オーバーロード×範馬勇次郎
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一話
竜王国。七彩の竜王が作ったとされる歴史ある人類国家だ。
しかしそんな歴史ある国家も隣国するビーストマンの国による侵攻により、いつ滅亡してもおかしくない程に追い詰められている。
ビーストマンは人間を食糧とする為に兵糧を現地で賄える。更にビーストマン単体の最低戦力も人類の10倍程度ある上に兵隊の数でも負けている為、マトモに戦った場合竜王国に勝ち目がないのは明白だ。
その為、スレイン法国に多額の寄進をして兵力を援助して貰い何とか凌いでいるが、それでも圧倒的な兵力差により侵略を止められていないのが現状だ。
そんな厳しい現状を打破すべく、リ・エスティーゼ王国やバハルス帝国にも援軍を要請した事はあったが、袖に振られ続けてきた。しかしそんな現状の好転を予期させる一報が竜王国の首脳に伝えられた。
「王国から援軍だと!?」
「信じられせんな…」
帝国から援軍が来る事はあっても王国から来る事は無いだろうと考えていた女王と宰相は驚愕を隠ずにいた。
嫌な報告だらけの中、久々に訪れた吉報に身を乗り出して文官に尋ねる。
「それで援軍の数は!?」
「そ…それが…」
「どうした?早く言わんか!」
「は、はい…。1人だそうです…」
「は…?」
言われた言葉を理解できずに頭が真っ白になった。ビーストマンの大群相手に1人や2人戦線に加わったところで大勢に影響はない。いないよりはマシだが限りなく無意味だろう。
「王国の連中はふざけているのか!?兵士1人だけの援軍だと!?軍どころか隊とも言えん!馬鹿にしているだろう!」
内心喜んでいただけに、その喜びを裏切られた事に対して怒りが湧いてくる。
「どうしようもない国だとは思っていましたが想像以上でしたな…」
宰相は最早怒りを通り越して呆れている。
そんな王国を非難する雰囲気の中、唐突にその男は現れた。
「どうやら不満がある様だな」
執務室は竜王国の最重要エリアである。多数の兵士が巡回し守りを固めている。故にこの空間には自分達以外はいない筈…
驚きつつ声の聞こえた方を見ると1人の偉丈夫が窓際に腰掛けていた。
身長は2メートル近くはあるだろうか……服越しでも分かるほど筋肉が発達しており、戦いに身を置く人種である事が見て取れる。
獣人の鬣のような黄金の怒髪と鬼の様な形相が相まって、まさしく悪魔的ともいえる風貌をしている。
首脳陣はその圧倒的な存在感に完全に呑まれていた。
宰相は震える声を必死に取り繕い、何とか言葉を繋げる。
「し、失礼しました。そんなつもりではなく……しかし敵軍は50000を越す大軍になっております。流石に多勢に無勢かと…」
大男はその言葉を聞き嘲る様に笑う。
「ビーストマンなど数だけ多い雑魚の群れ…一月も狩り続ければ戦線も押し上げられるだろう。」
常人が発すれば自信過剰と呆れられるだろうその言葉も、男の異様な雰囲気によって確かな根拠を感じさせるものとなっていた。
「明日から動き始める。酒と煙草を用意しろ。」
雰囲気に呑まれ固まっていた女王はその言葉で我に返り、慌てて指示を出す。
「何をしておる!早く客人を持て成すのだ!」
その言葉を受け、慌てて動き出す部下を見ながら女王が尋ねる。
「失礼だが、名前を聞いても良いだろうか?王国で貴殿の様な戦士の存在は心当たりがない」
王国のアダマンタイト冒険者や有力な傭兵団などの強者は大抵記憶しているが、この男の特徴と合致する者はいなかった。
「バルブロ・アンドレアン・イエルド・ライル・ヴァイセルフ」
「なっ…!」
ヴァイセルフ。その名を王国で名乗れる者は限られている。王家の関係者だけだ。そしてバルブロと言えば最も王座に近いと言われている第一王子である。いくら自身の強さに自信があると言えども、護衛も付き人も無しに他国まで来るとは奔放な男だ。
(元々、最高級の待遇を用意するつもりだったが、より丁重に接しなくては…)
相手は王国の第一王子として贅を尽くした生活が当たり前になっているだろう。その分、目も舌も肥えている。下手な対応をすれば、自身を軽んじられていると受け取られる可能性もある。そうなってしまったら何をされるか分からない。
「まさか第一王子直々の参戦とは…驚きましたな…しかし…申し訳ありませんバルブロ殿。竜王国は今非常に困窮しており、明日食べる物にすら困っている状況です。ですからその…」
「うむ。勿論、出来る限りの持て成しはさせて貰うが王国の生活と比べると些か劣った環境になってしまうだろう」
「構わねェさ。ここにはメシを喰いに来たわけじゃねぇ。」
取り敢えず不興を買う事にならずに済み一安心する女王と宰相。タイミング良く食事の準備が出来たと報告を受け、案内を始める。
取り扱いを間違えば国が滅ぼされかねない悪魔の様な男。だが逆に上手く協力を仰ぎ、力を借りる事が出来ればこの絶望的な戦況も良くなるかも知れない。微かな希望を持ちながら女王は就寝した。
翌朝、バルブロは最前線の激戦区に来ていた。
城壁の上に立ち、ビーストマンの軍勢を見下ろすバルブロを竜王国の兵士達は固唾を呑んで見守っていた。
誰一人手を出すな
そう指示を受けている為、兵士達に出来る事は見守る事だけだ。王国の要人である為、殺されそうになってしまったら助けに入るつもりではあるが。
城壁から先は数えるのが億劫になる程の敵に溢れている。そんな死地とも言える戦場に、バルブロはなんの気負いもなく飛び降りた。
人間は自分達からすれば敵ではなくただの食料だ。普段なら躊躇いもなく襲い掛かるビーストマン達だが、目の前の人間に本能的な恐怖を感じ動けずにいた。
「来ねェならこっちからいくぜ…“縮地”」
何かを呟いたかと思った次の瞬間、ビーストマン達は目の前の〝敵〟を見失い、戦いとすら言えない一方的な殺戮が始まった。
この戦争を機に竜王国の戦況は優勢となり、かつての領地を取り戻すまで戦線を戻す事となる。
一月足らずで3万を優に越すビーストマンを屠ったバルブロは近隣諸国から戦神と謳われる様になる。また、現人神であるとして一部の地域では信仰の対象になるまでになった。
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年齢不詳、とある宰相
『バルブロ殿より強い人間はこの世にいないでしょう。』
『腕の一振りで2桁に及ぶ程のビーストマンが絶命していたと報告を受けました。今まで苦しめられていただけに胸がすく思いがしましたな。』
『確かに同じ芸当が出来る戦士は他にもいるかも知れません。しかし…私には彼が誰かに負けている姿が到底想像できないのですよ』
30歳、竜王国兵士
『巷では現人神だの戦神だの言われてますがね』
『戦いを見た人間は1人残らず鬼神と呼ぶ事になるでしょうね』
『何故かって?背中にハッキリ見えるからですよ。〝鬼〟が』
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