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魔術師の娘

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第五章

「魔術師、魔女は代々子供に伝えていくものっていうのはね」
「お母さんいつも言ってるわよね」
「うん、そうなのよ」
 母は娘を見ながら話す。
「子供になのよ」
「子供っていうのが?」
「実はお母さん子供産めないの」
 寂しげな、このうえなくそうなっている顔での言葉だった。
「学生の頃に病気してね。それで」
「子供が」
「そう、産めないの」
 その顔でさらに言う小百合だった。
「子供はね。だから魔術を伝えられる相手がね」
「いないの?」
「いなかったの」 
 今度の言葉は打ち消しのものだった。
「そうだったのよ」
「いなかったって」
「そう、いなかったのよ」
 言葉は過去形でもあった。そうした意味もあった。
 その打ち消し、過去形の言葉から温かい微笑みになり唯にこうも言った。
「けれどお父さんと結婚してね」
「そこに私がいて」
「唯ちゃんが。子供がいるから決めたの」
「お父さんとの結婚をなの」
「魔術を伝えられるから」
 それで結婚したというのだ。
「お父さんがいい人っていうこともあるけれどね」
「それでもなん」
「唯ちゃんがいたから。それで結婚したのよ」
「じゃあ私と結婚したのは」
 愛情からではないかと唯は思った。だが。
 小百合はそう思い出した唯にこう言ったのだった。
「それでもね」
「それでも?」
「唯ちゃんはお母さんのことをどう思うかしら」
「私がお母さんのことを」
「そう。どう思ってくれてるのかしら」
「お母さん」
 唯は小百合の今の問いに一言で答えた。
「そう思ってるけれど」
「そうよね。それで私もね」
「私のことを娘って思ってくれてるのね」
「当たり前じゃない。唯ちゃんは私の娘よ」 
 優しく明るい笑顔での言葉だった。
「誰にも代えられないね。たった一人の娘よ」
「私も」
 そして唯もだった。小百合のその顔を見て話す。
「お母さんは私のたった一人のお母さんよ」
「そうよね。親娘よ」
 確かに血はつながっていない。だがそれでもだというのだ。
「だから魔女として私の知ってることは全部教えるから」
「うん、それじゃあね」
「立派な魔女になってね。お母さん以上の」
「そうなっていいのね」
「それが一番嬉しいことだから」 
 まさに母としての娘に対しての言葉だった。
「だから頑張ってね」
「そうなるね。それで私も」 
 唯はきらきらとした目になっていた。その目で小百合に話す。
「魔術を娘に教えてあげるね」
「あっ、そうなるとは限らないわよ」
「えっ、どうしてなの?」
「産まれるのは女の子だけとは限らないじゃない」
 それでだというのだ。
「男の子の場合もあるでしょ」
「そうね。それは」
「そう。けれど男の子でもね」
「魔術を教えてなのね」
「伝えてね。魔術と」
 そしてだった。その他に伝えるものは。
「お母さんの唯ちゃんへの想いもね」
「それもなのね」
「そう、伝えてね」
「そうするね。絶対」
 唯はにこりと笑って小百合に頷いた。二人は確かな親娘だった。
 血はつながっていない、だが二人は魔術と心で確かに親娘になっていた。そのうえで二人で魔女として生きていった。慎ましやかであるが幸せに。


魔術師の娘   完


                             2012・9・3 
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