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実は名医だった

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第二章

「お医者さんなのは知ってたけれど」
「そうだったのね」
「驚いたわ」
 実際にとだ、こう言ってだった。
 裕美は家に帰ると母にこのことを尋ねた、すると母はいつもの調子でこう自分の娘に答えたのだった。
「昔のことだから」
「本当のことなのね」
「ええ、けれどね」
「けれど?」
「お母さんその頃からこうよ」
「地味なの」
「ええ、そうよ」
 変わっていないといというのだ。
「別にね」
「そうなの」
「何もね」
「地味でもなの」
「そうなのよ」
「そうだったのね」
「それに凄いって言われても」
 それでもというのだった。
「お母さんより凄い人は幾らでもよ」
「いるの」
「そうよ」
「お母さん世界的に有名だったのよね」
「だからその世界は広くて」 
 それでというのだ。
「お母さんより凄い人はね」
「幾らでもいるの」
「お医者さんの世界でもね」
「そうなの、ただ何でお医者さんに戻らないの?」
 裕美はふとこのことについて考えて母に尋ねた。
「どうしてなの?」
「妊娠してね」
「私をなの」
「そう。それで育児に専念していたら」
「今もっていうの」
「そうよ」
「もう戻らないの?」
「きっかけがあったらね」
 娘に微笑んで話した。
「戻るかもね」
「そうなのね」
「けれど今のままで不自由していないし充実してるから」
 主婦としての生活がというのだ。
「だからね」
「いいのね」
「いいわ、だからこのままね」
「暮らしていくのね」
「きっかけがないままだとね」
 今の暮らしが悪くないからとだ、裕美に微笑んで言ってだった。
 公佳は主婦の仕事を続けた、地味な外見のままそうした。だが裕美は今度は母が家事を手を抜かず毎日しっかりとしているのを見てだ。
 それならこれでいいと思った、そして母親を慕い続けた。そうして立派に成長し彼女も幸せな家庭を築いたのだった。自分の母親の様に。


実は名医だった   完


                   2024・5・26 
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