名古屋だがや
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第一章
名古屋だがや
名古屋に引っ越すと言われてだ、愛媛県にいる谷沢栄太郎は両親に言った。
「お父さんの転勤でなんだ」
「ああ、今度な」
「そうするわ」
「あの、名古屋って」
小学校を卒業したばかりでだ、まだあどけなさが残る顔で言った。背は一六〇位で黒髪をショートにしている。
「ドラゴンズとかきし麺とか」
「味噌煮込みうどんに味噌カツにな」
「海老にういろうよ」
「テレビ塔もあって」
そしてというのだ。
「かきつばただね」
「ああ、よく知ってるな」
「私達より知ってない?」
「そんな歌聴いたことあるから」
栄太郎は両親にこう答えた。
「知ってるんだ」
「そうか、じゃあ予備知識もあるしな」
「行っても大丈夫ね」
「そうだといいけれどね」
栄太郎は引っ越しても学校でやっていけるかもっと言えば名古屋に行って大丈夫かと不安だった。だが。
中学校は幸い穏やかでいじめ等もなく平和だった、彼自身が受けることもなく彼が知る限りそうした話もなかった。
そして食べるものは。
「どれも美味しいね」
「ああ、本当にな」
「美味しいわね」
両親は家で息子に応えた、父の栄作は息子に異伝をそのまま受け継がせていることがわかる顔で母の柳子は面長で頬がすっきりとしていて八重歯がある、穏やかな目で眉がしっかりしていて背は一五六位で黒髪をロングにしていてスタイルがいい。今は一家で夕食を食べている。
「八丁味噌のお味噌汁もね」
「いいよな」
「海老だってね」
「いいな」
「鶏肉も」
母はこちらの話もした。
「やっぱりね」
「名古屋コーチンだな」
「これがね」
実にというのだ。
「いいわよね」
「噂以上にな」
夫もまさにと答えた。
「いいな、それにきし麺」
「あの麺ね」
「最高だよ」
今度は夫が言った。
「いや、試しに立ち食いで食べたら」
「最高だったのね」
「そうだったよ」
「私は味噌煮込みうどん食べたけど」
「そっちもかい」
「いいわ、あとすがきやの」
このチェーン店のというのだ。
「ラーメンがね」
「手頃なお値段でな」
「時々でも食べたくなる味よね」
「そうそう、名古屋いいよ」
夫は満面の笑顔で話した。
「引っ越したけれど」
「あなたの転勤で」
「こんなにいいなんてな」
「思わなかったわ」
「給食でも名古屋全開だよ」
息子は学校の話をした。
「本当に。ただね」
「ただ?どうしたんだ」
「何か不満あるの?」
「いや、道が広くて」
それでというのだ。
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