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邪教、引き継ぎます

作者:どっぐす
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第三章
  26.束の間の休息

「え? ハゼリオ様は竜王の曾孫に会われたことが?」
「まあ、あるな」
「すごいですね!」
「すごくはない。竜王の曾孫は今もアレフガルドにある竜王の島におり、その地を治めているからな。探さずとも竜王の城に行きさえすれば会える」
「全然知りませんでした」
「歴史上では、ある国や勢力が滅んだとき、残党がその流れを汲む勢力を作り、文化を継承していくことは珍しくない。むしろ突然完全に消滅する例のほうが少ないかもしれない。自然現象という言い方もできるだろう」
「でも変じゃないですか? ラダトームは見ているだけなのでしょうか。仲が悪かったわけですよね」
「ラダトームの王や臣民は代替わりしているからな。当時の人間で生きている者はいない。今やお互いに、敵対していたことなど昔話にすぎないのだろう」
「なるほど」
「それどころか、(わし)はそう遠くない未来に、ラダトームの城と竜王の城が交流をはじめる可能性もあると見ている」
「ええっ。まさか……」
「生きることはまさかの連続だ。お前が生きているうちに実現するかもしれない。因縁など時間の前には儚いものなのだ」



 - - -



 ロンダルキアの祠の庭部分が、きれいに除雪されている。
 大きな敷物が何枚も敷かれ、それぞれが自由に座り込んでいた。

「ふう、勝利の美酒は格別だ」

 持ち込んだ酒樽の上に座り、褐色の頬をわずかに赤く染めているのは、バーサーカーの少女・シェーラ。
 ちなみにまだ十七歳であるが、「飲めないバーサーカーなどいない」とのこと。

「……会議室代わりの次は宴会場代わり? どんだけ図々しいのキミたち」

 彼女に対し、ロンダルキアの(ほこら)の少女・ミグアが冷めた白い顔を向けた。

「堅いこと言うなって。神殿ではもう宴は済んでるんだよ。だいたい文句あるなら追い返せばよかっただろ」
「いや、この人数、どうやって追い返せばよかったの」

 今度は少女の碧眼が、この場にいる他の者たちを一巡していく。
 現教団代表者・フォル、自称キラーマシン使い・タクト、最後のギガンテス・リアカーン、フォル直属のアークデーモン・ヒース、デーモン族の族長・ダスク、デヒルロードの首領、シルバーデビルの筆頭、バーサーカーの頭領、ブリザードの代表らが座り込んでいた。現ハーゴン教団の要人たちが勢揃いしていることになる。

「申し訳ありません、ミグアさん。私だけでお伺いする予定だったのですが……まさかこんなことになるとは」

 ペコペコと頭を下げるフォル。例によって「タクトと紛らわしい」というロンダルキアの祠の少女からの苦情を受け、仮面を外している。その顔が白いままなのは、この面子の中では唯一酒が飲めないためだ。

 戦いがあったという報告をしないわけにはいかないため、神殿の祝勝会の翌日に一人で祠に行くことにしたのだが、この面々が勝手に酒樽持参でついてきてしまったのである。

「キミにはいちおう同情はする。ついてくるなとは言えないだろうから」

 白い息を漏らしながら、大きなマフラーを直す少女。そしてフォルが持参した地図に示された戦場を、あらためて見る。

「戦場に選んだ場所、だいぶ南だ。フォル、キミの決断だね、これは」
「よくわかりますね。たしかに私です」
「この祠が巻き込まれないように、いや、関与を疑われないようにそうしてくれたのかな。ありがとう」
「いえいえ、お礼を言われる話ではありませんって」
「でもこうやって勝手に祝勝会をここで始めたキミの部下たちが、そのへんを台無しにしてくれたみたいだけど……まあ誰も見てないし、いいか」

 フォルがすまなそうに黒髪を掻きながら、またペコリと頭を下げる。

「というか、シェーラって名前だったっけ? アンタ個人はボロ負けだったわけでしょ。勝利の美酒じゃなくて敗北の苦汁の間違いじゃないの」
「フン、その点は言い訳するつもりはない。もっと修行してやり返すさ」
「あっ、いえいえ、ミグアさん。シェーラさんは今回の戦いではものすごい功労者なんですよ」
「本当かな」
「本当だよ。一番大事な(おとり)の役だったわけだからね」

 タクトも話に入ってきた。

「最初君が囮をやるって言い出したとき、おれは君に自殺願望でもあるんじゃないかと思ったよ」
「私も不安で仕方なかったです」

 当初、サマルトリアの王子を引きつけ時間稼ぎをする役は、やられる前提でキラーマシンのみが担当する予定だったが、その話を聞いた瞬間にシェーラは「オレがやる」と言い出した。
 フォルもタクトも反対したのだが、この褐色少女は「キラーマシンじゃ無理だ。オレが行く」と強引に押し切っていたのである。

 実際、キラーマシンはサマルトリアの王子に瞬殺されている。そのため、結果的に彼女の言うことは当たっており、彼女が陣営に勝利を呼び込んだと言ってもよい。だが、重傷を負って気絶している彼女を発見したフォルたちが大慌てであったこともまた事実であった。

「お前たちが思ってるほどバーサーカーはヤワじゃないぞ」
「えー、本気で心配したよ? ねー! みんな! シェーラちゃんが死んだんじゃないかと思って心配した人、手あげて」

 全員が手をあげる。

「お前ら舐めてんのか」

 バーサーカーの少女は全員から目を逸らし、残った酒を一気に飲み干した。






「では今回はこれで失礼します。またお騒がせしてしまってすみませんでした」

 片づけと帰り支度を終えたフォルは、ロンダルキアの祠の少女に礼を言うと、仮面を顔に着けた。

「ローレシアとサマルトリアが次に来るときは、本気で来るだろうね。冗談抜きで大軍で来るかもしれない」
「そうかも……しれませんね」
「あとは、『ロトの子孫たちが、復活したハーゴン教団に負けて逃げ帰った』という事実は衝撃が強すぎる。全世界でその知らせが駆け巡ることになると思うけど、それを受けて世界のどこでどういう動きが起きるのか。読み切るのは難しいと思う」

 想定していないことが起きるかもしれないから、情報収集はしっかり――。
 白い少女は助言をし、フォルたちを見送った。

 そして祠の中に戻る前に、目の前にいる図体の大きな一人を見上げる。
 なぜか一人残っているのは、年老いたアークデーモン・ヒースである。

「で、なんでアンタだけ帰らないの。また勧誘?」

 若干うんざりしたように、少女は突っ込んだ。

「今回は違うぞ。ちと今のワシらに対する感想を聞きたくてのお」
「……なんか魔物たちの雰囲気が変わってきた。少し人間ぽくなってきているというか。目つきが柔らかくなってきているというか」
「ふむ。リーダーにつられてきた感じかの」
「かもね」

 ヒースは穏やかに笑った。

「この地に現れた勇者を助けること――というのが、この祠に下されていた神託と聞いたぞ」
「そうだけど?」
「神託に変更がないのであれば、今、『この地に現れた勇者』とは誰を指しているのか、と考えたことはあるかのぉ?」
「それ、勧誘でしょ」

 結局それか、とジト目を老アークデーモンに向けると、少女は中に戻っていった。 
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