色々と間違ってる異世界サムライ
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第28話:勇者の計算外その6
セインperspective
僕は追い詰められていた。
『妖精の粉』の入手に失敗し、オーサムにある聖剣の入手に失敗し、ベルディア討伐に失敗し……いや、あんな化物誰が倒せる!
だが、今はそんな事をツッコんでいる場合じゃない。
せめてドワーフの奴隷を手に入れなければならない状況になってしまった。
本当なら、あんな毛深くて樽の様な体型のモグラ人間に興味を示してる暇は無いのだが……何の手柄も無く円卓会議に参加する事になるのだけは避けたい!
だから、勇者である僕がわざわざ足を向けてやったと言うのに……
「聞いたぞ、バゼルフ?あんた、鍛冶が得意なドワーフの中でも一級品なんだって?」
しかし、金床の前に座しているバゼルフは、仏頂面のまま、この僕と顔を合わせようともしない。
勇者である僕に向かってそれだと?
偏屈を通り越して無礼千万だぞ!
「フン。誰に聞いたか知らんが―――」
「そんな事はどうでも良い。僕は世界の為に魔王を倒す運命を背負う勇者だ。協力しろ」
「帰れ。ものの頼み方を知らん若造が」
それで職人気質を気取っている心算か?
節穴め!
「僕は、勇者なんだ、正しい存在なんだよ。歴史に名を刻む勇者だ。いつか僕の偉業が―――」
「それに、聖剣ではなくこのわしを頼るとは、選ばれし勇者が聴いて呆れるわ」
節穴の分際でぇー。
「貴方様の腕を見込んでお願いです、バゼルフ様。どうか、世界を救う為に貴方様のその匠の業を貸すのだと、そうお考え下さいませ」
ソアラが必死に説得しようとするが……
と言うか、あんな節穴如きにそこまでペラペラと敬語を吐く必要があるのか?
「お前さん、さぞやモテるんじゃろうな」
何だこいつ?
ソアラが欲しいのか?
そうか、女を理由にして僕に嫉妬しているんだな。
恵まれた僕が羨ましいん―――
「しかしな、わしらドワーフからすれば、お前さんはふくよかさがまるで足りん。鼻もシュッとし過ぎて滑稽に映る。つまり不細工だと言う事よ」
皮肉気に鼻を鳴らす、偏屈極まるバゼルフに、ソアラは言葉と顔色を失った。
……不愉快だ!
貴様の様な毛深い樽体型風情が、僕達の容姿を酷評するな!
「リサ、ソアラ!ねじ伏せてでもこの節穴爺を連行する!」
「解ったわ!」
「良いのでしょうか……」
僕が前に出てリサとソアラが後方から援護をする。
今は傷を付けてでもこの節穴爺を戦闘不能にしなければならない。
国王からの評価が落ちきっている今、なにがなんでも成果をあげなければ。
なんとか頑固な節穴爺にフレイムソードを作らせ、節穴爺を連行しながら急ぎグリジット首都に到着。
そこで待っていたのは本来なら有り得ない事態だった。
「今なんと?」
「ベルディアはサムライに倒されました」
女王の言葉に僕は愕然とする。
まただ、また先を越された。
なんて忌々しい凶悪大量殺人鬼。
恐らくネイが弱らせた後で仕留めたに違いない。
僕の獲物を横取りしやがって。
「セイン殿、ご気分が優れないようですね」
「失礼、少し体調が悪いので」
「そうですか。ここまでご苦労様でした。後日、円卓会議がありますのでご出席お願いいたします」
「…………はい」
謁見の間を退室する。
外で待っていたリサとソアラと合流し、僕は人目も憚らず両膝を屈した。
「僕は、勇者なんだ、正しい存在なんだよ」
「セイン落ち着いて」
「リサ、君は、僕を勇者と認めてくれるかい」
「もちろんよ。貴方は世界を救う勇者よ」
リサが優しく抱擁してくれる。
それだけで僕の荒んだ心は和らいだ気がした。
頭を撫でられ頭の中がぼんやりとする。
そうだ、僕は勇者、歴史に名を刻む勇者だ。
「君を手に入れて正解だったよ」
「ふふ、ありがと。大好きよセイン」
「2人だけで甘い空気を作らないでください! 私もここにいますよ!」
リサのおかげで頭の中がクリアになった気分だ。
実に気分が良い。
考えてみれば勇者に挫折はつきものじゃないか。
これは試練。乗り越えるべき試練なんだ。
この先に僕の望む栄光が待っている。
円卓会議。
ヒューマンを主とする各国の代表者が集まり話し合う場。
古くからこの場にて勇者が紹介され、名前と顔を覚えてもらう。
更に魔王討伐への助力要請も行われる為、非常に重要な会議と位置づけられている。
今回集まったのは主要五カ国の代表。
グリジット。
アルマン。
バルセイユ。
グレイフィールド。
ラストリア。
そうそうたる面々が円卓についている。
僕はバルセイユ王の後方で控え、呼ばれるのを待っていた。
「――ところで最近、サムライなる冒険者に英雄の称号を与えたそうじゃないか。だが、噂には尾ひれがつく、実際どの程度の者達なんだアルマン王」
「くくっ、じつに面白い奴らだ。いちいちこちらの顔色を窺わず、思ったことをそのままに述べる。言っておくが噂の半分は事実だよ」
「ほぉ、貴様が気に入るなど珍しいな。俄然興味が湧いた」
「ならば会ってみるといいラストリア王」
話はあの忌々しい凶悪大量殺人鬼に移る。
僕は聞いているだけでいらついた。
奥歯をかみしめ殺意が溢れるのをなんとか押さえる。
不愉快だ。ヘドが出る。
とんとん。
バルセイユ王がテーブルを指で叩く。
「それよりも勇者の話をしてもらえんかね。この会議はくだらないおしゃべりの為に開催されているのではない。目下の問題、魔王討伐について集まっているのだ」
「ですが、そこの坊やは何一つ活躍しておりませんけど?」
「これからするのだ! 我がバルセイユが誇る、今代の英雄の頂点だぞ!」
王がテーブルを叩く。
女王と王達は冷ややかな目で僕とバルセイユ王を見た。
まるで偽物の勇者を見る様な目だ。
あの小さな村からここまで来るのに、どれだけ苦労したと思っているんだ。
何がいけなかった。
何をしくじった。
何で失敗した。
分からない。
原因がまるで思い浮かばない。
そこへアルマン王が口を挟んだ。
「両者冷静に。彼が勇者なのは紛れもない事実、ならばこれまで通り協力するだけだ。まだ魔王は本格的に侵攻を始めていない。恐らく充分な成長を遂げていないからだろう、叩くなら今しかない」
彼の言葉に全員が頷く。
そうだ、結局僕に頼るしかないんだ。
お前らは黙って後方で指を銜えていれば良い。
お望み通り魔王討伐、やり遂げてやるよ。
凶悪大量殺人鬼なんか期待しても無駄だって事を教えてやる。
たかが英雄の称号を貰っただけの奴ら。
対する僕は魔王戦特化の勇者のジョブを有する英雄の中の英雄。
比べるまでもないだろ。
本音を言えば今すぐにでも始末しに行きたいが、今の僕は喉から手が出るほど成果を欲している。
勇者としての活躍が欲しい。
浴びる程の賞賛を受けたい。
あえてここは我慢して、まずは確実に名を高めなければ。
それからでも遅くはない。
見ていろツキツバ・ギンコ。
本気にさせた僕がどれほど恐ろしいか思い知らせてやる。
はは、ははははははっ!
???perspective
私がバゼルフ師匠が勇者セインに誘拐されたと聞き、馬を購入し、急ぎグリジット首都に到着。
そこで待っていたのは薄々予想していた事態だった。
「今は円卓会議の最中なので、勇者セイン殿には直ぐには対面できぬ」
円卓会議と言えば、ヒューマンを主とする各国の代表者達に魔王を討伐する勇者を紹介する場と聞く。
本音を言えば今直ぐにでも始末しに行きたいが、今はバゼルフ師匠を奪還する事が最重要課題だ。
バゼルフ師匠からの借りを返さずに逃げるのは嫌だ!
だが、例の円卓会議でセインが正式に勇者に任命されたら、もう手が出せない。
師匠を助け出す前にグリジットを出るのは癪に障る!
そこで、会場を警備する衛兵達の話を盗み聴く事にした。
「あれが勇者だとよ?」
「かつてはSランク冒険者パーティーだった白ノ牙のリーダーだそうだが、サムライが活動を開始してからは、あまり良い噂を聞かないな」
サムライ?
なんだそれは?
「サムライって確か、デルベンブロやベルディアを討伐したって話らしいぞ?」
「聞いた聞いた!史上初となるパーティーに英雄の称号を授けられた連中らしいんだってな?」
団体が英雄の称号を!?
それじゃあそこに所属する奴ら全員が、英雄?
彼らなら、師匠を誘拐した白ノ牙の連中を倒せずとも、師匠の奪還は叶う筈!
「で、そんな連中が何故ここに来ない?」
「さあな。ただ、風の噂では、オーサムにある聖剣の許に向かったらしいぞ?」
サムライが次に向かうのはオーサムか……
まさか、聖剣を手に入れる心算か!?
もし彼らが聖剣を手に入れたら、私達ドワーフが作る道具に興味を持たなくなる可能性が高い!
そうなれば、彼らが師匠を奪還する動機が薄くなる!
相手は元Sランク冒険者で、もう直ぐ正式に勇者に任命されるセインだ!
実力も地位も遥か雲の上の存在が敵なのに、そのサムライの助力が得られないとなると……
急ごう!
私は再び馬を購入し、急ぎオーサムへと向かった。
バゼルフ師匠を誘拐したセイン率いる白ノ牙に対等に戦えるかもしれないサムライの力を借りる為に!
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