帝国兵となってしまった。
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17
カルターニャを目指し、俺は現地司令部にアルベルトを残して、推薦されたオルトーとグロプの航空第44隊と第一空挺大隊と共に、準備ができたダキア派兵軍(帝国軍)の機甲師団は北へ北へと邁進した。
このオルトーというのは顔に傷があり、その傷は学生時代にフェーデ(決闘)をかなりの数した為に出来た名誉の負傷と本人は言うが、一般的には単なる不良だ。
それとは別に優等生の様なグロプは技能はパイロットとしては申し分なく、指揮能力もかなり高い。ゴーランドと出世レースをしているらしく戦意も抜群だ。他にもリュッツオウやシュタインホフ、ボニンなどパイロットも沢山だ。短時間でオルトーは使えそうな兵士を見繕い、街を進むが随伴歩兵が邪魔で遅くなる。
「しょうがないオルトー、戦車に兵士を乗せろ。あとは自転車やケッテンクラートに乗せろ。牽引車に引かせた台車や馬車に兵士を乗せろ。拙速を尊べ。」
試しに少しやってみるが進軍速度はありえないほど速くなった。それに伴いオルトーは笑っている。
「しかし、これほど速いなら毎回戦車に兵士を乗せましょう。速ければ速いほどいい。速さは武器ですよ。鼻っ柱を圧し折れる。」
流石にいくらなんでもそれは無理だ。
「オルトー、これは強硬策だ。兵の負担を考えたらやらない方がいい。三輪自転車の速度を見てみろ。これが自動部隊と銀輪部隊の移動力だ。ケッテンクラート部隊をつかって、オルトーはさらに南を目指せ。こちらはなんとかする。航空部隊がいるから奴らはもう終わりだ。」
イスパニア航空部隊は見る影もない。航空部隊はこちらのグロプ隊ぐらいでこちらには通信で常に戦果なし、こちらはあがったりだと次々に届く。
もう、70キロは進軍している。小さな町や村にダキア兵を1900人あまりが展開している。もうこの規模では限界だ。それにしても相手は空城の計を使っているのか知らないが追加の支援は早くても3週間はかかる。
通信が入ってきた。これはグロプ隊に同行していた魔導師部隊のシュトールカ・リーデル隊やステン隊などがさらなる奥地のバロスロナをさしたる戦闘もない内に降伏させたらしい。多くの町や村、市が中立や非武装地帯宣言を繰り返す。
彼らから見ると帝国と仲良くしたほうがいいと思ってるのか市街戦はまずいと思ったのか知らないが、こちらが夜通し進み、バロスロナに到着する頃にはオルトーは海軍に要請をして、戦艦や装甲巡洋艦などを見せつけるように砲撃させ空挺大隊を降下させ、バレルシガに降伏を余儀無くさせて制圧をした。
たった上陸してから3日で縦に約350キロの支配地を確保した。アルベルトにそれを伝えるとアルベルトは帝国にバンバン補充要請と援軍要請を矢どころか機関銃の如くやっているようだ。
たった一昼夜で飛行機に乗って司令部に戻ると物資の運搬のために集積地として、港が整備されたバレルシガに本部を移動させることになり、移動のためにまた2日を使った。
新しい司令部は元々、イスパニア軍部が使っていた海軍基地をそのまま使っており、近くのホテルから調度品を買い付けて、増援に来るだろう高級将校たちの接待用に飾り付けまでやりながら、兵士を休ませるために補給書類を片付ける。
そんなときに、本国から暗号文が送られてきたのだ。
「あーと。」
暗号文を読むと本国のあの帝国参謀部は色めき立ち、元々の予定だった10万のダキア軍人から大幅に増強させ、ダキア軍人15万と帝国軍人4万を用立てようとしているようだった。イスパニア与し易しと言う風潮とダキアの成功経験からやらなきゃ損と議会も乗り気らしい。
「20万も連れてきて国防は大丈夫なのか?」
もう1922年5月だぞ。もうあの大戦まで1年ぐらいしかない。いや、あれは偶発的だったからかもしれない。東に伸びる分にはルーシーと帝国が殴り合ってくれるから楽しいで済んだのだろうが、西になると話は別だ。それに前時代的なダキア軍が近代化したのを見せつけるとよろしくない。
帝国のテコ入れで最大値だとダキアは200万ほど動員できるようだが、動員できるのと動員するのは話が別だ。戦後の軍人年金問題や死傷者の弔慰金もある。足や手がなくなった復員兵もどうするのかもある。この戦争は近代戦なのだから。
12.7mmの重機関銃が作る触れたら手足が吹き飛ぶ戦争を誰もまだしてない。それこそ秋津島ぐらいだ。ロマノフ秋津島戦争を持ってして、どんなに説明や分析をしても塹壕には肉弾戦と戦車による足の踏破しかないのだ。
それは白骨でできた善意で舗装された道。このままでは俺たちもそうなるのだろうか?が、このイスパニア動乱介入は帝国軍を新たに変えるだろう。なぜなら、機甲師団は金槌、歩兵師団は土塁とわかることだからだ。歩兵師団がなければ守れなければ、機甲師団がなければ突破力に欠けるのを今、証明している。
それに今回の戦闘は空挺の展開力も見せつけた形だ。だからこそ、中央参謀部の考えは変わるだろう。しかし、それは監視している共和国や連合王国だって同じはずだ。
なんやかんや数年がかりでずっとやってきている降下部隊や戦車などの機甲戦術には追いつかないだろうが、マチルダ戦車なんて作られたら厄介だ。それに彼らがあのバランスが取れたクロムウェルを先に完成をさせたり、間違ってセンチュリオンやコメットなどできたらどうする?
チャーチルやブラックプリンス、エクセルシアとかならなんとかなるが、しかし巡航戦車群を早期開発されたらこちらは辛い。あの変態紅茶作家のニビルがどんなものを作るのだろうか?
調べたところによると王立軍需工場で新型兵器の開発の主任官をやっており、飛行機から戦車から戦艦まで幅広くやっていながらも、作家として執筆活動もして、航空機パイロットでもあり、潜水艦にも乗り、バイクで連合王国縦断記録を持ち、丸太をくり抜いた船でドードーバード海峡を横断したり、ガレー船で冬の海を渡り、協商連合まで横断したりと狂っていると言われている。
その話を聞くだけでもげんなりだが、最近は冬の海をガレー船でグリーンランド的な島まで行ったりと冒険家としても名を馳せる連合王国の一代のみ認められた貴族様らしい。
ニビルはなんなのか知らないが大航海時代にでもタイムスリップしてろよとしか思えないのが感想だし、なんでわけわかんないのがいるんですか?ちょっと存在X手抜き工事したのか?
「大丈夫かは知りませんが現状、第一陣を20万にするのは期待をしてるということでしょうし、勝算はたっぷりなのでは?あと第二陣も構えてるらしいですから、最終的にはなんと60万を予定しているとか。イルドアとの早食い競争には負けない気なのでしょう。それにしても、何故、今更になってから反乱をイスパニア軍が起こしたか気になりますが。」
たしかにそれはそうだ。武器が集まったとか?武器なんか生えてくるものじゃない。彼岸島の丸太みたく生えてくるなら別だがそんなものじゃない。
「アルベルト、どこかの国の介入があって、内部バランスが崩れたのかもしれない。鹵獲兵器を見て確かめるか。」
鹵獲した兵器を見ればすぐにわかる。奴らが何を使っているかを。オルトーたちが捕虜にした人間を含めて気になるのは何者の介入かだ。
それに武器によっては奴らは変わる。届けられたイスパニア共同体派の武器の木箱をバールで開くとこの形状は‥‥。
「アカの小銃‥‥モスコー・ナガンですね。」
確かにパッと見はそう見えるがこの材質は‥‥。
「ニスの仕上げが完璧で、木材はクルミ材だ。あの国ならば輸出に向かない白樺系統を銃に使うはずだ。それに鋳造にしてはきれいな銃身、なにより、各パーツがあの国よりイルドアのクルカノ小銃に似ている。そしてレバーの丸がでかすぎる。さすがのあの国の人間もここまで手はでかくはない。」
明らかにこれはあの国ではなく、あのルーシーの仕業と見せかけるために作られたらまがい物だ。白樺が手に入らなくてクルミを使ったのだろうが柔らかさと軽さでわかる。
「つまり、これはイルドアの?」
それは早計だ。なによりこの違和感の正体は‥‥定規を持ってきて図るとはっきりとした。
「イルドアがイスパニアにルーシー国と偽って、モスコー・ナガンの偽物を供与した体で、連合王国が供与しているのだと思う。インチだからセンチでやるとこうもブレるのだ。それにこれは見たことがある。ダキアの革命組織が持っていたモスコー・ナガンもこれと同じだ。ガンスミスにも意地がある。ルーシーのような適当な銃は作れなかったのだろう。ということは既に連合王国が介入したのはわかったということだな。本国に連絡をするべきだな。」
火遊びをする悪ガキには火遊びの恐ろしさをわからせねばなるまい。それに本当にルーシーならば、まだ大量に国内にあるレバーアクションのライフルの在庫消化をするはずだ。
「しかし、それでは連合王国はどこを狙って?」
それは明白だろう。
「ここのジブリール海峡(ジブラルタル相当地)の利権の確保と、その西のマカロネシアの確保だろう。シウタと海峡部の維持に注力するだろう。頭がおかしくなければだが。そうなれば帝国は地中海で遊んでもらわなきゃ困るという紅茶の意地なのか、それともこの騒乱はダキアを確保した我々と同じく、後背地になり得るイスパニアを先んじて制して、後顧の憂いを立つのか、それとも南方大陸利権絡みか、それとも合州国を巻き込むための天元の一石かわからないが、悪巧みが得意な彼らだ。採算は取れるのだろうよ。」
カップに白湯を注ぐと飲み干して海峡部に、逆さにして地図の上に置く。こうされれば袋の鼠だ。だが、帝国がアルジャーノンなのかノロイに立ち向かうネズミなのかは奴らは知らないはずだ。
「そうじゃないとわけがわからないしな。仕方がないってやつだ。もう乗るしかないがステージの音楽を奏でられるのが連合王国だけじゃないのをわからせてやるさ。」
そして、俺は次に地図の連合王国の上にバールを置いた。
木箱でも連合王国でもやることは簡単だ。ネタが割れれば蓋を開ければ良いだけだ。
やるならばやってみせるさ。
「こうなると補給が追いつきませんが。」
もう対策としてリヤカーは作ったし、リヤカーを自転車やバイクで牽引できるようにはしておいた。こちらが海岸線沿いの街を抑えてるから出来ることだが。
「手はある程度、打っておいた。しかし、それでも足りない分はこんな面倒事をくださった皇帝陛下に直接くれと言っておく。嫌とは言えないだろうしな。」
多少脛をかじったところで怒りはしないとわかったからには脛を齧らせてもらおう、それに大部分ではこれは海運をつかった軍事輸送経験を貯めるという事である。
それは来年の戦争に役に立つに違いなかった。相手の後背地に船で上陸作戦をできるような能力を見せるということに違いないからだ。後方も相手は心配しなくてはならないという精神的威圧は使えるだろうと思う。
それよりもなによりもイスパニアで勝たねば意味はない。イルドアの動向を見れば勝ち戦ではあるがそれでもルーシーが派兵してこないとも限らない。
が、可能性は低めだ。テロスキーとトゥハチェフスキーを探しすぎてパラノイアになり、こないだの大粛清第一ラウンドの時点でカリーニンを残してオールドな連中の多くが死んだらしいが、それが終わったのにもかかわらず、大粛清第二ラウンドを開始で、ヤゴーダ、クレスチンスキー、ラコフスキー、カラハン、トムスキーなどを含むメンバーも死んだようで生きているエゾフが大密告時代を開催したというのが軍学校時代の友人達やあの国民の麦の会、バークマンからの手紙でわかっている。
国外に逃げたオルジョニキゼ、アウセム、ジノヴィエフ、カーメネフ、フルンゼなど60人が一斉に登山家が現れてピッケルで頭をかち割られたらしい。共和国は国内で起きた事に驚いてるらしい。
何故ブハーリン的なルバーリンとエジョフ的なエゾフが生きているかは謎だが、高級将校の半分くらい?中佐以下も7割ぐらいが知らない顔に変わったと書いてあった。更にはカリーニンとカガノーヴィチ、マレンコフ、ミコヤン、ジダーノフが乗った列車が謎の死滅したはずのメンシェヴィキとロマノフスキー派と黒軍とコサックによる爆殺をされたのを機に、重度の赤い嵐が吹き荒れてる様で、軍改革としてヴォロシーロフらまでモスコー裁判にかけられて新聞記事で銃殺されている。派手にやってるが国家としての体を成しているのか疑問ではあるが、金持ちの大部分が粛清されその資産を国家が運用し、急速な工業化が進んでいるのは間違いないらしい。
訳の分からないルーシー事情はさておき、まぁ、気楽にやれるだろうな。
そこから、増援が来るまでの1ヶ月は何事もなく俺は過ごせた。
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