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吸血鬼と国境

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第一章

                 吸血鬼と国境
 ヒカリ=ニコリーナは父親はブルガリア人で母親は日本人である、ブルガリアで生まれて今は日本の八条学園高等部に留学している。
 整った細面で睫毛の長い黒い目で金髪のロングヘアである。背は一六〇位ですらりとしていて痩せていると言っていい。赤いブラウスと青いブレザーに緑のミニスカートという制服である。
 そのヒカリが今クラスでクラスメイト達と一緒に日本のお菓子を食べつつ言った。
「いやあ、やっとシェルゲン協定にね」
「ああ、あのEUの」
「移動とか自由になる協定よね」
「ずっとオランダとかオーストリアが反対していてね」
 ポテトチップスを齧りつつ話した。
「駄目だったのよ、ハンガリーも言い出したし」
「大変ね、そっちも」
「EUの中で反対されるなんて」
「それぞれの事情と考えがあるから」
 日本人のクラスメイト達に言うのだった。
「それでよ」
「中々なのね」
「参加出来なかったのね」
「ええ、それで国のお父さんとお母さんも」
 両親もというのだ。
「仕事で欧州のあちこち行ってるけれど」
「移動が楽になったのね」
「そうなったのね」
「そうなのよ」
 これがというのだ。
「有り難いわ、ただね」
「ただ?」
「ただっていうと?」
「実は昨日中等部のオーストリアの娘に言われたよ」
「そのオーストリアの」
「そうだったの」
「ええ、吸血鬼も来ないかってね」 
 その様にというのだ。
「協定でね」
「ああ、何かそんな話あるのよね」
 クラスメイトの一人がポテトチップスを食べつつ応えた。
「ブルガリアも」
「そう、吸血鬼いるからね」
「東欧だから」
「そうよ、ただあっちにもいるでしょってね」
 ヒカリはそのブロンドの奇麗な眉を顰めさせて言った。
「返したけれどね」
「オーストリアにも吸血鬼いるって」
「普通にね、いない国なんてないでしょってね」
「妖怪としてメジャーだから」
「そうよ、大体吸血鬼はね」 
 この妖怪はというのだ。
「普通に蝙蝠とか狼に変身して」
「人間の姿でなくなって」
「好きに移動出来るわね」
「そういえば霧にも変身出来るし」
「移動楽ね」
「ええ、だから協定参加してなくても」
 ブルガリアからというのだ。
「普通にね」
「オーストリアにも入ってるのね」
「東欧から」
「国境は人間の世界のことだから」
 それ故にというのだ。
「もうね」
「吸血鬼には関係ないわね」
「全くね」
「というか悪い吸血鬼を退治しようとして」
 ヒカリはヘルシング教授、ドラキュラ伯爵の宿敵であるこの人物のことを思い出しながらクラスメイト達に話した。
「違う国に逃げられて困るのは」
「退治する方よね」
「協定が邪魔して」
「簡単に移動出来なくて」
「アメリカでもあったでしょ」
 この国でもというのだ。 
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