不可能男との約束
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勇気の玉砕
前書き
告白
それは愛ゆえの暴走……!
配点(愛の告白
イノケンティウス総長はこの状況に、驚きはしていたが、プライドに賭けて焦りだけは表に出さなかった。
武蔵の副長の実力を見誤ったのは確かだ。
そこは自分の責任であるし、失敗でもある。認めるし、否定などしない。
自分の慢心が招き寄せた事態である。甘んじて受けるし、反省はしよう。
だが───後悔は一切ない。
相手が真正面から向かってきた。なのに、自分はそれを躱して、攻撃? 許せるはずがない。
しかも、相手は聖連から何も出来ないが故に不可能男という字名を貰っている馬鹿なのに、教皇総長の俺が背を向ける? あっていいわけがない。
子供が大人に精一杯背伸びをしているのに、自分はそれに負けないよう同じく背伸びをして引き離そうとする大人がどこにいる。
だからと言って
「じゃあ、おっさん。ホライゾンの所に行かせてもらうぜ」
このまま相手を見逃すわけにはいかなかった。
一瞬の目配せと共に、傍らのガリレオが動く。
「天動───」
説、と言って発動までの残り二、三秒という短い時間で、しかし、特務クラスが動く時間には十分だった。
じゃらり、と鎖の音と共に鎖が武蔵総長の腹に巻きついたかと思ったら、何時の間に浮き上がっていた。
武蔵の第五特務の神格武装と気づいた時には、視界に闇が降りた。
思った瞬間に視界を広げてみると、第六特務の武神の拳であることが判明した。
「洒落さいわ、小僧共!」
即座に前に出て、目の前の空間に術式譜を防盾として作り、武神の拳を防ぐ。
目の前にある鉄拳を見ながら、上にいる筈の武蔵総長を見る。
天動説は発動していない。
あれは発動するには相手の存在の認識をまず第一とするので、途中に武神の拳がガリレオの意識を逸らした所為で認識が途切れてしまったのである。
だから、代わりというわけではないのだが、武蔵総長がどこまで飛んでいるのかと確認をしようとしただけなのだが
「あ~~~~! これが、まさかの剛速球か~~~ん~~~ら~~ん~~しゃ!!」
遂に頭がイッタか、と冷静に頭の中で思いつつ、武蔵連中が表示枠を開いて、何か連絡を取り合っていたので、何かの作戦かと思い、何とか真面目思考を取り戻してその表示枠を見る。
『見た目は楽しそうに見えるんですけど、小生からしたらただの恐怖の心臓ストッパーゲームに思えるんですが……』
『本人楽しそうだからいいんじゃないんですか? あ。この狂行に関しては浅間神社は関係ないので、絶対に神社の風評を貶めないでくださいね?』
『……! 皆! 気を付けるのよ!? この巨乳巫女! 何の躊躇いもなく弓を味方に向けているから! ふふふ、恐ろしいわ浅間。でも、その潔さはもてる女の秘訣よ! アグレッシブ巫女なんてジャンル的に最強じゃない!?』
『ま、待ってくれ葵姉君! その場合、一番近い僕か、君かのどちらかが狙われるんじゃないかい!?』
『いい、ネシンバラ? ───根性よ』
『もしくは気合かな!?』
『というか、この状況でもしもミトがコントロールミスったらトーリの馬鹿。大ダメージ受けるんじゃないさね?』
『!? いいかネイト。ぜってー落とすなよ! いいか? 落とすんじゃねーぞ! 絶対だぜ! ───振りだからな!?』
「……何を言っているのかさっぱり理解できないのは俺の語学力の問題かガリレオ、なぁ」
「武蔵の芸風を理解しようとしたのが間違いではないのかね? 元少年」
成程、と言われた言葉はその通りだろうと思ったが、そんな事をしている間に武蔵の第五特務が自分の横を通り抜けていた。
「行かせるかぁ!」
確かに、通すと言ったからには体を張って邪魔をする事は出来ないが、通す以外の妨害行為はしないとは約束はしていない。
言いがかり結構。
それで完全な敗北を決定されるよりは百倍マシだ。
そのまま手に持っている淫蕩の御身の超過駆動を使おうとする。
これを使えば、武蔵の第五特務の鎖の力は失い、馬鹿はただ落ちてくるだけになるだろう。その後に約束をしていない学生たちが馬鹿を捉える。
あの馬鹿本人には何の能力もない事が幸いだったというべきだろう。これで、総長までが何かしらの能力を持っていたら困難を超えて、至難の戦場になっていたはずだ。
それに
「最早、貴様らの内燃排気は空に近い筈だ!」
乱戦はお互い様だが、こちらは数の利がある。
多いだけで勝てるなどという戯言を吐くつもりはないが、やはり、戦争の基本の一つに数という要因があるのは事実ではある。
こちらにも何人かは内燃排気が尽き掛けている奴はいるだろうけど、少なくとも武蔵の学生より多いという事はない。
ならば、こちらの方が有利だと思い、淫蕩の御身を振り下ろし、超過駆動発動させ───
「結べ───蜻蛉切り!」
発動させたゼロコンマ一秒でガラスが割れるような音と共に淫蕩の御身の超過駆動が消された音がした。
誰かやったかなんて一目瞭然であった。
「拙者がいる事を忘れないで頂きたいで御座るな、教皇総長」
「小娘……!」
蜻蛉切りの割断能力。
ならば、担い手は本多・二代以外にはいない。
心底厄介な能力だと内心で舌打ちする。大罪武装を持っている自分が偉そうに言える立場ではない事は百も承知だが、蜻蛉切りは倍くらい厄介だと自分でも言える。
三河は本当に厄介なモノばかりを残して行って……! と愚痴りたくなる。
それを言うならば、大罪武装もそうなのだが、それはそれである。
「だが……貴様らの内燃排気が空という事実は覆せんぞ!」
既に周りの学生達は指示無しで動いている。
それは、全員が全員、武蔵総長の方に動いていた。
誰もが理解している。
ホライゾン・アリアダストを救う可能性を持っている人間は葵・トーリだけであるという事を。
馬鹿な事をと思考の裏ではそう考えてしまうが、間違いではない。直感がそう告げているのである。
ならば、止めるべきは武蔵総長一人のみなのである。
そしてそれは当然武蔵の連中も解っている。
だが、理解はあっても力が出ない。五倍も差がある人数差で、逆に良く持ちこたえたと内心では感心している。
だが、ここまでだ。
神道の代演でも、限界はある。後は時間の問題だと笑みを浮かべた時に空中から声が聞こえた。
「オメェら……今でもホライゾンを救いたいって思ってくれてるか!?」
空中からの叫びに、地上で土に汚れたり、戦闘で服が破れたりしていたり、武器を振るっていたり、盾を構えていたりしている学生は全員その叫びに反応した。
「当たり前だ! 極東の人間は……目の前で理不尽であろうが、なかろうが、死を直前にした人間を助けたいと思う!」
それに
「馬鹿の副長も言っていたように……俺達は目の前で生を諦めかけている人間を前に、ならば、諦めればいいなんてお人好しな台詞を吐くような賢い人間ではないんだよ!」
他の皆もそうだそうだと叫んでくれている。
その光景を見て、トーリはそっかと呟いて、そのまま空いている両手を使って、表示枠を開ける。
相手は
「浅間───俺の契約をやっぱ、認可してくれよ」
『……』
帰ってくる反応は沈黙。
でも、それは浅間だけではなく、何時もの馬鹿連中全員が違う反応だが、内心ではそういう反応をしてくれていると自惚れのような理解をする。
現にネイトとペルソナ君とアデーレはこちらに視線を向けているし、直政とノリキは敢えてこちらを見ていないし、点蔵は……うん……点蔵は……いっか。
だから、どうしようかなぁ~って思ってると違う表示枠が開かれた。
『よう馬鹿』
「何だよぉー親友。オメェ……いきなりの台詞が馬鹿ってどういう事だよこの馬鹿野郎!」
『後で鏡を見ろ───でだお前。智の代わりに聞いてやるが……まさか傷ついている馬鹿どもを見て、力にならなきゃ……なんて事を考えて契約を迫っているだなんて言わねーだろうなぁ? あん?』
自分の親友の物言いに内心苦笑しながらちげーよと答える。
「俺は何も出来ねーから……周りの皆を頼りにしてるだけだ。だから、俺が何かを成すには誰かの手を借りなきゃいけないわけだけど……俺が何も出来ねーって事じゃねーだろ?」
『あっそ。じゃあ、好きにしろ』
そう言うと直ぐに表示枠を消していった。
その速さに浅間は何か言いたげだったけど、俺は親友がそんな風にするのは解っていたので、ただ俺は浅間に言うだけだった。
「頼むわ」
『……ああもう。貴方達姉弟といい、シュウ君といい、本当に人の話を聞かないんですから……』
その言い方からちょっと怒ってると思ったが、黙る事にした。
だって、浅間。
俺、馬鹿だからよ。こういう風に思った事を直ぐに言うしかしないんだよ。
でも、それは皆も解っているだろ? 俺が底抜けの馬鹿だっていう事くらい。だって、お前らは出来るからさぁ。
だから
「出来ねえ部分は俺の領分だろ?」
だから、浅間からの契約認可を受け、そして最後にこう言われた。
『トーリ君……これから貴方がもし、悲しみの感情を得たら加護の反発としてその穢れた全能力を禊ぎ消失します』
そのリスクを背負う代わりに
『トーリ君の全てを皆に伝播し、分け与えることが出来るようになります』
その言葉を何時もの笑顔で受け止め、そして空中で構える。
「行くぜ、俺達!」
効果は劇的だった。
「何……」
ガリレオは目の前の光景のおかしさに気付いた。
排気を失ったはずの武蔵の学生達が防御系の術式などを使って、K.P.A.Italia戦士団を吹っ飛ばしているからだ。
内燃排気が急に回復した? 不可能だ。そんな簡単に回復するような物だったら、無くなっただけでこちらが有利不利などとは叫ばない。
神道の代演か? それもおかしい。
そんな事はとうの昔にやっているはずである。それも限界に近づいていたから、こちらの勝機だという事になっていたのだから。
ならば、原因は何だと周りに目を向けてみると、何か武蔵の連中には何か光が繋がっているように見える。
「流体光……」
あれが武蔵の学生達に排気を供給しているという事は解った。
だが、その供給源はどこから……。
そう思い、光の元を探して、上空を見ると───武蔵総長の背から、流体光の光の尾が大量に出ていた。
「伝播術式……?」
K.P.A.Italiaの周りの学生も気づいたのか、その光を見ながら呆然とした表情でそれを見ている。
伝播術式。
ならば、供給する手段の方は理解した。
だが、やはりおかしい。不可能男という字名を受けているとはいえ、多少の内燃排気を持っているというのは別におかしくないが、それでも、ここまでの人数をカバーできるはずがない。
ならば、何故とそこで思考を更に深める。
そして、数秒で応えに辿り着いた。
そういえば、彼は臨時生徒会の時に武蔵のヨシナオ王に、王座を譲ってもらう事をせがんでいた。
結局、最終的にホライゾン姫と同様に副王になっていたが、それでも武蔵総長には重過ぎる立ち位置だとは思ったし、何をしたいのだと思ったのだが
「そういう事か……!」
隣で悔しそうに呟く元教え子の様子からどうやら同じ答えに至ったようだ。
つまり
「副王権限……! 自分の命をベッドすることによって、武蔵の流体燃料を他者に分け与えるのが、貴様の王としての在り方か! 小僧!」
その行動と宣言を表示枠越しに見て、熱田は爽快に笑った。
「よく言った馬鹿! それでこそ馬鹿の極みって奴だ!」
ここまで馬鹿だとは誰も思うまいと思うが、武蔵全員はお前がそれくらいいとも簡単にする馬鹿というくらい楽に理解していた。
逆にこれくらいの馬鹿くらいじゃなきゃ、剣を振るい甲斐がないってもんだ。
よっしゃ、こりゃあ急がなきゃいけねーなと思い、そういえばさっきから結構走っているのになーと思い、つい剣に聞いてみた。
「なぁ、後、どんくれぇで着くと思うよ?」
『ギャクー』
熱田はお約束を守ってしまった。
形勢はこれでまた逆転でもなく、ただ均衡状態に戻された。
だが、それでもこのままずるずるやっていたら、武蔵の連中の方が有利なのは自明の理である。
ならば、やはり、当初の目的は変わらず
「武蔵総長を狙えーーーー!」
教皇総長の声が戦場を進めた。
やはりそう来ましたか……!
ネイトは走りながら、自分の王が狙われているという事を意識に更に刻んだ。
ホライゾンがいる場所まではもう残り数キロという地点だが、逆に言えばまだ数キロあるという事だ。
自分の足は一般の人よりは速いかもしれないが、特務クラスとしては遅い方である。
総長が走るよりは速いというくらいは自負しているけど、やはりその程度である。
既に、周りは包囲されつつある。
銀鎖の内、二本は総長に使っている。
本人は「ラァ~ラァ~ラリボッ、ラリボッ、ラー!」などと何の言語を喋っているのか解らない言語を使って、こちらの神経を削っている。
あれ? もしかして、私、四面楚歌の状況ですの?
実は追いつめられているのは総長ではなく、自分なのかもしれないと思うと嫌な汗が溢れてきた。
『おやおや? ミトッツァン? どうしたの? 何か凄い汗をかいてるみたいだけど』
『ククク、解ったわミトツダイラ───答えはあんたの部屋の中に処分し忘れた何か嫌なモノを思い出したんでしょ!? 仕方ないわねぇ。この優姉が自らそれを調べて、処分してあげるわね! もう。私、まるで浅間みたいな母性を持ってしまったわね。で? 内容は何? エロゲー? エロ本? エローイ器具?』
『姉ちゃん姉ちゃん! そういうのって、やっぱネイトも同性に見られるのは恥ずかしいと思うから、ここは俺が行くってのはどうよ!?』
『待て待てトーリ。ここは拙僧がまずは姉ジャンルと純愛物があるかどうかをミトツダイラが持っているかどうかを調べてからでないと、不味いだろ?』
『待てやウルキアガ。ここは俺が巨乳モノを探してからだろうが。あ、でもお前は巨乳は興味なかったんだっけ? じゃあ、点蔵よりも先にと付けさせてもらうぜ』
『じ、自分! そんな他人の物を欲しがるようないやらしい忍者ではないで御座る! そういうのはネシンバラ殿ではないで御座ろうか?』
『失礼だなクロスユナイト君。僕は君達と違って燃えたぎる様な本じゃなきゃ取りに行かないよ。でも、ミトツダイラ君なら可能性はあるかな……よし、じゃあ、僕、今手が空いているから僕が処分するっていうのはどうだろう?』
『秘密を暴くにはカレーが必要ですネーー』
『その前に私がエロ系を持っている事とか、不味いものを持っているとかを前提に話を進めないでくださいですのーーーーー!!』
これは危険だ。
とっととこの戦いを終わらせて、帰らなきゃ家探しされる。
勘と経験で分かる。
全員やる。間違いなく、言ったことを実現しようとする。そんな有言実行精神はもっと違う所で使った方が格好いいだろうに、何故にうちの外道共は外道行為にしか使わないのだろう。
結論、外道だから。
「ミト! 何だか打ちひしがれているようだけど、その前にあんた問題を発生させてるよ!」
「え!? な、何ですの! 私が? 総長ではなく私がですか!?」
遠くから聞こえてきた直政の声に、物凄い驚いた。
自分が問題を?
総長やほかのキチガイではなく、自分が? 他のメンバーが言ったのならば、疑っていたのだけど、狂気度が薄い直政が言ったのならば、信用は出来るかもしれない。
でも、私……何かミスをしたでしょうか?
身に覚えがあるところでは全く思いつかない。
となると無意識の部分でしょうかと諦めて、直政に聞こうと思ったら、その前に周りから答えを聞かされた。
え? と思い、上を見ると、何故か総長が銀鎖から離れて飛んでいた。
その事に驚きで表情を変えながら
「あの……総長? 何時の間に飛行の術式なんて覚えたんですの?」
「お前が飛ばしたんだよ!」
周りからの丁寧なツッコミに少し体を小さくしてから、思わず失態を……! と呻いてしまった。
どうやら、さっきの外道会話の最中に力み過ぎて投げてしまったらしい。
どうしようと思ったが、でも、我が王ならば意外と大丈夫なのではと思ってしまう。
『よっしゃあ! よくやったぜネイト! 俺が振りをやった甲斐があったって感じだぜ! 後で成功祝いに浅間の胸でも───』
『熱田様は股間部のダメージにより一時退出されることになりました』
あの副長は本当に仲間なのか時々疑う時があるけど、今はこの状況をどうするかを考えなければいけない。
『1.ミトツダイラの脅威の貧乳で愚弟のマットになる。でも、衝撃を吸収できない
2.ミトツダイラの脅威の腕力で愚弟を捕まえる。だけど、これじゃあ、愚弟林檎みたいに潰れる。
3.ミトツダイラの脅威の諦め。
さぁ、ミトツダイラ! 三択よ!』
『2が一番可能性があるんじゃないんですか?』
『時には潔く三をすることも商売ではよくある事だよ!』
『第五特務! 自分は味方ですよ! だから、一を選べない事を悔しがったりしないでください……!』
さっきから何一つとして前に進めていない気がする。
建設的な話という言葉は既に末世に喰われてしまったのだろうか? 出来れば取り返したいものだと思うが、副長の言った事が正しいのならば失われたものは戻ってきませんねー……。
「ミトツダイラ殿。先に行っているで御座るよ」
すると、何時の間にか点蔵が自分よりも先に駆けており、そのスピードに少しだけ悔しさを感じたが、まぁ、人によって向き不向きもあるという事で納得した。
すると、奇跡的というべきか我が王はそのまま点蔵の目の前に落ちて行き、点蔵の視界に入った瞬間、点蔵は落ちてきたのが人という事で反射的に両手を上げたのだろうけど、そこに落ちてきたのはヒロインではなく、主人公であった。
「ぬ、ぬおぉぉぉ! 自分の人生初のお姫様抱っこをここで消耗してしまったで御座るよ!? ト、トーリ殿! 今なら怒らないから、とりあえず落としてもいいで御座るか!?」
「いやぁん! 点蔵~。そんな激しく扱っちゃ駄目よ~」
非常にむかつく裏声だったが、とりあえずあのままにしておいた方がいいだろう。
点蔵の方が足は速い。
なら、自分はここで王の邪魔をしようとするものを払うのが自分の務めであろう。
最後までエスコートをすることが出来なかったのは残念だったが、仕方がない。今度から、もうちょっと走力の訓練をしようと思い、銀鎖を構える。
周りにいるのはK.P.A.Italiaの学生ばかり。武蔵の学生もいるにはいるのだが、やはり、数ではあちらの方が上だ。
見える知り合いというのは、直政と地摺朱雀と二代とノリキである。
二代は教皇総長と相対しており、またノリキはガリレオ副長と相対している。
二代はともかくノリキの方はどういう事だろうと思ったが、恐らくさっきのタイミングから察するに点蔵がノリキをオリオトライ先生と訓練した時と同じように姿を消させて、ノリキがガリレオ副長に奇襲をしたのだろう。
卑下するわけではないのですが、武蔵のメンバーは頭がおかしい癖に能力は一級であることに、やはりちょっと驚く。
ならば、私も武蔵の一員として力を示さなければいけませんね……。
そう思い、自分も銀鎖を伴って戦場を踊る。
そうしてその後のトーリたちは意外にもするりとホライゾンの元に辿り着いた。
しかし、その展開も当然といえば当然の展開ではある。
何せ、K.P.A.Italiaの主力であるガリレオ副長も、イノケンティウス総長も、今は本多・二代とノリキに足止めをされており、しかも、トーリを誘導しているのは第一特務である点蔵である。
その主な行動は陽動。
純粋な戦闘技能だけで言うならば、他の特務と違って特徴はないかもしれないが、逆に言えば総合力は高いからこそ、第一特務に着けたという事もある。
故に彼は自分の任務を行っただけで、トーリは自分の姫の元に辿り着けることが出来た。
その時、トーリは何よりもハッピーな気持ちでいた事は否定できない事実であった。
そして本人も否定する気なぞなかった。
何よりもハッピーであり、この瞬間を永遠に続いてほしいと思い、人生の最高潮であったからこそ───ただ、親友に対して申し訳なかった。
自分にはこうして取り戻せる機会を与えられた。
だからこそ、失った物は取り戻せないと本気でそう思っている親友から見たら、自分はどんだけ幸運なんだろうと思ったからだ。
それを噛みしめないと親友の後悔に失礼だと思う。
故にホライゾンと話し始めてからの時間は楽しい時間であった。周りが戦闘中にも関わらず、テンションは鰻登りであった。
彼女がホライゾンと自覚してからの初めての会話。
相変わらず、俺のギャグには厳しい所かと、毒舌な所とかが懐かし過ぎて笑えてきた。
昔からホライゾンは俺とシュウにはかなり厳しかったからなー。
二人してギャグと歌の事に付いて、色々と言われたものだ。
最終的にはシュウはプライドを捨てて、俺とのデュエットをぶちかましたのだが、一瞬で斬られた。
剣神もびっくりな斬られ方だった。
記憶が今も、ホライゾンを蘇らせている事に、何かもやもやとするのを感じながらホライゾンを説得しようとする。
俺はお前を助けたいと言ったら、ホライゾンはこう返した。
「疑問なんですが───世界と貴方と、どっちが上なのですか?」
お前はどう思うんだよと返したら、直ぐに世界の方ですと答えられた。
当然と言えば当然の答えに俺はなら、こうすればいいと頭で思った事を何の疑問なしに直ぐに吐いた。
「じゃあ───俺が全世界を従える王になればいいんだな? そうすれば俺の方が世界よりも上だし」
目の前のホライゾンが硬直するのを楽しく思いながら俺は続きを言う。
「だって、オメェの大罪武装があれば、それは不可能じゃないんだし、大罪武装はオメェの感情なんだろ? じゃあ、俺が回収するのはおかしい事じゃないし、使うのはホライゾンなんだからそれも問題なし。一石三鳥ってのはこの事だぜ」
そうさ。
それに元々、それが俺の夢だったわけだから、一石四鳥だわな。
だから、オメェは心配しなくていい。
「俺がこれからやる事が決まったぜホライゾン。俺はこれから……いいか? 大事な事だからもう一回いうぜ? 俺はこれからオメェといちゃいちゃしつつ、馬鹿連中と馬鹿やりながらお前と一緒に世界征服をしに行く。そして、ついでに末世を解決して、お前が俺のせいで奪われた全部を俺が取り戻してやる」
だからよぉ。
「頼むわ全世界。末世解放でも、何でもいいから俺に大罪武装を渡してくんね? それが嫌なら戦争やろうぜ。ホライゾンの感情をくれるっていうなら、何だって俺はやるぜ」
殺し合いは除いてだけど。
相手するのは何でもいいし、誰でもいいぜ?
「神道、仏道、旧派、改派、唯教、英国協、露西亜聖協、輪廻道、七部一仙道、魔術、剣術、格闘術、銃術、騎馬、機動殻、武神、機獣、機凰、機竜、航空戦艦、人間、異族、市民、騎士、従士、サムライ、忍者、戦士、王様、貴族、君主、帝王、皇帝、教皇、極東、K.P.A.Italia、三征西班牙、六護式仏蘭西、英国、上越露西亜、P.A.Oda、清、印度連合、金、権利、交渉、政治、民意、武力、情報、神格武装、大罪武装、聖譜顕装、五大頂、八大竜王、総長連合、生徒会、男も女もそうでないのも若いのも老いたのも生きているのも死んでいるのも、そしてこれらの力を使って相対できる武蔵と俺達とお前達の全感情と全理性と全意志と、他、色々、多くの、もっともっと多くの俺がまだ知らない皆の中で───」
一息。
「誰が一番強いか、決めてみねえか」
無茶苦茶過ぎる発言に正純が頭を抱える。
……何馬鹿な発言をしてんだあの馬鹿はーーー!
ここで世界相手に喧嘩を挑んでどうする。
いやいや? 既に自分達が色々と敵に回しているは事実だし、葵が言っている事は、葵が遅かれ早かれやるつもりだったのかもしれないし、だから仕方がないのかもしれないが……まさか、本気で女の為に世界を敵に回す馬鹿だとは。
そういう意味でなら尊敬できるが、かと言ってこの発言を許容するのは、少しばかり自分は常人なので難しい。
『おい、馬鹿。何言ってんだ』
そこに葵と対面する側にようやくといった調子で、現れた熱田。
いきなりの出現に吃驚したが、恐らく前にも見せた姿を消す何かを使っていきなり現れたのだろう。
背には、謎の大剣。左腕には大罪武装で立花・宗茂が使っていた悲嘆の怠惰が握られている。
しかし、その間にはK.P.A.Italia戦士団が大量にいるが。
それにしても、遅い到着にはて? と首を傾げてしまう。
『よーーう親友。遅かったじゃねーか? 俺は今、世界に対してビックリ発言を……あり? 何で俺、コクりに来たはずなのに、世界に対してビックリ発言をかましてんの? あっれっれーー?』
『これを機に考えるというコマンドを覚えやがれ。遅れたのは、何故か俺が行きたい進行方向を世界が狂わせてな。文句言うなら世界に言いやがれ馬鹿』
『お前ら二人とも考えて喋れ!!』
表示枠越しに被るツッコミ。
何で、この仲良し馬鹿どもはお互い理由の下らなさを抜いて、世界に喧嘩を売ろうとするのだ。
その好戦的な所は今だけでいいから、少しは潜めて欲しい。
『大体この馬鹿。お前、何が世界最強を決めようだ』
おう、そうだそうだ。
本当に初めて熱田と意見が合ったぞ。ある意味、これは神の奇跡か。
合った相手が剣神だから、むしろ神様と意志が通じたという偉業を私は今、成し得ているのではないのだろうか?
でも、相手はあの物騒な熱田となれば、これは喜ぶべきところか、悲しむべきところか……少々、本気で悩んでしまう。
だが、とりあえず熱田の意見はとりあえず同意なので私の意見を代わりに言って欲しい。
『全く……何が世界最強だ───そんなの俺に決まってるだろうが』
「正純! しっかりして下さい! まだ倒れるには早いですよっ───せめてこの場の責任を取ってから倒れてください」
「最後の敵は身内かーーー!!」
余りの強大な壁にぶち当たって気絶したいのだが、ここで私が倒れてしまって、何時の間にか世界全部を相手にしてしまいましょうルートになってしまってたら洒落にならん。
だから、ここは気力で何とか意識を繋ぎ止める。
負けるな本多・正純。まだお前は大丈夫のはずだ───状況はもう全然大丈夫じゃないが。
『何だったら、トーリの代わりに俺が証明してやって良いぜ? 世界最強は武蔵の剣神であるこの俺ってな。』
なのに勝手に熱田が話を進めてしまうので思わず、ああ……!と叫んでしまう。
その様子を非常に憐れんだ目で見ているナルゼが何故か表示枠に絵を描いている事なんて、もう全く気にする余裕がない。
だが、続きの言葉はこんなんだった。
『挑戦権は今ならただにしてやる。何も出来ねえ馬鹿の代わりに、最強である俺が全部引き受けてやるよ世界。その代り、負けた奴らとかは大罪武装を寄越せよな』
現にほれとか言って、熱田は左腕に持っている悲嘆の怠惰を見せた。
その事実を前に、敵対している者は全員呻いた。
表示枠を通して知った事実ではあるが、やはり直接目で確かめた方がショックは大きい。
西国無双と謳われた立花・宗茂は目の前のルーキーである熱田・シュウに敗れ去ったのだと。
それを見せて、しかし、熱田は誇らず、まだゴールには辿り着いていないという様子で全世界に語り掛け続ける。
『手段に関して言えば、トーリが言ったように何でもいいぜ。ありとあらゆる勢力、能力、人種、権力。それら全てを俺がぶった斬ってやんよ』
そんな馬鹿げた台詞を近くにいる葵姉が苦笑した。
それに直ぐに浅間が何事かを聞く。
「どうしたんですか喜美。シュウ君の狂った発言には、やっぱり喜美も苦笑しか出来ませんか?」
「勿論、それもあるけどね……だって、滅茶苦茶ホモ臭い上に、使い古された友情物語みたいなんだもの。ここまで徹底されると笑えてこない?」
「前者を否定できない事を嘆くべきか、悔しむべきか悩むところですけど、とりあえず、友情物語っていうのはどういう事ですか? 聞いたところ、ただのシュウ君の自惚れ語りなだけだったような気がするんですけど」
「Jud.格好つけの馬鹿の格好つけを外させるために言うけど、愚弟の発言……どう言い繕っても、やっぱり、世界に喧嘩売ろうぜ発言だったでしょ?」
「逆にどこが喧嘩を売っていない所があったのですか……」
非常に同感とその場にいる全員で首を縦に振った。
現に表示枠に映っている教皇総長は物凄い怒った顔で、二代に攻撃を続けている。本当なら、葵本人でしてやりたいんだろうけど、それを見逃すような二代ではないので、逆に二代が困っているという状況になっている。
あいつは味方を生贄に捧げるつもりか。
そう思ってると、苦笑を微笑に変えた葵姉がだからよ、と前置きを作って語った・
「そこでその後に愚剣が世界最強発言でしょ? 流石に愚弟の発言全部を振り払う事は出来ないでしょうけど───怒りの内、何割かは愚剣の方に向かったんじゃない?」
「あ……」
浅間の呆けたような声を聞きながら、確かにと内心で頷く。
そんな意図を込めて言ったのかどうかは、本人しか解らない事なのだが、結果としてそういう結果になったのは確かだろう。
あのまま行けば、悪印象を……とまでは行かないが、少なくとも葵に対して、何かを思う人間が出ないという事はあり得なかった。
それを熱田の発言がそう言った人間を二分したと思う。
別段、それで武蔵の評価が変わるわけではないのだが、そこは友人だからというわけなのだろう。
「となると、流石の熱田の世界最強発言は冗談という事になるのか」
すると、奇妙な事にそこで全員が私から視線を逸らした。
嫌な予感がしたので、直ぐに聞いてみた。
「……どうしたんだ皆。ここはうんうんと頷くところだと私は思うのだが……」
「いやぁ……そのー……正純? 非常に言い難いんですけど……」
何だよー……その不安になるような言い方は……。
もうちょっと安心させるような言い方で言って欲しいと切に願う。
せめて、仮初の安心感ぐらい欲しいじゃないか。
そして、結局爆弾が投下される。
「意図の方はともかく……恐らく、俺様最強発言はシュウ君、かなり本気だと思います……」
「確か、あいつの夢、世界最強の剣になるだったよね?」
浅間とナルゼの言葉に、意識がブラックアウトしかけたが、寸前で踏み止まる。
どうしてうちのクラスは、悪いとは言わないが、スケールがでかい夢ばかりを持っているのだろう。
嫌、それ自体は良いのだが、タイミング悪い時に、そんな発言はしないで欲しい。
「全くもう……」
呆れて笑いが込み上がってきた。
「という訳だ。文句があるならかかって来いよ」
俺はそう言って手をちょいちょいとかかって来いと振る。
その挑発に乗ってきて、周りにいた大量の戦士団がこちらを睨んできた。
「吠えたな……! 吐いた唾は戻せないぞ!」
何だか、古臭い言葉と同時に武器を構える敵の御一行。
よっしゃあ! こういうのを望んでたんだよ……! と背中にある剣の柄を握る。
「成程……お二人の理論は解り易かったと判断できます」
「え……マジで!?」
「二人でハモるなーーー!」
遂に、毒舌女を認めさせることが出来たと感動しているのだから邪魔すんなよ脇役共。
この場の主役は俺とトーリとホライゾンだぜ?
だが、そこでホライゾンはしかし、と前置きを置いた。
「それは貴方達の理論であって、ホライゾンの理論ではありません。そして、ホライゾンの理論では自分一人の都合で極東に方々に迷惑をかけるという事を良しとはしません」
自動人形らしいと言えば自動人形らしい正論である。
思わず舌打ちをしてしまうが、トーリに発破でもかけるかなと思ったが、その前にトーリが勝手に喋った。
「お前が消えたら俺が悲しむって言ってもか?」
「どうして悲しむのですか?」
『どうしよう親友!? 俺! 今! 物凄いホライゾンに求められている!?」
『構いやしねえ! トーリ! 今こそお前の男としての男気を見せやる時だぜ! 躊躇わずに世界に告白シーンを垂れ流せ』
『よ、よ~し! やるぜ俺は! 見てろよ親友! 何も出来ねえ俺だけど、コクることを成功させてやる!!』
表示枠での密かな連絡をしながら、最後にやっちまえ! と書く。
剣を構えながら、表示枠を操作するという裏秘奥義である。これは武蔵全員がいざという時は何時でもツッコめるようにと練習したものである。
後に、全員であれ? という疑問を抱いたこともあったが、結論は気にしないという事になった。後で正純にも教えてやらなければ。
「そ、そそそそそれはだな~……ああ、もう、俺、ちょー恥ずかしい!」
「くねくねしてないで早くしてくれませんのーーーー!!?」
ネイトの叫び声が物凄く聞こえたが、ここは確かに急かす場面である。
「おらぁ! とっととコクりやがれ! じゃねーと、またお前のエロゲをぶった斬るぞ! 次はファイナルモミテスギュー! しかも、初回限定版!」
「あれ、確かヒロインは黒髪ロリ巨乳で御座ったような……」
『早速不倫の兆しね愚弟! しかも、ロリを狙うなんて……カーブが効いてるわ!』
『あれでよくコクりに行ける存在と思うことが出来ましたね……』
『小生思いますに、これ、成功していても後に破局エンドなのでは?』
『大丈夫だよトーリ君! 君は色々と性癖の部分で言われているけど、僕の個人的な意見だと愛には性癖は関係ないと思うよ!?』
『そうだぞトーリ! 愛さえあれば愛は生まれるとも……!』
「お、オメェら! 発破をかけたいのか、意気消沈させたいのか! どっちなんだよ!」
いいからとっととコクれ! と表示枠で送ると全員でハモった。
時々思うが、俺達付き合い良すぎる。
自分でも悪癖とは思っているのだが、中々治そうと思っても治らないのである。
困った悪癖だぜ、と内心で溜息を吐きながら録音を開始する。
「えーと、そりゃなぁ……」
とっとと言え! 言ってしまえと内心で叫びながら、盛り上がってきた。
何故か周りの戦士団さえもが、グッと手を握っている。
そしていよいよ
「俺がお前の事を好きだからに決まってんだろ」
よっしゃあぁぁぁぁと武蔵勢と敵さんの女子勢が叫ぶ。
他人の恋の告白程、面白いものはないというのは全国共通の女子勢の趣味らしい。これはこれで病気だと断定するが、今は返事の方が大事だ。
さぁ……どうなる!?
「Jud.残念ながらホライゾンは自動人形なので好きという感情が理解できません。なので、率直に申させてもらいますと───お帰り下さい」
「……」
世界が一瞬沈黙する。
ごくりと唾を呑む声が連続して聞こえたために、物凄い大きな音のような錯覚を覚えてしまった。
誰かの汗がポタリと落ちた音を機に全員で叫んだ。
「ここまで煽っておいて振られやがったぞ!!」
後書き
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