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ポケットモンスター対RPG

作者:モッチー7
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第3話:ピカチュウの慈愛

薬草の宝庫と呼ばれる場所を占拠したスカルオクトパス。
自身が起こした吹雪を煙幕代わりにして旅人達を襲ったスノーヴァンパイア。
それらを討伐したグートミューティヒ。
にも拘らず、グートミューティヒの手持ちポケモンが称賛される事は無く、寧ろ……
「……ひどい……」
無数のスピアーの遺体が無造作に散らばっているのを発見してしまい、目の前の地獄絵図を描いた者の残忍さに蒼褪めるグートミューティヒ。
しかもそれだけではない……
ゴブリンに人型豚オークに人型猫ケットルシー、ビードルやコクーンまで大量に殺されていた。
「ポケモンとそれ以外のモンスターの区別無しに無差別かよ!しかも、毒針を持つビードルやスピアーなら兎も角、手さえ出さなきゃ人畜無害な筈のコクーンまで!」
だが、この目の前の地獄絵図を観て怒る人間はグートミューティヒだけであった。
「いやぁ、星空の勇者があれだけ凄まじいとはな」
「でも、お陰でこの森もすっかり平和になったな」
偶然グートミューティヒを横切った商人達の言葉を聴いて、この地獄絵図の犯人が勇者マドノ率いる勇者一行だと知り、改めて勇者マドノの自分勝手な悪意を感じた。
(違う!この森からモンスターを一掃する為なんかじゃない!あいつらは、経験値欲しさにこの様な残忍な虐殺をしたんだ!)
だが、目の前の地獄絵図を観て怒るモンスターはいた。
「なんじゃこりゃあ!?俺が一時的に別の場所に配置されてる間に何が遭ったぁー!?」
仲間を皆殺しにされて激怒するオークは、立ち尽くすグートミューティヒを見て彼が犯人だと勘違いする。
「おい!其処のクソアマ!其処で何をしてやがる!?」
対するグートミューティヒは、怒り狂い過ぎて逆に頭が冷えてしまい、力無く否定する。
「違う……僕じゃない……」
だが、激怒するオークは信じない。
「じゃあ何でテメェはここにいるんだよ!?」
戦う意思を失ったグートミューティヒは、力無く犯人の名を口にする。
「マドノだ……奴らがコクーンを……殺したんだ……」
グートミューティヒの言い分に驚くオーク。
「マドノだと!?星空の勇者がここを襲撃したと言うのか!?」
だが、そんなオークの質問を聞く事無く力無く立ち去るグートミューティヒ。
「えー!?ちょっとおい!本来ならお前ら人間共が喜ぶべきとこだろ!」

勇者マドノ一行がスピアー達と戦っていたが、その戦力差は圧倒的かつ絶望的で、スピアー達がマドノ達の剣や魔法で次々と完膚なきまでに叩きのめされて逝く……
「どんどん(経験値を)稼ぐからな!1匹も逃がすなよぉ!」
自分達を護る為に戦い散るスピアー達を見て恐れ怯えるビードルとコクーン。マドノの無慈悲な命令を聞きながら。
そして、スピアーとビードルが全滅して残るはコクーンだけとなった。
「こいつ動かないけど、どうする?」
その質問に対し、マドノは容赦なく剣を振り上げる。
「決まってんだろ。そこのモンスターの卵もぶっ壊す。例え雑魚でも経験値の取りこぼしは、許さねぇ!」

と言う夢をグートミューティヒが観た。
「やめろおぉーーーーー!」
飛び起きたグートミューティヒは汗だくだった。
そして項垂れた。
「……何やってんだろう……僕……」
そして、グートミューティヒは唐突にこの旅の経緯を振り返る。
育ての親達によると、グートミューティヒは赤ん坊の時から既に孤児だったらしく、とある町の道端で置き去りにされているのを発見して拾ったそうだ。
そんなグートミューティヒを拾ったのが、人類の安全な暮らしの為にモンスターの研究と観測を行っている学者達であり、彼らの息子として育てられた。
その結果、モンスターの中にポケモンや召喚獣の様な人類の味方になり得る可能性を秘めた者も多い事を知るが……
だが、悲しかな、世論や大衆は画一一様、異口同音、単純単調、万人一色ばかりな上に同調圧力と排他主義が横行し蔓延していた。
それを見返したくて星空の勇者に選ばれたマドノの魔王討伐に同行しようとしたが、グートミューティヒが魅せられたのは同調圧力と排他主義に溺れ染まった残酷過ぎる現実のみであり、そこに多種多様や共生共存が入り込む余地が無い絶望的な環境だった……
「これじゃあ恩返しにならなよ……」
宿を出たグートミューティヒが当ても無くトボトボと歩く。
その顔には10歳とは思えぬ暗さがあった。
「はぁー」
これは何度目の溜息だろうか?
そんな時、ただでさえボロボロなグートミューティヒの心を更に傷つける事件が発生した。
「逃がすなぁー!そのモンスターは俺達が狩るんだぁー!」
どうやらモンスターが何者かに追われている様である。
普通の人間であれば、追撃者を応援するか加勢するかだが、グートミューティヒは違った。
「やめろ!そいつは既に戦意を失ってる!」
グートミューティヒは逃げるモンスターを庇ってしまったのだ。
「おい。そこの小娘、何やってんのか判ってんのか?」
どう視ても追撃者達の方が悪人顔に見えるグートミューティヒは臆せず言い放つ。
「それはこっちの台詞だよ。逃げる背中を寄ってたかって追い回して、傷付けて、カッコ悪いと思わないのか?」
勇者マドノと対立する事を決意したグートミューティヒが一貫して貫いて来た美学!それが『逃げる者は追わず』である!
自分が逃げてる時に攻撃されるのも嫌だが、逃げる敵を攻撃するのも嫌なのだ。
するのもされるのも嫌だ。自分がされて嫌な事は、相手だって嫌に決まってる理論である。
だが、グートミューティヒは背後にいるモンスターをチラ見すると、
「ツツケラじゃないか!何で!?」
傷だらけのツツケラに驚いてしまったグートミューティヒは、その隙にとばかりに追撃者に突き飛ばされた。
「退け!」
グートミューティヒを突き飛ばした追撃者達は、勝ち誇ったかの様な邪な笑みを浮かべながら瀕死のツツケラに止めを刺した。
その行為には躊躇も罪悪感も無い……
只々普通に食事をするかの様に、いつも通りを行っている感覚で……
「へへへやったぜ♪」

グートミューティヒは疲れ果てていた……
どんなにグートミューティヒが頑張ってもポケモンが他のモンスターと同じ極悪害獣として扱われ、ポケモンがどれだけ虐殺されても大衆や世論の心は痛まず、寧ろポケモンを虐殺した者達が英雄視されて称賛される……
万人一色の同調圧力の前では、たった1人の善意は無力なのか……
そんな後ろ向きで消極的な良くない考えに、グートミューティヒは支配されかけた。
だが、
「俺達って、結構モンスター退治に向いてねぇか?」
「ああ!さっきの奴も俺達を見た途端に逃げやがってさ」
「もしかしたらよ、このままモンスターを次々と斃して経験値を稼いでいけば……」
「あるんじゃねぇ!勇者マドノ越え!」
「おおぉーーーーー!」
無抵抗に逃げてただけのツツケラを何の躊躇いも無く英雄気取りで虐殺した連中の分不相応で自信過剰な言葉が、グートミューティヒの燃え尽きた筈の怒りの炎に油を注いだ。
「……いい気なものだな……」
「あぁん?何か言ったらそこの小娘?」
「ツツケラの事……何も知らない癖に……」
けど、上機嫌で有頂天になっている連中はグートミューティヒの言葉の意味に気付かずに偉そうな事を言う。
「良いんだぜ。もう直ぐ勇者マドノ越えをする俺達の恋人になっても、よ!」
「おおぉーーーーー!」
この言葉に怒りが頂点に達したグートミューティヒは、モンスターボールからピチューを出してしまった。
「ピチュー!そいつらを倒せ!ツツケラの仇だ」
数の暴力を駆使して1匹のツツケラを虐殺して得意げになっていた連中も、グートミューティヒの予想外の行動に少し驚く。
「な!?……モンスターを飼ってる……だと?」
「何考えてるんだ?」
だが、無抵抗なツツケラを虐殺した事で自信過剰になっている連中は直ぐに臨戦態勢となる。
「落ち着け!さっきのモンスターだって楽勝だったじゃねぇか!こいつも楽勝だぜ!」
「お……おう!」
「そ……そうだな!」
しかし、肝心のピチューが突然光ったので連中は驚き、グートミューティヒも予想外だった。
「どうしたピチュー!?何が遭った!?」
そして、眩しい光が終息すると、ピチューがいた筈の場所に別のポケモンがいた。
「ピカピッカ」
「ピチュー?……もしかして、進化したのか?」
確かに、グートミューティヒは成長したポケモンは進化して別の姿になるとは聴いていたが、まさか今だとは思っていなかった。
「ピチューが……ピカチュウになっちゃった?」
一方、ポケモンの事を何も知らない連中はビックリ仰天した。
「な!……何なんだよこいつ!?」
だが、ツツケラを虐殺した連中のビックリ仰天はまだまだこれからだった。
「おい!」
「今度は何だ!?」
ツツケラを虐殺した連中とグートミューティヒとのやり取りを見守っていたドデカバシ達が、殺されたツツケラの為に戦おうとした上にピチューをピカチュウに進化させる条件を満たしたグートミューティヒに加勢するべく一斉に飛び出したのだ!
因みに、ピチューはとてもなかよしな状態でレベルアップするとピカチュウに進化するのだ。
「何なんだよ!何で急にモンスターが一斉に!?」
それだけじゃない!
ワルビアル、フライゴン、グソクムシャ、リザードンもグートミューティヒに加勢しに来てくれたのだ!
ツツケラを虐殺した連中が慌てて臨戦態勢を整えようとするが、グートミューティヒに加勢したポケモンはどれもツツケラとは違って百戦錬磨な強豪ポケモンばかり!
「駄目だ!こんなのとやりあってたら、命が幾つ有っても足りねぇぜ!」
「逃げろぉー!」
「あいつら強過ぎるぅーーーーー!」
ツツケラを虐殺した連中はあっけなく敗北して逃げ去ってしまった。
それを見たワルビアルがそれを追撃しようとするが、
「駄目だ!それじゃあツツケラを殺した連中と同じになっちゃうよ!」
グートミューティヒの懇願を聞き、ワルビアルは渋々追撃を諦めた。
口汚く罵られれば辛いし、暴力を振るわれれば痛い。
するのもされるのも、グートミューティヒは嫌だった。

グートミューティヒの声は確かに全てのモンスターを例外無く極悪害獣扱いする人類には届かなかった……
だが、グートミューティヒのポケモンの為を思って言った言葉は、ちゃんとポケモン達に届いたのだ。
「みんな……」
自分達を助けてくれた強豪ポケモン達に、グートミューティヒは黙って頭を深々と下げた。
そして……グートミューティヒの力及ばずに虐殺されたツツケラの為に墓を作った。そして、ピカチュウはそんなグートミューティヒの頭を優しくなでた。
そんなグートミューティヒを視て、グソクムシャは同行を願い出たが、グートミューティヒは自分の力不足を理由にそれを断った。
「ありがたいけど、今の僕じゃ君を使いこなせない。だから、また次の機会にさせて貰うよ」
だが、そんなグートミューティヒの顔は非常に明るかった。
グートミューティヒの声は確かに届いてはいるのだ!未だに人間以外ではあるが。
グートミューティヒが置かれている立場は、未だに害虫側から害虫駆除業者を見る様なモノだが、それでも、グートミューティヒの優しい意志を正しく理解してくれる者がいる事実は、グートミューティヒの心を癒すには十分だった。

それからしばらくして、とある町で勇者マドノの到着を待つ商人を発見した。
「えぇーい!星空の勇者とやらはまだか!?」
「どうかしましたか?」
「お前の様な小娘には関係無い事だ!」
商人に冷たくあしらわれたグートミューティヒは、興味を失って見捨てるかの様に去る……と見せかけて商人を尾行する。
すると、
「星空の勇者が通った場所ではモンスターが必ず全滅すると聞くから、宝石採掘所に大量発生したスケルトン共を一掃させようと思ったのに、どこで道草を食っているのだ!?」
いい事を聴いたとニヤッとするグートミューティヒ。
「それじゃあピカチュウ、経験値稼ぎの没頭し過ぎて困っている人をほったらかしな勇者様の代わりに、僕達がそのスケルトンをやっつけますか?」
「ピッカー!」
こうして、グートミューティヒは再び魔王討伐を念頭に置いた地道な人助けを繰り返す旅を行ったのであった! 
 

 
後書き
スノーヴァンパイアLv14

HP:1900
EX:350
耐性:氷、闇
弱点:炎、光
推奨レベル:6

自らの意思で吹雪を起こす事が出来る吸血鬼。常に浮遊しながら雪玉をジャグリングの様に操る。手下のコウモリはいくら倒してもキリが無い。
貴族である事を鼻にかける傲慢で自信過剰な性格だが、予想外の事態には非常に弱い。
因みに、勇者マドノの予想推奨レベルは10。

攻撃手段

雪玉:
6つの雪玉を次々と投げる。雪玉は壊してもキリが無い。

コウモリ:
頭上に6体のコウモリを出現させて襲わせる。コウモリは倒してもキリが無い。

吹雪:
自分の周囲に吹雪を発生させて相手の視界を遮る。 
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