氷のローマ
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第一章
氷のローマ
ローマに来たのは十二月だった、沖縄生まれで今は鹿児島県の鹿屋で働いている儀武理恵はローマに着いた瞬間に仰天した。黒髪を長く伸ばし面長でぱっちりとした目と形のいい眉に程よい大きさの赤い唇を持つ一五八位の背ですらりとしたスタイルである。職業はOLで年末年始の休暇でローマに旅行に来たのだ。
「雪!?」
「はい、今冬ですから」
理恵が参加しているツアーのコンダクターである山村十和子二十三歳で黒く短い髪の毛と大きな丸い目と小さな唇を持つ丸顔で小柄でありつつ巨乳の彼女が答えた。
「雪も降りますね」
「大雪なんですが」
「珍しいことではありますが」
「あるんですか」
「緯度で見て下さい」
十和子は空港で他のツアー客達と共に茫然となっている理恵に答えた。
「ローマは日本だと東北位ですよ」
「緯度高いんですね」
「はい、これが」
実はというのだ。
「パリなんて宗谷岬より北ですから」
「だから雪もですか」
「降ることがあります、イタリアより緯度が南にあるギリシアも」
この国もというのだ。
「冬は厳しいですよ」
「快適かと思ったら」
地中海気候のイメージからだ、理恵は言った。
「違うんですね」
「ですからあまりなくても」
それでもとだ、十和子はさらに話した。
「こうしたこともです」
「あるんですね」
「そうなんですよ」
「意外でした」
「まあそれでもこれ位でもです」
大雪であることは事実だが、というのだ。
「ちゃんとツアーは行えるので」
「安心していいですか」
「はい、大船に乗ったつもりでいて下さい」
「それはどんな大船ですか?」
「八十万トン位のタンカーですね」
十和子は笑って答えた。
「それこそ」
「石油を運ぶ」
「そうです、ちょっとやそっと以上のことではです」
「びくともしないですか」
「そうしたツアーになりますので」
大雪でもというのだ。
「安心して下さい」
「そう言われるなら」
十和子も頷いた、そして他のツアー客達も。それでだった。
空港を出てツアーがはじまった、空港を出てもローマは銀世界で覆われ雪と氷で飾られていた。それこそだった。
トレビの泉もコロシアムもサン=タンジェロ城も全てだった。
雪に覆われ銀に飾られていてだった、よくある写真のものとは全く違う感じだった。もっと言えば町全体がそうで。
食事を摂ってワインを飲んでもだ、理恵は言った。
「ローマじゃなくて」
「別の街にいる感じですか?」
「いえ、ローマにいますが」
知識にあるこの街にというのだ。
「ですが」
「それでもですか」
「全く違う」
ローマはローマでもというのだ。
「別の世界のです」
「ローマという感じですね」
「まさか」
本場のラザニアを食べつつ言うのだった。
「こうなるなんて」
「想像もされなかったですか」
「本当に」
実際にというのだ。
「冬でもです」
「日本の冬とは違って」
「暖かくて」
そうしてというのだ。
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