老人の優しさが救う
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第一章
老人の優しさが救う
イギリス北西部チェシャー州で暮らしている生きものが好きな老婆マーベル=ヴァーネットからだった。
ハリネズミを診察して欲しいと言われた獣医のジャネット=コッツェ長いストレートのブロンドの髪にアイスブルーの目に眼鏡をかけた三十代の女性の彼女はすぐに老婆に言った。
「あの」
「どうしたの?」
「この子ですが」
そのハリネズミを見つつ言うのだった。
「ハリネズミじゃないです」
「えっ、ですが」
「いえ、よくご覧になって下さい」
コッツェは老婆に真顔で話した。
「帽子のボンボンです」
「毛糸の帽子の」
「はい、ですから動かず」
老婆はこう言って病院に持って来たのだ。
「ご飯を食べなかったのです」
「そうだったのですか」
「あの、目は」
コッツェは老婆のその目を見つつ彼女に問うた。
「眼鏡は」
「していないです」
「コンタクトもですか」
「そうですが」
「どうもかなりです」
「目が悪くなっていますか」
「ですから」
それでというのだ。
「お気を付け下さい」
「眼鏡をかけるべきですね」
「はい」
まさにというのだ。
「これからは」
「わかりました」
生きものを助けられなかった、だがそれでもだった。
老婆に眼鏡をかける様に言えた、そして共に野生動物病院で働いている夫のジョナサン背が高く丸い顔で短いブロンドの黒い目の彼にこのことを話して言った。
「確かに目が悪いけれど」
「心は奇麗な人だね」
「前からでしょ」
「うん、あの人は評判の人だよ」
夫は妻に話した。
「優しくて親切でね」
「生きものが好きで」
「いい人だってね」
その様にというのだ。
「評判だよ」
「それでなのよ」
「弱っているハリネズミを見て」
「助けたのよ、実はポンポンだったけれど」
「優しさと生きものを慈しむ気持ちはあるね」
「ちゃんとね」
こうしたことを話したのだった、そうして夫婦で温かい気持ちになった。
そして夫はある日だ、出張で行った先にだ。
一匹の野生の鹿を見た、見ればだ。
「ああ、これは渡れないな」
「その様ですね」
彼はその鹿を見て丁度通りがかった老人に応えた。
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