邪教、引き継ぎます
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第三章
24.求めるは友の姿
間合いが離れたときだけ、キラーマシンの弓矢が飛んでくる。
バーサーカーの少女・シェーラと交戦していたサマルトリアの王子・カインは、すぐにそのことに気づいた。
誤射を避けるため。相手に休む時間を与えないため。そのような目的と思われたが、ハーゴン討伐の旅のときには見られなかったキラーマシンの戦い方だった。
「なんか頭良くなってない? キラーマシン」
バーサーカーの少女が振るう斧を避けながら、感心したように言った。
「自称キラーマシン使いが調教したんだよ」
避けきれない斧の攻撃については、盾で受ける。カインは彼女の素早さにも驚かされていた。
「君の速さも大灯台のときに比べて上がってる。頑張って鍛えた?」
「当たり前だ! ま、この服のおかげもあるけどな」
カインの目に、斧の動きは見える。
だが大きく間合いを取って外すと弓矢が飛んでくる。必要最小限の動きでかわすか、盾で受けるしかない。
先にキラーマシンを始末しようにも、このバーサーカーに背を向けるわけにもいかない。
「こりゃ大変そうだ」
器用なカインでも神経を使う戦いとなり、思わずぼやく。
「君は速いしキラーマシンは鬱陶しいし」
カインは一段と剣の速度を上げた。まるで細身の剣がムチのようにしなって見えるほどの速さと軽やかさだった。
次第に均衡は崩れていき、バーサーカーの少女は対応できなくなっていく。
そしてついに。
「あ゛あっ」
苦悶の声。胴に一撃が入った。
彼女の体に密着している緑色を基調とした服から、火花が散る。
「ん!?」
驚いたのはカインである。
「火花が……。しかも服が裂けてない。どうなってるんだろう。薄そうなのに」
剣は確実に入ったのに、その箇所は若干の煙をあげているだけだった。大灯台のときのように、裂けて褐色の肌をのぞかせてはいない。
「薄いけど前の服よりずっと頑丈だ。仕組みは自称キラーマシン使いに聞いてくれ」
「優秀な仲間がいるんだね」
「胡散臭い奴だけどなッ」
斧での反撃が来るが、カインは盾を出して受けた。
「……。なるほど」
このバーサーカーの未知の服は、脅威というほどではない。カインはすぐにそう判断した。
一撃入ったときの少女の苦悶の声や、その直後の斧による攻撃が若干重みに欠けダメージの影響が見られたこと。それらのことから、服は単に頑丈なだけであり、衝撃や痛み自体は中の敵へ与えられていると確信したのである。
普段どおり戦えば問題ない。致命傷を与えるのに時間はかかるのかもしれないが、この場は戦闘不能にさえ追い込めればよい。カインはそう思った。
「ロスが心配だ。すぐ片付けさせてもらうよ」
過剰に警戒するのはやめ、踏み込んでいく。
「ああ゛っ」
また腹部に入り、火花が散る。
「うぅっ」
脚からも火花。
痛みに耐えかね脚をかばうように体を折ったところを、今度は上から斬っていく。
「ぐぅあっ」
今度は上腕。
慌ててバーサーカーが体勢を戻そうとするも、盾を構え直される前にカインは素早く斬撃を繰り出した。
「ん゛あ゛あっ!」
胸を斜めに斬られ、筋に沿って火花を散らす。
ますます鋭さを増していくカインの斬撃。対して、バーサーカーの少女はダメージの蓄積でどんどん動きが鈍くなっていく。
とうとうカインが一方的に斬るだけとなった。
「あ゛ああっ!」
「ぐぁ゛アッ!」
「ん゛ぁああッ!」
隼の剣が密着型の服を斬り、火花を散らす音。バーサーカーの少女の苦しそうなあえぎ声。それだけが続く。
そしてカインはひときわ深く踏み込み、仕上げのようなかたちで下から鋭く隼の剣を振った。
全身を滅多切りにされフラフラとなっていた彼女に、避ける術はなかった。
「う゛あ゛あ゛ああああッ――!」
強烈な振り上げだった。
下腹部から腹部、胸部まで一直線に斬られて線状に激しく火花を散らし、体を反らしながら空中を舞うバーサーカーの少女。
後方に墜落すると、そのまま雪の上で転がった。
「っ……はあ゛っッ……んあ゛っッ……ぁ……ぅう……」
うつ伏せに近い状態で一度止まると、うめき声を漏らし、手足をもがくように動かし始めた。
体に密着している服は、体の線をくっきりと浮き出させていた。必死に全身に力を入れようとしているため、肩や腕、臀部、脚の筋肉が、若さゆえの柔らかな曲線を残しながらも、かなり鍛えられているであろうことがわかる。
が、すぐには起き上がれないように見えた。いくら鍛えようとも、いくら服が頑丈でも、それを突き抜けてくる痛みや体の奥へのダメージはどうしようもない。
「この隙に、っと」
バーサーカーの少女が体勢を立て直す前に、カインは手際よくキラーマシンを攻撃し、停止させていく。
あっという間だった。
よし。これでロスのところに――。そう思ったが。
「ま、待て」
やや弱々しかったが、声が聞こえた。
「あれ、起きあがってる」
驚いていると、また少女が斧で襲いかかってくる。
しかしもはや、無傷なカインの敵ではなかった。
「う゛っ……! うぐぁっッ……!」
二回続けての軽快な斬り。胸部をクロスに斬る。
胸から火花を散らしながらバーサーカーの少女がよろめく。
稼働キラーマシンがいなくなったことで、間合いを取ることが可能。
カインは後ろに飛んで距離を確保すると、とどめと言わんばかりに詠唱した。
「ベギラマ」
その猛烈な炎は、バーサーカーの少女を直撃した。
「う゛あ゛あああっッあ゛あああああああ゛あああ゛ああああ゛あああああああ゛あ゛あっああああああああああああ゛あ゛あああああああああ゛あ゛ああああああああああああああああああ゛あああ゛あああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアッ――――――――!!」
すさまじい業火の責め苦。
断末魔のような声とともに、バーサーカーの少女の体が反る。
服はいたるところで火花が、否、小爆発を起こしていた。
炎がやむと、まるで時間がとまったかのような静寂が訪れた。
バーサーカーの少女の体は反ったまま、顔は苦悶で歪み、目はぎゅっとつぶられている。
やがて全身から煙をのぼらせながら、ゆっくりと、雪が融けてむき出しになった地面へ、前向きに倒れた。
「……ぁ……ん……ぅ……」
カインの目が見開かれた。
手足を痙攣させながらも、まだ立とうという意思を示していたからだった。
「……」
これだけ執念を見せて戦えるバーサーカーは信じがたく、並の魔物だとは到底思えなかった。
しかし賛辞を送っている場合ではない。
いま一番大切なことは、一刻も早く、友達のもとへ行くこと。
カインの足は、ロスの姿を求めて動き出していた。
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