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Fate/WizarDragonknight

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”激唱インフィニティ”

 パピヨンが指を鳴らす。
 蝶たちへ爆発を指示するそれは、ビーストと響、そして彼女が抱き寄せるちづるを袋小路から吹き飛ばす。

「……っ!」

 一方死体たちを盾としてかき集めたアウラには、それほどのダメージはない。
 粉々になった参加者たちやファントムたちの残骸を見届けながら、アウラは「ふーん……」と爆発を引き起こしたパピヨンへ目をやる。

「大した威力ね。私のものにしてあげる」

 アウラは天秤をパピヨンへ向ける。
 そして。

服従させ(アゼリュ)……」
「だりゃあああああッ!」

 だが、そんなアウラの天秤を叩き落とそうと、響がかかと落としを放つ。

「っ!」
「どうして……どうしてこんなことをするのッ!?」

 響は叫んだ。

「手を繋ぐことが出来るわたしたちがッ! 戦わなければ、命をやり取りしなくてもいいのにッ!」
「嫌よ。私の方が強いもの」

 アウラは表情を動かさないまま、天秤を掲げる。
 パピヨンへ向けられていた魔法が、次は響へ向けられる。

「強い者が弱い者から全てを奪う。当たり前のことじゃない。さあ、あなたも……」
「させるかよ!」

 ビーストは叫び、ダイスサーベルを投影する。
 ダイスサーベルは上手くアウラの天秤、その測りを吊るす糸に引っかかり、それを地面に落とす。

「……っ!」
「っしゃあ!」

 顔を歪めるアウラへガッツポーズを決めたビーストは、即座にちづるを襲おうとするファントムを蹴り飛ばす。

「響、そいつに説得は無駄だ。アイツにはこれ以上何言っても聞かねえよ」
「でもッ……! 私は、まだ諦めたくないよ……ッ!」
「ええ。そうね。出来る事なら、私も皆で仲良くいた方がいいわね」

 アウラは肩を鳴らした。
 驚いた表情になるパピヨンと同じく、ビーストも耳を疑った。

「そ、そうだよねッ! それじゃあ……」
「御託はいい」

 突如として降り注ぐ、第三者の声。
 見れば、頭上を埋め尽くすパピヨンの蝶たちが、一気に霧散していく。
 それはまるで、雹。空より降り注ぐ無数の雹が、蝶たちを蹴散らしながら地上の参加者たちを襲う。

「やべえ! 一之瀬屈め!」
「な、何っ!?」

 屈んだちづるの上に覆いかぶさると、すぐにビーストの背中に激痛が走る。

「ぐああああッ!」
「コウスケさんッ! グッ……」

 響はマフラーを回転させ、自らを襲う雹を一気に薙ぎ払っている。パピヨンも、蝶の群れを傘にして、被害を防いでいる。
 そしてアウラは、手頃な遺体を頭上に掲げ、雹を完全に防いでいる。

「また貴女なのね……フロストノヴァ」
「!」

 その名前を言われた直後、ビーストのすぐ隣を、白い気配が素通りする。

「フロストノヴァ……!」
「な、何この寒さ……?」

 自らの腕を掴んで震えるちづる。
 彼女へも目をやりながら、ゆっくりとビーストの前に立つのは、白いウサギの耳のような頭部が特徴の女性。
 今回マスター探しのきっかけとなったフロストノヴァ。

「何でここに……!? 一之瀬ははマスターじゃないんだろ……ッ!」

 フロストノヴァは、伸ばしたままの手を下ろすことなく、アウラを睨んでいる。
 彼女の周囲に、避難を選択していない人はいない。おそらく、近くにはマスターはいないのだろう。

「少なくとも今は、単独行動ってことか……」

 フロストノヴァの目は、じっとアウラを見つめている。

「お前が戦いを降りる気がないことなど明白だ。やはり、お前は気に入らない……」
「本当にあなたには嫌われたものね」
「……そして、お前もか」

 フロストノヴァは目だけを動かし、パピヨンを睨む。彼女の視線に晒されたからか元からか、パピヨンは奇妙なポーズでフロストノヴァを受け入れた。

「ランサーにネクロマンサーそしてゲートキーパー……だんだん盛り上がって来たではないか……!」
「お前も結局、参加者か……」
「残念ながらまだ監督役を見つけられなくてね。教えてくれないかい? どうやったら聖杯戦争に参加できるのか」
「……」

 フロストノヴァは答えない。
 彼女はやがてビーストへ目を配る。

「お前、その少女は……?」
「何だよ」

 ビーストはちづるの前に手を伸ばす。フロストノヴァは目を細めながら尋ねた。

「戦士か?」
「……は?」
「そいつは参加者かと聞いている」
「ち、違えよ」

 今、ビーストが最も恐れていることは、フロストノヴァがちづるへも牙を向くこと。
 フロストノヴァはしばらくちづるを見つめていたが、やがてビーストへ目線を移す。

「……何をしている。早くそいつを逃がせ」
「え」
「お前も、そいつを守りながらだと戦えないだろう」
「あ、ああ……」

 巻き込むつもりはない、のだろう。
 ビーストはちづるへ向き直り、彼女の肩を掴む。
 ほとんど放心状態の彼女は、ビーストに揺さぶられることでようやく正気を取り戻した。

「一之瀬。悪いが、今見たこと聞いたこと、全部忘れてくれ。いいな?」
「わ、忘れ……」

 ちづるは言葉さえまともに返してこない。だが、ビーストがもう一度「頼む!」と懇願すると、狂ったように頷いた。

「分かったわよ……」

 ちづるは、この場の異能の力を持つ者たちを見比べながら、やがて背を向けて走り去っていく。
 だが。

「待て待て。折角だ。見ていけ!」

 パピヨンは逃げるちづるへ手を伸ばす。
 だが、彼の手から放たれた蝶たちは、その進路上に発生した氷の壁に阻まれる。

「……邪魔をしないでくれよ、フロストノヴァ」
「戦士ではない者を巻き込む必要もないだろう」
「なんだ? 君も参加者なのだから、人間から魔力を吸い取った方が強くなるのだろう?」
「無駄な犠牲は必要ない」

 フロストノヴァは吐き捨てる。彼女の周囲ににじり寄って来た蝶たちも氷に閉ざされ、落ちると同時に消滅していく。

「ランサー。彼女は説得しないの?」

 アウラはくすりとほほ笑みながら言った。
 すでに、フロストノヴァとパピヨンは、互いを戦うべき敵と認識しているようだった。それぞれ氷と蝶が空中で火花を散らしている。

「参加者ではなくとも……戦士ならば、容赦しない……!」
「面白い! やってみろフロストノヴァ!」

 パピヨンの蝶とフロストノヴァの氷。
 それらは両者ともに夥しい量となり、互いを襲う。
 だが。

「やめろおおおおおおおおおおおおおおおッ!」
「響!?」

 ビーストの目の前を、叫ぶ響が横切った。
 彼女は両手を左右に突き出し、挟まる。
 そして発生する、大きな爆発。フロストノヴァとパピヨンの攻撃は、響ただ一人に集中してしまっていた。

「いい加減にして……」

 氷と爆発。
 だがその中、響は叫んだ。

「こんな……戦いなんて……ッ! 間違ってるッ!」
『ダインスレイフ』

 シンフォギアの白い部分が反転し、黒くなったそれ。
 イグナイトモジュールと呼ばれる、シンフォギアの強化形態。これまでも逆境での有効打となったそれは、二人の異能の力から響を守っていたのだ。

「はあ、はあ……ッ!」

 ダメージを受け、響は膝を折る。だが、上げたその顔には、決してあきらめが現れていなかった。

「この戦いを……終わらせるッ!」
「私の手にかかれば終わるわよ」

 アウラは吐き捨てた。

「……え?」
「さっきも言ったじゃない。戦う必要なんてないわよ」

 彼女は両手を広げながら、自らの周囲にいる死体たちを見せつけた。

「だからこうしているんじゃない」

 彼女の周囲に集まる、首のない遺体たち。参加者であり、ファントムである彼らを従えながら、アウラは続けた。

「ほら。みんな私の下僕になれば、ずっと一緒。聖杯戦争のような戦いだって続ける必要はなくなるじゃない」
「……」

 ビーストはじっと、響を見つめる。
 何も言わなくなった響は、静かに目元を前髪で隠していた。
 ビーストはやがて、静かに響へ声をかける。

「響。分かっただろ? アイツは……」
「……うん」

 響は頷く。ゆっくりと顔を上げた響は、アウラ、フロストノヴァ、そしてパピヨンの三人を見やり。
 それを眺めていたアウラが、ぼそりと呟いた。

「……私は何か間違えたことを言ってしまったみたいじゃない」

 そして。
 波のように、死体たちが響へと向かう。
 だがすでに、響の胸には。

「唄があるッ!」

 黒く染まった拳のカートリッジを引くのと同時に、それは流れ出した。

___いざ飛ばん!___
「Let’s fly!」
___空へ___

 響の掌底は亡者たちを空気ごと吹き飛ばし、さらに攻め立ててくる参加者の亡骸たちの攻撃を受け流す。
 さらに体を回転させ、マフラーで背後のファントムだったものを突き飛ばす。

___いざ行かん!___
「Let’s fly!」
___明日へ__

「面白い……面白いぞ! ランサー!」

 パピヨンはその背に蝶の翼を宿し、指を鳴らす。
 無数の蝶が群れを成し、響へ迫るが。

___最上のシンフォニック___
___声を「ひとつにたばね!」___

 響のハッケイは、蝶たちを一気に蹴散らし、爆発させる。さらに、両足を揃えてジャンプ。
 イグナイトの力により強化された跳躍力は、パピヨンとの距離を一気に詰める。

「何!?」
___胸に夢は___
「Let’s fight!」
___あるか?___

 響がパピヨンの胸に繰り出す拳。
 それは、彼の体と表情を大きく歪める。響は体を捻って空中で回転し、かかと落としでパピヨンを地面へ突き落とす。

___アツイ歌が___
「Let’s fly!」
___あるのか?___

 地上へ着地した響へ、今度は無数の氷柱が襲う。
 バク転を繰り返すごとに、彼女がいた場所に氷の槍がそびえたつ。

___ほとばしる程___
___君の___

 そしてバク転を繰り返しながら、響は着実にフロストノヴァへ近づいていく。

「っ!」

 フロストノヴァは手を地面に押し当てる。
 すると、地面から波打つように現れた氷が、一気に響を襲う。
 だが。

___熱き熱___
___爆せる___

 両手を合わせ、再び響の体は跳躍。
 氷の波を抜け、一気にフロストノヴァの背後を取った。
 フロストノヴァが振り向くまで、そのほんの少しの間に、響は彼女の腹へ掌底を放っていた。

___無限大のソウルが___
___手と手を繋ぐよ___
「……っ!」
「激唱インフィニティイイイイイッ!」

 華奢なフロストノヴァの体は吹き飛び、彼女が先の攻撃で繰り出した氷の波を打ち砕きながら転がした。

「あら、いい駒ね。今いる駒全部交換してあげてもいいわ。私の物になりなさい」

 アウラは響へ天秤を向けた。
 すると、天秤の両側に白い魂が乗せられる。
 片方はアウラ。そしてもう片方は、響。

服従させる魔法(アゼリューゼ)

 そして、アウラの魔法が発動する。
 魔力量の差によって天秤が傾き、優位に立った方が相手を支配する。
 サーヴァントというカテゴリでは同じ響とアウラだが、それぞれの力の源に使われる魔力量___響の場合は、それはフォニックゲインと呼ばれるものに差し変わっている___には当然差がある。
 体術を基軸とした響に比べ、アウラは魔力の比較、その一点のみへ集中している。たとえ身体スペックが同等だったとしても、魔力という分野に限ればアウラに軍配が上がる。増してや、アウラはそのために響と比べものにならないほどの魔力研鑽をつんでいる。

「ぐッ……!」

 響が、アウラの魔力に太刀打ちできる道理はない。

「さあ、こっちに来なさい」
「行くな! 響!」

 命令系統を完全に支配された今の響に、ビーストの声は届かない。
 アウラの言葉に、響の体が震えながらアウラへ歩み寄っていく。
 その目の前で完全に膝を折った響へ、アウラが短剣を抜き取った。
 ウィザードをも苦しめたその剣。それが、光を放ったその瞬間。

「だああああああああああああッ!」

 響の大声に、アウラの支配力が弱まる一瞬。
 響の掌底が、アウラの腹を貫いた。

「がっ!」

 吹き飛ぶアウラを守るように立ちはだかる、無数の遺体たち。
 だが。

___Red zone ガン振りしてねじ込むコブシ___

 響へ襲い掛かる一体一体の首なしの騎士たち。
 それを響は、的確な格闘技で無力化していく。

___一片の曇りなき防人(さきも)れる(つるぎ)___

 さらに続く死体たちの拳。
 響は両手を地面に付け、両足を前後に広げる。そのままコマのように回転し、死体たちを一気に蹴散らす。

___ゼロ距離でも恐れなく踏み込めるのは___

 さらに、両手をバネに再跳躍。

___背中を託して___

 両手を引き寄せ、

___(つが)える___

 地面へ放つ。

___君を感じるから___

 地面に走ったクレーターにより、残った全てのファントムたちがバランスを崩して倒れ込む。

「そんな……人間が……勇者でもない人間が……ッ!」

 顔を大きく歪めるアウラ。
 彼女を守るように、全ての死体がアウラの前に集まっていく。
 だがそれは、より彼女の人形たちを一網打尽にしやすくなることを意味する。

「それはいくら何でも悪手だね」

 無数の蝶。
 それは、アウラの下僕を含めた参加者全員を爆発に巻き込んでいく。

「やったぜ狂い咲きいいいいいいいいいッ!」

 パピヨンの勝利宣言。
 だが。

___二度と___
___こない___
___今日に後悔___
___なんてしない為に___

 唄が、パピヨンの顔を歪めた。
 爆炎から飛び出した響が、またしても彼の上を取ったのだ。

「何!?」

___闇さえも___
___ハートの___
___チカラへと___
___食いしばる痛みも握って___

 小規模ながら素早い蝶たちの特攻。
 それは、響に何度も爆発を与えていく。
 響の体は、だんだんと傷ついていく。だが、それでも響の進みは止まらない。
 その掌底は確かにパピヨンの腹を貫き、近くの建物の屋上へ突き落とした。

「……ッ!」

 だが、空中の響は無防備。
 そう判断したのだろう、フロストノヴァが彼女へ手を伸ばす。
 無数の氷柱が、空中の彼女へ発射される。
 だが。

__全霊の___
「Let’s fly!」
___歌を___

 響は足で氷柱の先端を踏み砕き、

__全霊の___
「Let’s fly!」
___想いを___

 そのまま向かい側の氷柱を砕きながら高度を下げていく。左右交互に着地しながら、フロストノヴァへ迫っていく。

___どんなにも離れても___
___君へ「ゆうきをちかう」___

 フロストノヴァはすぐさま氷の防壁を展開。
 だがそれも、再び響のハッケイの前には、いとも簡単に砕け散る。
 そのままフロストノヴァを吹き飛ばした響は、アウラへ標的を定める。

___再び今___
「Let’s fight!」
___風を___
「この……化け物っ!」

 アウラは叫びながら、天秤を振るう。
 だが、響の速度は、アウラの洗脳魔法の効力が利き切る前に接近を許してしまっていた。

___再び今___
「Let’s fight!」
___覚悟を___

 息を呑むアウラへ、響は拳を固める。

「勇者……ヒンメル……ッ!」
___覚悟を何度___
___流し___

 響の拳が、何かを口走ったアウラの腹へ炸裂する。
 顔を大きく歪め、くの字に曲がったアウラ。

___何度血を___
___流し___

 さらに、響へ群がる残った死体たち。
 だが、響のガングニールはその姿を変えていた。右腕をより鋭い先端にした回転する形態___ドリルの形となり、天高く突き上げる。

___愛と呼べる日々まで___

 アウラの隣まで飛翔し、彼女の真横で、響は死体たちへドリルを向けた。

___築いたと思うか?___

 そのまま地面を貫いたドリルから迸るエネルギーが、全てのアウラの人形たちの体を貫き。

「激唱インフィニティイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!」

 そのまま、その地にいる全ての死体たちは。
 響のドリルからのエネルギーに貫かれ、消滅していった。 
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