英雄伝説~黎の陽だまりと終焉を超えし英雄達~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第42話
街を回っていると自宅らしき小さな家の前にいるサァラ・シャヒーナ姉妹を見つけたヴァン達は姉妹に近づいた。
~サルバッド・伝統地区~
「あら、皆さん。またお目にかかりましたね。」
「シャヒーナさん、サァラさんも!」
「ひょっとしてこちらが…………?」
姉妹の後ろにある家が気になったアニエスは姉妹に確認した。
「うん、狭いけどあたしたちの家!入ってお茶でも――――――って言いたいけどもうすぐ次の興行なんだよね~。」
「忙しいようで何よりだ。…………午前みたいな困ったことは?」
「ええ、おかげ様で何も。いつも以上にお客様は多いですけどマナーを守って楽しんでもらってます。」
「お兄さんたちに助けてもらったのが噂になってるのかもしれないねー。はー、でもさすがに疲れたよ。帰りにハマムに寄っていきたいなー。」
「ふふっ、いいわね。だったらもうひと頑張りしないと。」
疲れた表情でふと呟いたシャヒーナの提案にサァラは微笑みながら頷いた。
「ま、似たような馬鹿が現れたら言えや。キッチリわからせてやるからよ。」
「ありがとうございます。――――――それでは失礼しますね。」
ヴァン達に声をかけたサァラと共にその場から去りかけたシャヒーナだったが立ち止まってヴァン達に振り向いてあることを伝えた。
「えへへ、お兄さんたちカッコイイけどお姉にコナかけても無駄だからね~?あれでちゃんと彼氏がいるみたいだし。」
「ほう…………そうなのか?」
「んだよ、まあイイ女だし当然か。ショボイ野郎なら奪ってもいいがな。」
(ハア…………”略奪愛”は下手したら、刃傷沙汰になりかねないことをわかっていて言っているのかしら、この子は…………)
(まあ、仮にそうなってもアーロンの場合余裕で相手を返り討ちにするでしょうけどね。)
「お二人とも…………?」
「…………?」
サァラに恋人がいる事を知ったヴァンは若干興味ありげな様子を見せ、つまらなさそうな表情で呟いたアーロンの言葉を聞いて呆れた表情で頭を抱えているマルティーナにユエファは苦笑しながら指摘し、アニエスはジト目でヴァンとアーロンを見つめ、その様子をフェリは不思議そうな表情で首を傾げた。
「シャヒーナ?そろそろ行かないと…………」
「今行くーっ!それじゃあ、またね!」
「あ、そういえばサイン…………!」
「渡しそびれちゃいましたね。」
二人が去った後サインを渡すことを忘れたフェリは声を上げ、アニエスは苦笑を浮かべた。
「これから興行みたいだしな。まあ、また機会はあんだろ。」
その後街の徘徊を再開したヴァン達はカジノに入って休憩席にいるある人物達――――――ベルモッティとディンゴの所に近づいた。
~カジノハウス”ムーラン”~
「あらアナタたち・そろそろ会えると思ってたわ。」
「無事に活動を始めたようだな。」
「おいおい、お前の方が明日来るとは聞いてたが…………」
「まさかベルモッティさんの方もいらしていたなんて…………」
ディンゴだけでなくベルモッティもサルバッドに来ていたことにヴァンとアニエスはそれぞれ驚いていた。
「少し予定を繰り上げてな。彼とは偶然、列車で居合わせただけだ。」
「ウフフ、ヴァンちゃんを驚かせようと内緒にしてたんだけど…………実は映画祭に合わせて開催されるバーデンダー大会に招待されていてね。まさかヴァンちゃんまで来るなんて――――――これも運命、か。し・ら♪」
「それこそ偶然だろ…………しかし道理で思わせぶりだったわけだ。ディンゴは4spgの仕込みとは別に映画祭の取材だったか?お前にしちゃ普通のネタだと思ったが。」
「ああ…………少し気になる事があってな。」
「気になる事…………映画祭にですか?」
「えと、ニナさんの依頼と………?」
ヴァンの疑問に答えたディンゴの答えが気になったアニエスとフェリはそれぞれ真剣な表情で訊ねた。
「それとは別だ――――――いや現時点で関係ないとも言い切れないんだが。」
「アン…………なんだそりゃ?」
「もしかして――――――ずっと追ってるっつう”裏ネタ”か?ちゃんと聞いたことは無かったが…………」
ディンゴの答えの意味がわからなかったアーロンが眉を顰めている中、心当たりがあるヴァンはディンゴに確認した。
「いや…………そうだな。」
「失礼します、ベルモッティさん・それとブラッド様。」
ヴァンの確認にディンゴが答えたその時ディーラーが近づいてベルモッティとディンゴに声をかけた。
「あら…………」
「ああ、なんだ?」
「突然申し訳ありません。実はブラッド様へのお取次ぎが。エーメ様とおっしゃる女性の方からフロントに連絡が入っておりまして。」
「…………なに…………!?」
「それって確か…………」
「マリエルさんですか?」
「ああ、煌都にもいたチョロそうな女ブン屋かよ。」
ディーラーが口にしたある名前――――――マリエルのファミリーネームを耳にしたディンゴは驚き、フェリとアニエスはそれぞれ目を丸くし、アーロンはマリエルを思い出した。
「ディンゴちゃんにお熱っていうタイレル通信の子だったかしら。ひょっとして現地で待ち合わせ?コノコノ、お安くないわねっ。」
(彼女と私達…………というよりもヴァンとの”縁”も何気にありますね…………)
ベルモッティがディンゴをからかっている中メイヴィスレインはマリエルを思い浮かべて呆れた表情で呟いた。
「いや、今回は関わるなと言い含めておいたんだが…………すまん、また後でな。」
そしてディンゴは立ち上がってディーラーと共にその場から去って行った。
「やれやれ、ディンゴも随分と振り回されてやがるな。」
「ふふっ、何だか放っておけないみたいねぇ。そうそう、例のバーデンダー大会はアルジュメイラホテルのラウンジでね。もう少ししたらアタシもホテルの方に顔を出してくるわ。なにかイイ情報が入ったら連絡するからヴァンちゃんたちも頑張ってちょうだい。」
「ああ、期待してるぜ。」
「ばーてんだー大会の方もがんばってくださいっ。」
「そのうちカクテルでも奢れや。味見して貢献してやるからよ。」
「もう、アーロンさん。お仕事で来てるんですから…………」
そしてベルモッティと別れて行動を再開したヴァン達は宿の女将を通しての依頼――――――お湯が出なくなった風呂の調査の為に地下水路に進入、探索した結果、水を堰き止めている原因が手配魔獣クラスの大型魔獣――――――それもゲネシスを身体の一部に付着している魔獣であったので、協力して魔獣を瀕死状態にまで追いやった。
~地下水路~
「ハッ、とっとと逝けや…………!」
「はあはあ…………皆さん、大丈夫ですか?」
瀕死状態にまで追いやられて咆哮を上げている魔獣をアーロンは睨みながら鼻を鳴らし、アニエスは疲弊した様子で仲間達の状態を尋ねた。
「はいっ、けっこう手強かったですけど…………」
「!?」
アニエスの問いかけにフェリが答えたその時、陽光が入ってくる場所にいつの間にか姿を現した天使の姿をした謎の人形らしき存在に気づいたヴァンは血相を変えた。
「あれは…………?」
「…………天使…………?」
「いえ、あれは――――――」
ヴァン同様人形らしき存在に気づいたフェリとアニエスは不思議そうな表情を浮かべ、メイヴィスレインは真剣な表情を浮かべた。
「―――――伏せろ!」
するとその時天使の人形は飛び上がり、それを目にしたヴァンは仲間達に警告すると人形は魔獣に止めを刺し、魔獣が消滅した際に落下したゲネシスを手に取った。
「ああっ!?」
「てめえっ…………!」
「…………悪しき天使…………それはアニエスさんのですっ!」
ゲネシスが奪われたことにアニエスが声を上げ、アーロンが人形を睨んだその時フェリは人形目掛けて銃撃を行ったが、人形は腕を振るって襲い掛かる銃弾を弾き飛ばした。
「!?」
「あの滅茶苦茶な動きは…………!?」
人形の動きにフェリとアーロンが驚いたその時人形はヴァン達目掛けて突進した。
「っ!」
「―――――うおおおおおおっ!!」
するとヴァンが前に出てアニエス達を庇った。
「がはっ!?」
「ヴァンさんっ!?」
「だ、だめですっ…………!」
「クソが――――――庇ってんじゃねえぞ!!」
「――――――癒しの息吹。ハアアアアアアァァァァッ!!」
自分達を庇ってダメージを受けたヴァンの様子にアニエス達がそれぞれ声を上げている中結界を展開していたことで唯一無事だったメイヴィスレインがヴァンに治癒魔術をかけた後人形に怒涛の速さの連続反撃を行ったが人形は素早い動きで回避していた。
「―――――フフン、出番みたいね?」
するとその時ゲネシスが共鳴すると同時にその場の空間がヴァン達以外停止し、メアがその場に現れた。
「…………!あの時の!」
「メアちゃん…………!」
「来たか――――――”選ぶ”からとっとやれ!」
「って、忙しないわねぇ。まあいっか、それじゃあ悪夢を纏――――――」
ヴァンの指示に呆れながらメアはヴァンをグレンデル化させようとしたその時
――――纏ウマデモナカロウ――――――”其ハ悪夢ソノモノユエ”――――――
「オオオオオオオッ…………!」
ふと自分にとっての過去の忌まわしい出来事が思い浮かんだ後謎の声が聞こえたが、ヴァンは気にせず咆哮を上げながらグレンデル化しようとした。
「へ…………!?」
「あ、あれは…………」
ヴァンの周囲を纏っている”力”が普段の蒼い力ではなく、深紅の力であることを目にしたメアが驚き、アニエスが戸惑いの表情で呟いたその時
「…………ヲオオオオオオッ…………!!ガアアアアアアアア…………!!」
深紅に輝くグレンデルになったヴァンが咆哮を上げながら地面に倒れた。
「なんだありゃ…………!?」
「す、すごく苦しそうです…………!」
「止めてください!こ、このままじゃ…………!」
ヴァンの異変を目にしたアーロンは困惑し、フェリは心配そうな表情で声を上げ、アニエスはメアを見つめてグレンデル化を止めるように嘆願した。
「し、知らないわよこんなの!?…………ッ…………まさかひょっとして――――――」
一方メアは困惑の表情でグレンデルを見つめたが心当たりを思い出すと血相を変えた。するとその時メイヴィスレインと戦っていた人形が標的をグレンデルへと変えてグレンデル達目掛けて突進し
「チ…………ッ!」
「調子に乗んじゃねえっ!!――――――手を貸してくれ、姉貴、オフクロ!」
「近づけさせませんっ…………!」
標的を変えた人形の様子に舌打ちをしたメイヴィスレインは咄嗟にグレンデルに駆け寄ってグレンデルに声をかけているアニエスに結界を付与し、アーロンは迎撃の構えをしてマルティーナとユエファを召喚し、フェリは突進してくる人形に牽制射撃を行った。
「ググ…………ガアアア…………!!」
「ヴァンさんっ、しっかりしてください…………!どうか心を落ち着けて…………!私達がついていますからっ…………!」
「ッ…………アニエ…………――――――!!?」
唸り声をあげていたグレンデルだったがアニエスの必死の呼びかけに我に返ったがアーロン達の隙をついて突進してくる人形に気づくと血相を変え
「あぁっ!?」
「チィッ!!」
「しまった…………!」
「不味いわねっ…………!」
隙を突かれた4人がそれぞれ焦りの表情で声を上げたその時、突如銃声が響いた後銃撃がグレンデルとアニエスに突進してくる人形の頭に命中し、頭に銃撃が命中した人形は突進を中断していったん下がった。
「…………な…………」
「今の、は…………」
「間に合いましたね。」
突然の出来事にアーロンが絶句し、フェリが呆けているとメイド服に似た服を身にまとった水色髪の女性がその場に現れた後シャードを展開すると同時に周囲に足場も形成し、足場を利用しながら縦横無尽に動き回って人形に自身の得物であるブレードギアと大型拳銃の連携攻撃を叩きこんだ後グレンデルとアニエスの前に着地して武器を構えなおした。
「…………!」
「あ、貴女は…………」
「―――――どなたかは存じませんが、こちらは我が社の”契約顧客”様となります。危害を加えるつもりなら、弊社規定に従い”相応”に対応させていただきますが?」
「…………成程、”そちら”の所属ですか。対象物の回収は完了――――――これ以上の追撃は不要と判断します。それでは、また。――――――イシュタンティ、行きますよ。」
女性の警告に対して物陰に隠れている謎の娘は静かな口調で呟いた後人形――――――イシュタンティに指示をし、イシュタンティが空へと飛びあがると同時に乗り移り、そのまま飛び去った。
「…………あれは…………」
「天使型の…………傀儡だと?」
飛び去ったイシュタンティを見つめたフェリとアーロンはそれぞれ呆けた声を出したが
「ああっ、ゲネシスが…………!」
「飛ぶことができる私達は追わなくていいのかしら?」
「―――――止めておきましょう。あの傀儡…………かなりの戦闘能力がある様子だったから戦闘になれば間違いなく長期戦かつ激戦になると思うわ。非常時でもないのに市内の上空で戦闘を発生させて周囲の人達に迷惑をかけるわけにはいかないわ。」
「それに今までの事を考えれば、いずれあの傀儡もそうですが傀儡が奪ったゲネシスとも邂逅する時が来るでしょうから、ここで無理をしてまで追撃する必要はないと思います。」
ゲネシスが奪われたことに気づいたフェリは声を上げ、自分達は飛行できる為追撃を提案したユエファに追撃は行わない方がいい指摘とその理由をマルティーナが説明し、メイヴィスレインはマルティーナの説明を補足した。
「ま…………仕方ねぇだろ。」
「はい……みんな無事だっただけでも。」
そこに元の姿に戻ったヴァンがアニエスと共に仲間達にゲネシスが奪われたことを気にしない事を指摘した。
「ヴァンさん…………」
「ハッ…………何とか戻りやがったか。」
「ヴァンさん、大丈夫ですか?怪我の方は…………」
元に戻ったヴァンを目にしたフェリとアーロンはそれぞれ安堵の表情を浮かべ、アニエスはヴァンの状態を尋ねた。
「そっちはカスリ傷だ…………疲れの方がヤバイ感じだが。メア公もいつの間にか消えちまったし…………ったく。…………アンタんとこの製品は一体全体どうなってんだ…………?そもそもこんなタイミングでサポートに来るとは思わなかったが。」
自分の状態を答えたヴァンは溜息を吐いて女性にある指摘をした。
「契約者様のサポートがわたくしの主要業務であり、誇りですので。おかげで査定時にはわからなかった”興味深い事象”も確認できました。」
「…………やれやれ、しくったな。」
笑顔で答えた女性の言葉を聞いたヴァンは溜息を吐いた。すると女性はヴァンに近づき、ヴァンに自分の肩を貸してヴァンを立ち上がらせ
「あ…………」
それを目にしたアニエスは呆けた声を出した。
「ハハ…………まさかこんな形で初めて直接会うことになるとは。」
「ええ、わたくしも驚いております。」
「って、いきなり現れて何をわかり合ってやがるんだ?」
「えと、通信でも見ましたけどあなたは一体…………」
「ヴァンさんの担当…………どちらかの企業の方のようですが…………」
互いに知り合い同士の様子に話すヴァンと女性の様子にアーロンは戸惑い、フェリとアニエスは女性を見つめて考え込み
「「……………………」」
(二人共どうしたのかしら?)
女性に何らかの違和感を感じていたメイヴィスレインとマルティーナはそれぞれ眉を顰めて女性を見つめ、二人の様子に気づいたユエファは首を傾げた。
「ああ、お前らには話してなかったが。…………悪いな、もう大丈夫だ。」
「ふふ、申し遅れました。民間軍事会社、”マルドゥック総合警備保障”に所属する――――――広域担当SC(サービスコンシェルツ)のリゼット・トワイニングと申します。ヴァン様には社外契約テスターとして常日頃からお世話になっております。どうか、今後ともお見知りおきを――――」
ヴァンが離れると女性――――――リゼットは自己紹介をした。
その後市内に戻ってハマムに湯が出始めたことを確認したヴァン達は宿でリゼットを交えてリゼットやリゼットが所属している企業についての話を始めた。
~伝統地区・宿酒場”三日月亭”~
「”マルドゥック社”――――――最近、たまに伺う名前ですけれど。確か外国にある警備会社でしたね…………?」
「ええ、本社は”オレド自治州”になります。設立して日の浅い会社ではありますが、北カルバード州でも多くの方にご愛顧頂いておりまして。なお――――――ヴァン様には”戦術開発部門”の外部テスターとしてご契約いただいています。」
「俺のホロウ――――――”メア”のプログラムや『撃剣』なんかもその流れで提供されててな。ま、あくまで対等な契約だが。」
「他にも最近では、各国の治安維持組織や傭兵業の皆様とも懇意にさせて頂いています。クルガ戦士団との技術連携も一部ではありますが行っておりますね。」
「はい、それは聞いています。でも…………」
「…………噂には聞いていましたけど、民間軍事会社(PMC)がそんなことまで…………”総合警備部門”と”戦術開発部門”の二つを使い分けているということですか。」
「各国の軍や猟兵に技術的サービスを提供しつつ、一方でそのシェアなんかも奪っているわけだ。さぞかし景気も良さそうだなァ?」
ヴァンとリゼットの説明を聞いたフェリとアニエスは真剣な表情を浮かべ、アーロンは皮肉気な笑みを浮かべてリゼットにある指摘をした。
「…………さすがヴァン様の助手の方々。後進の育成も順調なようで何よりです。」
「後進じゃねぇ。あくまでバイトだ、バイト。――――それで、肝心の”目的”をまだ教えてもらってねぇみたいだが。アンタの責任感は知ってる――――――MK(マルドゥック)が俺をテスターとして買ってるのもな。ザイファのメンテも――――――日頃からリモートでやってくれてるのも感謝しかねぇ。だが、他にも業務を抱えたアンタがわざわざ”現地”まで来るのは流石にサービス良すぎだろ。いったいどんな”裏”があるんだ?」
アニエスとアーロンの推測に目を丸くしたリゼットは感心した様子でヴァンを見つめて指摘し、指摘されたヴァンは肩をすくめて訂正の指摘をした後リゼットが自分の元にサポートに来たことについて抱いた様々な疑問を指摘した。
「…………それは先ほどの、不可思議なシャード暴走やホロウの異常行動――――――更には奪われた”装置”についての説明と引き換えにということでよろしいでしょうか?」
「……………………」
「…………それは…………」
(この女…………)
リゼットが出した交換条件にヴァンは真剣な表情を浮かべて黙り込み、アニエスは複雑そうな表情で答えを濁し、アーロンは警戒の表情でリゼットを睨んでいた。
「ふふ、冗談です。――――――今回、わたくしがサルバッドを訪れた業務目的ですが…………一つは、ヴァン様と改めて直接、コンタクトする事だったのは否定しません。”あのような”形で通信を打ち切られたので尚更気になってしまったのもありますし。」
「いや…………それについては悪かったとは思ってるけどよ。」
するとリゼットは微笑みながら交換条件は冗談であることを告げた後、自分がサルバッドに来た理由の一部を説明し、気まずそうな表情を浮かべてヴァンを見つめ、リゼットの答えに冷や汗をかいて表情を引き攣らせたヴァンは気まずそうな表情で答えた。
「クク、浮気の言い訳をする亭主みてぇだなァ?」
「……………………」
(はっ…………アニエスさんの息吹が仄暗く…………)
(ハァ…………)
(うふふ、あのくらいで彼女に嫉妬するなんて、若いわね~♪)
(まあ、”最初の押しかけ助手”としては自分よりも前にヴァンさんと親しい上、サポートも務めているというリゼットは色々と複雑なのかもしれないわね。)
アーロンがヴァンにからかいの指摘をするとアニエスは複雑そうな表情でヴァンとリゼットを見比べ、フェリはアニエスに起こっている出来事を察し、現在アニエスが抱いている感情の正体に気づいているメイヴィスレインは疲れた表情で溜息を吐き、メイヴィスレイン同様アニエスの気持ちを察してからかいの表情で呟いたユエファにマルティーナは苦笑しながら指摘した。
「そしてもう一つは他でもありません。『サルバッド映画祭』の現地調査のためです。」
「なに…………」
「そ、そうなんですか…………?」
リゼットが口にした意外な答えにヴァンは真剣な表情を浮かべ、アニエスは戸惑い気味の様子で訊ねた。
「直截に言ってしまえば…………二ヶ月前に開催予定だった『メッセルダム映画祭』。あちらの事情が関係しています。」
「民族テロで中止になった…………」
「…………ハン…………?何となく見えてきたな。」
リゼットの口から出たある出来事を耳にしたフェリとアーロンはそれぞれ真剣な表情を浮かべた。
「―――――きっかけはテロ予告と相次ぐ不審火で中止を判断せざるを得なかったメッセルダム市…………それと違約金を負担した現地の警備会社の要請です。かのテロの背景と、その中止によって想定以上に注目を集める『サルバッド映画祭』との因果関係――――――北カルバード州における我が社の危機管理評価の更新のため、改めてわたくしが派遣される運びになりました。」
「なるほど…………そういう事か。」
「えと、まったくもって全然ついていけないんですけど…………」
「…………要は北カルバード州全体の安全保障リスクを分析して…………必要になりそうな状況で必要なサービスを提供するための”準備”をしているんですね?」
「ハッ、聞いてる限りだと北カルバードだけじゃねえんだろ。まるで黒月の長老どもが考えそうな思考パターンっつうか…………オイ――――――ヤべえんじゃねえか、コイツら?」
リゼットの説明を聞いたヴァンが納得している中説明の意味がわからず気まずそうな表情を浮かべているフェリに説明をしたアニエスはリゼットに確認し。、アーロンは鼻を鳴らして指摘を口にした後不敵な笑みを浮かべてヴァンに指摘した。
「無理もありません…………戦争や犯罪のリスクを”ビジネス”に変換しているわけですから。ですが一方で、一部地域の治安維持に確実に貢献できているという自負もあります。更には国際的な犯罪結社や――――――”あり得ないレベルで脅威度が上がった犯罪組織”への対策も。」
「…………!」
「………そいつは…………」
「考えてみれば当然、でしたか…………」
「なるほど…………俺の件以外にもそこまで”必然”が重なったわけか。だったらこれ以上、突っ込む所はねえな。――――――体裁は”派遣”社員あたりか?3日間だし適当に決めてくれていい。腕前も戦術も想像以上だったし、”せいぜいよろしく頼むぜ。”」
リゼットの口から出てきた”あり得ないレベルで脅威度が上がった犯罪組織”がアルマータを示している事を察したフェリとアーロンがそれぞれ真剣な表情を浮かべている中アニエスは複雑そうな表情で呟き、ヴァンは納得した後静かな笑みを浮かべてサルバッドでの自分達の活動にリゼットが加わることを受け入れる答えを口にし
「はい、こちらこそ――――――よろしくお願いいたします、ヴァン様。」
ヴァンの言葉に頷いたリゼットは微笑んだ。
「………ええっ!?それってもしかして…………!」
「オイオイオイ!まさかこの女と組むってか!?」
「………………………………」
一方ヴァンとリゼットのやり取りの後我に返ったフェリとアーロンは驚き、アニエスは複雑そうな表情で黙り込んでいた。
「ま、お前らが反対すんなら流石に無理にとは言わねえが…………――――――さっきの顛末を考えると打てる手は打っとくべきだと思ってな。」
「あ…………」
「それは…………」
「チッ………そうだったな。」
ヴァンの話を聞いて地下水路での出来事――――――グレンデルに起こった異変を思い出したアニエスは呆けた声を出し、フェリとアーロンはそれぞれ真剣な表情を浮かべた。
「あのヤバイ天使ともう一人の娘…………”ゲネシス”を回収していったやり口。――――――まだ決まったわけじゃねえがどうしても連中を思い起こすのは確かだ。」
「…………はい………………」
「このサルバッドにあの人たちが…………アルマータが居るかもしれないんですね。」
ヴァンの推測にフェリは頷き、アニエスは複雑そうな表情で推測を口にした。
「―――――皆様の事情については存じ上げませんが我が社の分析でもその可能性は低くありません。ですが”他の勢力”である可能性もまた、現時点では切り捨てるべきではないかと思います。SCとしてまだまだ未熟ですが…………そういった部分でのお手伝いをさせて頂ければ。」
「…………ハン…………」
「……………………」
リゼットの指摘と話に反論がないアーロンは鼻を鳴らし、フェリは真剣な表情で黙り込んだ。
「加えて先ほどの”メア”とヴァン様の異常――――――自由意志のないAIが可視化して受け答えし、異様な密度のシャードに全身を覆われる現象…………その”想定外の暴走”についても何らかの対症療法を提示できるかもしれません。いえ――――――それについてはわたくし自身がそうしたいと思っています。」
「…………ぁ…………」
「…………ったく。」
リゼットの決意を知ったアニエスは呆けた声を出し、ヴァンは溜息を吐いた。
「勝手な申し出、とても納得しがたいことは重々承知しておりますが…………どうか3日間だけでも皆様とご一緒させて頂けないでしょうか…………?」
「…………リゼットさん。どうか頭を上げてください。こちらこそよろしくお願いします。正直――――――とても心強いです。」
「えへへ………さっきの”足場”とかも凄かったですし!」
「ハッ、考えてみりゃどこぞの所長よりよっぽど頼りになるんじゃねえか?」
頭を下げるリゼットに対してアニエスとフェリ、アーロンはそれぞれリゼットの加入に賛成の答えを口にした。
「お前な…………ま、否定はしねぇが。」
アーロンのからかいも込めた指摘にヴァンは苦笑しながら同意し
「…………ありがとうございます。アニエス様にフェリ様、アーロン様も。それではリゼット・トワイニング――――――本日より3日間、アークライド解決事務所に”出向”の形で参加させていただきます。」
リゼットは頭を上げた後ヴァン達の活動に加わる宣言をした。
その後、宿の女将が労いも込めて淹れてくれたミルクたっぷりの紅茶で一息いれながら…………ヴァンたちは”ゲネシス”や”グレンデル”、これまでアルマータが引き起こした事件―――そして今回の女優たちの依頼に至るまで、およそ一通りの事情を大まかにリゼットに説明した。リゼットもまた、驚きをもって受け止めながら守秘義務としてそれらの情報を無断で”出向元”に送らないことを固く誓い――――――そうした真摯で誠意ある配慮によってアニエスたちの信用を改めて勝ち取るのだった。そして日が暮れてヴァンの体調も完全復活した頃――――――ヴァンたちは夕食と、依頼者たちへの報告も兼ねて夜のサルバッドの街に改めて繰り出すことにした――――――
ページ上へ戻る