リュカ伝の外伝
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新生活へ向けて……
(グランバニア王都:中央東地区・旧マルンハック公爵邸)
ピパンSIDE
「何か家を建てられない事情が?」
「いや、立てられない事情と言うよりも、伯母さんの我が儘が全てを妨害してるんだ」
我が儘ぁ?
「所謂中古物件を購入すれば、そこに家財道具を持ち込んで新生活が開始出来るけど、新築が良いとなれば出来上がるまでは引っ越し出来ない。小さい家……まぁ母子家庭の親娘が住む程度の家なら今から作っても新年度の入学には間に合うだろうし、我が家のお金の力か、リュカ様の権力を使ってもらえれば間に合わす事も出来るだろう」
そこに問題があるのかな?
「で、ここに来て伯母さんの我が儘が邪魔をする! 『そんな小屋(小さい家)でなんて暮らせるワケないでしょ!』って事で、建てるのならこの中古物件くらいの屋敷を建てろって言ってきたんだ」
目の前のお屋敷(旧マルンハック公爵邸)を指さしながら失笑するルディーさん。
「建てるのは問題ないよ。でもこれだけの豪邸だ……土地の確保や建設に時間が掛かる。でもデイジーは新年度には入学式を迎える事になる。つまり時間が無いんだよね。デイジーの為の引っ越しなのに、自分の我が儘を言って問題事を複雑にしてるんだ……勘弁して欲しいよ」
「じゃぁ……こういうのは如何ですか? 一旦ですが、新年度からは芸高校近くのホテル住まいを初めて、その間に要望通りの屋敷を建設して、出来上がり次第その新築に引っ越しをする」
「リュカ様が既に提案してくれたよ」
「リュカ様が!? 流石、俺程度でも思い付く事だから、既に提案済みかぁ」
でも却下されたって事だよな。
「伯母さんはさぁ……何故だかリュカ様の事が嫌いなんだ」
「えっ!? そんな女性が居るの?」
驚きである。
「だから『リュカの側になんて永住するのはごめんよ! 私の屋敷が出来上がるのに何年かかるのよ!? 1年程度で完成する劣悪建築は許さないわよ! 全てにおいて完璧な屋敷を作る……そんな長時間、ホテル暮らしなんて堪えられるワケないでしょ!』って激怒。リュカ様の提案って事もあるだろうけど、八方塞がりになり取り敢えず中古物件を見て回って何か解決策を練ろうって……」
「なる程……大変ですね」
「うん。でも今日は全部見終わったし、僕は自室へだけど伯母さんとデイジーは“王国ホテル”に帰るだけなんだ」
「そういう事なんだから帰るわよ!」
屋敷内で訊いていたのかな?
俺等の会話が途切れたのを見計らってデボラさん(俺は伯母さんとは呼ぶわけにいかない)が出てくる。
気合いだけで着ているんだろう……その露出度の高い服は既に日が陰ってきた今の時間帯には厳しすぎる。
外へ出るなりデイジーさんの手を取り、優しく彼女を門から外に出す。
随員のボディーガードも無駄のない動きでそれに従う。
「じゃぁ私達はホテルに帰るわ。アンタは別なんだから勝手に帰りなさい。じゃぁね、また明日」
ルディーさんに告げ、メイド(偽物)に案内されながら魔道人員輸送車停へ去って行くデボラさん。
凄いインパクトの人だな。
「根は悪い人じゃ無いんだけどなぁ……デイジーの事も溺愛してるし、芸高校への受験や入学を全力でサポートしてたし……あの我が儘さえ無ければ」
「こんな事を言うのは今更ですが、デイジーさんの一人暮らしって方法は無いんですか? さっきルディーさんも言ってましたけど、一人暮らしが無理ならルームシェアだって選択肢の一つだと思いますけど?」
「伯母さんがね……子離れ出来てないんだよ」
「……はぁ?」
預かっていたであろう旧マルンハック公爵邸の鍵を使い、出入り口や門を施錠しながら、疲れた声で話してくれる。
「この話は広めないでもらいたいけど、デイジーのお父さん……遺伝学的な父親ね……が、誰なのかは明確にされてないんだ」
「え!? 何で?」
「さぁ……言いにくい相手なんだろうね。伯母さんも我が儘だし言いたくないんだろう」
「そ、それで良いんですか?」
「良くはない。でも取り敢えず落ち着いた懸案だから蒸し返すのも……ねぇ」
「それは……そうですね」
「兎も角も、そんなワケで伯母さんは娘から離れたくない。でも我が儘いっぱいに育ってきたから、それが罷り通らない人生は嫌。結果……こうして僕は寒空の下ピパン君と魔道人員輸送車を待っているんだ。人生って解らないね(笑)」
「あははっ、確かに!」
「う~ん、でも不思議だなぁ?」
ちょっと笑ったところでルディーさんが何か疑問を思い付いた。
「昨日・今日と数件の屋敷を巡って来たんだけど、グランバニア王都って大きめの空き屋敷が結構存在するんだね? 歴史的には王都が広がり始めたのは、そんなに昔からってワケじゃないのに……?」
そうか……ルディーさんは知らないのか。
「その現象はグランバニアでは当たり前の事なんですよ」
「……当たり前? どう言う事だい?」
グランバニアで義務教育を受けていれば当然の知識なんだ。
「リュカ様がグランバニアを発展させるにあたって、若手の育成を最優先に考えられたんです。その為に“その年に6歳になる者から、その年に15歳になる者”が対象で、完全無料の学校を作り通わせる事が義務になる……義務教育法を施行したんです」
「流石はリュカ様だ。考えつくのも凄いが実行しちゃうからもっと凄い」
「俺もそう思います。そういう所が格好いいですよね。で、まぁ……考えて実行するのは良かったんですけど、何をするにも金がかかる……学校なんて大きな建物を国民の為に大量に作るとなれば、それはもう大金が必要になるワケで……」
「うん。その資金は何処から捻出したんだろ?」
「当時……まぁ今も多少はですけど、幅を利かせていた貴族から税金を徴収するって提案を強行したんです」
「『強行』って事は話し合いなんて……」
「してません。俺等の知るリュカ様節炸裂ってヤツです(笑)」
「実家のお祖父様がよく被害に遭ってるよ(笑)」
あの人の凄さ……笑ってる場合じゃ無いんだけどね(笑)
「話し合いも無い。見ず知らずの下級民に金を使う。しかもその税金の所為で自分等の生活水準が激しく低下する。プライドが高い人じゃ無くても、そんな状態を素直に受け入れる者は少ないでしょう。大勢の貴族が武力を持って立ち上がったんです」
「リュカ様に武力行使かぁ……申し訳ないけども笑ってしまうなぁ(笑)」
「その通りで、クーデターというのか、反乱と言うのか、リュカ様が治世について初めての内乱は1時間で終わりました。反乱側の準備期間の方が遙かに長いですよ。でも反乱は反乱……参加した貴族等は財産・家柄・権力とか全て没収。『一般の平民として生活するならこれ以上は罰しないよ』との事で、処刑とかされる者は居なかったそうです。多少の生活金は与えたみたいですが、これまで我が儘に育ってきた生活力が欠如した元貴族なんかは、生活が困難になりすぎて犯罪者になって罰せられた者が居るみたいですが、半分以上は生き残ったみたいです」
「その結果、王都内に大きな空き屋敷が多数在るわけか」
「はい。先程の旧マルンハック公爵邸もその一つで、管理は国がしてるみたいです。本心としては早く売れてほしいんでしょうね」
「だろうねぇ……とは言え取り壊すにも金が掛かるしね」
「そうです。で、この事はグランバニアの義務教育の近代史で教えられる内容なんです。だからグランバニアで義務教育を受けた者は皆が知ってる(はず)な事なんですよ」
ルディーさんにグランバニア近代史を教えている内に、待っていた魔道人員輸送車が到着。乗り込んで空いた席に座る。
優しいルディーさんは窓際席を譲ってくれて俺も素直に譲られる。
本当にお兄さんが出来たみたいで嬉しいんだよね。
もう既に暗くなった町並みを魔道人員輸送車の窓から眺めて考える。
結局はデボラさんの我が儘を如何するのだろうか?
中古も駄目(ヤダ)、新築でも小さいのは駄目(ヤダ)、一先ずの仮住まいも駄目(ヤダ)って事で、打つ手無しに見える。
まぁ後はリュカ様とかが何とかするだろう。(特にリュカ様が力尽くで)
俺に出来る事なんか何も無いだろうし、父さんに頼んでも何も出来ない事柄なのは間違いないし、申し訳ないけども俺は傍観者になるしか出来ない。
でもデイジーさん……
凄く美人だったなぁ……
もし俺の力で良ければ、何でも協力するつもりはある!
でも俺ってただの子供だし……
その点、リュカ様の娘さん等(一部例外は除く)は凄いなぁ。
特にリューナさん。
バリバリにこの国の発展に協力している。
そこまでじゃ無くても、今回の件……デイジーさんの力になれるくらい能力があればなぁ!
ピパンSIDE END
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