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蛮人と思えば

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第四章

「若し蛮人なら将軍はその場で首を刎ねられます」
「礼節を知らぬ蛮人なら何をするかわかりませぬぞ」
「ですからそれはどうも」
「危険だと思うのですが」
「何、若し襲い掛かって来るなら斬りそして去るまでよ」
 李とて武人だ。己の剣と馬の腕には自信があり言う。
「そうするまでじゃからな」
「ではそのうえで」
「将軍もですか」
「日本の陣地に入りそして見る」
 そうするというのだ。この話をしてだ。
「それでじゃ」
「そうですか。それではです」
「こちらにどうぞ」
 足軽達はこう言って彼等を陣地の中に案内した。ここで部下達はこっそりと李に囁いた。
「今のところはですな」
「穏やかといいますか」
「礼節を守っていますな」
「特におぞましいものはありませぬ」
「それに」 
 陣地の中にいる日本の者達を見る。しかし誰もがだった。
「赤い目の者がおりませぬな」
「それも一人たりとも」
「丸めた飯を食っていますが」
「それに魚に味噌も」
 そうしたものは食べているが肉の類はなかった。彼等はそれも見た。
 そして陣中は穏やかで殺伐としたものはなかった。むしろだった。
「朝鮮よりも清潔ですな」
「ここに来るまで随分と糞も見ましたが」
「しかしこの陣は奇麗にされています」
「それに色もありますな」
 陣地の旗も具足もそれぞれ飾っているものもあった。李朝の民衆は白い服ばかりでそれも随分と汚れていたのだ。 
 しかし日本軍は違った。随分とだったのだ。
「赤や青に」
「黒もありますな」
「白も奇麗な白です」
「黄色もあります」
「ふむ。確かにな」
 李もその旗や具足、それに陣羽織を見て言う。
「色が鮮やかじゃ」
「本朝の軍にも引けを取りません」
「見事なものです」
「そうじゃな。しかしじゃ」
 李はまだ断定しなかった。日本がどうかとだ。
「まだ日本のことを決めるのはな」
「はい、敵の将に会ってからですね」
「そのうえで、ですね」
「そうしなければな。何しろ鬼上官じゃ」
 李はここでこの名前を出した。
「相当惨い男じゃぞ」
「我等の前で人を喰らうかも知れませぬな」
「そして我等も下手をすれば」
「そうなるやも」
「だから用心が必要じゃ」 
 こう言うのだった。
「わかっておるな」
「わかっております。それでは」
「これより」
 彼等は尚も覚悟していた。その覚悟を秘めて敵の将がいる本陣に向かった。
 本陣は白い見事な、中央に黒で何やら紋がある陣幕で幾重にも覆われ複雑な道になっていた。その道を案内されて敵将がいる場所に来た。
 見ればそこには座に座る見事な具足と陣羽織の者がいた。具足も陣羽織も奇麗な色であり仕立てもかなりいい。
 傍には家臣達が控えている。その男がこう李達に言ってきた。
「ふむ、明の使者の方々か」
「左様です」
 使者が李を後ろにして答えた。
「今日は将軍に文を届けに参りました」
「わしに文とな」
「そうです。これですが」
「見てよいか」
 その日本軍の将は使者に確認してきた。
「その文を」
「はい、どうぞ」
 彼も応える。そうしてだった。 
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