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競り合って勝ったことは

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第五章

「私にも嫌だけれど」
「何かな」
「だから例えるにしてもね」 
 そうしてもというのだ。
「嫌だけれどこの場合出すしかないから」
「それで言うんだ」
「ええ、二〇〇八年の」
 このシーズンのというのだ。
「阪神ね」
「頭に思い浮かべたくもないよ」
 兄は妹にハヤシライスを食べるスプーンの手を止めて言った。
「もうね」
「そうよね」
「ブイやねん阪神だよね」
「それね」
「あの時は確実だよ」
 それこそというのだ。
「優勝出来たんだよ」
「誰もがそう思ったわね」
「それがだよ」
 妹に実に忌々し気に話すのだった。
「あれよこれよっていう間に」
「負けたわね」
「巨人にね」
「全く、巨人の優勝なんてね」
 千佳は憮然として述べた。
「考えるだけで腹が立つわ」
「そうだよね」
「もうね」
 それこそというのだ。
「巨人の優勝はよ」
「あってはならないことだよ」
「そうよ、だから例えに出すにも」
「嫌なんだね」
「私もね、けれどね」
 それでもというのだった。
「圧倒的なゲーム差をひっくり返すのは」
「あの時がだね」
「真っ先に思いついたから」
 だからだというのだ。
「お話に出したけれど」
「そうなんだ」
「中日の逆転の方がよかったかしら」
 千佳は今こう思った。
「八月末で十ゲームは開いてたのに」
「逆転優勝だったな」
「その方がよかった?」
「よかったね」
 兄はまさにと答えた。
「巨人のことは考えるだけで頭が腐るから」
「そうよね」
 このことも兄妹一緒だった。
「本当に」
「じゃあ考えをリメイクして」
「中日にしておくことね」
「そうだよ、しかしね」 
 それでもというのだった。
「そうしたことでもないとだね」
「パリーグはソフトバンクだね」
「そうなるわね」
「そしてそのソフトバンクを倒すのは」
 兄は強い声で言った。
「まさにだよ」
「阪神だっていうのね」
「シリーズ三回も負けてるんだよ」
 この現実を話した。
「阪神は」
「南海、ダイエー、ソフトバンクって」
「その都度あっちは親会社代わってるけれど」
 それでもというのだ。
「その都度だよ」
「負けてるわね」
「二日連続完封負け受けたり」
 南海の助っ人エーススタンカの力投によってだ。
「甲子園で胴上げ許して」
「そして守備妨害でよね」
「負けたから」
「和田監督抗議の横で日本一の胴上げだったわね」
「秋山監督の引退も兼ねてえね」
「そうだったわね」
「とんでもないネタだったよ」
 寿は憮然として述べた。 
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