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神々の塔

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第七十五話 焦る気持ちその十

「やっぱりな」
「池永さんは冤罪やったな」
「そやった」
 確信を以て答えた。
「もうな」
「それを多くの人がずっと言うてるな」
「当時西鉄の監督やった稲尾さんもな」 
 稲尾和久、現役時代は鉄腕と言われた偉大なピッチャーである。
「ずっとな」
「池永さんは冤罪って言うてたんやな」
「信じてるってな」
 彼の冤罪、それをだ。
「事件から三十年は経ってもな」
「言うてはったか」
「そやった、三百勝いったかも知れん人が」
「その事件で消えたか」
「そして連日連夜自宅にマスコミが来た」
「それも嫌やな」
「そこまで調べてな」
 そのうえでというのだ。
「僕はこの事件は大嫌いになった」
「好きになれる筈がないな」
 シェリルもこう返した。
「ほんまに」
「そやな」
「その事件も屑が関わってたんやな」
「野球を食いものにしようとするな」
「そやねんな」
「そしてな」
 今話している様な輩共が関わってというのだ。
「それでや」
「そんな嫌な事件が起こって」
「多くの人が野球が出来ん様になってや」
「池永投手もその中におったな」
「屑を排除せんとな」
 そうしなければというのだ。
「それも見付け次第な」
「見付ける努力も必要やな」
「常にな、そして」
 そのうえでというのだ。
「見付けたらな」
「即座に排除やな」
「そや、あの事件もそれが出来てたら」
「そんな風になってなかったか」
「おかしなはじまりやったが」
 このことも黒い霧事件の嫌なところだろうか、兎角不穏で嫌な空気に満ちていて後味も実に悪いのだ。
「そうやったらな」
「問題も起こっても」
「あそこまでの事態にはな」
 それこそというのだ。
「なってなかったかもな」
「そやねんな」
「しかしな」 
 それがというのだ。
「なった、それがな」
「自分もやな」
「嫌に思ってるわ」
「八百長はあかんし」  
 綾乃も暗い顔で言って来た。
「それに違法な裏賭博も」
「どっちもあかんな」
「そういうのを日本のプロ野球でしようとした人がおったさかい」
「起こった事件やな」
 シェリルも応えて言った。
「そやな」
「そうなるね」
「屑はそうしたこともするな」
「時として」
「自分のことしか考えへんで」
 そうであってというのだ。
「法もルールも守らんから」
「そんなことするね」
「悪事でもな」 
 そう定義されるものの中でもというのだ。 
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