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月への逃避行

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第一章

                月への逃避行
 その恋人達の話を聞いてだった、月の女神アルテミスはその恋人達にいたく同情して仕えるニンフ達に言った。
「私は二人の味方になります」
「そうされますか」
「彼等を助けますか」
「そうされますか」
「はい、出来る限りのことをして」
 そのうえでとだ、オリンポスの自身の宮殿で話した。
「彼等を助けます」
「ですが」
 ここで従神の一人が女神に言ってきた。
「二人のそれぞれの親達は執拗で」
「二人が幸せになることを絶対に認めず」
「それで何処までもです」
 それこそというのだ。
「彼等を追っています」
「二人は確かな者達です」
 アルテミスは断言した。
「心が奇麗で男は強く女は優しく」
「二人共聡明ですね」
「ああした者達こそです」
「結ばれるべきですね」
「アテネで対立している家同士であり」
「その息子と娘ですね」
「それで結ばれないなぞ」
 それはというのだ。
「あってはなりません、愛の前にはです」
「家同士の争いは、ですね」
「邪魔です、ですから二人をです」
「アルテミス様としては」
「私の全力を以てです」
「助けますね」
「そうします」
 断固たる口調で言い切った。
「私は」
「ではご加護を」
「二人への追手には狼を出します」
「それで追い払いますね」
「多くの群れを。狼は実は人を滅多に襲いませんが」
 そうであるがというのだ。
「人間はよく誤解しています」
「狼について」
「人を襲い貪り喰らうと」
「左様ですね」
「そのことを利用して」
「追手には狼の群れを出して」
 そうしてというのだ。
「追い払います、私の狼ですから」
 神が従えているというのだ。
「その強さは別格ですから」
「多少の数の追手では」
「相手になりません、迫力も違うので」
 普通の狼とはというのだ。
「ですから」
「追い払えますね」
「はい、ですから」
 それでというのだ、
「狼を出しまして」
「追手を追い払って」
「二人を守ります」
 こう言うのだった、そしてだった。 
 アルテミスは恋人達、アテネの有力者の息子と娘である彼等を護ることにした、彼等は駆け落ちをして二人が暮らせる場所を目指した。 
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