを完璧に防御して、逆に武器を破壊することに成功したのだ。

「終わり!」

 そのまま流れるように魔剣を振りかぶって鈴蘭に斬りかかるドニ。だが・・・

「うん。終わりだね。」

 その言葉と共に、斬り裂かれた筈の刀が、ドニに向かって伸びてきた(・・・・・)

「!?」

 動揺しながらも攻撃を続けたところは流石だが、今回ばかりはその一瞬出来た隙が致命的であった。

「一度、言ってみたかったんだよねぇ・・・。無限の剣製(アンリミテッド・ブレイド・ワークス)・・・って。」

 彼女たちを、無数の輝きが囲む。

 それは刀であったり、直刀であったり、はたまたナイフだったりもした。多種多様な武具が、その切っ先をドニに向けており、その喉元には先程伸びてきた(・・・・・)日本刀が突きつけられていた。

「・・・まいったよ。まさか、一度斬り裂いた武器が再生するなんてね。」

 その言葉を聞いた鈴蘭は、全ての武器を消し去った。

「武器を創るのも継ぎ足すのも変わらないでしょ。」

「そりゃそうだ。」

 クククッと彼は笑う。現に彼女は、腹部の傷に、アルケーで作成した新しい細胞を継ぎ足して(・・・・・)治しているのだ。それが武器にも使用出来ると考えなかった彼が悪い。

「楽しかったよ。また今度戦おうね!」

「ま、気が向いたらね。」

 そう言いながら、最初にやったように彼女がパチンと指を鳴らす。

『ウッ!?』

 またもやあの不快な感覚が襲ってくる。それと同時に、世界は戻った。

「じゃ、ドニは出てってね。私の報酬の為に。」

 結構酷いことを平然と言う鈴蘭。まぁ、迷惑ばかりかけさせられているのだから、これぐらいの悪態は普通かもしれないが。

「分かったよ。じゃ、またね!」

 笑いながら去っていくドニ。それを追いかけようとしたアンドレア(苦労人)は、何かに気がついたように鈴蘭へと走り寄ってきた。

「それでは【聖魔王】様。今回は色々とご迷惑をおかけしました。報酬やその他の話は、明日にでも。それと・・・」

「ん?何?」

「【聖魔王】様の創った武器などは、依頼すれば創って貰えるでしょうか?」

 その言葉に、鈴蘭はニヤリと笑い。

「伊織魔殺商会に、お任せあれ♪」

 こうして、迷惑な魔王は去り、日本につかの間の平穏が戻ったのであった。
 
 

 
後書き
鈴蘭の能力公開です。この権能を見て、『鈴蘭の言霊こういうのにしたら?』というのが有ればコメントしてください。マッチすれば差し替えます。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧