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ソードアートオンライン アスカとキリカの物語

作者:kento
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アインクラッド編
  回想――出会い

 
前書き
少しだけ更新が遅くなりました・・・・すいません。
いやはや受験生は今が忙しさピークですね。
とか言いつつちゃっかり小説は毎日書いているという・・・・。
まあ,気分転換ですから問題ないですよね!

それではっ! 

 
「ありがとう。本当に怖かったから、助けてくれて嬉しかった」

それが〈月夜の黒猫団〉のメンバー、サチからキリトに投げかけられた最初の言葉だった。





このデスゲーム、ソードアートオンラインが始まってから半年と少し、最前線が第20層の時に第10層迷宮区にてキリトと〈月夜の黒猫団〉は出会った。


この日、キリトは武器強化の素材集めのために最前線より10も下の階層まで下りてきていた。
この時既にキリトのレベルは35を超えており、攻略組でもトップクラスのレベルを保持。
自分のレベルよりも20以上下の階層のモンスターなど敵ではなく、

「はいっ。ほいっ。せいっ。」

と、少し気の抜けた声を出しながら剣を振り、襲いかかってきたゴブリンの体を片っ端から四散させていた。

基本的にレベルが圧倒的に高いプレイヤーが下層のフィールドで大きい顔をすることは好ましくない。
本当はこうして凄まじいスピードで狩りを行うことは、他のプレイヤーへのポップ率が減るので、マナー的に悪い。
しかしながら、簡単に手に入る素材アイテムを、無駄にコルを払ってショップで購入するのが勿体ないのも事実。
そこで、〈隠蔽スキル〉で身を隠し、〈索敵スキル〉で他のプレイヤーと鉢合わせしないようにしながらこそこそ狩りをしていた。


そんなこんなで、2時間ほどで目標数の素材を集め終わったところでキリトはさっさと迷宮区から脱出しようとしていた。

その帰り道でのことだった。

キリトは1つのパーティーを見かけた。
女の子が1人いる、5人組だった。
前衛を担当しているメイス使いがHPバーを減らして回復したいのに、他の4人の武器では前衛に参加することが出来ずに、ずるずると後退している状況だった。
遠目から全員のHPバーの残量を確認すると、まだイエローゾーンに突入している者はいなかったが、危険な状態であることに違いなかった。


付け加えて、そのことに気づくのは〈索敵スキル〉高レベル保持者であるキリトの方が早かった。

5人組パーティーの背後からもモンスターの光点が近づいていた。数は6体。
前衛を出来るプレイヤーが1人しかいない状況で挟み撃ちにされたらマズイ。
咄嗟にキリトはそのパーティーに向かって走りだしていた。

「あっ・・・・・・!」

キリトが距離を詰めたのと、少女が背後のモンスターの群れに気づいたのは同時だった。
少女の悲鳴をかき消すように、かけ声を発して剣を振るう。

「せいっ!!」

3連撃のソードスキル〈シャープネイル〉を使い、一気に半数の敵を仕留めた。

「あ、あの・・・・・・」
「こっちは俺に任せていたらいい。そっちは少しだけ持ちこたえていてくれ」

女性であることを隠すために低い声で言葉を発した。
キリトのレベルが高いことは今の一撃で判断できたのだろう。

「は、はいっ!」

両手棍使いはパーティーメンバーに戦線指示に徹するように指示を出した。

「ありがとうございます!」
「礼は後だ。今は目の前に集中してくれ」

言い終わるやいなや、キリトはダメージを無視して特攻。数秒で残りのゴブリンも仕留めた。
そのままダッシュでパーティー前方に躍り出た。
前衛で1人奮戦していたメイス使いの男に向けて「スイッチ!」と叫び、無理矢理入れ替わってモンスターの前に飛び出した。
目の前に5,6体いる敵は全て、先ほどまでキリトが一撃で倒し続けていたゴブリン型モンスター。
本当は適度にダメージを与えるだけに留まり、経験値ボーナスのかかるラストアタックは譲るべきだっただろう。
が、すでに前衛のメイス使いはHPを注意域に落として、ほかの4人も似たり寄ったりだった。

キリトは緊急事態だから仕方ないだろう、と考え、上位ソードスキル発動のライトエフェクトを片手剣に纏わした。



30秒もかからずにそのパーティーの窮地をあっさりと救ったキリトは、すぐさま後悔に襲われた。
やってしまった、と。

前述したとおり、下層で圧倒的レベルを保持しているプレイヤーが大きい顔をするのは非マナー行為だ。
最前線ではお互いを助けるのは礼いらずの暗黙の了解として成り立っているので、素気ない受け答えで倒したが、ここは最前線などではなく、中層ゾーンなのだ。
彼らの目に自分の姿がどう写ってしまっているのか、などと考えもしなかった。

しかしキリトのそんな不安を打ち消すように、ありがとう、と5人が一斉に口を開き感謝の意を述べてきた。
どうやら、キリトが攻略組プレイヤーであることまでは分からなかったようだ。

「いや、別に良いよ」

半年も経てば、低いトーンの男口調で話すことにもだいぶ慣れてきていたので、誰にも怪しまれることは無かった。
だが、安堵したのも束の間、

「その真っ黒なコートにマフラー姿に盾無しの片手剣・・・・・・」

短剣使いの男が奥深くにある記憶を引っ張り出してこようとするかの如く、首を振り数秒後、

「あっ・・・・! もしかして、あんた〈黒の剣士〉!?」

と、叫んだ。
それにはキリトもかなり動揺した。
〈黒の剣士〉、とは真っ黒装備で統一している自分に誰かが勝手に付けた2つ名だ。
その名は攻略組であることが露見してしまったことを意味していた。

「え・・・・と、まあ、そうだけど・・・・・・」

と、情けない声でキリトは答えた。
〈黒の剣士〉は攻略組プレイヤーであることだけでなく〈悪の黒ビーター〉であることも意味している。
キリトは彼らの目に自分のことをビーターとして蔑む色が浮かぶことを恐れた。
非難されることが怖かったのだ。
しかし、今度もキリトの予想は予想外、あるいは嬉しい方向に外れた。

うわあっ! と全員が沸いた。

スゲー、あんまり年変わらないんじゃ、ホントに攻略組なのか、噂通りに真っ黒だ、等々。
少し熱気の籠もった視線と共にキリトは質問の嵐に飲まれた。





日も暮れそうだし、と〈月夜の黒猫団〉―――ギルド名を教えてもらった―――5人とフィールドを歩くキリトは自分が攻略組であることがバレてしまったのにこうして共に歩くことが出来ることに安堵していたが、同時に少し困っていた。

彼らは攻略組を目指しているようで、キリトに尊敬の眼差しを送ってきたのだ。

「ソロの攻略組って凄いですね。キリトさんは最初から攻略組にいる数少ないプレイヤーの1人って聞いてます」
「敬語じゃなくていいよ、ケイタ」

キリトは苦笑した。
どうやら〈黒の悪ビーター〉なる非難の名は、中層ゾーンではあまり使われていないらしい。
むしろ攻略組数少ないソロプレイヤーとしての方が有名だと。

自分たちのことをずるいとは思わないのか? と訊ねたら短剣使いの男、ダッカーに、

「だってベータテスト経験者は1000人もいたんだぜ? そんな数の人間恨む暇があったらもっと有意義な時間の使い方をする」

と,肩を竦めながら返された。
他の4人も「今更そんなこと気にしない」という感じだった。
自分が勝手に悪い方向に捉えていたのだと分かったのは良かったのだが、少しばかり彼らの好意の目が辛かった。
自分はそんな尊敬なんてされる人間じゃないと自覚、いや、思いこんでいたのだ。


「まあ、ソロが一番効率がいいからな。ギルドに入ると何かと制約があるし」
「なるほど・・・・」
「その点、うちのギルドは何の制約もないアットホームな雰囲気が売りだぜ。のんびりし過ぎて中々攻略組に参加できてないけど」
「一番暢気なお前が言うな」

ギルドリーダーの両手棍使い、ケイタがダッカーの脇腹を肘で突いた。
「いった!」と大げさに痛がるダッカーを見て他の3人、サチとテツオ、ササマルが笑う。

「やっぱりケイタたちは攻略組目指してるのか?」
「うん。かなり出遅れちゃったけど、頑張って参加したいって気持ちは攻略組にも負けてないつもりだよ」

ケイタの言葉に男子3人は大きく頷いたが、少女サチだけ一瞬表情が暗くなった気がした。だが、すぐに笑みを浮かべたので気のせいだろう、とキリトは流した。
その横からケイタに訊ねられた。

「キリト。マナー違反だって百も承知だけど・・・・レベルってどのくらいなんだ?」

ケイタの言う通り、この世界において個人のステータスを聞くのはかなりのマナー違反だ。
デスゲームと化し、己のステータスが身を守る唯一の力である以上、おいそれと他人に後悔するわけにはいかない。
攻略組を目指していないプレイヤーでも知っているような当たり前の知識であり,当然攻略組として名を連ねているキリトにとっても、簡単に教えられるものではない。
しかし、彼らなら他人へと情報を流すこと無いだろう、と判断して、そっと本当のレベルを口にした。
そのレベルはケイタ達の平均を20近く上回っていた。
ケイタが大きく目を見開いた。

「凄いですね・・・・・・」
「俺と同じくらいのレベルの奴なんて攻略組ならいくらでもいるよ」

例えばアスカとか。
なんて、真っ先にボス攻略命の男の名を浮かべたキリトは慌てて思考を止める。
いくらでもいる、なんて嘘だ。
最前線の階層+15レベルも上げているプレイヤーなんて本当は数えるほど。
けれども、そんなことで無為な注目を集めたくもなかった。
これ以上、自分への尊敬の目が集まって欲しくなかった。



その後も、ケイタやダッカーを中心に数多くの質問(ほとんどが攻略組に関してのこと)をされて、可能な限り答えながら道を歩いていた。
キリトは〈索敵スキル〉をOFFにしていた。
この階層のモンスターならダメージをもらっても〈バトルヒーリングスキル〉だけで長時間耐えられるほどだ。
それに大勢の目がある状況ではあまり〈索敵スキル〉も効果を発揮しない。
全方向に注意を向けられるからだ。パーティーで〈索敵スキル〉が重要視されない所以だ。

そんな理由で〈索敵スキル〉を切っていたことをキリトは死ぬほど後悔した。

ひゅん、と頭上の木から何かが落ちる音がした。
ぽて、と柔らかい物が当たる音が頭の上でした。
キリトよりも早く、〈月夜の黒猫団〉の面々が息を呑んだ。
別に強いモンスターが現れたから恐怖している、わけではない。
むしろ最弱に近い部類だ。
だが、見た目が最悪だった。

〈スローワル・ワーム〉。
ゴブリン系モンスターが主流のこの階層ではめずらしいワーム型モンスター。
見た目こそうねうねしていて気持ち悪いが、実はかなりのレアモンスターである。
このモンスターからドロップする糸は布装備用素材アイテムとしてはかなり優秀で――――

「きゃああああああつつっっっ!!!」

――――なんて思考をするわけもなく、キリトは甲高い悲鳴と共に手にライトエフェクトを纏わした。
お化けや骸骨、蜂型のモンスターは平気なキリトだが、この手のワーム型モンスターだけは超苦手だった。
ぶにぶにしていてうねうねしている体を見ると怖気が走る。
見ているだけでも我慢ならないのに、そんな物が頭に乗っかっていたとなると、周りの目など綺麗さっぱり忘れてしまうものである。

〈体術スキル〉単発技、〈仙打〉。

絶叫を上げながら撃ち出した拳は低威力の技であったが、圧倒的なレベル差のおかげで敵を一撃で全損に追い込めた。
ピギイィ、と奇声を上げた〈スローワル・ワーム〉は無数のポリゴン片に変わった。

はあはあ、と荒い息を吐き、何とか落ち着いたキリト。

「「「「「きゃあああ?」」」」」

と、完全にシンクロした問いが〈月夜の黒猫団〉の口から発せられた。
ようやくキリトも自分がうっかりとても女の子らしい悲鳴を上げてしまったことを悟った。

「ち、ちがっ! わ、わたしは――――――」
「「「「「わたし?」」」」」

動揺している時は頭が回らないと、よく分かった気がした。
遠慮のない視線が顔を赤くしたキリトへと注がれた。

どう考えても上手く言いくるめられる状況ではなかった。

「はあー・・・・・・・」

キリトは空を見上げて溜息を付いた。
そして、そのままウインドウを操作してマフラーとコートを武装解除。
長い髪を外に出した。

「ふう・・・・・・」
「「「「「・・・・・・・・・・」」」」」

ほっと一息ついたキリトを見て固まる5人。
数秒後、

「「「「「お、おんなあぁっ!?」」」」」

と、全てのモンスターを寄せ集めそうな叫び声がフィールドに木霊した。





 
 

 
後書き
いかがでしたか?

タイトル通り、キリトの過去編でした。
本当は原作を少し変えるだけのつもりだったのに、気づけば原作と全く関係ないような感じに仕上がってしまいました・・・・。

次の話も早めに投稿できれば、と思っております。

それではっ! 
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