昭和で止まった男
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第一章
昭和で止まった男
とある野球の週刊誌を読んでだ、高校生で野球部に入っていて野球を毎日楽しんでいる重原壮亮大きなキラキラした目で引き締まった顔立ちに黒髪をスポーツ刈りにしている一八〇近い背で痩せた彼は言った。
「何だよこの遺言って」
「ああ、その雑誌読んでるんだな」
クラスメイトで同じ野球部の宇野幾多郎が応えた、彼の背は一七〇程で丸い目と大きな口を持っている。黒髪はショートでやはり引き締まった体格である。
「その雑誌ためになるよな」
「野球ならこれか?」
「あとナン何とかもいいぜ」
「そうなんだな」
「ああ、それでそのコラムか」
「何とか太郎の遺言な」
「そいつ巨人のエースだったんだよ」
書いている者はとだ、宇野は重原に話した。
「昔な」
「昔ってプロフィールとか確認したらな」
重原は自分のスマートフォンを出して言った。
「ドラフト初年で巨人に入ったな」
「一位でな」
「大昔だろ」
その頃はとだ、重原は言った。
「もうな」
「祖父ちゃん達の時代だな」
「父ちゃん母ちゃん生まれてないぞ」
「そう思うと大昔だな」
「巨人が強かった頃だな」
「パリーグのチームは皆親会社鉄道会社か映画会社だったよ」
宇野はこうも話した。
「それで巨人がな」
「強かった時期だな」
「王さん長嶋さんがいてな」
所謂ONである。
「その頃だよ」
「本当に昔だな」
「そんな昔の奴、爺だからな」
それでというのだ。
「もう敢えて遺言ってな」
「言ってるんだな」
「そうだよ」
「昭和の爺だな」
重原はそのコラムを目にして冷めた目で言った。
「完全に」
「言ってること古いだろ」
「ああ、偉そうでな」
「すげえ偉そうだな」
「何様って感じでな」
「巨人のエースで名球会入ってるしな」
「選手としては凄かったんだな、けどな」
それでもとだ、重原は自分の席の前に座って体を捻じって顔を向けている宇野に対して話した。彼は自分の席に座っている。
「祖父ちゃんも父ちゃんもコーチ、監督としてはな」
「最高だって言ってたな」
「うち全員阪神ファンだしな」
「うちもだよ」
「それならな」
「ああ、誰も育てなくてな」
コーチとしてというのだ。
「采配だってな」
「下手だったな」
「敵の監督だったらな」
そしてコーチならというのだ。
「偉そうに言うだけでな」
「はっきり言って采配下手でだな」
「無能な敵は最高だっていうだろ」
「そうした意味で最高だったな」
「ああ、そうだよ」
「そんな奴だな」
「もうあれだよ」
宇野も冷たい目になっている、それで言うのだった。
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